117 / 260
第三章 大陸冒険編
エミリーの恋
しおりを挟む
マシュー君が隣の席に座ってからというもの、私の心臓がおかしい。ドクンドクンと胸の奥が騒がしくて、この音が彼に聞こえちゃうんじゃないかと心配になるくらいだ。
「エミリーちゃんはいくつなの? あ……女性に歳を聞くのは失礼かな……僕まだ慣れてなくて」
「え!? あ……いや、大丈夫だよ。十九歳……」
「そうなんだ、僕とそんなに変わらないね。僕は二十歳だ、エミリーちゃんの一つ上だね」
そう言って彼が微笑むと、胸がキュッと締め付けられるような感覚に襲われた。これが、前にジュリアが言っていた感覚なんだろうか。笑顔一つで、こんなにも心が揺さぶられるなんて。
「マ……マシュー君は……あっ、マシュー君って呼んだらいいのかな? さっき、男か女か分からないって……」
「あぁ、身体的な性は男だからね、普通はそう呼ばれるね。でも、好きなように呼んでくれたらいい。歳は変わらないんだ、マシューでいいよ」
「じゃぁ……エミリーって呼んでくれる……? マ……マシュー」
「あぁ、そう呼ばせてもらうよ、エミリー」
名前を呼ばれた瞬間、体温が一気に上がった気がした。どうしよう、変な汗が出てきそうだ。
「どうしたエミリー。具合悪いのか? いつもの元気がないぞ?」
私の異変に気付いたのか、ジュリアが心配そうに顔を覗き込んできた。
「えっ? ごめん、何か気に障る事言っちゃったかな……?」
マシューまで不安そうな顔をしている。まずい、余計な心配をかけちゃった。
「いやいやいや! 私は元気だよ! 何言ってんのさジュリア!」
慌てて否定して明るく振る舞うけれど、恥ずかしくてまともにマシューの顔を見ることができない。私は逃げるように顔を反対側へと背けた。
ふと視線を感じてそっちを見ると、ユーゴがニヤニヤと面白がるような目で私を見ていた。何、あの顔。すごく腹が立つ。
「ねぇ、エミリー達はすごい狩猟者なんでしょ? 僕も小さい頃はハンターに憧れてたんだ」
マシューが話題を変えてくれた。
「そうなんだ……私はジュリアに色々教えてもらって、自然とハンターになってたな……」
「剣と魔法は小さい頃から教えてもらってたんだけど、性自認で悩み始めてから内向的になっちゃって……ここで働き始めてから、やっと昔みたいに喋れるようになったんだ」
その言葉の端々から、彼がこれまで抱えてきた葛藤の深さが伝わってくる。すごく悩んで、苦しんできたんだ。
「ハンターになりたいの……?」
「今からじゃ遅すぎるかなぁ……」
「そっ、そんな事ないよ! 遅すぎるなんてことはないよ」
私が勢いよく答えると、彼は少し驚いたように、でも嬉しそうに目を細めた。
「一応、剣は振り続けてるし、魔法も反復して練習してる。でも、師匠とは疎遠になっちゃったな……」
「じゃ……私で良ければ……時間のある時教えるよ……?」
口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。まともに顔も見れないのに、教えるなんて事できるの? でも、彼と関わりたいという気持ちが勝ってしまった。
「ホントに!? やった! 今日初めて会ったのに、約束をするのは図々しいかな……?」
「いや! そんな事ないよ!」
「ホントに? じゃぁ、明後日の朝は空いてる?」
「うん、大丈夫だよ……」
「じゃ明後日の朝、南門前で待ち合わせでどう?」
「うん、わかったよ……」
「やった! 剣の手入れしとかないと!」
約束をしてしまった。楽しみ半分、そして残りの半分は……正体の分からない不安と高揚感が渦巻いてる。
「よし、今日は帰ろうか!」
「あらそう? 楽しい時間はあっという間ね」
ユーゴの言葉に、心の中で「もう帰るの!?」と叫んでしまった。もっとここにいたい、もっと話していたい。
「ん? エミリーどうした?」
「え!? い……いや、何でもないよ? 帰ろうか」
私は平静を装って立ち上がった。
「じゃ、モレクさんありがとう。また来るよ」
「みんな、またなー!」
『ありがとうございましたぁ~!』
皆で店を出て、夜の王都を城に向かって歩き始めた。夜風が火照った頬に心地いい。
「エミリー、今日はなんか調子悪そうだったな。大丈夫か?」
「え!? そんな事無いって!」
ジュリアがまだ心配している。鈍感な彼女でも、私がいつもと違うように見えたんだろう。まあ、私自身もそう思うから仕方ないけれど。
「いや、オレには楽しそうに見えたけどな!」
ユーゴが横からチャチャを入れてくる。
「うん! たっ…… 楽しかったよ!」
会話をしながら歩いていると、あっという間にオーベルジュの城に着いた。
「いい夜だったね。よく眠れそうだ」
「うん、当分ゆっくりするか! マモン達の情報は無いしな。魔都に居ると思っていいだろ」
「そうだね、王都の斥候とかがいるんでしょ? その情報を待つのが一番だね。レオナード王に情報もらうように頼んでみるのがいいかな」
「じゃ、みんな、おやすみ!」
「あぁ、おやすみ!」
それぞれの部屋に戻ろうとした時、すれ違いざまにユーゴが小声で囁いた。
(エミリー、明後日頑張れよ)
「え!?」
(あぁ、うん……)
やっぱりユーゴには聞かれていたんだ。
頑張る? 何を? ……いや、分かってる。余計なお世話だと思いつつも、背中を押されたような気がして、私は自分の部屋へと戻った。
「エミリーちゃんはいくつなの? あ……女性に歳を聞くのは失礼かな……僕まだ慣れてなくて」
「え!? あ……いや、大丈夫だよ。十九歳……」
「そうなんだ、僕とそんなに変わらないね。僕は二十歳だ、エミリーちゃんの一つ上だね」
そう言って彼が微笑むと、胸がキュッと締め付けられるような感覚に襲われた。これが、前にジュリアが言っていた感覚なんだろうか。笑顔一つで、こんなにも心が揺さぶられるなんて。
「マ……マシュー君は……あっ、マシュー君って呼んだらいいのかな? さっき、男か女か分からないって……」
「あぁ、身体的な性は男だからね、普通はそう呼ばれるね。でも、好きなように呼んでくれたらいい。歳は変わらないんだ、マシューでいいよ」
「じゃぁ……エミリーって呼んでくれる……? マ……マシュー」
「あぁ、そう呼ばせてもらうよ、エミリー」
名前を呼ばれた瞬間、体温が一気に上がった気がした。どうしよう、変な汗が出てきそうだ。
「どうしたエミリー。具合悪いのか? いつもの元気がないぞ?」
私の異変に気付いたのか、ジュリアが心配そうに顔を覗き込んできた。
「えっ? ごめん、何か気に障る事言っちゃったかな……?」
マシューまで不安そうな顔をしている。まずい、余計な心配をかけちゃった。
「いやいやいや! 私は元気だよ! 何言ってんのさジュリア!」
慌てて否定して明るく振る舞うけれど、恥ずかしくてまともにマシューの顔を見ることができない。私は逃げるように顔を反対側へと背けた。
ふと視線を感じてそっちを見ると、ユーゴがニヤニヤと面白がるような目で私を見ていた。何、あの顔。すごく腹が立つ。
「ねぇ、エミリー達はすごい狩猟者なんでしょ? 僕も小さい頃はハンターに憧れてたんだ」
マシューが話題を変えてくれた。
「そうなんだ……私はジュリアに色々教えてもらって、自然とハンターになってたな……」
「剣と魔法は小さい頃から教えてもらってたんだけど、性自認で悩み始めてから内向的になっちゃって……ここで働き始めてから、やっと昔みたいに喋れるようになったんだ」
その言葉の端々から、彼がこれまで抱えてきた葛藤の深さが伝わってくる。すごく悩んで、苦しんできたんだ。
「ハンターになりたいの……?」
「今からじゃ遅すぎるかなぁ……」
「そっ、そんな事ないよ! 遅すぎるなんてことはないよ」
私が勢いよく答えると、彼は少し驚いたように、でも嬉しそうに目を細めた。
「一応、剣は振り続けてるし、魔法も反復して練習してる。でも、師匠とは疎遠になっちゃったな……」
「じゃ……私で良ければ……時間のある時教えるよ……?」
口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。まともに顔も見れないのに、教えるなんて事できるの? でも、彼と関わりたいという気持ちが勝ってしまった。
「ホントに!? やった! 今日初めて会ったのに、約束をするのは図々しいかな……?」
「いや! そんな事ないよ!」
「ホントに? じゃぁ、明後日の朝は空いてる?」
「うん、大丈夫だよ……」
「じゃ明後日の朝、南門前で待ち合わせでどう?」
「うん、わかったよ……」
「やった! 剣の手入れしとかないと!」
約束をしてしまった。楽しみ半分、そして残りの半分は……正体の分からない不安と高揚感が渦巻いてる。
「よし、今日は帰ろうか!」
「あらそう? 楽しい時間はあっという間ね」
ユーゴの言葉に、心の中で「もう帰るの!?」と叫んでしまった。もっとここにいたい、もっと話していたい。
「ん? エミリーどうした?」
「え!? い……いや、何でもないよ? 帰ろうか」
私は平静を装って立ち上がった。
「じゃ、モレクさんありがとう。また来るよ」
「みんな、またなー!」
『ありがとうございましたぁ~!』
皆で店を出て、夜の王都を城に向かって歩き始めた。夜風が火照った頬に心地いい。
「エミリー、今日はなんか調子悪そうだったな。大丈夫か?」
「え!? そんな事無いって!」
ジュリアがまだ心配している。鈍感な彼女でも、私がいつもと違うように見えたんだろう。まあ、私自身もそう思うから仕方ないけれど。
「いや、オレには楽しそうに見えたけどな!」
ユーゴが横からチャチャを入れてくる。
「うん! たっ…… 楽しかったよ!」
会話をしながら歩いていると、あっという間にオーベルジュの城に着いた。
「いい夜だったね。よく眠れそうだ」
「うん、当分ゆっくりするか! マモン達の情報は無いしな。魔都に居ると思っていいだろ」
「そうだね、王都の斥候とかがいるんでしょ? その情報を待つのが一番だね。レオナード王に情報もらうように頼んでみるのがいいかな」
「じゃ、みんな、おやすみ!」
「あぁ、おやすみ!」
それぞれの部屋に戻ろうとした時、すれ違いざまにユーゴが小声で囁いた。
(エミリー、明後日頑張れよ)
「え!?」
(あぁ、うん……)
やっぱりユーゴには聞かれていたんだ。
頑張る? 何を? ……いや、分かってる。余計なお世話だと思いつつも、背中を押されたような気がして、私は自分の部屋へと戻った。
0
あなたにおすすめの小説
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる