49 / 52
【二章】ゴールド・ノジャーの祝福編
047
しおりを挟む「じっとするのよね~」
パタパタ。
パタパタパタ。
ふわり、ふわり、ふわり。
「あなたはいまから、わたちのパートナーとして相応しい進化を遂げるのよ?」
ぷるぷる……。
ぷるりんっ。
無人の大森林に潜む不老の魔女、ゴールド・ノジャーのアジト。
もとい昨今増築の激しいそこそこ立派なログハウスにて。
なにやら怪しげな実験器具と教本を片手に、相棒の羽スライムを実験台の上にのせてほほ笑むツーピーの姿があった。
羽スライムとしてもこれから何が己に起こるのかを理解しているようで、そのつやつやなボディを震わせてご主人様である銀髪幼女のご機嫌を取ることに必死。
どうやらなるべく完成度の高い状態で実験を終えて、さらなるパワーアップを目指してほしいと願っているらしい。
……というわけでね、はい、どうも。
アカシックレコードの知識と能力によって、ホムンクルス改造し放題なのじゃロリこと、ゴールド・ノジャーです。
現在、ツーピー専用のものとして俺が特別に用意した教本と実験器具を利用し、羽スライムの新たなパワーアップを目指して更なるチャレンジを実行中でございます。
そもそもとして、この状況を説明するにあたり。
あれほど気に入っていた羽スライム相手に、なぜこんなことになったのかという部分から説明しなくてはならないだろう。
ことの起こりは数日前。
勇者ノアとのガチンコ路上バトルに圧倒的な勝利をもたらした、ツーピーあんど羽スライムコンビに弱点が露呈してしまったのが、このホムンクルスコンビに絶大なショックを与えたらしい。
スラスラトレインとか路上パフォーマンスに弱点とはそもそもなんぞやという話ではあるが、まあ、それはさておき。
どうやらツーピー本人が完全なパフォーマンスを終えたあと、その動きに必死でついていっていた羽スライムが突如として倒れてしまったのである。
原因はホムンクルスとしての性能不足。
もっと端的にいえば、羽スライムの体力不足が原因であったのだ。
もともとただのペットとして開発されたホムンクルスであるため、前衛型のツーピーに動きを合わせるだけでも、限界を超えて体力を酷使していたらしいことが発覚した。
故にツーピーと羽スライムはパフォーマーとしての限界を感じ、この課題をどうにかしようと俺に泣きついてきたというのが今回の全容。
まったく、朝起きたら二人でベソをかきわんわん泣いてたものだから、本当に何事かと思ったよ。
いっちゃあなんだが、こんなくだらない理由で困っていて本当に良かった。
世の中、平和が一番だからね。
「うむうむ。存分に羽スライムを改造するのじゃぞツーピー。失敗しそうになったら、儂がちょこっと手助けしてやるゆえ」
「のじゃロリには期待しているのよね~。でも、わたちの発想力についてこれるかしら?」
いや、そこはほどほどにしてくれ。
精神や思考はともかくとして、肉体面の設計では基本的に成長しない人造生物がホムンクルスだ。
そういう事情があるからこそ、ツーピーも肉体が摩耗しない限りは俺と同じ不老になるわけだが、だからこそ仕方なく羽スライムの体力増強計画に力を貸しているのだ。
ホムンクルスに対して修行とかまったく効果がないから、パワーアップのためにはこうするしかないのである。
幸い、羽スライムからはボディ改造の許可を得ているから遠慮することはないし、俺がいる限り失敗もない。
故にある程度はツーピーに任せても問題ないという判断なのだが、だからといって発想力の限界を試すみたいな話になると、どこかで失敗を生むかもしれないから止めてほしいところだ。
このツーピー・ノジャーの精神性には、いったいなにをしでかすか分からない未知の怖さがあるからね。
ともかくそんな事情もあり。
あーでもない、こーでもないと。
時にその辺にころがってる薬草を混ぜたり、毒草を混ぜたり、雑草を混ぜたりと。
……って、テキトーな植物しか混ぜていないような気もするが、努力に努力を重ねたこともあり。
ついにツーピー主導による最高傑作。
羽スライム・バージョンツーが出来上がったのであった。
チャームポイントは頭に触覚のような若葉が根付いていることだろうか。
まあ、見た目はそんなに変わっていない。
だが驚くことに、以前の羽スライムとは性能の差が段違いだったりする。
具体的に何が違うのかというと、主に魔法面。
なんとツーピーが混ぜた薬草が思いのほか良い方向に機能して、簡易的な回復薬を運用できる羽スライムになっていたのだ。
完全にテキトーに混ぜていたはずだが、そこはほら、俺がいい感じに調整してあげた結果でもあるんだよ。
そもそもホムンクルスの体力を増強するのに、いくら雑草を練り込んだところでそう簡単にパワーアップなどできるはずもない。
俺が本気で一から作り直すなら可能かもしれないが、それではツーピーは納得しないだろう。
であれば、ということで。
新たなる境地として、自らの肉体の一部になった薬草の成分を抽出し、自動でポーションを製造できるようにしてやればいいのではないかという、そういう発想に至ったわけだ。
もちろん簡易的なポーション生成しかできないので、傷や体力に対して気持ち楽になった程度の効果しかない。
だがこの機能が実現したおかげで、以前のようにスラスラトレインでへばったくらいであれば、即座に復帰できる継続戦闘能力を身に着けたのであった。
「うむ。完璧じゃな」
「ふぅ~。いまできる限りのことを試した、わたちの最高傑作なのよ。これでしばらく、バージョンスリーにはしなくて済みそうなのよね~」
…………ふぁっ?
いや、いまバージョンスリーといったのかこやつは。
まさかまだ満足しておらず、何かきっかけがあればこの先の展開を見据えて行動に移すつもりでいるのかっ!?
お、恐ろしい幼女型ホムンクルスだよ君は。
完全にブレーキのイカレた、留まるところを知らない暴走機関車だ。
いや、それがツーピーの良いところでもあるんだけどね。
ただ次の機会は、もうちょっと先にしてくれると助かる。
無茶な配合をするツーピーの補助をするのは、こうみえて結構疲れるのだ。
また、そんな感じで今回の羽スライム強化実験も色々と成功に収まり、数日後。
パワーアップした仲間を誰かに見せつけたいツーピーが魔法学院に突撃しては、通りすがりの生徒にスライム自慢をして、謎の幼女が紛れ込んでいると通報を受けた警備員に放り出され。
また次の日には懲りずに変装したツーピーが、絶賛落ち込み中のゼクス・フォースに突撃して「どうかしら、わたちのスライムは?」などと感想を求めたりしていた。
その時のゼクスの反応はそれはもう見ものだったね。
この妙に距離感の近い謎の幼女をどう扱っていいかわからず、何をどう反応すれば幼女が納得するんだといった様子で、取り巻きも含めて大慌てでかなり滑稽だったよ。
たぶん貴族の自分を敬う知能の無さそうな、なんでもありの幼女と接する経験とかなかったんだろう。
はたから見ていて面白かったので、当然そのまま木陰で爆笑させてもらったよ。
あいつも公爵家だのプライドだのと肩肘はらずに、素直になればいいのにと思う今日この頃である。
だけどまあ、今回はこのクソガキの意外な一面と、自慢気なツーピーの笑顔を見れたので良しとしよう。
そんなたわいもない、ある意味で嵐の前の静けさのような数日間であったとさ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる