神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

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3 弟

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 光矢は、私が二歳のときに生まれた。弟ができたことが、当時の私にはたまらなくうれしかったのを覚えている。
 そして彼もまた、恵まれた神気を宿してこの世に生を受けた。

 だが両親は私のときと同じく、光矢にも無関心だった。教育や世話はすべて使用人任せ。

 母は光矢を産むと、跡継ぎを産んで義務は果たしたとばかりに、家にあまり帰らなくなった。
 一方、父はもともと禍憑の討伐任務で家を空けることが多く、公の場では二人揃って出席するものの、私生活では会話は一切なかった。

 光矢は早々にそんな両親に見切りをつけていたようだ。幼いながらも父と母を求めて泣くようなことは一度もなかった。
 とはいえ、我が家には「月に一度は家族全員で食事をする」という形式だけの習慣があった。
 その席では、父も母もほとんど口を開かず、私が何とか会話を繋ごうと努力するも、返ってくる反応は薄い。
 幼い頃は必死に場を持たせようと頑張っていたが、何年か経つうちに、その努力に意味を見出せなくなり、やがて私も会話を繋ごうとするのをやめてしまった。
 こんなに寒々しい空気の中で無理に顔を合わせるくらいなら、いっそやめてしまえばいいのに。
 そう思っても、その食事会だけはなぜか廃れることなく続いていた。

 私はせめて弟には寂しい思いをさせたくないと、できる限り一緒に食事をとり、ともに時間を過ごした。それは弟のためというよりも、私自身が家族の愛情を渇望していたからでもある。

 その甲斐あってか、光矢はとても私に懐いてくれた。

 それでいて、彼は幼い年頃とは思えぬほど達観した、不思議な子だった。


 ---

 光矢には、生まれつき人の“心持ち”が見える力があった。

 妬み、嫉み、打算、悪意  そういった負の感情が、黒いもやとなって人の体を覆って見えるのだという。
 嘘をつけば、口から黒いもやが漏れ出るそうだ。

 ある日、乳母のかおるが不在で、代わりにみつえという別の使用人が光矢の世話をすることになった。
 すると光矢は突如として大泣きし、手がつけられなくなった。
 のちに、その使用人が窃盗を働いていたことが発覚し、屋敷から連行されていった。
 私には、ごくごく普通の女性にしか見えなかったのに。

 光矢の力に気づいたのは、部屋で二人きりで遊んでいたときだった。

「ねえさまはねぇ、キラキラしてるからすきなんだ」

「あら、うれしい。ありがとう」

 けれど次に返ってきた言葉に、私は思わず息を呑んだ。

「みつえはね。まっくろいもやもやがあったからいやだったの」
 
 “みつえ”――窃盗を働いた使用人の名だった。

「こうちゃん……どういうこと?くろいもやもやがからだからでてるの?」

「うん、そうだよ」

「それは、どこか、からだがわるいの?」

「ちがうよ。わるいのはこころだよ」

「こうちゃん、このことだれかにいったことある?」

「ううん、ねえさまがはじめて」

「……じゃあ、ねえさまとやくそくして。こうちゃんのみえるちからのこと、だれにもいわないでね。おとうさまとおかあさまにも」

「わかった。やくそく!」

 そう言って、満面の笑みを浮かべた。

 光矢はこのとき三歳だったが、その年齢にしてはこちらの言うことは何でも理解する賢い子だった。

 この力のことを両親が知ったら、きっと利用しようとする。
 せめて自分の身は自分で守れるようになるまでは、誰にも知られないようにしないとと、この時決心した。

 ---

 ある日、光矢が六つの年を迎え、初めて公の場に出ることとなった。
 それは、上位の神守の家々が一堂に会する、格式高い集まりであった。

 集まりが始まってすぐに光矢が私の耳元でそっとささやいた。

「姉さま、あの方とあの方、それからあの方は、すっごくキラキラしてます。あそこまで強い輝きは、初めて見ました……」

 光矢が指し示したのは、我が国に三人しかいない上大位のご当主たちだった。

 天御門家、清瀧家、神裂家――いずれも、神守の中でも頂点に立つ家門である。

 どうやら、尊い志や気高さ、強靭な精神は輝きの強さとして、彼の目には映るらしい。

 なにも見えないはずの私ですら、あの方々の存在には、思わず目を奪われるような“光”を感じずにはいられなかった。
 これが、御三家という存在の重みなのだ。

 そして会場には、黒いもやを漂わせた者たちの姿も、少なからず見受けられるそうだ。

 光矢は、そうした者たちに対しても決して警戒を表に出さず、子どもらしいあどけなさを保ちながらも、礼儀正しく、齢わずか六歳とは思えぬほどに完璧な振る舞いを見せていた。

 そのとき、確かに何か、とても重大な出来事が起こった気がする。
 だが思い出そうとした瞬間、頭に鋭い痛みが走り、記憶の扉は固く閉ざされてしまった。
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