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:1-8図書館:
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今朝通った道を暫く辿って図書館へ戻ってきた。森の所為で日の光が遮断され、図書館の周囲は余計に暗くなっていた。オズとミリアは疲労感が身体全体に広がっていくのを感じていたが、メアは表情一つ変えずに颯爽と玄関のカギを開けに行く。
「目まぐるしい一日だった、二度と追いかけっこはご免だ、疲れた」
「二人とも、これくぐってから入ってね」
玄関前に太い光の柱を作って、二人に入るように促した。
「......なんだこれ?」
「風呂、歯磨き、傷の手当とか色々やってくれる魔法」
「......どう見てもあの無人機を消し飛ばした魔法に見えるが?」
「問題ないよ、あなたの言う"従属の魔法"で汚れだけを___」
「わぁ!服の汚れがなくなりましたよ!」
ミリアが服の隅々を見渡しながら二人へ大声で言う。ミリアの身体の傷は消え、服のほつれや汚れがなくなり新品同様になっていた。
「___どう?」
「......信じる」
光の柱をくぐったオズも同様に、服についた汚れや小さい古傷が同様に消える。
「痛みが消えた......コイツはいい」
「やっぱり、怪我してたんだ」
「もう治ってる、気にするな」
既に夕方に差し掛かっている図書館内に、昨日と同じようにたくさんのランタンを灯して回り、持ってきた荷物の山を崩して紅茶やお菓子を並べる。
「それで?どうだった技研の方は?」
「凄い厄介なことになってる、気付けて本当によかった」
「読書に夢中で、気付けなかっただけじゃないのか?」
「そこはちゃんと理由があるから、順番に話すよ」
辺りが次第に暗くなり、冷気が外から流れて来ていた。ミリアは図書館を見渡したり、紅茶とお菓子を食べるのに忙しそうにしている。
「......」
「......なんだよ?」
オズをじっと見てメアは気だるそうに大きくため息をつく。
「......説明するの面倒だから記憶を直接渡す、おでこくっつけて」
「面倒くさがりだな」
「いいから」
二人が額をくっつけた瞬間、オズの脳内へメアが今日体験した記憶が流れ込んでくる。
技研に到着後、ミリアの気配を追って半ば無理矢理駐車場内に入り、トラックからミリアを助けオズの元へ転送した直後、二号という特殊な召化兵に出会う。普通の人間と変わらない振る舞いをして、氷と雷の二種類の魔法を使っていた。オズが言っていた感情抑制もなく、暴走している様な状態になると雷から氷の結晶を放つ異形の魔法を繰り出していた。
「随分厄介な奴に絡まれたんだな......トラックにもいたこいつらは誰だ?」
「別の都市のか、魔界に進出してる技研の兵士でしょう......四人とも普通の人間だったけど」
二号と交戦した後、技研の施設内へ入ってサーバーへアクセス。一週間程人の気配が飛んで、技研の人間がコピー人間と入れ替わっていた事が発覚する。地下に潜ると、空間一杯に魔法陣が描かれた召化兵のプラントが記憶の中一杯に広がった。
「___メア、この魔法陣は......」
メアがポッドの一つを開けて中身を確認し、技研の社長が現れる。幾つかの会話のあと、何体もの召化兵を呼び起こしてメアへ攻撃。記憶を追体験しているオズは、目の前に迫る召化兵によろけそうになっていた。
「床に描かれている魔法陣は門創造の魔法陣よ」
「何処とのだ?」
「___魔界、それも魔人だけが出入りできるやつ」
「なんだと?」
場面は召化兵と、召化を施した社長を無力化している場面になる。
「教えて、召化兵の技術はどうやって作ったの___」
「ふん、僕のオリジナルさ___」
記憶の中のメアが社長の頭に手をかざし、光の鎖を当てて記憶を探っている。オズの記憶にも映像として見えていた。
記憶の中に映っていたのは誰かが技研の社長に向けて話している場面だった。身振り手振りだけで会話内容は聞こえてこない。社長へ話し掛けている相手の腕は目を模った文様が施されていた。___その景色を最後に、メアはオズから離れる。テーブル越しにその光景を見ていたミリアは顔を赤らめながら覗いていた。
「メア、魔人って......魔界のあいつらが?こっちの世界に?」
「そう、技研を介して都市の人間をさらい、召化兵にしてたみたい......都市警備の連中もプラントに入れられて、全員召化兵へ転化させられてた」
「そうだ!技研は、どうなった?」
