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第二章 リーベン島編
空を駆ける
しおりを挟む次の日から、午前中は各自の師匠から技や術の指導。午後からは、ナグモ山を駆け回る毎日が始まった。
日に日に疲れなくなってきた。練気で走行をアシストしているため、長時間動いてもそこまで疲労を感じない。長距離移動にもこの技術は使えそうだ。
山を駆け回っていると、色んな魔物と出くわした。
虎と狼と狸が合体したような奇妙な魔物。大きな蜘蛛に牛の頭が生えてる魔物。生物を無理やり繋ぎ合わせたかのような、歪な形だ。ヌエといい、この島は色んな動物合体の魔物が多いんだろうか。
どれも、オレ達三人の相手にはならなかった。小さめの魔晶石も三つ集まり、ヤンさんに頼んで各自の篭手に着けてもらった。
「やっと魔晶石揃ったね!」
「これで遁術の威力が上がるはずだ」
「山で暴れてくるか!」
いつも通り山を駆け回っていると、例の牛の頭の蜘蛛がいた。ギュウキと言うらしい。
エミリーは我慢が出来ない子だ。
『火遁! 業火殺!』
エミリーの左手から猛烈な炎が噴き出した。魔晶石で増幅された火遁は、ギュウキを一瞬で消炭にした。
エミリーも初めての魔晶石の使用で制御出来なかったんだろう。周りの木々に盛大に燃え移った。炎は勢いを増し、瞬く間に広がっていく。
「やばい! 山火事になる!」
「消そう!」
『水遁 大波!』
消火活動の為、オレとトーマス二人で水遁を広範囲に放った。とんでもない水量の波が、燃えた木々を轟音と共に飲み込んだ。一帯は湯気と焦げた匂いに包まれる。
「おぉ……魔石でも増幅した事ないけど、すごいなこれ……」
「山で火遁はやめとく……」
「うん……そうだね……」
エミリーは反省した様子で呟いた。
◇◇◇
三ヶ月後、オレ達三人は一日中走り回っても疲れなくなっていた。それぞれの師匠から技や術も教わっている。練気術の精度も相当上がっているのを感じる。
「二人とも、そろそろ空を駆けてみないか?」
「そうだね、土台は作れたと思うよ」
「明日は修練場に集合しよっか!」
三ヶ月の修行の成果を、いよいよ確認してみることにした。
次の日。
いつもの様に里長の屋敷の庭で、剣技や術の指南を受けている。
吸い込む空気は鼻腔を急激に冷やし、口から吐く息は白く眼前を漂う。秋が終わり、山を彩っていた木々は葉を落とし始めた。季節は冬へと移り変わろうとしている。
この三ヶ月、様々な技を教わった。
上段、正眼、下段、八相。
それぞれの構えから繰り出す剣技の数々。ただ刀を振るだけに見えて、構えによって扱い方が違うのが面白い。肘や手首の使い方、身体の使い方一つ見ても奥が深い。
刀を振っているうちに午前が終わる。そんな日々を過ごしてきた。
「里長、今日の午後から修練場で空を駆ける練習をしようと思います。術の練度も上がってきたのを感じます」
「左様か、三月走り回っておったの。どれ、儂も見に行こうか。では昼飯にするか」
昼食を終え、里長と修練場に向かう。
トーマスとエミリー、そしてメイファさんとヤンさんも既に待っていた。
「あ、里長さんも来てくれたんですね!」
「里長、お久しぶりです」
「うむ、励んでおるようだの」
「メイファさん、ヤンさん、お久しぶりです! 皆考えることは一緒か」
師匠の前で良いところを見せたい。自然と気合が入る。
「じゃ、ウォーミングアップいくよ!」
「おう!」
三人は各々、強化術で迅速を施す。
いつもの様に走り回り、冷えた身体を入念に暖める。少しして三人の所に戻った。
「明らかに速度が増しておるな。練気の扱いが三月前とは大違いだ」
「問題は次の段階ですね……」
高速移動しながら、地面を掴む練習は飽きるほどしてきた。まずはオレからだ。
「よし、最初から全力で走る!」
まず、少し助走して駆け上がる。次は空気を掴む、空気を蹴るイメージだ。足裏の練気を爆発的に放出し、空気を蹴って次の空気を掴む。
雲を掴む龍のように。
夢中で脚を動かした。オレは空を駆けていた。
やった! 出来た!
空を駆け回り、脚を止めた。高度が下がっていく。
あ……降り方が分からない……。
空中でパニック状態の頭は全く働かない。急いで過去の記憶を辿り、メイファさんがしていた事を思い出そうとする。
全然思い出せない。
減速の為にもう一度足裏の練気を爆ぜさせる。少し減速した。が、そのまま地面に叩きつけられた。土煙が舞い上がり、鈍い衝撃が全身を襲う。
「ユーゴ、大丈夫……?」
トーマスが駆け寄ってくる。
「剛健掛けてたから……なんとか……」
「降りるときの事、考えてなかったね……」
メイファさんが近寄り、治療術を施してくれた。半ば呆れた様子でオレに声を掛ける。
「良くやった、と言いたいところだが……締まらない奴だな。降りる時もやることは一緒だ。二、三度上に駆けるようにして減速すればいい」
トーマスとエミリーも、難無く空を駆けた。
そして、難無く降りてきた。オレが反面教師として怪我をしただけだった。
「よもや修行開始半年で空を駆けるとはの……相当な修練を積んだと見える、見事だ」
「山では木々を避けながら走っていたので、自然と高速移動中の方向転換が身に付きました。多分、それが空気を掴む訓練になってたんだと思います。今気が付きました」
「お前ぇら、ほんとすげぇな……うちの倅なんぞとっくに抜かれちまってる……」
半年で空を駆けるまでに練気を使いこなせる者は、龍族でも殆どいないらしい。
オレ達に才能があるのかは分からない。ただ、かなりの努力はしてきたつもりだ。それを認められたことで、オレ達の自信は揺るぎないものとなった。
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