- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
59 / 260
第三章 大陸冒険編

一年ぶりの依頼

しおりを挟む
 次の日の朝、高級ホテルの高級な朝食を腹に収め、オレ達はルナポートを出発した。美味しいご飯と金の当てができたことで、エミリーの機嫌も少しは上向いている。

 目指すは一年ぶりのレトルコメルス。今のオレ達の脚なら、三日もかからないだろう。明後日の昼過ぎには着く予定だ。

 朝からひたすら、練気を応用した高速移動で街道を駆け抜ける。木々を避けながら駆け回っていた山道と「」は違う。どこまでも真っ直ぐに続く石畳の道を、すれ違う商人やハンターたちに二度見されながら、風を切って突き進んだ。
 
 道中、懐かしい馬の魔物、スレイプニルが草を食んでいるのが見えた。

「今晩は馬肉にするか!」
「いいね! 生レバーが食べたい!」

 オレは走りながら指先をスレイプニルに向け、練気の弾丸を放つ。
 空を駆ける練習で偶然編み出した術だ。眉間を正確に撃ち抜くと、スレイプニルは声もなく崩れ落ちた。下位の魔物相手には、実に使い勝手がいい。

 一日中走り続け、空が茜色に染まり始めた頃、オレは一度空へ駆け上がり、野営に適した場所を探した。

「お、いい河原を発見したぞ」
 
 トーマスに夕食の準備を、エミリーに就寝用のテントの設営を頼み、オレは一年ぶりのテントサウナに火を入れる。トレントを探す手間も惜しい。薪は里で調達してきたものを、エミリーの空間魔法から取り出した。

「サウナが温まったぞ! 水着に着替えて入ろう!」
「もうとっくに着替えてるよ!」

 振り返ると、エミリーはテントの設営を水着姿でしていたらしい。確かに、汗をかく作業だ。合理的ではある。

「おい、エミリー……」
「ん、何?」
「お前……胸、大きくなったんじゃないか……?」
「あぁ、そうなんだよ。ロックリザードの革鎧が日に日にキツくなってきたから、コカトリスの鎧になって良かったよ。ヤンさんがやけにエロい目で採寸してたけどね」
 
 なんてことだ……。この一年で、ここまで成長するとは。
 そういえば、ヤンさんはエミリーのような華奢な女性が好みだと言っていた。

「やっと私の魅力に気付いたようだね! 二人共、鼻の下を伸ばして見惚れるがいいよ!」
「いや、そこまででは……」
「なんでだよ!」

 グラマーな女性が好みのオレとトーマスが、エミリーに欲情することはない。だからこそ、この男女三人の旅が成立しているんだけれども。
 
「僕ら偶然同い年だからね。同じように成長していくんだ。エミリーがミオンさんを超える日が来るかもしれないよ。コカトリスの革は修理用に貰っているから、サイズの変更は任せてくれ」
「ふふっ、背も少し伸びたからね。お母さんはおっぱい大きかったし!」

 威張って張った胸が、確かに膨らみを帯びている。
 長寿族は人族よりも成長速度が遅いのかもしれない。エミリーは、幼女期を脱し、女性へと変わり始めているんだろう。
 
 一年ぶりのサウナと絶品の馬肉料理を楽しみ、トーマスと交代で見張りをして、オレ達は一夜を過ごした。

 
 ◇◇◇ 
 
 
 早朝に出発し、もう一泊野営を挟む。予定通り、三日目の昼前には目的地に到着した。
 

 交易都市レトルコメルス。
 一年ぶりの街並みは変わらない。けど、それを見るオレ達の心境は、以前とは全く違っていた。あの時の苦い思い出が、不意に蘇る。

「疲れもなく着いたな。旅の進度が全然違う」
「まずは予定通り、狩猟者協同組合ハンターギルドでSランク試験を受けようか」
「私にお金を! カジノの軍資金を!」

 交差した剣に、牙を剥く獅子。見慣れた狩猟者協同組合ハンターギルドのシンボルマークを目指す。
 一年前は素材の売却の為だけに来たけど、こんなに大きな建物だったっけ……重厚な木の扉をくぐると、大勢の狩猟者ハンターたちの熱気と喧騒が、オレ達を迎えた。
 ゴルドホークの三倍はあろうかという受付カウンターの横には、巨大な掲示板が設置され、無数の依頼書がびっしりと貼られている。

「すごい数だな……これは悩む」
「あ、ロックリザード三体討伐ってのがあるよ?」
「いや、それは簡単すぎる。せっかくだ、もっと張り合いのある相手がいい」
「お? SSランクだって。そんなのあるんだ。ゴルドホークでは見なかったな」

 なんと、Sランクの上にまだランクがあるらしい。

「その称号、是非とも欲しいな」
「内容はどんな感じ?」
「『フェンリル討伐』……。神話に出てくる魔物じゃないか」
「達成条件は?」
「フェンリルの牙、爪、毛皮。人数は……書いてないな。カウンターで聞くしかないか」
「三人で討伐するような魔物じゃないのかもしれないな……」
「いいじゃない! 私はどこでもついていくよ!」
「今のオレ達の脚なら、今から腹ごしらえして向かっても、討伐して夜には戻ってこれるだろうな」
「じゃあ、これにしよう」

 受付カウンターには、初老の男たちが三人、山のような書類仕事に勤しんでいる。一番手前にいた、白髪をオールバックに流したダンディな男に声を掛け、依頼書を手渡した。
 男は、鼻先にちょこんと乗った丸眼鏡を外し、オレ達の顔と依頼書を交互に見比べた。

「おい……あんたら、見たところ若いが、本気でフェンリルに挑む気か? こいつは、ただの魔物じゃないぞ」
 
「ヤバいとは、どういうことです?」
「東北の森に長いこと居座っているんだが、討伐に向かったパーティが、誰一人として帰って来ないんだ。もう十年以上、この依頼書はここに張り出されたままだよ」
「だからこそのSSランク、ということか。何かアドバイスはありますか?」
「俺みたいな受付が言えることなんてないさ……。元は狩猟者ハンターだったとはいえ、昔の話だ。それでも、フェンリルなんざ御免こうむるね」

 受付の男はそう言って、自らの左手を見せた。薬指と小指の第二関節から先がなかった。怪我で引退したんだろう。

「では、SSランクへの昇級試験もお願いします」
「あぁ、試験なら全員Sランク以下で、五人以下のパーティでの討伐が条件だ。……まさか、三人で行くのか?」
「まあ、三人しかいないんでね」
「おいおい、まだAランクじゃないか……。自殺幇助をしているみたいで、気が乗らないな……」
 
 男はため息をつきながらも、オレ達の狩猟者ハンターカードを受け取り、昇級試験の受付を済ませた。
 
 
 軽く腹ごしらえを済ませ、依頼の場所へと向かう。少し距離はあるけど、今のオレ達の脚なら大したことはない。

「えぇ……とんでもない魔力がダダ漏れだね……」
「どこにいるかなんて、目を瞑っていても分かるね……」
「気を引き締めろ。こんな獣に手こずるようじゃ、この先が思いやられるぞ」

 森の奥、開けた場所に、巨大な狼の魔物を発見した。鼻と口から、禍々しい魔力が黒い陽炎のように漏れ出ているのが、遠目にもはっきりと見えた。
 あれが、フェンリルか。

「よし、強化術はいいか? 武器と防具にも練気は纏わせたな?」
「うん、大丈夫」
「中距離攻撃と治療は任せて!」

 ヤマタノオロチの盾を構えるトーマスを先頭に、オレ達は戦闘態勢を整えた。

「行くぞ!」

 SSランクの魔物との戦いが、今始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...