25 / 97
24 神月の宴2
しおりを挟む
天璽家の方々が会場に入ると、まず「御三家」と呼ばれる上大位のご当主が舞台に上がり、持ち回りで一つの家が挨拶を述べるのが習わしである。
今年は神裂家の当主が進み出た。
「天璽王陛下、皇后陛下、皇太子殿下、皇太子妃殿下、皇女殿下、並びに諸家の皆々様。本年もこの佳き日を共に迎えられましたこと、何よりの喜びにございます。天地の恵みと人々の和が絶えぬよう、我ら御三家も力を尽くす所存にございます」
厳かな言葉に会場は静まり返る。続いて、天璽王陛下が立ち上がられた。
「うむ。天裂家当主の言葉、しかと受けた。皆の者、よく集まってくれた。この宴は単なる慣例ではない。諸家が力を合わせ、世を支え合う、その証である。われら天璽家は、これからも変わらず諸家と共に歩み、民を護ってゆく。その志を新たにし、今宵を共に楽しもう」
威厳ある声が会場に響き渡ると、自然と拍手が起こり、場の空気は華やぎを増した。
その後、参加者は順に天璽家へ挨拶を行う。上位の家格から順に並び、上大位の方々は王の後ろに控えているため、最初に並ぶのは上中位の家々であった。
待っている間、光矢が私の耳元にそっと囁く。
「姉さま……あの方と、それからあの方……あちらの方も、とても強く輝いて見えます。あんなに眩しい光は、初めてです……」
私は心の中で「前回も同じことを言っていたわね」と思ったが、微笑んで口には出さず、静かに答えた。
「そうなのね。さすが御三家のご当主様たちね」
私たち水無瀬家は上中位なので頃合いを見計らって並ぶ。叔父様も共にいる。功績ある者は近しい親族と連れ立って挨拶をするのが慣わしであり、そうでなければ叔父様はいよいよ体調不良を理由に欠席されていただろう。
これまで、天璽家への拝謁は緊張の極みであった。前世を含めた昨年までは、絶対に失敗してはならないと怯え、失敗すれば父母に失望されると恐れていた。
しかし今年は違った。礼儀作法をみっちり仕込まれ、さらに光矢の初参加ゆえ、私が気負う必要はない。緊張は自然と薄れ、光矢も落ち着いているようだった。
やがて、水無瀬家の番がやってきた。
「天璽王陛下、皇后陛下、皇太子殿下、皇太子妃殿下、並びに皇女殿下に謹んでご挨拶申し上げます」
父が進み出て深く頭を下げる。
「妻の透子、長女の瑞葉、弟の克己、そして本日初めて参上いたしました嫡男の光矢にございます。光矢、挨拶を」
叔父様と母と私は膝を折り、恭しく頭を垂れる。光矢が一歩進み出た。
「お初にお目にかかります。水無瀬家嫡男、光矢と申します。以後、何とぞお見知りおきくださいませ」
天璽王は柔らかく目を細められた。
「うむ。神気量もさることながら、良い目をしておるな。さすがは水無瀬家の嫡男だ。これからの成長、楽しみにしておるぞ。励むがよい」
「はい。ありがたきお言葉、胸に刻みます」
続けて天璽王は叔父様に目を向けられた。
「そして克己殿。いろいろとあったと聞くが、悪縁が断たれたのは何よりだ。今年もそなたが開発した神具が大いに役立っておる。今後も期待しておるぞ」
「恐れ入ります。陛下のお言葉を励みに、なお一層尽力いたします」
そのとき、皇太子殿下がにこやかに口を開かれた。
「ところで、瑞葉殿。先日、神殿の孤児院の子らが十頭の岩毛熊に襲われた折、そなたが子どもたちを守ったと聞き及んでいる。神殿は天璽家直轄の組織、その孤児院の子らもまた我らの庇護下にある。ここに礼を述べよう」
思わず驚く。まさか、このことをご存じだったとは。
「と、とんでもないことでございます。私が討ったのではなく、ただ結界を張り、その中で必死に守りを続けていただけにございます」
「ほう。それでは、誰が岩毛熊を討ったのだ?」
楽しげに問いかけてこられる。ご年齢は二十五歳ほどだが、その瞳は少年のようにきらきらと輝いていた。
「私の侍女と、神父様、そして神殿で活動している友人でございます。正式なお名前は存じ上げません」
「その友人とやら、どこの者だと思う?」
「……あくまで憶測ですが、読書好きで、本をよく貸してくださいます。それが珍しい書物ばかりで、通常手に入らぬものもございます。ですので、大きな商会のご子息なのではと……」
「ぶふっ」「ふふふ」
皇太子殿下は思わず噴き出し、御三家の方々のいる後ろをちらりと振り返って心底楽しそうに笑っておられた。妃殿下もおしとやかに微笑まれる。
「まったく、また人をからかって……ごめんなさいね」
御年二歳の皇女殿下は、ご両親の楽しそうなご様子を見て、ケラケラ笑われている。
皇后様は静かに目を細め、言葉を添えられた。
「しかし、岩毛熊の攻撃に耐える結界をこの年齢で張れるとは、将来有望だわ。透子、そなたが指導したのでしょう?」
母は恭しく頭を下げる。
「はい、親馬鹿ではございますが、素質は悪くないかと存じます」
「そう。水無瀬家はこれからますます楽しみね」
「ありがたき幸せにございます」
天璽王家の方々は、思いのほか気さくに、和やかに言葉を交わしてくださった。
今年は神裂家の当主が進み出た。
「天璽王陛下、皇后陛下、皇太子殿下、皇太子妃殿下、皇女殿下、並びに諸家の皆々様。本年もこの佳き日を共に迎えられましたこと、何よりの喜びにございます。天地の恵みと人々の和が絶えぬよう、我ら御三家も力を尽くす所存にございます」
厳かな言葉に会場は静まり返る。続いて、天璽王陛下が立ち上がられた。
「うむ。天裂家当主の言葉、しかと受けた。皆の者、よく集まってくれた。この宴は単なる慣例ではない。諸家が力を合わせ、世を支え合う、その証である。われら天璽家は、これからも変わらず諸家と共に歩み、民を護ってゆく。その志を新たにし、今宵を共に楽しもう」
威厳ある声が会場に響き渡ると、自然と拍手が起こり、場の空気は華やぎを増した。
