人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく

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海の王国

話をしなければいけません

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 転移の際、何処に行きたいのかを具体的に思い浮かべなければならない。私が思い浮かべたのは、セルスティーナ女王陛下だ。だからこの場合、セルスティーナ様の元へ転移する。でもよく考えてみて欲しい。一国の女王陛下がおられる場所は、謁見の間が執務室、又は自室だろう。どちらにせよ王宮内におられる。当然警護をしている者がいて、暗殺などに警戒していることだろう。つまり…

「貴様らっ!何処から入ってきた!?」

 まぁこうなりますよね。只今、武器を持った集団に囲まれております。兵士達が思いっきり警戒をしてこちらを睨んでいる。当然の反応だ。何故もっと考えなかったんだ私は…

「ま、待てお前達!この方々は女王陛下のお客様だ。すぐに武器を下ろしてくれ!」

「フェスル隊長!?で、ですが!その地上からの御客人ならともかく、後ろにいるのは魔女ですよ!?女王陛下のお客様なわけないじゃないですか!!」

「そう思うのも無理はない。だが、地上からの御客人は女王陛下に、この魔女と対話するよう命じられているんだ。この国を何度も襲撃する理由を探れと。それの答えがでた。だから女王陛下にお会いする。だから、武器を下ろせ」

「…かしこまりました。フェスル隊長がそう仰るなら…」

 そう言って武器を下ろしていく。しぶしぶなのが目に見えているが、下ろしてくれただけ有難い。何せ私達は自分達が守っている場所に突然現れた不審者だ。そんな奴が現れたら誰だって武器を構える。フェスルさんがいてくれて本当に良かった。危うく牢屋入りするところだった。
 ってあれ?セルスティーナ様は??あの方を目指して転移したのに…それに此処は何処だ?初めてセルスティーナ様にお会いした場所ではない。

「女王陛下はどちらに?」

 フェスルさんも疑問に思ったのだろう。兵士達に聞く。

「女王陛下ですか?あの方なら…」



「何かありましたか?」



 そう言って後ろから登場したのはセルスティーナ様だ。

「じょ、女王陛下!」

 兵士達が慌てて礼をする。

「あら?皆さん、どうして此方に?此処は私の部屋の前ですが…」

「へ?」

 思わず声が漏れた。え?女王陛下の部屋の前?た、確かに近くにある扉は、謁見の時の部屋と同じくらい豪華だが…じゃあ私達は、女王陛下の行動を見越して転移した?発動させた時に必ず会いたいとは思ったが…まさか先回りするなんて、想像もしていなかった。でも納得もした。女王陛下の自室なら、警護もしっかりしていて当然ですよね…この兵士の量も納得だ。

「それに…彼女は黒の人魚では?何故此処にいるんです?」

 セルスティーナ様は訝しげな目でシェアリルさんを見る。シェアリルさんは、俯いてしまっているので顔が窺えない。まぁ王国に突然連れて来られたんだ。複雑なのだろう。

「女王陛下、彼女についてお話が御座います。お時間頂戴しても?」
 
「えぇ。お願いしたのはこちらですから。では、謁見の間に行きましょう」

 そう言ってセルスティーナ様は優雅に泳いで行く。私達もそれに続いて謁見の間に向かう。道中私の心臓はドキドキしっぱなしだ。あぁ…上手くできるかな…





 謁見の間に着き、セルスティーナ様は自分の座る所へ泳いで行き、これまた優雅に腰掛ける。そして口を開かれた。

「では、お聞き致しましょう。何故彼女はこの王国を狙い続けるのです?」

 きた。

「奪われた物を取り返す為だそうです」

「奪われた物…?それは何ですか?」

「それは…」

 私はシェアリルさんを見る。ずっと俯き続けている。未だに光の縄で縛られているが、この王国に着いてから抵抗していない。

「女王陛下、この国に虹色の宝珠はありませんか?」

「虹色の宝珠…ですか?ありますよ。我が国の国宝の中でも特別な品です。この国をお救い下さった聖女の形見ですから」

「それが…彼女が奪われた物です」

「…どういう意味ですか?」

 セルスティーナ様の顔が一気に変わる。今までは柔らかい表情だったが、その柔らかさはなくなり凛とした硬さがある表情に変化した。
 私は深く息を吸う。今から言おうとしていることが、どれだけ大変なことか分かっているから。でもちゃんと言わなくちゃいけない。そうしないとダメなのだ。
 


「此処にいる黒の人魚が…聖女だったんです」



 場が静まり返る。外で泳いでいる魚の水を切る音が聞こえてくる程に静まり返っていた。暫く沈黙が続いた時、セルスティーナ様が口を開いた。

「あの黒の人魚が聖女…?どういうことです?」

「女王陛下は聖女が出てくる物語をご存知ですか?」

 質問に質問で返された女王陛下は不服そうだ。少し眉間にシワがよっている。

「知っています。魔物達から人魚をお守りくださった物語ですね?」

「はい。私達はフェスルさんからお聞きしましたが、その物語が嘘である可能性が高いのです」

「嘘…?」

「はい。無理矢理戦わされたらしく、その時にこの黒の人魚の鱗は黒く染まったではないかと」

「そんな…」

 セルスティーナ様ショックを受けている。気まずい沈黙の中、シェアリルさんが話し始めた。

「ふふふっ信じられないのも無理はないわね…本当にあいつは用意周到だもの」
  
 何かが吹っ切れたようだ。今まで見た中で一番穏やかな表情をしている。

「あいつ?」

「私の力を奪っていった奴よ。そいつは王に覚えてもらう為だけに私を利用したわ。あの時、魔物達を退けるにはどうしても私の力が必要だった。だからあいつは私を利用したの」

「…それを証明することはできますか?」

 私とシェアリルさんの会話を聞いていたセルスティーナ様が、真剣な表情で聞いてくる。

「虹色の宝珠を持ってくれば、いつでも証明できるわ。あの宝珠の力は私のものだもの。だから、取り返せば私の鱗は虹色に戻る」

「そう…ですか。…フェスル!」

「はっ」

 セルスティーナ様が空気になっていたフェスルさんを呼ぶ。急に呼ばれたのにも関わらず、フェスルさんはすぐに応えている。

「宝物庫の番人の所へ行って、宝珠を取って来て下さい。今すぐにお願いします」

「なっ…!宜しいのですか?こいつは魔女ですよ?嘘かもしれないではありませんか!」

「いいえ、彼女は嘘をついていません。私には分かるのです。だから早く持ってきて下さい」

 フェスルさんの訴えを拒み、再度命じたセルスティーナ様の意思は固い。何を言っても無駄だろう。同じことを思ったらしいフェスルさんは、一礼してすぐさま部屋を出て行った。バレないように唇を噛み締めていたから、納得して取りに行ってはいない。それでも猛スピードで部屋を飛び出して行った。騎士って凄いんだな…
 またこの部屋に沈黙が満ちる。フェスルさんが戻るまで誰も口を開くことはなかった。





「お待たせ致しましたっ!!こちらです」

 そう言ってフェスルさんが抱えてきた物をセルスティーナ様に差し出す。それは地球では見たことのない大きな貝殻だった。
 差し出されたセルスティーナ様は受け取り、貝殻の表面を軽く押した。すると、貝殻が徐々に開いていく。ゆっくり、ゆっくりと開き、現れたのは虹色をした美しい宝珠だ。宝珠の色は定まっておらず、揺蕩う水のようにその色を変えている。

「ありがとうフェスル。では…シェアリル。この宝珠に触れて下さい。この宝珠には、誰も触れることが出来ませんでした。聖女にしか触れることができないのです。さぁ此方に」 

 そう言って手招きする。フェスルさんは触れられないだろうと思っているのが丸わかりだか、セルスティーナ様は違う。何処までも静かに、真実を見極めようとしていた。
 光の縄を解かれて、自由になったシェアリルさんが向かっていく。シェアリルさんには内緒で、魔法を使えなくする魔法をかけてあるから、彼女は何も攻撃できない。それを知らないフェスルさんは武器を構えて、いつでも攻撃できる体勢を整えている。

「私がこの宝珠の力を取り戻せば、王国の結界は揺らぐわ。それでもいいというの?」

 宝珠に手を触れる寸前、シェアリルさんがセルスティーナ様に尋ねる。

「えぇ。誰かの力を無理矢理奪ったようなもので、国を安定させたくはありませんから」

 尋ねられたセルスティーナ様はそう答えた。無理しているような感じは微塵もしない。ただただ女王としての気高さがあるだけだ。間違ったことは正さなければならないと、本気で思っている。

「そう…お前は…貴方はあいつとは違うようね」

 そう言って穏やかに微笑み、シェアリルさんは宝珠に手を伸ばして触れた。その瞬間、目が眩むほどの光で満たされた。目を開けていられなくて閉じてしまう。ほ、本当に眩しい…




 
 暫くすると光が消えた。目蓋越しに感じていた強烈な光が消えてなくなったのだ。おそるおそる目を開ける。
 すると、そこには驚きの光景が広がっていた。シェアリルさんが立っていた所に別の人が立っていたのだ。サンゴ礁のような赤い髪に、虹色の瞳、肌にはシワなんて一切なくゆで卵のようだ。虹色の鱗が光が受けてキラキラしている。

「だ、誰だ…?」

 フェスルさん、よくぞ聞いてくれた。本当に誰ですか??
 美しい人魚は美しく微笑んで、

「ふふふっ…私よ黒の人魚よ」


 そう言った。え、

「えぇぇぇぇぇ!?お、お前が、く、黒の人魚だと!?」

 フェスルさんは腰を抜かしそうな勢いで驚いている。というか全員が驚いている。一番派手なリアクションなのはフェスルさんだが、皆同じくらい驚いている。
 シェアリルさんはクルッと私の方を向いた。

「ありがとう、私を信じて連れてきてくれて。お陰で元に戻れたわ。本当にありがとう…」

 う、うわ…声まで美しくなっている…

「い、いえ。私達にも目的はありましたし…そこまで感謝されることはありません…」

 そう言った私に対して、シェアリルさんはクスクスと笑う。本当に幸せそうだ。あの気怠げで荒んだ様子は見る影もない。

 力が戻るとここまで変わるんですね…

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