「全員人間に戻して、あなたの所のお嬢様に後始末をお願いしたから、大丈夫」
「はは、いい気味だ」
「魔人の気配を感じれなかったのは、そういう魔法を技研全体に張ってたのかもね、今も上手く感じ取れない」
メアは紅茶を翼を使って自分やミリアのカップに注ぎながら呟きながら続ける。
「それに、彼らの動き不鮮明だけど、都市全体を掌握しようとしてたみたいに見える......理由は見当つかないけど」
「何のために都市を......?」
「魔人が今回の事件にどれだけの数が関わってて、目的が何なのか調べないと」
「当てはあるのか?」
「今朝の雑誌に、他の都市にある技研支部が載ってたからそれを見に行くことにする」
「......今からか?」
「まさか、今日は寝るわ、明日は技研の社長さんの所へ色々聞きに行く......二番都市へはそのあと」
「社長、あれで無事だったのか」
「壊したのは魔法陣だけだから」
「......魔人にはどう対処する気だ?」
「場合による、本当に危ないことしてるんだったら......ね?」
「___そうか、ならいい」
オズは満足そうにうなずいて、カップを傾ける。
「......なによ?」
「いや、お前は甘すぎるから、どうするのかって思っただけだ」
夜風に揺れたランタンの蝋燭が揺れ、三人の影が不規則に揺れた。紅茶やお菓子、蝋燭の香りが天井まで混ざり合いながら上がってゆく。
「メアさん、私はどうしましょう?」
「ついてきて、技研ではあなたも知らなきゃいけないことがあるかもしれないから......もう襲われたりしないよ、大丈夫」
「私......もう、何もしなくていい......?」
「そうだね、いくらでも紅茶飲んでお菓子食べても怒られないくらい、自由だよ」
「メア、お前だけ次の一杯から金取ってやろうか?自分が今日買ってきたやつ飲めよな」
オズは差し出されたティーカップにティーバッグ直接を入れて呟いた。メアは表情を変えず、鎖で包み込み使う前の状態へティーバッグの時間を巻き戻してオズへ投げ返す。
「私、助けられたんだった___二人にちゃんとお礼を言えてませんでした......本当に、ありがとうございます」
ミリアは椅子から立ち上がって深々とお辞儀をする。その様子を見たメアは小さく笑っていた。
「___あの時見つけられたのは偶然だった、魔人の所為で気配も探れてなかったしね」
「ほんと、よく見つけたよな......」
「えぇ、トラックが目の前を通って行ったの___」
それから、三人は今日の出来事や紅茶やお菓子、本の内容について話し合った。ランタンのいくつかが消え、図書館内もオズとメアが居る場所だけ蝋燭の光が灯されている。
「......彼女、寝たか?」
「うん、寝てる」
少し離れた位置に置いてあるソファで眠っていた。天窓からは星の光さえ見えない、空一面が雲に覆われている。
「メア」
「なに?」
「___"神"ってなんだ?」
「......」
読んでいた本を目の前に突き出してオズが問いかけた。真顔で聞かれたことにメアは空恐ろしさを感じた。ランタンの暖かさが少しだけ遠のいたように思える。
「......魔法に関する全てを作った存在、私が生まれる前からいたみたいだけど」
「神、かみ......不思議な響きだ」
「何読んでたの?」
「これだ___"魔法の誕生"って本、丁寧に翻訳帳まであった......著作はメノ・ルゥ・ハウライト......知合いだったりするか?」
懐かしい名前が図書館内へ響き、溶けていく。直筆で書かれた文字や内容からも懐かしさがある。胸の奥が熱くなるような感覚がして、メアは言葉に躓いた。
「翻訳帳は私が作ったの___前に話した魔法使いの一人......私の、知合い」
「ほとんどが、随分入念に塗り潰されてるぞ?これ___なんの塗料だこれ」
「かなりやばいことが書いてあるよ......内容は私以外、もう誰も知らない」
「やばいって......どんな?」
「魔法の常識を根底から覆すくらい」
「......いい、聞かないことにする、お前がそんな言葉使うくらいだから本当にやばいんだろうな?」
「うん、きっと聞かない方がいいのかも」
「......代わりに、当時の話を聞かせてくれないか?」
「最近になってよく聞くよね、思い出話」
「何時の時代も、他人の思い出っていうのは聞いてて面白い......それだけさ」
