- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
32 / 260
第二章 リーベン島編

純血の人族

しおりを挟む
「それから一年後に、ユーゴとトーマスに出会ったの。これが私の過去。この里ではレンズを外しても良いのは分かってる。でも、この青い眼を見られるとトラウマが蘇るの……」
 
 エミリーが過去を語り終えると、修練場は静まり返った。
 エミリーの明るい笑顔の裏に、あまりにも暗い過去が隠されていたことに、オレ達は言葉を失っていた。誰もすぐに口を開くことはできなかった。
 
「里長さん、奥様! 私、強くなりたいんです! アレクサンドをぶっ飛ばしてやりたい!」
 
 決意を込めたエミリーの声が、沈黙を破った。
 里長は閉じていた目を開き、厳粛な面持ちで口を開いた。
 
「エミリーよ、お主は人として十分強い。戦闘の強さに関しては儂等に任せよ。必ず強くしてやる」

 里長のその言葉に、エミリーは深々と頭を下げた。
 
「エミリー、もっと強くなろう」
 
 オレはエミリーの目を真っ直ぐ見て言った。
 
「僕も足手まといにはなりたくないな」
 
 トーマスも力強く頷く。
 
「うん! 修行頑張るよ! 二人に過去を話せて良かったよ。心につっかえた物が取れた感じがする」
 
 エミリーは心底安堵したような笑顔を見せた。
 
「メイファ、ヤンガス。お主らはどう思う。こやつらは信頼出来るか?」
 
 里長は後ろに立つ二人に、振り向くことなく問いかけた。
 まさか、打ち明けるのか?
 今まで誰にも伝えなかった、この里の秘密を。
 
「エミリーはもはや私の家族です」
 
 メイファさんは、迷いなく答えた。
 
「トーマスはうちの自慢の弟子だ。俺の全てを叩き込みますよ」
 
 ヤンさんも、力強い言葉を口にした。
 
「トーマス、エミリー。お主らはこの里は好きか?」
「もちろんです」
「すっごく楽しいよ!」
 
「では、この里の有事の際はお主らの力を貸してくれるか?」
「僕は親方の弟子です、当然です」
「私は奥様を尊敬してる。本当の娘のように接してくれてる。私はこの里に恩返しをしなくちゃいけない」
 
 二人の返答を聞き、里長は深く頷いた。
 
「良し、お主ら今から言うことは里外で口外せぬように」
「「はい!」」
 
「儂の名は『龍王』クリカラ・フェイロックだ。そしてユーゴは龍族と人族の子、即ち『龍人』だ」

 里長は、自身の真の名と、オレの血統を明かした。
 そして、この里がどのようにして生まれ、始祖四種族の血がどのように世界に関わってきたのか、その壮大な歴史を二人に語った。二人は全く予想もしていなかった話に、ただ言葉を失っていた。
 
 
 ◇◇◇

  
「いやぁ、衝撃だったよ……」
 
 里長の話が終わった後、エミリーは思わず息を吐いた。
 
「ほんと、エミリーが『仙人せんじん』だったことにもびっくりしたけど……」
 
 トーマスも興奮冷めやらぬといった様子だ。
 
「ユーゴが龍人、エミリーが仙人でしょ? 二人は長く生きるけど、僕はどんどん年老いて置いて行かれちゃうね……」
 
 トーマスが肩を落とし項垂れた。
 オレ達に実感は無いけど、始祖四種族の血が流れてるという事は、人族より遥かに長く生きるらしかった。
 
「いや、そんな事ぁ分からねぇぞ?」
 
 ヤンさんはトーマスを初日から見ている。自身の見解を話し始めた。
 
「トーマス、お前ぇは純血の人族なんだろ?」
「はい、それは間違いありません」
「だとしたら、お前ぇのその魔力の量は説明がつかねぇんだよ」
 
 里長とメイファさんも、以前から感じていた事だったらしい。当然トーマスを含め、オレ達三人にはどういう事か分からない。同時に首を傾げてヤンさんに目を向けた。
 
「うむ、お主の潜在的な能力は人族のそれではない。人族の平均値の倍はゆうに超えておるのだ。心当たりはないか?」
 
 里長に問われ、トーマスが顎に手を当てて考え込む。
 
「関係あるのかどうか分かりませんが……」と、トーマスは何かを思い出し、話し始めた。
 
「僕は、母さんのお腹の中では元々双子だったらしいんです。母さんはあまりにもお腹が大きいから双子かもしれないって思って、その準備をしていたそうです。でも、出産時期が近づくとお腹が少しずつ小さくなりはじめたそうなんです。で、僕が産まれてきたのですが、僕の脇に抱かれて凄く小さい子供が一緒に出てきたそうです。その子は最初は生きていたのですが、すぐに息を引き取ったと聞かされました」
 
 メイファさんは医術に精通している。トーマスの話から医術的見解を纏めた。
 
「双子の片割れが消失する事例はある。そういう場合は、母親の胎内に吸収されることが多いが。もしかしたら、その子の命の危険か何かで、トーマスに全てを受け渡したのかもな」
「なるほど、だとしたら普通の人族の倍以上ってのも頷ける」
 
 あくまでも予想でしかないけど、事実トーマスの魔力量は尋常ではないらしい。大きく外れた話じゃないだろう。
 
「だとしたら、僕は一人じゃないんだ……兄弟で一緒に戦ってるんだ……」
 
 トーマスは感慨深げに呟いた。
 
仙人せんじんとは仙族と人族の子だけではない。いや、寧ろそんな事例はほぼ無い」
 
 里長がさらに話を続けた。
 
「他にもあるんですか?」
「ほとんどが、才能ある人族が極限まで鍛錬することによる、仙人へのだ。エミリーの話の中でもあったが、人族は仙族の因子を持っているからな」
 
「故に、トーマスは仙人に昇化する可能性は大いにある。ウェザブール王都の騎士などは仙人が多いのであろう?」
「さあ? 私ほとんど王都にいなかったからね……すぐに出ちゃったからさ」
 
 エミリーは苦笑いを浮かべた。
 
「あと言えることは、何も魔力量だけで寿命が決まる訳ではない。そうなれば魔族が一番の長寿種族になる。が、実際はそうではない。魔力、気力の量や質、各個体差にも大きく左右される。後は、稀に得る特異な能力も関係すると言われておる」
 
「とにかくだ、お前ぇは鍛錬次第で仙人になれるかもって話だ。刀と一緒だよ、素材が良いと打てば打つほど強くなる」
 
 ヤンさんが、いつもの調子でトーマスに喝を入れた。
 
「なるほど、オレはいつまでもこの二人と一緒に戦いたい。頑張ります」
 
 トーマスの目に強い光が灯った。

  
 ◇◇◇

  
 お昼時になり、メイファさんが予め予約しておいてくれた弁当に舌鼓を打つ。
 この里の文化や言葉は独特だ。オレが今まで習得してきた魔法や技と比べても異質だ。舌鼓なんて言葉を使ってる時点で、オレもこの里の影響をモロに受けている。
 
 この国で育った父さんが何故、オレに練気術や遁術を教えなかったのかは里長も疑問に感じた点だけど、オレにもその疑問が大きくなってきた。
 明らかにこれらを先に習得すべきだった。いや、強くなるのにはそれが近道だったはずだ。けど、父さんはそれをしなかった。そこに何か意味があったのかは、今となっては本人にしか分からない。
 考えても詮無いことだ。会った時に問えばいい。
 
「良し、午前は雑談が過ぎたな。午後は予定通り次の段階に進もう」
「はい!」
 
 昼食を終えたオレ達三人は、元気よく返事をした。
 
「エミリーは治療術を習得した、他二人は武具に練気を纏うことができた。次は交代するがよい」
「オレ達が治療術を習得しろということですか?」
 
 オレは思わず尋ねた。
 
「私が武器に? 二人が治療術出来ちゃったら、私いらない子にならない?」
 
 エミリーは不安そうな顔をした。
 
「心配するな、攻撃や防御中に治療術など使えん。それに、お前が戦闘不能になったら誰がこいつらを治療する? お前は誰に治療してもらう?」
「あっ……」
 
 エミリーはメイファさんの言葉の意図を理解し、声を漏らした。
 
「分かったか? トーマスが戦闘不能になっても、お前ら自身が防御出来なければ全滅だ。ユーゴが居なくても、お前らだけで敵を倒さないとこれも全滅だ」
「各自が何でもできる戦士になれって事ですね!」
 
 エミリーが力強く答えた。
 
「そういうことだ。おい、ヤンガス」
 
 メイファさんに呼ばれ、ヤンさんは腰に差していた刀を鞘ごと抜いた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...