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無愛想な職人は腕が良い?

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 魔王城の鍛冶場には、かつて伝説の名工と言われたドワーフがいた。作る剣は岩をも切り裂き、作る防具はドラゴンの爪でさえ傷がつかない。盾の装飾は王室に飾られる程、緻密で繊細なものだった。
 時は流れ、現在の魔王は争いを好まず人間とも和解の道を模索している。しかし人間側は魔物は討伐対象である。魔王は防衛のみ戦闘を許可し、自ら戦闘を仕掛けないよう魔物達へ命令した。名工は人間にも武具を作っていたが、人間種があまりにも他種族を嫌うため、魔王の考え方に賛同し、今では魔王城の中で日々己の技術を磨いている。

 そんな鍛冶場の入り口に2人の人影。

「お爺!今、話できる~?」

 ドワーフは作業を止め、こちらを見て頷いた。

「お爺、この前の『召喚の儀』の時、来なかったでしょ?彼がね召喚されたの。」

 お爺と呼ばれるドワーフが王都で姫が言っていたガンバスなのだろう。僕はガンバスに自己紹介をしたが、彼は頷くだけだった。

「それでね!創士ったら戦闘なんて出来ないとか言うもんだから、お父様も扱いに困っちゃって!それでね、ワタシが引き取ったの。ちょうどやりたい事があったから」

 ガンバスは表情を変えず胸の前で腕を組み、相槌を打ちながら話を聞いていた。よく喋る姫と喋らない爺。一見アンバランスだが、それでも仲が良さそうに見えるのは不思議だ。

「お爺あのね、掃除道具を作って欲しいの。王都のはショボかったらしいのよ。だからお爺印のすんごいの作っちゃって!」
「……材料さえあれば作れる」
「創士、材料って何がいるの?」

 正直、道具が何で作られているとか現世では気にしてなかった。こんな事なら調べておくべきだったなぁ。

「具体的に何を使ってたとか分からないんですよね。箒だとコシがあってしなやかな植物だったり動物の毛とかなのかな?」
「んー確かにアナタの世界とこちらの世界じゃ、生態系が違うものね」

 僕と姫が困った顔で悩んでいるとガンバスが静かに喋った。

「デッドアイ王女……サスタスを呼べ」
「それもそうね」

 そう言うと彼女は顔の前で人差し指を立て、クルクルと回し始めた。すると指の先から小さな羽の生えたモンスターが出てきた。「サスタスを呼んできて」そう小さく呟くとモンスターは、ものすごい速さで部屋の外へ飛んで行った。

 5分ほどすると1人の男がやってきた。黒い翼の生えているその男は、僕が異世界に召喚された時に魔王の隣にいた男だった。

「王女から呼び出されたと思えば…、珍しい組み合わせですね。何事ですか?」

 ガンバスが僕を見ると「サスタスに言え」と言わんばかりに顎先で合図する。何を言おうか迷っていると、すぐに彼女が口を開いた。

「サスタスはね、なんでも知ってるの!アナタの分からない事でも答えてくれると思うわ」
「なるほど…。サスタスさん、実は箒を王都に見に行ったのですが、目が荒く硬い素材で作られていました。そうではなくて、目を細かくしてコシのある柔らかい素材で箒を作りたいのです」

 自分でもこんな説明でいいのか自信はない。しかしこの男、少し考え込んですぐに答えだした。

「ふむ…なるほど。たしか東の砂漠のドワーフ村でブラックホーンの毛を使って砂埃を払う道具を使っていると聞いた事があります。それがコシのある柔らかい素材とやらに近いのでは?」

 僕が彼に驚嘆していると、姫は満面の笑みで喜びガンバスにお願いをし始めた。

「お爺!ドワーフ村ですって!ちょっと行ってきて材料買ってきて!お金は…ハイ!これ」

 強引にお金を握らせ、ガンバスにお使いをさせる姫。お爺はやれやれという顔で手袋やエプロンを外し、外行きの格好でミシオンの元へ向かった。ガンバスを見送るとサスタスが創士に話しかけた。

「沖田様、遅れましたが先程の非礼お詫び申し上げる」

 何のことかと首を傾げているとサスタスが続ける。

「こちらから召喚しておきながら、防衛には使えぬと言い勝手に落胆する態度をとってしまった魔王様をお許し頂きたい」
「いえ、大丈夫です。本当のところ怒る余裕がない、というのが本音です。まだ気持ちの整理…というか現実感が湧いてないので」
「いきなり異世界に召喚され、おてんば王女に振り回されるなんて!……お察しします」

 なんて言いながらサスタスは笑いを堪えている。それに気付いたデッドアイはニヤリとした後、神妙な面持ちで話し出した。

「サスタス…思い出して。創士がどれだけ掃除屋だって言っても勘違いし続けるお父様を…」
「ブフッ!」

 この男、端正な顔立ちに知性を持ち合わせた完璧超人だと思ったらなかなかのゲラである。

(そういえばあの時も笑い堪えてたな)

 ひとしきり笑い終えた後、真面目な顔に戻ったサスタスが創士にアドバイスを送った。

「ガンバスが戻ってくる前に、完成図を描いてあげてはいかがですか?彼ならば完成図から作り出す事は造作もないと思いますよ」
「そうなんですか!スゴイ…」
「元の世界では他にどんな道具を使ってましたか?」
「そうですね…」

 創士は自動洗浄機やポリッシャー、リンサーやウェットバキューム等々、掃除業界で使われている機械をサスタスに概要だけ伝えた。

「なるほど、面白いですね。その道具の完成図も描いてもらえますか?それを見ながらもう一度話し合いましょう。必要な材料が分かるかもしれません」

 (とてもありがたい。ありがたいのだが…どうにも引っかかるんだよなぁ)

 創士は疑っていた。サスタスほどの頭の良い男が、召喚され本来の目的には使えないと判断された僕に、何故これほど協力的なのか。何か裏があるのではないかと。

「サスタスさん。どうしてこんなにも協力的なんですか?」

 サスタスは、当然の質問ですねと言わんばかりに微笑んだ。
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