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第三章 大陸冒険編
馬
しおりを挟む日の光で目を覚ました。
横を見ると、エマが静かに寝息を立てている。昨夜の熱が、まだ肌に残っているようだった。
最後にその柔らかな胸を揉んでおこうか。そう思って手を伸ばした瞬間、エマはゆっくりと目を開いた。
「……おはよう」
「うん、おはよう。いいホテルだね、すごくぐっすり眠れたよ。じゃあ、着替えて帰ろうかな……」
「あぁ、オレ達も今日には出発する」
「また会えるよね……?」
「もちろん。また来るよ、その時は店に寄るから」
彼女の美しい身体も見納めか。名残惜しく思いながら、着替える姿を観察する。
「じゃあ、帰るね。……またね」
ハグと軽いキスをして、ドアまで送った。
一年前の滞在とは全く違う、甘く、満たされた夜だった。
オレも着替えて朝食に向かう。
先にトーマスが食事を楽しんでいた。
「おはよう、昨日は楽しんだか?」
「おはよう、ユーゴ。僕は何もしていないのに、おこぼれを貰ってしまったね。いい夜を過ごさせてもらったよ。ジェニーちゃんはさっき帰った」
「なら良かった。またこの街に来たら、あの店に寄ろう」
少しすると、エミリーがスキップでもしそうな足取りでやって来た。
「おはよう。やけに上機嫌だな」
「おはよう、二人共! 昨夜はバカヅキだったんだ! 私の所持金を聞いて、ビックリしないでよ?」
「倍くらいにはなったのか?」
「ノンノンノン! なんと、1000万ブールだよ!」
「「えぇーーっ!!」」
凄いな……。ルナポートで無一文になったのが嘘みたいだ。
「さて、美味しい朝ご飯を食べて出発だよ!」
皆、それぞれに良い夜を過ごせたようで何よりだ。
◇◇◇
お気に入りのビュッフェ形式の豪華な朝食をゆっくりと楽しんだ後、オレ達は出発の準備を整えた。
「ついでにギルドで依頼を見ていかないか? 道中に依頼の魔物がいるかもしれない」
「そうだね、そのほうが効率的だ。それに、僕達の旅に期限はないからな」
狩猟者協同組合に入り、横に長い掲示板を隅から隅まで確認する。南側の依頼のみをいくつかピックアップした。
「ペガサスとユニコーンがAランク。ケルピーというのがSランクか。詳しい場所は書いていないけど、道中に出る可能性はあるな」
「馬だらけだね。一応、三つとも受けておこう」
依頼品は、ユニコーンは角、ペガサスは羽、ケルピーはヒレ。体皮も全て貴重品らしい。肉は食用として売れるようだけど、さすがに日が経つと駄目だろう。
「思ったんだけど、街道を走っていくのに、いちいち武具を装備する必要もないよな?」
「あぁ、そうだね。道中の魔物なら、素手でも倒せるだろうし」
「じゃあ、このまま軽装で行くか」
「次は仙神国だね!」
仙神国までは二日もあれば着くだろう。
武具も持たず、身軽な格好だ。まるでハイキングのような気楽さで、オレ達はレトルコメルスを後にした。
しかし、仙神国に近づくにつれ、街道沿いの魔物のレベルが上がってきた。
「今までの街道とは、明らかに魔物の質が違うな」
「うん、AランクやBランクの魔物が多い。普通の人族が仙神国を目指すのは、かなり厳しい道のりだろうね」
「まぁ、ハイキング気分なのは変わらないけどね! 刀くらいは出しとく? 私は苦無で十分だけど」
「遁術でもいいけど……念のため『春雪』は持っておくか」
「じゃあ、僕も『双葉』だけ持っておこう」
道中、スレイプニルに混じって、依頼の対象であるユニコーンやペガサスも姿を現した。巨大な牛の魔物もいる。
「よし、今夜はユニコーンとペガサスの馬刺しだ!」
「なんて贅沢な食べ比べなんだ……」
エミリーは二本の苦無を、まるで自分の手足のように巧みに操り、次々と魔物を仕留めていく。
オレとトーマスは、ユニコーンとペガサスの処理をする。純白のユニコーンの角は、見るからに高く売れそうだ。その横では、エミリーが巨大な牛の魔物を仕留めている。
「エミリー、大暴れだね」
「今のあいつは大富豪だからな、勢いが違う」
「今夜は馬刺しとすき焼きも食べるよ!」
「いいね。酒が欲しくなるな」
日が沈みかけた頃、大きな湖を見つけた。
「これはこれは、でっかい水風呂だな」
「今日は暑かった。ここでサウナにしよう」
「ユニコーンくらいなら、水着でも倒せるよ!」
今日はサウナの火入れをトーマスに頼み、オレはすき焼きの準備に取り掛かる。エミリーは手際よく就寝用のテント二つを設営し終え、中で水着に着替えている。
サウナの準備は完了した。
熱した石に水をかけ、立ち上る蒸気で汗を流す。火照った身体で湖にダイブした。
「あぁ……素晴らしい……」
「川とはまた違うね……」
「……この湖、何かいるぞ」
水中で、巨大な魔物の気配が急速に近づいてくるのを感じた。
「二人共! 上に駆け上がれ!」
オレの叫びと同時に、何かが襲いかかってきた。
湖から陸へと駆け上がったオレ達に向け、馬にヒレが生えたような魔物が水面から高く跳ね上がった。オレ達は丸腰で、水着姿だ。
「この辺りは、本当に馬の魔物が多いな」
「もう馬刺しは十分なんだけど」
「依頼の魔物だ。ケルピー、Sランクだよ」
三人は湖岸から応戦する。
「水魔法が来るぞ!」
『守護術 炎牢・陣』
ケルピーは、水圧を高めた水のレーザーを無数に放ってきた。
トーマスの張った炎の守護術が、着弾する前に全てを蒸発させる。弱点属性のはずなのに、大したものだ。
「ほぉ、あの水のレーザーはいいね。水遁で真似してみようか」
『水遁 水噴射!』
エミリーが放った水のジェット噴射がケルピーの身体を貫く。けど、致命傷には至らない。
「んー、名前はイマイチだけど、威力は悪くないね」
「よし、守りはトーマスに任せる。二人で烈風斬だ。風で斬り刻むぞ」
『風遁 烈風斬!!』
ケルピーは湖を縦横無尽に泳ぎ回り、オレとエミリーが放つ風の斬撃を巧みに避けている。
「水中に逃げられると厄介だな」
「よし、オレが囮になる。二人で仕留めてくれ」
オレはそう言うと、湖へと飛び込んだ。決して泳ぎが得意なわけではないけど、龍眼があれば対処できる。
ケルピーは、縄張りに侵入してきた新たな獲物目掛けて、水中を超高速で突進してきた。オレは水面を蹴って空へと駆け上がる。それを追って、ケルピーは水面からオレ目掛けて高く跳び上がった。
『剣技 横薙一閃!』
待ち構えていたトーマスとエミリーの斬撃が、空中で無防備になったケルピーを両断する。落下した亡骸が、湖面に大きな水飛沫を上げた。
ケルピーの馬刺しも、今夜の食べ比べに参戦だ。
サウナを三セット終え、食事にする。すき焼きの甘辛い匂いが食欲をそそる。
「エミリー、吟醸酒を出してくれ」
「はいよっ。トーマスも飲むでしょ?」
「もちろん」
お楽しみの馬刺しの食べ比べだ。三種類の赤身肉が皿に並んでいる。面白いことに、同じ馬系の魔物でも、色も違えば肉質も全く違う。
「うん、ケルピーが一番美味いな。魔力の質が肉質に影響するのかもしれない」
「あぁ、僕もケルピーだ。他ももちろん美味しいけど」
「すき焼きも美味しい! お酒が進んじゃうな……。そういえば、昨日は二人で飲んでたんでしょ? どこに行ってたの?」
「昨日は、レストランで紹介してもらったバーに行ってきたんだ。Sランクの狩猟者に絡まれたけどな……」
「へー、面白そう! 次に行く時は私も連れてってよ!」
なにっ!?
「い……いや、カウンター越しに女性がいるような店だぞ……?」
「別にいいじゃない。なんでダメなの?」
「いや……ダメなわけじゃないけど……」
トーマスは何も言わずに、馬刺しを酒で流し込んでいる。なぜか、魔力を極限まで抑えている。矛先が自分に向かないようにしているらしい。
「……うん。考えておくよ」
「さては、いやらしいお店だね……?」
「いや! そういう店じゃない!」
「ふーん、まぁいいか。どうせカジノが優先になるだろうし」
オレは、一体何を言い訳じみた事を言っているんだろうか……。
美味しい馬肉料理を堪能し、エミリー姫を二人で交代しながら守り、その夜は更けていった。
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番外編①~2020.03.11 終了
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