- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
60 / 260
第三章 大陸冒険編

フェンリル

しおりを挟む
 初手、エミリーが二本の苦無くないを投げつけ牽制する。錬気れんきの糸で自在に操られる刃が、超高速でフェンリルの四肢を狙う。が、フェンリルは巨体に似合わぬ俊敏さでその全てを紙一重で見切り、避けていた。

 オレは敵の動きを観察しながら、体中の気力を練り上げ、右手の龍胆りんどうへと流し込み続ける。刀身が熱を帯びていくのが分かる。

「コカトリスより速いな。けど、飛べないのが救いか」

『土遁 影縫い』

 エミリーが苦無を地面に突き刺して、フェンリルの動きを封じようとするが、高ランクの魔物には中距離からの干渉は通用しない。フェンリルは地面を蹴り、その術の範囲から軽々と離脱した。

 奴はまだ様子見だ。素早く動き回り、常にこちらを警戒しているが、攻撃してくる気配はない。龍眼でフェンリルの動きは視える。けど、速すぎる。こちらの動きも読まれているかのように、斬りかかろうとする一瞬の隙を潰される。無闇に突っ込むのは愚策だ。

「おそらく、炎系の強力な攻撃を狙っている。トーマスは守護術を全員に。エミリー、オレが合図したら二人で水遁だ」
「「了解」」

 オレは龍眼でフェンリルを観察し続ける。
 向こうもまた、こちらの出方を伺っている。まるで、熟練の狩猟者ハンター同士が対峙しているかのような、張り詰めた空気が流れる。

 その時、オレの脳裏に、大地が灼けるヤバい絵が浮かんだ。

「守護術でも水遁でもない! 避けろ!」

 オレの叫びと同時に三人が散開した直後、今まで三人がいた場所を、巨大な炎の柱が焼き尽くした。

「やばすぎるでしょ、今の……」
「出来れば一撃で仕留めたい。弱点を観察しながら龍胆りんどうに錬気を注ぎ続ける。エミリーはトーマスの補助を頼む!」
「了解!」

 オレは『春雪』も抜き、二刀流で構える。
 エミリーがトーマスの背後で補助術を掛け直し、さらに継続再生で彼の傷を癒し続ける。

 トーマスの前に、フェンリルが黒い疾風となって襲いかかる。鋭い爪の連撃、岩をも砕く牙。
 トーマスはその全てを捌ききっている。ヤマタノオロチの盾で受け、決して押し負けない。

「エミリー! 上から攪乱してくれ!」

 エミリーは空へと駆け上がった。

『風遁 嵐塵!』

 上空から、無数の風の刃が嵐となってフェンリルに降り注ぐ。その瞬間、フェンリルの敵意がトーマスからエミリーへと逸れた。

「ヤバい! エミリー、逃げろ!」

 フェンリルが天を仰ぎ、口から炎の奔流を吐き出した。炎の柱がエミリーの風遁を飲み込み、更に勢いを増して彼女を襲う。オレの龍眼による警告で、エミリーは間一髪でそれを躱し、トーマスの背後へと生還した。

 エミリーが作ってくれた一瞬の隙を、オレは見逃さない。

『剣技 横薙一閃!』

 龍胆りんどうに溜め込んだ膨大な錬気を、特級品と一級品の二刀に乗せて解き放つ。父さんがヤマタノオロチを屠った必殺の技だ。
 放たれた斬撃は、フェンリルの意識の外から、音もなくその腹を狙う。このまま両断する――そう確信した、その時だった。

