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〜異世界に慣れるまで〜
彼と出会う
しおりを挟む次に目が覚めると森の中にいた。
本当に綺麗な森だ。樹齢数千年はありそうな木があり、私の足元には赤色の可愛らしい花まで咲いている。たった今目の前を横切って行った、とても美しい蝶々は私の身長よりも大きかったってちょっと待って。
「もしかして…本当に異世界に来ちゃったの…?」
悪い夢だと思いたかったのに。
でも地球では人よりも大きな蝶々なんていないだろう。いるのかもしれないが、少なくとも私の見たことのある蝶々は掌サイズだった。
そして、現在私が立っている場所。私は間違いなく、あのよくわからない金色の空間にいた。にもかかわらず私は今、森に立っている。
これはどういうことなんだろう。あの時、私は神様に 詳しい説明は後でするから、楽しんできてねっ☆と言われた。
それなのに今の私は一人だ。周りに人なんていないし、仮にもしいたとしても、私には話しかけることなんて無理だろう。本当になんて神様はなんてことをしてくれたんだ。異世界に行くことに納得もしていないし、説明もしてもらっていない。これは酷いと心の中で文句をぶつけていた時だった。
「こんにちは」
後ろから声をかけられた。
えっ?待って待って本当に待って、重度の人見知りには、振り返るなんてかなり厳しい。心臓がもの凄い速さで脈を打つ。落ち着け私、もしかしたら私に声をかけているのではなくて、別の何かに声をかけているのかもしれない。そうであってほしい!
「こんにちは、貴方は異世界からの転生者ですね?」
…後ろの方は間違いなく私に話しかけているらしい。恐らく男性だろう。低音のとてもいい声だ。顔は見れないけど。
「少しお話がしたいので、此方を見て頂けませんか?」
とてもいい声の御仁がそう言ってくる。
どうしよう、逃げたい。全力で逃げたいし、もういっそ失神してしまいたいが、それではこの状況はよくならない。私は何処にいるかもわからず、相手は私の事情を知っている。
それならば、話をした方が絶対にいい。頑張れ私。やれば出来る! あの空間から何度自分を鼓舞したことだろう。覚悟を決めた私は、おそるおそる振り返る。覚悟を決めたのにおそるおそるかよ というツッコミは勘弁してもらいたい。
「そうですが…貴方…は……え…?」
私は言葉を失った。
だって、だって誰だって声をかけられたら、声をかけてきた相手は人だと思うだろう。でも違った。私に声をかけてきたいい声の御仁は、男性とかそういうことではなく、薔薇だったのだ。
本当に薔薇だ、それも真っ黒の。まるでビロードみたいな光沢のある花びらをした薔薇。よく庭に植えられている大輪の薔薇そのものだった。何かに巻き付いたりはしておらず、堂々と立っている。いや比喩ではなく、本当に立っているのだ。自分の根っこを使って立っている。私にはもうよくわからなかった。薔薇って立つんだっけ?混乱している私に薔薇は
「私は神様より貴方の為だけに遣わされた者です。どうぞお好きにお呼び下さいね、主様」
とても優雅なお辞儀を披露してこう言った。もうお願いだから待ってほしかった。私は半泣きである。もう、ツッコミどころが多すぎる。遣わされたって何?私を無理矢理異世界に送ったくせに?好きに呼べ?なんで薔薇が喋れるの、どこから声出してるの それに主様って何??
分からないことが多すぎるので、勇気を出して聞いてみることにする。相手は人ではなく、薔薇なのだからあまり人見知りをしないで済んだ。 不安だけど。
「あの~」
とりあえず声をかけてみた。
「はい なんでしょう?」
…表情はないはずなのに笑顔が見えた気がした。
「あの薔薇さん、話って…」
「薔薇さんではなく名前をつけて下さい」
…話を遮ってきた。諦めるな私、めげずに声をかけよう
「あのですね薔薇さ…」
「名前をつけて下さい」
……この押しの強さ、やはりあの神様が遣わしたのだろう。私は確信した。
とにかく名前をつけなれば、お話とやらはしてもらえそうにない。でも名前なんて思いつかないし、名付けなんてしたことがない。弟妹達の名前も、両親が話し合って決めていたから私は何もしていない。本当に困った。確か、ペットに名前をつける時は、その子の特徴から名前を思いつくことがあると聞いたことがあった気がする。私もそれに倣ってみよう。
この薔薇の特徴は色だと思うから色から名前を考えよう。クロ…これはなんか違う。シュバルツ…?これもなんか微妙な気がする。あ、思いついた。
「じゃあ…ノワールはどうですか…?」
どうだろうか? 私的にはなかなか良いのでは?と思うのだけど…
「ノワール…良いですね!では私は今からノワール、貴方の忠実なる僕、ノワールです」
金色の光が私達を包み込む。
「契約成立です! どうぞ宜しくお願い致します」
契約? 契約とはなんのことだろう?もしかして名前をつけたことだろうか?
「契約って名前をつけたことですか?」
「そうですよ 主様が私に名前をつけて下さったから契約が成されたのです」
薔薇さ…ノワールが教えてくれた。
一つ文句を言ってもいいだろうか、そんなこと一言も聞いてない! なんだか騙された気分でいっぱいである。
「それはそうと主様、神様からお便りを預かっておりますが如何致しましょう?」
とても重要なことをサラリと口にされた。
「今すぐに見せて下さい!!」
気がつけば私は大声で叫んでいた。
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