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89 想い(碧人視点)
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瑞葉に会える――。
祥太朗の報告を聞いた瞬間、自分でも驚くほど活力が湧いてきた。
そのままの勢いで、父上との稽古にもいっそう身が入る。
瑞葉に相応しい男になるため、手を抜くなどあり得ない。
「よし。指導は終わりだ。行ってこい。あとの予定は祥太朗が調整する」
「はい! 行って参ります!」
「馬車の準備はできています。すぐに出られますよ、碧人様」
俺のそばでは大抵ふざけた態度をとるくせに、父上の前だと妙にきちんとする。
そのギャップが少し腹立たしいが、仕事は完璧、気心も知れている。
交代など考えたことは一度もない。
馬車に飛び乗ると、祥太朗はそのまま御者席へ。
俺は馬車の中で、用意されていたお湯で布巾を絞り汗を拭き、手早く着替えた。
この時間なら、依頼はもう終わっている頃だろう。まずは神殿へ向かう。
しかし、神殿に着いても瑞葉たちは戻っていなかった。
胸の奥に、嫌な予感が刺さる。
「祥太朗、村へ向かうぞ」
「……くれぐれも依頼に手出しはしないでくださいよ」
「わかってる。だが、どうにも胸騒ぎがする」
俺が言うと、祥太朗の表情が引き締まった。
「急ぎましょう」
依頼先の村へ向かう一本道を駆ける。すれ違っているはずがない。
そして――しばらく進んだ先から、戦闘の気配がした。
「祥太朗、近い!」
「おそらく瑞葉様たちです!」
馬車から飛び降り、身体強化で一気に駆ける。
祥太朗もすぐ背後に続いた。
視界に飛び込んだ光景に、歯を食いしばる。
戦いは膠着し、老人と幼い子が敵に捕らえられ、ナイフを突きつけられていた。
動けば人質が危ない――そんな状況だ。
瞬時に判断し、ナイフを持つ敵の手を狙って斬りつける。
「……アオ君!?」
瑞葉が驚いた顔を向けてきた。久しぶりに見るその顔に頬が緩みそうになるが、今は戦闘が先だ。
俺は祥太朗に合図し、人質の保護をまかせる。
「よく耐えた。あとは任せろ」
人質の危険が消えたことで、浅井殿や光矢君、侍女も動けるようになる。
なぜか瑞葉の結界内の敵には浄化が効いていなかったらしく、その相手は俺が引き受けた。
戦いはあっという間に決着した。
ようやく瑞葉の顔を正面から見られる。
胸の底から安堵が込み上げる。
「……間に合って、よかった」
そう呟いた瞬間だった。
「あれっ?瑞葉ちゃんだよね?また違う眼鏡にしたの?全然違って見えるね。なんというか……誰かわからなかったよ」
祥太朗の、場違いにもほどがある声が響いた。
今は感動の再会の場面だろう!?
なんでこいつはこんなにも空気が読めないんだ!
怒りが湧くが、相手にしていたら話が進まない。
「俺はすぐにわかったよ。瑞葉は瑞葉だ。その姿も……可愛いよ」
言った瞬間、瑞葉は真っ赤になって俯いた。
……しまった。祥太朗が無駄口を叩くから、勢いで余計なことを言ってしまった。
「いや、その……瑞葉が可愛いのはいつものことで、どんな姿をしていても……」
自分で言いながら恥ずかしくなってきて、そこで言葉が途切れる。
「碧人様、ありがとうございます。人質を取られて、動けなくなっていました」
そこへ、光矢君と浅井殿がやってくる。
「全人教の報復、ですかね?」
「おそらく……いや、確実に」
「みなさんだけでは大変でしょうから、我が家の影に憲兵への引き渡しをさせましょうか?」
「お願いします」
「祥太朗。影の者たちは控えているんだろう?お前も同行してくれ」
「はいはい。――おーい、みんなー、お仕事だってさー」
祥太朗が適当な声をかけると、影が五人もぞろぞろ現れた。
……こんなにいたのか。
「では、念のため神気封じの手錠を。気を失っていても、目覚めたら危険ですので」
「おお、ありがたい」
光矢君が手錠を渡し、祥太朗が一人ずつ装着していく。
「引き渡したら神殿まで迎えに来ますから、待っててくださいよ」
そう祥太朗は言い、影たちと犯人を馬車に乗せ、憲兵隊の詰所へと向かっていった。
祥太朗の報告を聞いた瞬間、自分でも驚くほど活力が湧いてきた。
そのままの勢いで、父上との稽古にもいっそう身が入る。
瑞葉に相応しい男になるため、手を抜くなどあり得ない。
「よし。指導は終わりだ。行ってこい。あとの予定は祥太朗が調整する」
「はい! 行って参ります!」
「馬車の準備はできています。すぐに出られますよ、碧人様」
俺のそばでは大抵ふざけた態度をとるくせに、父上の前だと妙にきちんとする。
そのギャップが少し腹立たしいが、仕事は完璧、気心も知れている。
交代など考えたことは一度もない。
馬車に飛び乗ると、祥太朗はそのまま御者席へ。
俺は馬車の中で、用意されていたお湯で布巾を絞り汗を拭き、手早く着替えた。
この時間なら、依頼はもう終わっている頃だろう。まずは神殿へ向かう。
しかし、神殿に着いても瑞葉たちは戻っていなかった。
胸の奥に、嫌な予感が刺さる。
「祥太朗、村へ向かうぞ」
「……くれぐれも依頼に手出しはしないでくださいよ」
「わかってる。だが、どうにも胸騒ぎがする」
俺が言うと、祥太朗の表情が引き締まった。
「急ぎましょう」
依頼先の村へ向かう一本道を駆ける。すれ違っているはずがない。
そして――しばらく進んだ先から、戦闘の気配がした。
「祥太朗、近い!」
「おそらく瑞葉様たちです!」
馬車から飛び降り、身体強化で一気に駆ける。
祥太朗もすぐ背後に続いた。
視界に飛び込んだ光景に、歯を食いしばる。
戦いは膠着し、老人と幼い子が敵に捕らえられ、ナイフを突きつけられていた。
動けば人質が危ない――そんな状況だ。
瞬時に判断し、ナイフを持つ敵の手を狙って斬りつける。
「……アオ君!?」
瑞葉が驚いた顔を向けてきた。久しぶりに見るその顔に頬が緩みそうになるが、今は戦闘が先だ。
俺は祥太朗に合図し、人質の保護をまかせる。
「よく耐えた。あとは任せろ」
人質の危険が消えたことで、浅井殿や光矢君、侍女も動けるようになる。
なぜか瑞葉の結界内の敵には浄化が効いていなかったらしく、その相手は俺が引き受けた。
戦いはあっという間に決着した。
ようやく瑞葉の顔を正面から見られる。
胸の底から安堵が込み上げる。
「……間に合って、よかった」
そう呟いた瞬間だった。
「あれっ?瑞葉ちゃんだよね?また違う眼鏡にしたの?全然違って見えるね。なんというか……誰かわからなかったよ」
祥太朗の、場違いにもほどがある声が響いた。
今は感動の再会の場面だろう!?
なんでこいつはこんなにも空気が読めないんだ!
怒りが湧くが、相手にしていたら話が進まない。
「俺はすぐにわかったよ。瑞葉は瑞葉だ。その姿も……可愛いよ」
言った瞬間、瑞葉は真っ赤になって俯いた。
……しまった。祥太朗が無駄口を叩くから、勢いで余計なことを言ってしまった。
「いや、その……瑞葉が可愛いのはいつものことで、どんな姿をしていても……」
自分で言いながら恥ずかしくなってきて、そこで言葉が途切れる。
「碧人様、ありがとうございます。人質を取られて、動けなくなっていました」
そこへ、光矢君と浅井殿がやってくる。
「全人教の報復、ですかね?」
「おそらく……いや、確実に」
「みなさんだけでは大変でしょうから、我が家の影に憲兵への引き渡しをさせましょうか?」
「お願いします」
「祥太朗。影の者たちは控えているんだろう?お前も同行してくれ」
「はいはい。――おーい、みんなー、お仕事だってさー」
祥太朗が適当な声をかけると、影が五人もぞろぞろ現れた。
……こんなにいたのか。
「では、念のため神気封じの手錠を。気を失っていても、目覚めたら危険ですので」
「おお、ありがたい」
光矢君が手錠を渡し、祥太朗が一人ずつ装着していく。
「引き渡したら神殿まで迎えに来ますから、待っててくださいよ」
そう祥太朗は言い、影たちと犯人を馬車に乗せ、憲兵隊の詰所へと向かっていった。
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