この本を書いていた当時の事についてメアは思考を巡らせる。さっきまで彼女たち魔法使いが存在していたような、それぐらい鮮明に覚えている。毎日どこかへ赴き、調査し、部屋で研究や調査した分を分厚い本に記す。どの時間もいつもいろんな話をしてくれた、何もかもが初めてで、好奇心をくすぐられる毎日だった。
「......毎日新しい発見のある日々だったわ、それこそ今私の話を聞いてるあなたみたいにね」
「そうか___その顔見ればなんとなく当時のお前、分かる気がする」
「......どんな顔?」
「大切な人や物、本当に思い出の時間を想う人の顔だよ」
「良く分かんない」
「別に分からなくていいさ」
紅茶を飲み切ってオズの方を真っすぐ見つめる。
「昔、魔界に人間がいた痕跡があった話、したっけ」
「ん、聞いてないな......どんな話なんだ?」
「私が魔界から出てくる少し前の話___」
___当時の魔界内でメアとメノ、数人の魔法使い達で廃墟と化した施設の調査が行われていた。
「......ここの調査が終わったら、少し休憩しようよ」
メノが声を掛けて近くの配管に腰掛ける。二人が入った部屋は広く、何か除染する筒状のフィルターが天井まで伸び、蔓に覆われていた。この施設を使っていた当時の状況を伺うことはできない。
「他のセクターはどうなってるんだろうね?此処は何かの除染施設みたいだけど......使われてる言葉も、言い回しも現代とそう変わってないみたいだし」
近くの給電コードに電気を発生させる魔法陣を描いていたため、僅かだが明かりが灯り、奇跡的に機械の一部がモニター付きで起動していた。幾つかのメッセージ、音声でのやり取りを記録したデータやプログラム言語をメアは読み取っている。魔界での生活しかしていないメアにとって、データから響いてくる音声や環境音のすべてが新鮮だった。気になる単語や彼らの日常の会話が彼女の好奇心をくすぐり、調査を放り出して今すぐメノに聞きたいことばかりが頭の中に募ってきている。
「ここのプログラム、現行の機械に接続しても使えそうだよ」
「機械はさっぱり分からないけど......明らかに変だね、数年前に放棄されたって訳じゃないでしょう?」
「少なくとも100年以上......ここは天候が安定してる地域だから、奇麗に残ったんだよね」
「正解、メアも詳しくなってきたんじゃない?」
「いや、まだまだだよ」
メノと共に周囲を見渡す。争った形跡も、データ内にも異常は見受けられなかった。この施設を何者が、どんな理由で使っていたのかさえ分からない状態が現在も続いている。
「それに、こんな人の気配がない地域に人工物......それに使ってる言葉もプログラム言語も同じなんて、奇妙過ぎて寒気がするよ」
「___そういうの、変なの?」
「人が魔界に入ったのはほんの15年前だよ、なのに100年も前の機械系施設があるのさ?」
「そっか......」
コンピュータ内を探っていたメアは、データの中に何らかの音声記録を見つけた。内容はなぜか向こうの、通常世界での会話や地名が聞こえてくるが、魔法についての会話だけが見当たらなかった。
「100年前って言うと、丁度"神"が世界に魔法を与えた時期......」
「___この建物がある地域、元々普通の世界だったってこと?メノ?」
「それが正解だとしても、じわじわ広がってるのか、部分的に取り込まれてるのか、此処を調べただけじゃ分からない......帰ってみんなで考えよう」
メノは自動ドアへ近寄り通路へ抜けていく。メアもそれに続いて外へ出て、長い廊下を並んで歩く。無機質な白い建材にはひびが入り、隙間からは土石や植物の根が入り込んできている。二人の靴音がずっと先へ響いて行く音が何度も跳ね返る___。
「___で、結局なんだったんだ?」
「"神"が与えた魔法を調べる最初期の研究所だったみたい、有害なのかどうかを調べるためのね」
「魔界内にあった理由は?」
「偶然取り込まれた......昔の魔界って、こっちの世界に入り込もうとしてたんだよ?」
「今じゃ考えられない話だな......なぜ今は止まってるんだ?」
「___彼女が、神を殺したから......止まったの」
「......」
「おかげで、今の魔法があるの」
「......それって感謝していいのか?」
「うん、いいの」
メアが紅茶を飲み干して、ソファで横になる。オズはそれを察して灯しているランタンをもって、光が届かないように別のテーブルへ向かう。灯を消したメノとソファ付近は、すぐさま冷気を放つ。
「明日も同じ時間に出るから」
「分かった、おやすみ」
「......うん」
月明かりと、夜風で冷え始めた図書館にオズの低い声が響き、ランタンの灯が心もとなく震えていた。
「目まぐるしい一日だった、二度と追いかけっこはご免だ、疲れた」
「二人とも、これくぐってから入ってね」
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「......なんだこれ?」
「風呂、歯磨き、傷の手当とか色々やってくれる魔法」
「......どう見てもあの無人機を消し飛ばした魔法に見えるが?」
「問題ないよ、あなたの言う"従属の魔法"で汚れだけを___」
「わぁ!服の汚れがなくなりましたよ!」
ミリアが服の隅々を見渡しながら二人へ大声で言う。ミリアの身体の傷は消え、服のほつれや汚れがなくなり新品同様になっていた。
「___どう?」
「......信じる」
光の柱をくぐったオズも同様に、服についた汚れや小さい古傷が同様に消える。
「痛みが消えた......コイツはいい」
「やっぱり、怪我してたんだ」
「もう治ってる、気にするな」
既に夕方に差し掛かっている図書館内に、昨日と同じようにたくさんのランタンを灯して回り、持ってきた荷物の山を崩して紅茶やお菓子を並べる。
「それで?どうだった技研の方は?」
「凄い厄介なことになってる、気付けて本当によかった」
「読書に夢中で、気付けなかっただけじゃないのか?」
「そこはちゃんと理由があるから、順番に話すよ」
辺りが次第に暗くなり、冷気が外から流れて来ていた。ミリアは図書館を見渡したり、紅茶とお菓子を食べるのに忙しそうにしている。
「......」
「......なんだよ?」
オズをじっと見てメアは気だるそうに大きくため息をつく。
「......説明するの面倒だから記憶を直接渡す、おでこくっつけて」
「面倒くさがりだな」
「いいから」
二人が額をくっつけた瞬間、オズの脳内へメアが今日体験した記憶が流れ込んでくる。
技研に到着後、ミリアの気配を追って半ば無理矢理駐車場内に入り、トラックからミリアを助けオズの元へ転送した直後、二号という特殊な召化兵に出会う。普通の人間と変わらない振る舞いをして、氷と雷の二種類の魔法を使っていた。オズが言っていた感情抑制もなく、暴走している様な状態になると雷から氷の結晶を放つ異形の魔法を繰り出していた。
「随分厄介な奴に絡まれたんだな......トラックにもいたこいつらは誰だ?」
「別の都市のか、魔界に進出してる技研の兵士でしょう......四人とも普通の人間だったけど」
二号と交戦した後、技研の施設内へ入ってサーバーへアクセス。一週間程人の気配が飛んで、技研の人間がコピー人間と入れ替わっていた事が発覚する。地下に潜ると、空間一杯に魔法陣が描かれた召化兵のプラントが記憶の中一杯に広がった。
「___メア、この魔法陣は......」
メアがポッドの一つを開けて中身を確認し、技研の社長が現れる。幾つかの会話のあと、何体もの召化兵を呼び起こしてメアへ攻撃。記憶を追体験しているオズは、目の前に迫る召化兵によろけそうになっていた。
「床に描かれている魔法陣は門創造の魔法陣よ」
「何処とのだ?」
「___魔界、それも魔人だけが出入りできるやつ」
「なんだと?」
場面は召化兵と、召化を施した社長を無力化している場面になる。
「教えて、召化兵の技術はどうやって作ったの___」
「ふん、僕のオリジナルさ___」
記憶の中のメアが社長の頭に手をかざし、光の鎖を当てて記憶を探っている。オズの記憶にも映像として見えていた。
記憶の中に映っていたのは誰かが技研の社長に向けて話している場面だった。身振り手振りだけで会話内容は聞こえてこない。社長へ話し掛けている相手の腕は目を模った文様が施されていた。___その景色を最後に、メアはオズから離れる。テーブル越しにその光景を見ていたミリアは顔を赤らめながら覗いていた。
「メア、魔人って......魔界のあいつらが?こっちの世界に?」
「そう、技研を介して都市の人間をさらい、召化兵にしてたみたい......都市警備の連中もプラントに入れられて、全員召化兵へ転化させられてた」
「そうだ!技研は、どうなった?」
「全員人間に戻して、あなたの所のお嬢様に後始末をお願いしたから、大丈夫」
「はは、いい気味だ」
「魔人の気配を感じれなかったのは、そういう魔法を技研全体に張ってたのかもね、今も上手く感じ取れない」
メアは紅茶を翼を使って自分やミリアのカップに注ぎながら呟きながら続ける。
「それに、彼らの動き不鮮明だけど、都市全体を掌握しようとしてたみたいに見える......理由は見当つかないけど」
「何のために都市を......?」
「魔人が今回の事件にどれだけの数が関わってて、目的が何なのか調べないと」
「当てはあるのか?」
「今朝の雑誌に、他の都市にある技研支部が載ってたからそれを見に行くことにする」
「......今からか?」
「まさか、今日は寝るわ、明日は技研の社長さんの所へ色々聞きに行く......二番都市へはそのあと」
「社長、あれで無事だったのか」
「壊したのは魔法陣だけだから」
「......魔人にはどう対処する気だ?」
「場合による、本当に危ないことしてるんだったら......ね?」
「___そうか、ならいい」
オズは満足そうにうなずいて、カップを傾ける。
「......なによ?」
「いや、お前は甘すぎるから、どうするのかって思っただけだ」
夜風に揺れたランタンの蝋燭が揺れ、三人の影が不規則に揺れた。紅茶やお菓子、蝋燭の香りが天井まで混ざり合いながら上がってゆく。
「メアさん、私はどうしましょう?」
「ついてきて、技研ではあなたも知らなきゃいけないことがあるかもしれないから......もう襲われたりしないよ、大丈夫」
「私......もう、何もしなくていい......?」
「そうだね、いくらでも紅茶飲んでお菓子食べても怒られないくらい、自由だよ」
「メア、お前だけ次の一杯から金取ってやろうか?自分が今日買ってきたやつ飲めよな」
オズは差し出されたティーカップにティーバッグ直接を入れて呟いた。メアは表情を変えず、鎖で包み込み使う前の状態へティーバッグの時間を巻き戻してオズへ投げ返す。
「私、助けられたんだった___二人にちゃんとお礼を言えてませんでした......本当に、ありがとうございます」
ミリアは椅子から立ち上がって深々とお辞儀をする。その様子を見たメアは小さく笑っていた。
「___あの時見つけられたのは偶然だった、魔人の所為で気配も探れてなかったしね」
「ほんと、よく見つけたよな......」
「えぇ、トラックが目の前を通って行ったの___」
それから、三人は今日の出来事や紅茶やお菓子、本の内容について話し合った。ランタンのいくつかが消え、図書館内もオズとメアが居る場所だけ蝋燭の光が灯されている。
「......彼女、寝たか?」
「うん、寝てる」
少し離れた位置に置いてあるソファで眠っていた。天窓からは星の光さえ見えない、空一面が雲に覆われている。
「メア」
「なに?」
「___"神"ってなんだ?」
「......」
読んでいた本を目の前に突き出してオズが問いかけた。真顔で聞かれたことにメアは空恐ろしさを感じた。ランタンの暖かさが少しだけ遠のいたように思える。
「......魔法に関する全てを作った存在、私が生まれる前からいたみたいだけど」
「神、かみ......不思議な響きだ」
「何読んでたの?」
「これだ___"魔法の誕生"って本、丁寧に翻訳帳まであった......著作はメノ・ルゥ・ハウライト......知合いだったりするか?」
懐かしい名前が図書館内へ響き、溶けていく。直筆で書かれた文字や内容からも懐かしさがある。胸の奥が熱くなるような感覚がして、メアは言葉に躓いた。
「翻訳帳は私が作ったの___前に話した魔法使いの一人......私の、知合い」
「ほとんどが、随分入念に塗り潰されてるぞ?これ___なんの塗料だこれ」
「かなりやばいことが書いてあるよ......内容は私以外、もう誰も知らない」
「やばいって......どんな?」
「魔法の常識を根底から覆すくらい」
「......いい、聞かないことにする、お前がそんな言葉使うくらいだから本当にやばいんだろうな?」
「うん、きっと聞かない方がいいのかも」
「......代わりに、当時の話を聞かせてくれないか?」
「最近になってよく聞くよね、思い出話」
「何時の時代も、他人の思い出っていうのは聞いてて面白い......それだけさ」
この本を書いていた当時の事についてメアは思考を巡らせる。さっきまで彼女たち魔法使いが存在していたような、それぐらい鮮明に覚えている。毎日どこかへ赴き、調査し、部屋で研究や調査した分を分厚い本に記す。どの時間もいつもいろんな話をしてくれた、何もかもが初めてで、好奇心をくすぐられる毎日だった。
「......毎日新しい発見のある日々だったわ、それこそ今私の話を聞いてるあなたみたいにね」
「そうか___その顔見ればなんとなく当時のお前、分かる気がする」
「......どんな顔?」
「大切な人や物、本当に思い出の時間を想う人の顔だよ」
「良く分かんない」
「別に分からなくていいさ」
紅茶を飲み切ってオズの方を真っすぐ見つめる。
「昔、魔界に人間がいた痕跡があった話、したっけ」
「ん、聞いてないな......どんな話なんだ?」
「私が魔界から出てくる少し前の話___」
___当時の魔界内でメアとメノ、数人の魔法使い達で廃墟と化した施設の調査が行われていた。
「......ここの調査が終わったら、少し休憩しようよ」
メノが声を掛けて近くの配管に腰掛ける。二人が入った部屋は広く、何か除染する筒状のフィルターが天井まで伸び、蔓に覆われていた。この施設を使っていた当時の状況を伺うことはできない。
「他のセクターはどうなってるんだろうね?此処は何かの除染施設みたいだけど......使われてる言葉も、言い回しも現代とそう変わってないみたいだし」
近くの給電コードに電気を発生させる魔法陣を描いていたため、僅かだが明かりが灯り、奇跡的に機械の一部がモニター付きで起動していた。幾つかのメッセージ、音声でのやり取りを記録したデータやプログラム言語をメアは読み取っている。魔界での生活しかしていないメアにとって、データから響いてくる音声や環境音のすべてが新鮮だった。気になる単語や彼らの日常の会話が彼女の好奇心をくすぐり、調査を放り出して今すぐメノに聞きたいことばかりが頭の中に募ってきている。
「ここのプログラム、現行の機械に接続しても使えそうだよ」
「機械はさっぱり分からないけど......明らかに変だね、数年前に放棄されたって訳じゃないでしょう?」
「少なくとも100年以上......ここは天候が安定してる地域だから、奇麗に残ったんだよね」
「正解、メアも詳しくなってきたんじゃない?」
「いや、まだまだだよ」
メノと共に周囲を見渡す。争った形跡も、データ内にも異常は見受けられなかった。この施設を何者が、どんな理由で使っていたのかさえ分からない状態が現在も続いている。
「それに、こんな人の気配がない地域に人工物......それに使ってる言葉もプログラム言語も同じなんて、奇妙過ぎて寒気がするよ」
「___そういうの、変なの?」
「人が魔界に入ったのはほんの15年前だよ、なのに100年も前の機械系施設があるのさ?」
「そっか......」
コンピュータ内を探っていたメアは、データの中に何らかの音声記録を見つけた。内容はなぜか向こうの、通常世界での会話や地名が聞こえてくるが、魔法についての会話だけが見当たらなかった。
「100年前って言うと、丁度"神"が世界に魔法を与えた時期......」
「___この建物がある地域、元々普通の世界だったってこと?メノ?」
「それが正解だとしても、じわじわ広がってるのか、部分的に取り込まれてるのか、此処を調べただけじゃ分からない......帰ってみんなで考えよう」
メノは自動ドアへ近寄り通路へ抜けていく。メアもそれに続いて外へ出て、長い廊下を並んで歩く。無機質な白い建材にはひびが入り、隙間からは土石や植物の根が入り込んできている。二人の靴音がずっと先へ響いて行く音が何度も跳ね返る___。
「___で、結局なんだったんだ?」
「"神"が与えた魔法を調べる最初期の研究所だったみたい、有害なのかどうかを調べるためのね」
「魔界内にあった理由は?」
「偶然取り込まれた......昔の魔界って、こっちの世界に入り込もうとしてたんだよ?」
「今じゃ考えられない話だな......なぜ今は止まってるんだ?」
「___彼女が、神を殺したから......止まったの」
「......」
「おかげで、今の魔法があるの」
「......それって感謝していいのか?」
「うん、いいの」
メアが紅茶を飲み干して、ソファで横になる。オズはそれを察して灯しているランタンをもって、光が届かないように別のテーブルへ向かう。灯を消したメノとソファ付近は、すぐさま冷気を放つ。
「明日も同じ時間に出るから」
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「......うん」
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英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
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