 フェンリルは、迫りくる斬撃を横目で確認すると、後ろ脚で強く地を蹴り、信じられない跳躍力でそれを飛び越えた。

「何っ!?」
 
 フェンリルは空中で体勢を整え着地すると、後ろに飛び退き、再び距離を取った。オレとエミリーはトーマスの後ろに戻り、守りを固める。

「二人ともすまない……。奴の敵意を完全に固定できない……」
「いや、相手はSSランクの魔物だ。一筋縄でいくわけがない」

 オレは春雪を鞘に納めると、エミリーに耳打ちし、紙製の袋を受け取った。

 フェンリルは警戒をさらに強め、体勢を低くして唸り声を上げている。

「トーマス! 守護術を掛け直してくれ! 最大防御だ!」

 そう叫ぶと同時に、オレはフェンリルに向けて、受け取った紙袋を投げつけた。
 フェンリルがそれを警戒し、鋭い爪で切り裂くと、中から白い粉が一面に舞い散った。

『火遁 豪炎!』

 すかさずエミリーが火遁を放つと、白い粉塵に引火し、フェンリルの目の前で凄まじい大爆発を引き起こした。
 
 もちろん、こんなものでフェンリルを仕留められるとは思わない。龍眼を使えば、目を瞑っていても奴の居場所は分かる。

 視界は一面の炎。
 オレは右脇に龍胆りんどうを構えると、力強く地を蹴って炎の中へと飛び込んだ。

『剣技 おぼろ

 爆風で体勢を崩したフェンリルの懐に、地を這うほどの低姿勢で潜り込む。そして、がら空きになった首元へ、下から逆袈裟に斬り上げた。確かな手応えと共に、巨体が地に沈む鈍い音が響いた。

 ゆっくりと炎が晴れていく。
 そこには、首を失い倒れ込んだフェンリルの巨体があった。

「ふぅ……流石に強かったな」
「いきなり小麦粉と火遁って言うから、何を作るのかと思ったよ。でも、なんで爆発したの?」
 
 エミリーの疑問に、トーマスが冷静に答える。

「粉塵爆発だね。舞い上がった小麦粉の粒子と空気中の酸素が、エミリーの火遁で急激に燃焼し、大爆発を引き起こしたんだ」
「あぁ。奴は全ての攻撃を目で見て避けていたからな。目眩ましには丁度良かっただろ」
「へぇ、ユーゴって意外と頭良いんだね」
「『意外と』は余計だ。……でも、うどんを打とうと思ってたのに、残念だ」

 とは言ったけど、うどんの代わりSSランクが手に入るなら安すぎるくらいだ。
 
 牙、爪、毛皮を処理する。ここはトーマスとオレの仕事だ。ヤンさんから貰った小刀は切れ味が素晴らしく、処理が捗る。

「私……全然活躍できなかったなぁ……」

 近くの岩に座り、オレ達の作業を眺めていたエミリーが、うつむき加減にそう呟いた。

「いや、エミリーに強化術を掛けてもらうと、明らかに守護術の質が変わるんだ。自分で掛けるよりも、エミリーに掛けてもらった方が効果が高い」
「だな、強敵と戦う時は、エミリーに頼むのが良さそうだな」
「そうなの!? じゃあ、帰りの迅速は私がみんなに掛けてみるね!」
 
 処理を終え、エミリーが亡骸を火葬すると、小さい魔晶石が五個出てきた。

「フェンリルの魔晶石の方が明らかに上質だ。今すぐ付け替えるよ。残りの二つは予備に持っておこう」
「ほほー! じゃあ、コカトリスの魔石は三つとも売っちゃう?」
「あぁ。これだけでも相当な報酬になるぞ」
「じゃあ、早く帰って乾杯しよう!」

 全ての戦利品をエミリーに預け、オレ達はレトルコメルスへと駆ける。
 エミリーに迅速を掛けてもらうと、明らかに身体が軽い。治療術だけでなく、強化術の精度も彼女は断トツで高いらしい。

 オレ達がフェンリル討伐に向かったことは、狩猟者協同組合ハンターギルド中に既に知れ渡っている。
 毛皮と爪、牙。レトルコメルスに着いてから、わざわざ袋に入れ替えての凱旋だ。

「おい……マジかよ……本当に倒してきやがった……」
「にしても、早すぎるだろ……?」

 広いギルド内の喧騒が嘘のように静まり返り、全ての狩猟者ハンターたちの視線がオレ達三人に集まる。最初は馬鹿にされたが、これで面目は保った。
 受付カウンターの男は、目を丸くして、オレ達と袋からはみ出た巨大な毛皮を交互に見ている。

「おいおい……本当に倒してきやがったか……。どうせ無理だと思って言わなかったが、こいつの報酬はここじゃ払えん。領主様の所に行ってくれ」
「え? そうなのか。行けば対応してくれるの?」
「あぁ、その毛皮を見せれば、すぐに通してくれるはずだ」

 さすがはSSランク。話がどんどん大きくなってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...