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【二章】ゴールド・ノジャーの祝福編
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しおりを挟むゴールド・ノジャーが公爵家嫡男との決闘騒ぎを起こしてからというもの、侯爵家当主アルバン・オーラは常に頭を抱えていた。
当然大貴族として頭を抱えるような問題は常日頃から存在するが、いまもっとも重要なことは彼の力ではどうすることもできない超越的魔族、ゴールド・ノジャーによって引き起こされた問題であることだろう。
まず一つ目に、彼の息子である次男エレン・オーラがあまりにこの魔族に近づき過ぎたこと。
これの何がいけないのかは語るまでもない。
要注意人物へと不用意に近づけば、どんなトラブルを巻き起こすかわかったものではないからだ。
それに最近は、次男エレンがどうもゴールド・ノジャーに絆されているようにも見える。
先日もノジャー先生は我々の味方なのかもしれませんと宣い、彼の頭を大いに悩ませた。
あまりの事態に、もう少しで怒りから手が出そうになったほどである。
こうして次男エレンを懐柔することまでが全てかの魔族の策略や謀略だとしたらと考えると、夜もまともに眠れない。
二つ目に、ゴールド・ノジャーがこの侯爵家を依り代にしていることが、おそらく政敵である貴族派の筆頭、水氷のクライベル公爵家にバレたこと。
幸いクライベル公爵家は王族派でないので、侯爵家が魔族と手を組んでいると叫んだところで国王はまともに取り合いはしないだろう。
オーラ侯爵家として、それくらいの信頼はいままでの歴史の中で培ってきたつもりだ。
だが油断できない事態であることには変わりがない。
いまはどうにか誤魔化せているが、いつ証拠を掴まれるか分かったものではないからである。
この辺は次男エレンがのらりくらりと躱し続けてくれているので、手の足りないアルバン・オーラとしてはかなり助かっているところだ。
最後に、王族派の筆頭公爵家であるゼクス・フォースとの直接的な決闘騒ぎを起こしてしまったこと。
アルバン・オーラとしても、これは完全に予想外の事態であった。
まさかまさか、本来同じ派閥であるフォース公爵家の嫡男ゼクス・フォースと事を構えることになるとは、学院での出来事をエレンから聞くまで彼は想像すらしていなかったのだ。
確かにことの成り行きを聞いてみれば完全に相手に非があり、長男マルクスは何も悪くない。
いや、むしろ決闘を相手側の降参と言う形で中断させたという点においては、大いに評価すべき点である。
これがもし実力でねじ伏せるようなことになっていれば、同じ王族派の大貴族として仲違いすることになっていただろう。
たとえ侯爵家という家柄によって守られているとしても、フォース公爵家の看板に傷をつけられたと思い込んだ相手側の感情が、そんな単純な理由で落ち着くはずもないからだ。
そのことを次男エレンに伝え、問いただすと……。
「いえいえ、父上。あれはむしろ仲違いを解消するための余興ですよ。最終的には和解して、いまはすっかり良いライバル関係ですよ?」
という、妙に自信満々な前置きから始まり。
「そもそも、フォース公爵家とて裏でクライベル公爵家が暗躍していることは、当然のように掴んでいたはず」
などと説明し、おや……、と思ったところで。
「それを証拠足らずで歯噛みし静観するしかない状況から、我々が直接的に決闘騒ぎを起こしクライベル公爵家の予定を狂わせたのです。むしろフォース公爵家はありがたく思っているでしょうね」
そうしてお互いの思惑を読み解き。
状況証拠のようなものを並べ立てた上で、最終的に……。
「というより、今回の騒ぎで損をしたのはクライベル公爵家なのでは」
……という。
そういう理屈なのであった。
……確かに。
そもそも政治的感覚に優れた次男エレンが、なりふり構わずにこんな事態を引き起こすとは思わなかったが、そういうことかと。
アルバン・オーラは息子の天才っぷりに、目からうろこが落ちるような気持ちであったという。
ただし、だからといってこちらの勝利によって、同じ王族派として手を組んでいるフォース公爵家の顔に泥を塗ったのは事実だ。
もう彼の胃はキリキリと痛み決壊寸前で、気が気じゃないことだろう。
以上この三つの問題点全てがアルバン侯爵の頭を悩ませ、いまにも卒倒しそうなほど彼の精神状態を苛んでいたのであった。
いくら次男エレンの理屈が正しいからといっても、もはやこのままにしては置けない。
オーラ侯爵家当主としてではなく、父アルバンとして、息子を守るためにもゴールド・ノジャーなる超越的魔族からは引きはがさなければならないと、彼はそう思っていた。
なにせこれらの問題は、結局はこの魔族が絡んだせいで起きた問題なのだ。
そんな魔族に絆されかけている次男エレンの目を覚まさせてやらねば、この先に息子の未来など無い。
そんな思いから、アルバン・オーラは一つの決断を下すことになる。
「我が息子エレンを……。エレン・オーラを……、少しの間だけでいい、反魔族派の勢いが強い聖国に預けるしかないだろうな……」
この決断が果たして正解なのか。
それはアルバン本人にも分からない。
ただ反魔族派の勢いが強い聖国へと一時的に預ければ、そうやすやすとゴールド・ノジャーも手出しなどできないはずだと考えているようだ。
幸い聖国は魔法王国と国交もあり、向こうには北の侵略者である魔族を駆逐するために共に戦った、教会最高戦力の十二使徒第三席、蒼天のミルファという心強い知人もいる。
「あの女傑であれば、そうそう魔族に後れを取ることもあるまい。……まあ、エレンは反対するだろうが、ここは領主権限を使わせてもらう」
一度決心すればあとは早い。
かつては戦術級魔法使いなどと呼ばれ修羅場を潜り抜けてきただけあって、さすがにいざという時に尻込みはしない性格のようだ。
そもそも十二使徒とは対人間よりも対魔族に特化した集団。
オーラ侯爵がこれほどの信頼を聖国に置くのにも、それなりの理由があったのだ。
しかし、こうして決まったエレン・オーラの処遇が今後、父アルバンの心を余計に苛ませることになるとは、かの超越的魔族すらも知らないことだろう。
というより。
あのなんちゃって魔族、もとい不老の魔女ゴールド・ノジャーは、あんまりアルバン・オーラに興味がないのか、それほど詳しくこの侯爵のことを調べていないようである。
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