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第二章 リーベン島編
基礎の基礎 ユーゴの場合
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父さんの過去の話を聞いたことは無い。この日記で里での生活は少し知れた。世界の事も少しだが分かった。知らない事だらけだ、この島を出たら三人で世界を旅しよう。その為にも、今とは比較にならないほど強くならなければいけない。
明日からはその為の修練だ。ゆっくり休んで明日に備えよう。
父さんの日記を閉じ、元あった本棚にしまった。畳に直に敷いた寝具に横たわり、イグサの香りを楽しみながら眠りについた。
◇◇◇
夏の朝は不快だ。
念入りに顔を洗い、汗を拭う。寝汗を吸ったシャツを着替え、ヤンさんに研ぎ直してもらったばかりの春雪を腰に差し、里長の屋敷に向かう。
敷地は広い。木々の間を縫うように道が整備されている。夏の陽射しを緑が和らげ、時折髪を揺らす風が心地よい。
屋敷の入口で靴を脱ぎ、廊下を歩く。着物を着た女性がせわしく働いている。女中と呼ばれていた。家事などを任されているようだ。
部屋の再奥で、里長が膳の前に座っている、一人だ。
「おぉ、早いな。座って食うがよい」
「はい、頂きます」
里長の隣の膳の前に胡座をかき、慣れない箸で食を進める。お椀の味噌汁が今日も美味い。
生の卵だ。どうやって食うんだ?
里長を見ると、醤油をかけて混ぜた生卵を白飯にかけて食べている。
オレもやってみよう。
「ん、美味い……」
「卵かけ飯、美味かろう。儂の好物だ」
「はい、卵を生で食べるという文化が外には無いですね。これは美味しい」
「それは勿体ない。こんなに美味いものを」
そう言ってカッカと笑った。こうして喋ってると普通の爺さんだ。なんだか安心する。
「いつも両脇にいらっしゃる方々はどなたですか?」
「あやつらは息子だ。三男のカイエン、四男のコウエンだ。お主の父親、シュエンは五男である。未子だ」
「その上のご兄弟は?」
「長男と次男、長女を先の戦で亡くした」
「そうでしたか……メイファさんと下の妹さんで八人ですね」
「その通りだ。なぜ知っておる」
「父さんの部屋で日記を見ました」
「あやつ、その様な物を残しておったか。息子のお主には貴重な物であるな。好きに扱うがよい」
食事のたびに色々な話が出来そうだ。里長と喋るのは楽しい。一緒に酒を飲んでみたいもんだ。
「よし、少ししたら準備して庭に来るがよい」
「分かりました」
準備は既にできている。お茶を飲みながら腹を落ち着かせ、庭に出る。いや……庭なんて言う広さじゃない。昨日の修練場と変わらないんじゃないかと思う程だ。少し身体を解していると、里長も外に出てきた。
「よし、始めるか」
「里長、オレ強くなりたいです。よろしくお願いします!」
「会った時にも言うたが、お主の潜在能力は凄まじい。後はその使い方だ」
二人では勿体ない程に広い庭の中心に立ち、刀を抜く。研ぎ直された春雪の刀身は、陽光を受けて鋭く光った。
「良し、先ずは刀を正眼に構えてみろ」
「正眼?」
「中段の構えだ」
刀を両手に握り、正面に構えた。
「お主……奴に何も習っておらぬのだな……一体何をしておったのだ、シュエンの奴は……」
「刀を受け取った次の日には居なくなってしまったので……」
里長は呆れ顔で深く溜息をついてから、顔を上げた。
「先ずは刀の柄の握り方から指南する必要があるの……」
里長は俺の横に立ち、説明を始めた。
「左手で柄の末端を少し残して握り、右手は鍔に人差し指が少し付くような位置で握る。これが基本だ。上から見てみよ、両手の親指と人差指の間が、刀身の延長になるように合わせる。小指と薬指あたりで握り込み、人差指に向けて力を抜く。右脚を前に出し、自然な位置に構えてみよ」
ツカ? ツバ? 聞き慣れない言葉に質問をしながら、言われた通りに刀を握り直すと、手にしっくりと馴染む。
「振ってみよ。どうだ?」
里長に言われた通りに刀を振ってみる。
「全然違います。握り方一つでここまで違うとは……」
「何事もそうだが、基礎が一番大事だ。疎かにせぬことだ」
「心得ました」
思えば、剣の持ち方すらまともに習ったことはない。父さんは両手剣を使わない、当然の事かもしれない。
「よし、次だ。正眼の構えのまま練気術だ。昨日の様に体中の気力を練り上げ、両手に集中させてみよ」
集中だ。昨日の様に、両手に練気を集める。
両手がじんわりと熱くなるのを感じる。
「よし、それを刀に薄く纏ってみよ」
気力を纏う要領でいいのかな……?
薄く薄く、基本に忠実にゆっくりと練気を刀身に注ぎ込む。が、刀身に留まることなく、刀の切っ先から「ヒュンッ」と練気が抜けて出ていった。
「最初はそうなるであろうの。練気を体から出すのが難しい。皆そうだ、気にせん事だ」
「普通に気力を纏うのとは扱いが違うんですね」
「うむ、コツは練気を刀身に練り込むように注ぎ、切っ先から鍔にかけて薄く纏わせるよう心掛けよ。刀を己の体の一部のように感じて、練気を刀と一体にするイメージだ。先ずは抜けてしまうまでの時間を長く保つ事だ」
ひたすら正眼の構えのまま、体内で練り込んだ練気を両手に集め、放出し続けた。難易度が高く、全くコツを掴むことが出来ない。
「助言するとすれば……練気を学ぶ前に、刀に気力を纏う時どのようにしておった?」
「薄く薄く纏うのが基本だと聞いたので、それを意識してました」
「左様、それが基礎だ。まずは焦らずにゆっくりから行うがよい。これが出来れば練気の斬撃を放つ。魔力に乗せて放てば良い。簡単に言えばな」
昨日里長が実演した剣技だ。まだそのレベルには無い。当面の目標は練気を纏うことだ。
よし、焦らず……ゆっくり……薄く薄く。刀身に集中……。おっ? いい感じ。
「ヒュンッ」
駄目だ。切っ先に近づくに連れどんどん難しくなっていく。
「まずは、真ん中辺りでキープする練習をしてみます!」
「うむ、当面はこの繰り返しだ。反復が大切だ」
「分かりました!」
「これ以上は儂から言うことはない。休憩しながらで良い、一人で出来るな?」
「がんばります!」
ひたすら繰り返す他ない。これが出来るようになれば何でも斬れそうな気がする。
大丈夫だ、オレは強くなれる。
明日からはその為の修練だ。ゆっくり休んで明日に備えよう。
父さんの日記を閉じ、元あった本棚にしまった。畳に直に敷いた寝具に横たわり、イグサの香りを楽しみながら眠りについた。
◇◇◇
夏の朝は不快だ。
念入りに顔を洗い、汗を拭う。寝汗を吸ったシャツを着替え、ヤンさんに研ぎ直してもらったばかりの春雪を腰に差し、里長の屋敷に向かう。
敷地は広い。木々の間を縫うように道が整備されている。夏の陽射しを緑が和らげ、時折髪を揺らす風が心地よい。
屋敷の入口で靴を脱ぎ、廊下を歩く。着物を着た女性がせわしく働いている。女中と呼ばれていた。家事などを任されているようだ。
部屋の再奥で、里長が膳の前に座っている、一人だ。
「おぉ、早いな。座って食うがよい」
「はい、頂きます」
里長の隣の膳の前に胡座をかき、慣れない箸で食を進める。お椀の味噌汁が今日も美味い。
生の卵だ。どうやって食うんだ?
里長を見ると、醤油をかけて混ぜた生卵を白飯にかけて食べている。
オレもやってみよう。
「ん、美味い……」
「卵かけ飯、美味かろう。儂の好物だ」
「はい、卵を生で食べるという文化が外には無いですね。これは美味しい」
「それは勿体ない。こんなに美味いものを」
そう言ってカッカと笑った。こうして喋ってると普通の爺さんだ。なんだか安心する。
「いつも両脇にいらっしゃる方々はどなたですか?」
「あやつらは息子だ。三男のカイエン、四男のコウエンだ。お主の父親、シュエンは五男である。未子だ」
「その上のご兄弟は?」
「長男と次男、長女を先の戦で亡くした」
「そうでしたか……メイファさんと下の妹さんで八人ですね」
「その通りだ。なぜ知っておる」
「父さんの部屋で日記を見ました」
「あやつ、その様な物を残しておったか。息子のお主には貴重な物であるな。好きに扱うがよい」
食事のたびに色々な話が出来そうだ。里長と喋るのは楽しい。一緒に酒を飲んでみたいもんだ。
「よし、少ししたら準備して庭に来るがよい」
「分かりました」
準備は既にできている。お茶を飲みながら腹を落ち着かせ、庭に出る。いや……庭なんて言う広さじゃない。昨日の修練場と変わらないんじゃないかと思う程だ。少し身体を解していると、里長も外に出てきた。
「よし、始めるか」
「里長、オレ強くなりたいです。よろしくお願いします!」
「会った時にも言うたが、お主の潜在能力は凄まじい。後はその使い方だ」
二人では勿体ない程に広い庭の中心に立ち、刀を抜く。研ぎ直された春雪の刀身は、陽光を受けて鋭く光った。
「良し、先ずは刀を正眼に構えてみろ」
「正眼?」
「中段の構えだ」
刀を両手に握り、正面に構えた。
「お主……奴に何も習っておらぬのだな……一体何をしておったのだ、シュエンの奴は……」
「刀を受け取った次の日には居なくなってしまったので……」
里長は呆れ顔で深く溜息をついてから、顔を上げた。
「先ずは刀の柄の握り方から指南する必要があるの……」
里長は俺の横に立ち、説明を始めた。
「左手で柄の末端を少し残して握り、右手は鍔に人差し指が少し付くような位置で握る。これが基本だ。上から見てみよ、両手の親指と人差指の間が、刀身の延長になるように合わせる。小指と薬指あたりで握り込み、人差指に向けて力を抜く。右脚を前に出し、自然な位置に構えてみよ」
ツカ? ツバ? 聞き慣れない言葉に質問をしながら、言われた通りに刀を握り直すと、手にしっくりと馴染む。
「振ってみよ。どうだ?」
里長に言われた通りに刀を振ってみる。
「全然違います。握り方一つでここまで違うとは……」
「何事もそうだが、基礎が一番大事だ。疎かにせぬことだ」
「心得ました」
思えば、剣の持ち方すらまともに習ったことはない。父さんは両手剣を使わない、当然の事かもしれない。
「よし、次だ。正眼の構えのまま練気術だ。昨日の様に体中の気力を練り上げ、両手に集中させてみよ」
集中だ。昨日の様に、両手に練気を集める。
両手がじんわりと熱くなるのを感じる。
「よし、それを刀に薄く纏ってみよ」
気力を纏う要領でいいのかな……?
薄く薄く、基本に忠実にゆっくりと練気を刀身に注ぎ込む。が、刀身に留まることなく、刀の切っ先から「ヒュンッ」と練気が抜けて出ていった。
「最初はそうなるであろうの。練気を体から出すのが難しい。皆そうだ、気にせん事だ」
「普通に気力を纏うのとは扱いが違うんですね」
「うむ、コツは練気を刀身に練り込むように注ぎ、切っ先から鍔にかけて薄く纏わせるよう心掛けよ。刀を己の体の一部のように感じて、練気を刀と一体にするイメージだ。先ずは抜けてしまうまでの時間を長く保つ事だ」
ひたすら正眼の構えのまま、体内で練り込んだ練気を両手に集め、放出し続けた。難易度が高く、全くコツを掴むことが出来ない。
「助言するとすれば……練気を学ぶ前に、刀に気力を纏う時どのようにしておった?」
「薄く薄く纏うのが基本だと聞いたので、それを意識してました」
「左様、それが基礎だ。まずは焦らずにゆっくりから行うがよい。これが出来れば練気の斬撃を放つ。魔力に乗せて放てば良い。簡単に言えばな」
昨日里長が実演した剣技だ。まだそのレベルには無い。当面の目標は練気を纏うことだ。
よし、焦らず……ゆっくり……薄く薄く。刀身に集中……。おっ? いい感じ。
「ヒュンッ」
駄目だ。切っ先に近づくに連れどんどん難しくなっていく。
「まずは、真ん中辺りでキープする練習をしてみます!」
「うむ、当面はこの繰り返しだ。反復が大切だ」
「分かりました!」
「これ以上は儂から言うことはない。休憩しながらで良い、一人で出来るな?」
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ひたすら繰り返す他ない。これが出来るようになれば何でも斬れそうな気がする。
大丈夫だ、オレは強くなれる。
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番外編①~2020.03.11 終了
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