あっぱれ!天駕爛漫(仮)

藤堂フミヨシ

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2章

ここでやらなきゃ女が廃る ④

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 チリン、とドアベルの音が聞こえたかと思うと、そこは人気のない場所ではなく大勢の人で賑わう大通り。 天駕はすぐに、自分が元々歩いていた道だったことに気が付いた。
「……あれ?」
《おー、なんやあのジジイ。性格に似合わずエライ明るいところに店出しててんなぁ。こんな人通り多いくせにお客全然おらんかったとか、どんだけ人気なかったんや!》
 一人で笑い声を上げる世間知らずの武器は放っておいて、天駕は慌てて振り返る。背後には古めかしいドアも細い路地も見当たらず、真っ平らな壁が広がるだけ。壁に手を当てて確認するが、固くてとても人が通り抜けれそうにはない。
「……来るべくして来た、か」
 豪快に笑うリアムズの顔を思い出しながら、その言葉を噛み締める天駕。
 きっとあの店はそういう場所だったのだろう。魔法で溢れているこの世界なら、そういった場所があってもおかしくはない。
《いやーしかし、ホンマに色んな奴がおるなぁ! あそこの奴はタコみたいやし、あっちはどう見てもロボットやんけ。おっ、向こうの方からは鬼みたいな怖い顔の女が来るでぇ天駕! 目ぇつけられんように気ぃつけろよ~」
 おのぼりさん状態のツヴァイツェンが大声ではしゃぐ。今まで外に出たことがなかったらしいのでこのはしゃぎようも分かるが、少しは空気を読んでもらいたい。
「ちょっとツヴァイツェン、調子乗りすぎ。少しは大人しくしててよ」
 せっかくの主人公っぽい空気をぶち壊され、天駕は少し不機嫌そうに言う。
《しゃあないやろが。初めてのシャバやで? はしゃぐなっていうのが無理な話やで!》
「それは分かるけど、だからって周りの人に聞こえたらどうすんのよ。ただでさえ変な奴に目を付けられてるんだから、これ以上私に厄介ごとを増やさせないでよね」
「本当にそうですよね」
「でしょう? まぁ、だいたい私が悪いんだけ、ど……ね?」
 天駕の体が固まり、冷汗がどっと出てくる。
 背後からの聞き覚えのある声、そしてツヴァイツェンの言っていた「怖い顔の女」。
 それらから導き出される答えに、天駕は逃げるように壁を見つめる。
「どこを見ているんですか? 私はこっちですよ? ん?」
 が、がっしりと頭を掴まれ、強制的に彼女の方へと顔が向く。
 そこには案の定、怒り心頭のアレスタが鬼神の如き笑顔でこちらを見据えていた。
「ご、ごめんなさい」
「何に対しての謝罪の言葉ですか? 勝手にどこかへ行ったことですか? 勝手に武器精と契約したことですか? それともまた私を不安にさせたことですかぁ?」
「ぜ、全部です、はい、ごめんなさい……」
 選択肢を間違えたら一瞬で首を持っていかれそうな気迫を出すアレスタ。
 言い訳することも出来ず、天駕は素直に謝る。今の彼女にそんなことを言えば火に油、火薬庫に爆弾である。もし頭を掴まれていなければ土下座も厭わなかっただろう。
 そんな天駕の誠意、もしくは恐怖が伝わったのだろうか。アレスタはため息を吐き、天駕をあっさりと解放した。
「それで、そちらの武器精は?」
 値踏みするようにツヴァイツェンを一瞥する。
「あ、こ、こいつはツヴァイツェンって言って……」
《鬼かと思ったら鬼神やったか……天駕、お前いったい何者やねん》
 ビキィっ!
 ゼロフレームでアレスタが拳を打ち込み、天駕の耳すれすれの壁に亀裂が走る。
《キっ、鬼神って羅刹とも言うて羅刹の女性ってごっつベッピンさんなんや! 姐さんの美しさに思わず口が滑って出てもうたんですわ! それ以外の他意はないですはい!》
 口を滑らせたツヴァイツェンが慌てて弁明し、天駕も震えながらそれに同調して頷く。
「あらやだベッピンさんだなんて……お世辞が上手い武器精さんですねぇ」
《ワ、ワイは正直なのが売りでして! お世辞だなんてそんなとても! いよっ、この世に舞い降りたヴィーナス! 眼鏡がステキ! スーツ姿もセクシー!》
「そんなに褒められるとさすがに照れます……♪」
 ポッと頬を赤らめ、アレスタが拳を引く。どうやら褒められることへの耐性があまりないらしい。仕事柄叱られてばかりだったのだろうか。
「今回はツヴァイツェンさんに免じて許してあげます。良い武器精と契約出来てよかったですね、天駕さん」
「は、はい……」
 口が裂けても、能力が何も無いとは言えなかった。
 いや、もしかしたらこのお喋りこそが能力だったり……するわけないか。
「アレスタさん、探してた新米っちゅうのは見つかったのか?」
 そんな声と共に、二人に影が射す。
 見ればアレスタの背後に優に二メートルを越す大男が立っていた。一昔前の学生服姿で前を開けており、腰には木刀、足は下駄で、極めつけに口には茎の長い葉っぱを咥えていた。その姿はまさしく。
「えぇ、無事に見つかりましたよ番長さん。一緒に探してくれてありがとうございます」
「いやいや、先に見つけたのはそっちでしょうが。力になれずスマンかったですわ」
 申し訳なさそうに片手で詫びる番長。この謝り方が似合う人間はそうそういないだろう。
 そんな番長を見上げていると、視線に気付いたのか天駕の方に顔を向けた。
「ワシはツガイ・オサム、皆からは番長っちゅうあだ名で呼ばれとる。お前さんも気軽に番長と呼んでくれ。こっちは相棒のニールじゃ」
 番長は背負っていた巨大な金属の塊、ガトリング銃を降ろして天駕に見せる。
 それは持ち手こそ付いてはいるものの、どう見ても人が背負って動けるようなシロモノではない。映画やゲームのように改造されているわけでもなさそうで、バッテリーパックは見当たらず、どっしりと重厚感溢れるボディとリング状に配置された六つの無骨な銃身だけが存在感を放っている。
 そんな物騒な物の持ち手近く、群青色をした四角の宝石の中で光が揺らめく。
《……よろしく頼むぞ、若いの》
「よ、よろしくお願いします」
 歴戦の傭兵感漂う渋い声に思わず緊張する天駕。
 どうせなら自分もああいう感じの方が良かったなぁ、とさっそく気持ちが揺らぐ。
《ワイはツヴァイツェンや! そんでこっちは天駕や、よろしゅうな番長!》
 天駕がお辞儀をしている間に、ツヴァイツェンがさっさと自己紹介を済ます。
「おう、よろしくな」
 ニッと笑う番長だが、天駕は不機嫌そうに背後を睨みつける。
「ちょっと、そこは私が紹介する流れじゃない!?」
《喋りは早いもん勝ちやで》
「わけ分かんないよ!」
 ムキーッと怒りをあらわにする天駕。対してツヴァイツェンは素知らぬ顔。いや、顔はないが。とにかくそんな空気を出していた。
 番長はますます笑みを深め、アレスタの方に向き直る。
「ほいでアレスタさん、見たところワシと違って剣で戦うタイプじゃが構わんので?」
「はい、加護さえあれば基本を教えてもらうだけでも大丈夫なはずですから。番長さんもそうでしたでしょう?」
「まぁそうなんじゃが。ワシとは体が違うけぇ、上手く教えれんかもしらん」
 ポリポリと学生帽越しに頭を掻く番長。
《ん? なんの話をしとるんや?》
「お前さんたちの特訓の話じゃ。なんでも来て早々に強豪に勝負を挑んで、しかも三日後に試合とは、大した自信の持ち主じゃのう!」
 自信ではなく成り行きとノリで決まっただけなのだが、目の前で口を大きく開けて笑う番長に説明したところで聞いてはくれないだろう。
 誤魔化すように愛想笑いを浮かべていると、ツヴァイツェンが大声を上げた。
《み、三日後に試合!? しかも強いやて!? 聞いてないでそんなことは天駕ぁ!》
「いやー、言うタイミングがなくてさ……ごめんね?」
《そんな軽い「ごめんね☆」で許すわけないやろがぁ! あぁ……こんなことならもっとマシな奴と契約したかったわ……》
「今まで何度も契約拒否されてたやつが何言ってんの」
《それとこれとは話が別や! 返品や返品、クーリングオフや!》
 ギャーギャー喚き散らすツヴァイツェン。
 なぜ彼がその制度を知っているのかはともかく。
「いいかげんにしなさいよ! そりゃあ言うのを忘れてた私も悪いけど、そこまで言うことないじゃない! 誰のおかげでこうやって外の世界に出れてると思ってるの!?」
《ワイの運の良さやろ》
「ふざけんなポンコツ!」
《じゃかしいわこのペチャパイ!》
「なんだとぉ!」
《やんのか!》
 ぐぎぎぎ……。
「はいはい、そこまでです」
 剣を持って睨み付けるという、事情を知らない人間が見たら頭を疑われそうな一人と一振りをぐいっと引き離し、アレスタが番長に視線を送る。その視線はさながら吠える飼い犬をブリーダーに預ける飼い主のようであった。
「これぐらい元気な方が、シゴキがいがあるっちゅうもんですよ」
《じゃじゃ馬ほど名馬が多いモノだ……》
 なんとも頼もしいセリフを言ってくれるコンビである。
 その頼もしさに、アレスタの目元から涙が一筋こぼれた。
 番長はいまだ睨みあう天駕とツヴァイツェンをひょいっと肩に担ぎ上げる。
「ちょ、ちょっと!」
「楽しい喧嘩はそこまでじゃ。これから三日間、ここでの戦い方をみっちり仕込んでやるからのぅ。少しでも元気は残しちょった方がええぞ」
 せめてもの反抗と番長の肩を叩くが、当の本人は意に介することもなく悠然と歩を進めていく。前を向けば、重圧から解放されたアレスタが嬉しそうにこちらへ手を振っていた。
《はっはっー! ざまぁないわ! 存分にシゴかれて悲鳴を上げ》
《無論、貴様にも武器精のなんたるかを教育してやる。覚悟しておけよ》
《……》
 騒ぐ天駕と黙り込むツヴァイツェンを肩に乗せ、番長は大通りを闊歩していくのだった。
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