宝石♢男子

西神 幸徒

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第17話 闇夜の侵入者

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「あとはあたしにまかせて、ブラックはもう休んでいいわよ! ガーネットを助けてくれて、本当にありがとう……!」
「……トーゼンのことをしたまでだ。なにかあったら、すぐよべよ」

 ブラックが自室にもどったあと。
 月明かりのもと、あたしは燃えつきたセージの葉をとりかえたり、ガーネットの額にうかんだあせをふいてあげたり――とにかく必死だった。
 心配で心配で、たまらなかったの。
 まさか、命がけであたしを守ろうとするなんて、思いもよらなかったから。
 フツーは怖くて、できっこないわ。
 それでも、ガーネットはやってのけた。
 逃げなかった。勇気をだして、まっすぐに立ちむかって、あたしを守ってくれた。

「……ねえ、どうしてそこまでできるの? あんたの強さは、どこにあるのよ?」

 とじたままのまぶたを、そっと指先でなぞる。
 命をかけて、だれかを守る。か……あたしにも、できるかしら?
 自分がガーネットの立場だったら――そこまで考えて、ふと気づいたの。

「あーもう、あたしってば、ほんとバカ……」

 そうよ、こんなの考えなくても、わかることじゃない。
 あたしだって、ガーネットがピンチにおちいったらきっと、命がけで守ろうとするわ。

「見かえりなしの究極の愛、か」

 それが推すということ。だって、あんたはそう言ってたわね?
 推すとか推さないとか、そういうの、あたしにはよくわかんないけどさ。

「あたしも、あんたと同じ気持ちよ、ガーネット――……」

 まぶたから下へ、スッと指をすべらせて、最後にぷにっとほっぺをつついてやった。

「なにがあってもあんたを守るわ、見かえりなんていらない」

 だってあんたは、あたしの大切な――、

「大切な、家族なんだから……‼︎」

 ガーネットはまだ、目を覚ましそうにない。
 けど、しわしわだった肌は、つるんとしてきたし。
 ボサボサだった白髪も、すこしずつ赤みがもどってきた。

「その調子で、はやくよくなるのよ、ガーネット……」

 じゃなきゃ、ゆるさないんだから‼︎
 チトセのマイナスエネルギーから守ってくれたのは、助かったわ。
 だけどあたしは、守られるだけの女の子でおさまるつもりはないの!

 言ったでしょ? 宝石男子は、あたしが守るって‼︎

「あたしにできることなんて、相手をぶちのめすことくらいなんだから。だまって守られていなさいよね……バカ」

 眠ったままのガーネットを見ていると、だめね、あたし。
 じわっと視界がにじんできちゃって、泣いている場合じゃないってのに!
 涙をグイっと手でぬぐって、とりあえず、いすから立ちあがる。

 不安な気持ちは、運動でふき飛ばすにかぎるわ!
 セージの葉が燃えつきるまで、まだ時間がかかりそうだし。
 ここはかるくスクワットをして――と、はげんでいたら急に、外から音がしたの!

 ……いまのって、車のエンジンがとまる音よね……?
 そうっと窓に近づいて、外のようすを見てみると、黒いワゴン車が二台。
 館のまえにとまっているわね。
 あっ、車内からひとがでてきた……暗くてよく見えないけど、男のひとが四人はいる。

「こんな真夜中に、大人がいったいなんの用だってのよ……!」

 これは見るからにあやしいわ!
 しかもあいつら、館の裏にまわっていくじゃない――まさか、台所の勝手口から侵入する気じゃないでしょうね⁉︎
 まずいわ……台所からリビングへぬけたさきの廊下には、あたしたちの個室がある。
 このままじゃ、部屋で眠っているブラックがあぶない……!

「ああもう、こんなときに――ごめんね、ガーネット。すぐにもどるから‼︎」

 ガーネットをのこしていくのは不安だけど、侵入者を放置しておくわけにもいかない。
 あたしは足音をたてないように、小走りでブラックの部屋にむかったの――……。

 廊下の影にかくれながら、こっそり進んできたけど、いまのところはだれにも出会わずにすんでいるわ……順調ね。
 ブラックの部屋のまえについたところで、しずかに扉をあけて、ひそっと声をかけた。

「――ブラックおきて、館に侵入者よ!」
「シー、しずかに。わかってる……よその者の気配がするからな、たったいまも……」

 すかさずブラックの部屋にすべりこんで、耳をすましてみると――まずいわね。
 複数の足音が、だんだんこっちへ近づいてくる……!
 怖い、けどたえるのよカナメ。
 息をひそめて、見つからないようにしずかに、しずかに。

 バンっと最初にひらいたのは、位置的にあたしの部屋。
 つぎはガーネットの部屋――最後に、ブラックの部屋の扉があいたときは、心臓がぶっこわれるかと思ったわ……!
 あたしたちは、ベッドの下にかくれて、やつらがさるのをジッとまった。
 目のまえで黒い靴がいったりきたりして、ギィギィ床のきしむ音がする……‼︎
 しばらくして足音がさり、緊張がとけたあたしの両手は、ひやあせでびっしょり。
 はぁ……どうにか、見つからずにすんだみたい。
 ブラックに手を引っぱられて、ベッドの下からはいずりでた――まではよかった。

 侵入者どもの足音が、遠ざかっていく音がする……ん? 遠ざかって……?
 って、ちょっとまって。ここからはなれて、つぎはいったいどこにいくつもりよ⁉︎

「ねえブラック、もしかしてあいつら……!」
「ああ、まずいな。研究室へむかってる。ただのどろぼうじゃないようだな……‼︎」

 これはもう、だれがどう考えたって、宝石男子をねらっているとしか思えないわ‼︎
 あたしたちは、全力疾走で研究室へむかった。
 なかにはいった、つぎの瞬間――っ!

 ガッシャーン‼︎

 っと、ハデな音がしたと思ったら、ガラスのわれた窓から、黒いスーツの男たちが逃げていくじゃない‼︎

「まちなさい‼︎ その全身真っ黒なコーデ、そしてきたえぬかれたマッスル、まちがいないわ‼︎ あんたたち、チトセのところのムキムキ執事軍団ね⁉︎」
「チッ、俺はやつらを追う、おまえは部屋の状況をたしかめろ――‼︎」

 ブラックがすかさず窓から飛びだして、執事たちを追いかけていく。
 あたしはブラックに言われたとおり、研究室内をぐるっと見まわした。
 そして、気づいたの。

「あれ⁉︎ ガーネットがぬすまれていない……無事ってことは……?」

 あの執事たち、なにかおおきなものを、数人がかりでかかえて逃げたはずなんだけど。
 ガーネットじゃないなら、いったいなにがぬすまれたっていうの……?
 腕をくみ、首をかしげてうなっていたら。
 われた窓からブラックが帰ってきて、どかっといすにすわったの!

「……あいつら、宝石箱をぬすみやがった。あとちょっとで車の屋根に飛びのれたのに、うまいことかわして逃げやがったんだ――っ‼︎」
「宝石箱⁉︎ そう言われてみれば、ガラスケースがひとつ足りない!」

 三つあったはずなのに、ふたつしかないじゃない‼︎
 大変なことになってしまったわ。
 眠ったままの宝石男子がはいった宝石箱を、ぬすまれるなんて……。

「クソっ、俺としたことが‼︎ 眠ったままじゃ、戦うどころか逃げることすらできない……指輪やネックレスに加工されてそのまま……っ」
「まって、落ちこむにはまだはやいわ。あたし、わかったかもしれない!」

 ボロボロなすがたで眠っているガーネットを見ていたら、ピンときたの。

「チトセの執事がぬすもうとしたのは、ガーネットだった。これはまちがいないはずよ」

 だって、チトセはガーネットのことがすき、だもんね。
 手にいれて、無理やり恋人にしよう。とでも思ったのかな……?

「けど見てよ。いまのガーネットのすがたじゃ、だれも本人だなんて思わないわ。くすんでいて、髪もお肌も別人みたいにボロボロ……かがやきをまったくかんじないもの!」
「……おまえ、遠慮なしに言うじゃねーか。だが一理あるな」

 チトセの執事たちは、館にしのびこんでガーネットをぬすもうとした。
 でも、どこを探してもガーネットがいない。
 あまりにもくすんでいて――研究室で眠っているのがガーネットだとは、だれひとり気づかなかったんだわ。

「だから、かわりに宝石箱をぬすんだのね……これを見て」

 ぬすまれた宝石箱があった場所に、メモが一枚置かれていたの。
 そこには走り書きの文字で、『かえしてほしくば、明日の放課後、ガーネットをつれて旧校舎の屋上にこい』なんて、エラソーに書かれている。

「……なるほど、ガーネット強奪に失敗した執事が、のこしていったのか」
「ええ。チトセは最初から、宝石男子について知っているふうだったわ。きっとこの館に宝石箱があることも、すべて知られていたのね……」

 ぬすまれたのは、不覚だった。
 けど、人質の宝石男子が、むやみに傷つけられることはないはずよ。
 チトセがほしいのは、あくまでガーネット……彼が手にはいるまで、大切にとっておくはずだわ!

「ぬすまれた宝石箱の男子は、俺たちの大切な仲間だ……見すてることはできない」
「もちろんよ! 宝石男子はみーんな、あたしの家族なんだから‼︎」

 あたしたちは、たがいの目を見てうなずきあった。
 決意をやどしたブラックの瞳が、ギラっとするどくかがやく。

「見せてやりましょう! あたしたち一家のキズナを……‼︎」

 まっててね、宝石箱のなかで眠る、あたしの家族‼︎
 必ず、救いだしてみせるんだから――!

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