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お掃除はじめましょ!

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 廊下や壁にはスライムの通った跡があちこちに付いている。壁は石造りで出来ており、廊下は…なんだこれ?
大理石みたいな見た目だけど大理石とは違う。これもまた異世界特有の材料なのだろう。腕輪を付け自洗機を押して廊下を進む。元々が汚いせいか、水だけでも差がハッキリと分かるくらいキレイになる。だが、5メートル程進んだところで気付く。

(これ先に壁を掃除したほうがいいな)

 掃除の基本は『上から』である。天井は下から見た感じだと、さほど汚れていないので壁からでいいだろう。壁は高圧洗浄機で水を撃ち汚れを落とす。当然水は下に流れるので、そちらは自洗機で回収しながら廊下も洗う。今回はそんな感じで進めよう。一度鍛冶場に戻り高圧洗浄機を取りに行く。皆さんご存知だとは思うが、高圧洗浄機とはCMでよくやってる『やたら汚い車』や『わざと泥塗った?壁』等をキレイにするケ◯ヒャー等でお馴染みのアレだ。
 しかしガンバスの作ったモノは一味違う。本来であれば水道からホースを繋ぎ、本体から持ち手まで高圧ホースで繋げなければならないが、流石はガンバス印の特別製。持ち手のガンの部分だけで完結している。
 説明を聞いた限りだと、魔力を通しながら持ち手のトリガーを引くと水が出る。これはスプラッシュウォーターという魔法を中で発生させているらしい。なので給水は要らない、との事だ。まぁこちらとしては使えれば問題ない。

「創士、それは何?武器みたいだけど」
「これは水を撃ち出す道具で、水の勢いで汚れを落とします」

 壁を撃ちながら説明をする。

「へぇ~、名前は?」
「高圧洗浄機…ですかね」
「コ、コウア…?長いわね。ちょっと貸して」

 そう言ってデッドアイはガンを握り壁に向けると試し打ちを始めた。しかし明らかに創士の時と威力が違う。

「ちょ、ストップストップ!」
「え!?何?」

 水を止める。よく見ると壁には穴が空いている。なぜ同じ道具でこんなにも違うのか。

「なにこれ!やっぱり武器じゃない!」
「えー…。僕の時は普通だったのに?」

 もう一度、創士が試す。丁度良い水圧で汚れを落としていく。

「もしかして、魔力を抑えたりとかって…出来ます?」
「あ~、そういう事ね!わかったわ」

 創士の手からガンを奪い取ると、もう一度壁に試し撃ちをする。今度は創士と同じくらいの水圧だ。

「スゴイスゴイ!見て!水を撃った所と撃ってない所でこんなに差が!」

 通販番組の女性よりもハイテンションで喜ぶデッドアイ王女。ハッと気付いたような顔でこちらに振り返った。

「これって壁全部やるのよね!?」
「そうですね、大変ですが」
「ちょっと待ってて!良いものがあるの!」

 そう言い残し、F1のような速さで駆けていった。壁を掃除しながら待っているとデッドアイが戻ってきた。

「ジャジャーン!これを見なさい!」
「なんですか?コレは。石?」
「これは飛翔石!こーやって足に装備させて…ほら!」

 ふわっと飛び上がるアイ王女。

「コレで高い所も出来るわ!」

 廊下の天井は高く、壁の上の方をどのようにやろうかと迷っていたところだった。

「そんな便利なものがあるんですね。ソレ、貸していただけるんですか?」
「ダメよ。魔力制御が難しいし、魔力切れになったらアナタ落ちちゃうじゃない」
「え、そしたら僕どうやって掃除しましょう?」
「だーかーらー、この…コウ…コウア。めんどくさいわね!ウォーターガンね!威力似てるから!このウォーターガンは私がやるわ!だからあなたは下をやりなさい!」

 奇しくも元の世界でも通じる名前となった高圧洗浄機。デッドアイはこのウォーターガンをいたくお気に召した様だ。確かに汚れが落ちていく様はストレス発散にもなる。そういうゲームも作られるくらいだ。ある一定の需要があるのだろう。

 こうして王女が壁を洗い、僕が床を洗う日々が始まるのであった。


―――魔王城 玉座―――

 魔王エルキオは、サスタスに尋ねた。

「アイは何をしている。あの人間を連れて行ったっきり姿を見せん」
「はい、デッドアイ王女は沖田殿と魔王城の清掃計画を立てております」
「…どういう事だ?」
「私にもよく分かりませんが、ガンバス殿に異世界の掃除道具を再現してもらっている様ですよ」

 魔王は眉をひそめ、大きく息を吐いた。

「あの人間…もしや…」

 魔王から怒りにも似たオーラが溢れる。

「アイを独り占めする気か?」

 セスタスは日夜、この親バカ発言を笑わない様に堪えるので必死だ。
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