その後、参加者は順に天璽家へ挨拶を行う。上位の家格から順に並び、上大位の方々は王の後ろに控えているため、最初に並ぶのは上中位の家々であった。
待っている間、光矢が私の耳元にそっと囁く。
「姉さま……あの方と、それからあの方……あちらの方も、とても強く輝いて見えます。あんなに眩しい光は、初めてです……」
私は心の中で「前回も同じことを言っていたわね」と思ったが、微笑んで口には出さず、静かに答えた。
「そうなのね。さすが御三家のご当主様たちね」
私たち水無瀬家は上中位なので頃合いを見計らって並ぶ。叔父様も共にいる。功績ある者は近しい親族と連れ立って挨拶をするのが慣わしであり、そうでなければ叔父様はいよいよ体調不良を理由に欠席されていただろう。
これまで、天璽家への拝謁は緊張の極みであった。前世を含めた昨年までは、絶対に失敗してはならないと怯え、失敗すれば父母に失望されると恐れていた。
しかし今年は違った。礼儀作法をみっちり仕込まれ、さらに光矢の初参加ゆえ、私が気負う必要はない。緊張は自然と薄れ、光矢も落ち着いているようだった。
やがて、水無瀬家の番がやってきた。
「天璽王陛下、皇后陛下、皇太子殿下、皇太子妃殿下、並びに皇女殿下に謹んでご挨拶申し上げます」
父が進み出て深く頭を下げる。
「妻の透子、長女の瑞葉、弟の克己、そして本日初めて参上いたしました嫡男の光矢にございます。光矢、挨拶を」
叔父様と母と私は膝を折り、恭しく頭を垂れる。光矢が一歩進み出た。
「お初にお目にかかります。水無瀬家嫡男、光矢と申します。以後、何とぞお見知りおきくださいませ」
天璽王は柔らかく目を細められた。
「うむ。神気量もさることながら、良い目をしておるな。さすがは水無瀬家の嫡男だ。これからの成長、楽しみにしておるぞ。励むがよい」
「はい。ありがたきお言葉、胸に刻みます」
続けて天璽王は叔父様に目を向けられた。
「そして克己殿。いろいろとあったと聞くが、悪縁が断たれたのは何よりだ。今年もそなたが開発した神具が大いに役立っておる。今後も期待しておるぞ」
「恐れ入ります。陛下のお言葉を励みに、なお一層尽力いたします」
そのとき、皇太子殿下がにこやかに口を開かれた。
「ところで、瑞葉殿。先日、神殿の孤児院の子らが十頭の岩毛熊に襲われた折、そなたが子どもたちを守ったと聞き及んでいる。神殿は天璽家直轄の組織、その孤児院の子らもまた我らの庇護下にある。ここに礼を述べよう」
思わず驚く。まさか、このことをご存じだったとは。
「と、とんでもないことでございます。私が討ったのではなく、ただ結界を張り、その中で必死に守りを続けていただけにございます」
「ほう。それでは、誰が岩毛熊を討ったのだ?」
楽しげに問いかけてこられる。ご年齢は二十五歳ほどだが、その瞳は少年のようにきらきらと輝いていた。
「私の侍女と、神父様、そして神殿で活動している友人でございます。正式なお名前は存じ上げません」
「その友人とやら、どこの者だと思う?」
「……あくまで憶測ですが、読書好きで、本をよく貸してくださいます。それが珍しい書物ばかりで、通常手に入らぬものもございます。ですので、大きな商会のご子息なのではと……」
「ぶふっ」「ふふふ」
皇太子殿下は思わず噴き出し、御三家の方々のいる後ろをちらりと振り返って心底楽しそうに笑っておられた。妃殿下もおしとやかに微笑まれる。
「まったく、また人をからかって……ごめんなさいね」
御年二歳の皇女殿下は、ご両親の楽しそうなご様子を見て、ケラケラ笑われている。
皇后様は静かに目を細め、言葉を添えられた。
「しかし、岩毛熊の攻撃に耐える結界をこの年齢で張れるとは、将来有望だわ。透子、そなたが指導したのでしょう?」
母は恭しく頭を下げる。
「はい、親馬鹿ではございますが、素質は悪くないかと存じます」
「そう。水無瀬家はこれからますます楽しみね」
「ありがたき幸せにございます」
天璽王家の方々は、思いのほか気さくに、和やかに言葉を交わしてくださった。
0
あなたにおすすめの小説
復讐は、冷やして食すのが一番美味い
Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。
1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。
2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。
3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。
狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。
「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。
-----
外部サイトでも掲載を行っております
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。
でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。
結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。
健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。
父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。
白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――
「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる