- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
119 / 260
第三章 大陸冒険編

エミリーの恋 3

しおりを挟む
 王都に帰ってきた。
 マシューは王都の住民カードを持っているから、あの長い検問の列に並ぶ必要はない。
 
 彼が案内してくれたのは、路地裏にあるこぢんまりとしたお店だった。ドアを開けると、食欲をそそる独特な香りが漂ってくる。

「ここのカレーライスが絶品なんだ」
「カレーライス?」
「うん、肉や野菜をスパイスで煮込んだ料理だよ。僕はライスにかけて食べるのがお気に入りだ」

 初めて聞く料理名だ。私はマシューのおすすめ通りに注文した。
 運ばれてきたのは、とろりとした茶色のソースがかかったライス。湯気と共に鼻をくすぐる香りに、喉が鳴る。

「この料理は初めてだね、大抵食べたと思ったけど……」

 スプーンですくって口に運ぶ。
 その瞬間、鮮烈なスパイスの香りが鼻から抜け、その後に深いコクや野菜の甘み、肉の旨味が口いっぱいに広がった。

「美味しい! なにこれ!」
「良かった! 気に入ってくれたかな」
「うん、ライスとすっごく合うね!」
「スパイスでもっと辛くしたりできるんだよ。僕はもう少し辛いのが好きだな」
 
 これは皆にも教える必要がある。特にトーマスなら、スパイスの調合からこだわって再現するに違いない。
 

 半日以上マシューと一緒にいて、緊張も解け、ようやく彼の目をしっかり見て話せるようになってきた。
 屈託のない笑顔を向けてくれるマシューを見ているだけで、心が浮き立つような楽しい気分になる。もっと一緒にいたい。

「マシュー、今日はこれから用事ある?」
「いや、今日はお店にも行かないからね。何もないよ?」

 チャンスだ。私は勇気を出して切り出した。

「あの……今日一日遊ばない……?」
「うん、いいよ! どこに行こっか?」
「ホントに!?」

 嬉しさのあまり声が裏返りそうになる。

「私はギャン……いや、あまり遊びに行く事が少ないから、マシューにお任せしたいな」

 危ない。うっかり「ギャンブル」と言いかけて飲み込んだ。カジノに入り浸っているなんて知られたら引かれてしまうかもしれない。

 マシューが真剣な顔で考えてくれている。
 正直、彼と一緒ならどこでも良いんだけど。

「ベタだけど、シャーリーズパークに行く?」
「行ったことないな」
「ホントに? じゃ、行こうよ! 僕も小さい頃に行ったっきりだ」

 店を出て西エリアに向かった。
 大きなゲートが見えてくる。いつも空を飛んで通り過ぎていただけだったから、ここ何なのか気にもしていなかった。
 ただの公園かと思っていたけど、中には色鮮やかな建物や、たくさんのキャラクターたちが歩いているのが見える。

「シャーリー・ベルナールっていうデザイナーがデザインしたキャラクターのテーマパークだよ」
「あ、あれ見たことある!」
「あぁ、ピンキーキャットだね。一番人気の猫のキャラクターだよ」

 チケットを買うための列に並ぶ。

「私が誘ったんだ、払うよ!」
「ダメだよ、ここを選んだのは僕なんだから」
「んー、分かった! 自分の分は自分で買おう!」
「えー、良いのにホントに」
「いいの! また遊んで欲しいんだから!」

 そう言って、私は自分の財布を取り出した。「また次がある」という口実を作りたかったんだ。
 チケットを買い、パーク内へと足を踏み入れる。

 あちこちに可愛いキャラクターたちがいて、音楽が流れている。対象年齢は低そうだけど、不思議な高揚感があって大人でも十分楽しめそうだ。

「あ、エミリー! あれに乗ろうよ!」

 マシューが指差した先には、コーヒーカップのような形をした乗り物がクルクルと回っていた。

「うん、行ってみよう!」

 二人乗りのカップにマシューと乗り込み、肩が触れ合う距離にドキドキしながらベルトを締める。
 軽快な音楽と共に、カップが支柱を中心に回転し始めた。

「へー! すごいねこれ!」
「うん、子供の乗り物だけどね。童心に帰れてなかなか良いだろ?」

 回る景色の中でマシューが笑う。なんて可愛い笑顔なんだろう。胸が締め付けられるように愛おしい。

「今度はあれに乗ろうよ!」

 それから私達は、子供のようにはしゃいでパーク中を走り回った。
 いつもの三人と一緒にいるのもすごく楽しいし、居心地がいい。でも、マシューとの時間は何かが違う。胸の奥が甘く痺れるような、特別な楽しさだ。

 陽が傾き始め、空がオレンジ色に染まり始めた頃。

「最後に観覧車乗ろうよ!」
「あのおっきいやつ?」

 私たちは、ゆっくりと回る巨大な輪の下へと向かい、二人きりの小さなゴンドラへと乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...