- Mix blood -

久悟

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第三章 大陸冒険編

エミリーの恋 4

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 観覧車のゴンドラの中は、思った以上に狭かった。
 ゆっくりと回転する箱は徐々に高度を上げていく。窓の外には、王都の夜景が宝石箱をひっくり返したように広がっていた。

「これは高い所を楽しむの?」
「それもあるけど、普通の男女はこういう二人だけの空間を楽しむみたいだよ」

 マシューの言葉に、心臓が跳ねる。
 そっか、マシューは「恋愛とかが解らない」って言ってた。私も今まで分からなかったけど、今、この狭い空間で彼と二人きりでいることのドキドキが、その答えなのかもしれない。

「マシューは誰かを好きになったことは無いの?」
「ん? それは誰かを愛した事があるか、ってこと?」
「うん、それもあるけど、もっと単純な話。一緒にいて楽しいなとか、また一緒に過ごしたいなとか」
「それはもちろんあるよ」
「私はマシューと一日いて、すっごく楽しかったよ? そういう意味で言えば、私は……マシューの事好きだな……」

 口に出してしまった瞬間、時が止まったような気がした。熱が顔に集まるのが分かる。

「そっか、僕も今日一日楽しかったよ。そんなに深く考える事じゃないのかもね……でも、今まで生きてきて、性が男に寄ったり女に寄ったりする時期があるんだ。そういう時は凄く悩むんだ……」

 マシューは夜景を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「そっか……それは悩むよね」
「自分の性も分からない、愛するべき相手の性も分からないんだ。人を愛するっていうのは、僕には分からない感情だね……でも、エミリーとはまた遊びたいな。これが好きって事なのかな? 分からないや」

 その言葉だけで十分だった。「また遊びたい」って言ってくれた。それだけで、胸の中がいっぱいになる。

「じゃあ、また遊んでよ! 術の経過報告以外にもさ!」
「うん、もちろんだよ! また誘って欲しい。僕も誘うよ。そうだ」

 マシューはポケットから紙とペンを取り出し、さらさらと何かを書いて私に手渡してくれた。

「これ、僕の家だ、いつでも遊びに来てよ。また教えてほしいこともあるしさ」

 住所が書かれた紙切れが、今の私にはどんな宝石よりも輝いて見える。これは師弟関係としての誘いかもしれないけれど、それでもいい。また会える口実ができたんだから。

「うん、また遊びに行くね!」

 パークを出て、南エリアの繁華街まで戻ってきた。

「エミリー、今日は一日ありがとう! 凄く楽しかったよ。術も毎日修練するよ!」
「うん! また遊ぼうね! 分からないことあったらいつでも聞いてね!」

 手を振って別れる。彼の背中が見えなくなるまで見送った後、私は大きく深呼吸をした。
 
 あぁ、楽しかった。また会えるんだ。
 幸福感に浸っていると、私のお腹がグゥ~と間の抜けた音を立てた。そういえば、昼のカレー以来何も食べていない。
 冒険野郎に行こう。あそこならきっと皆もいるはず。
 
 
 店に近づくと、三人の馴染みある魔力を感じた。
 ドアを押し開けると、案の定、手前の席でジョッキを掲げている三人の姿が見えた。

「おぉ、エミリー! アタシ達は今日も大儲けだよ! もうギャンブルで使い切れないかもな……」
「あぁ、今日も乱獲したな。ワイバーン絶滅するんじゃないか?」

 ジュリアとユーゴがご機嫌で迎えてくれる。
 私はビールと食事を頼んで、席に着いた。

「トーマスはどうだった?」
「あぁ、なかなか腕のいい職人だったよ。いまは革をなめしてる途中だ。あの革はすごいよ! 確実に特級品の防具が出来上がる」
「へぇ凄い……それは楽しみだね」

 やっぱりこの三人と一緒だと落ち着く。さっきまでのフワフワした気持ちが少し落ち着いて、いつもの「エミリー」に戻れた気がした。
 
「トーマス! バーに連れて行ってもらう約束だったな!」
「あぁ、行こうかジュリア」
「オレが払っとくからいいよ。今日は儲けすぎた」
「そうか? じゃ、頼むよ!」

 ジュリアとトーマスは楽しそうに連れ立って出ていった。
 テーブルには私とユーゴが残された。

「エミリー、今日は楽しかったか?」
「うん、すっごく楽しかった」
「マシューが好きなんだろ?」

 不意打ちのような問いかけに、私はビールを吹き出しそうになった。

「うん……今日一日を一緒に過ごして分かった。私はマシューが好きだよ」
「マシューは自分の性が分からないって言ってたな……でも、エミリーにはそんな事は関係ないんだろ?」
「うん、男とか女とか関係ない。私はマシューが好き」
「いつか伝わるよ。エミリーの想いは純粋だ」
「うん……ありがとう」

 ユーゴは分かってくれている。
 そう言えば一昨日も、すれ違いざまに「頑張れ」って言ってくれた。全部お見通しだったんだ。

「トーマスも気付いてるぞ?」
「え……何で……?」
「エミリー、お前は分かり易すぎる。それがお前の良いところなんだけどな。気付いてないのはジュリアだけだ、モレクさんも多分わかってる。マシューに言うことはないから安心しろ」

 あぁ、それで今日はジュリアを依頼に誘ってくれたんだ。私がデートに行きやすいように。

「ユーゴ、気を使わせたね……」
「いいって! オレは嬉しいんだ。エミリーを応援したい」
「今日一日、マシューの笑顔を見る度に胸がキュッてなるんだ……」
「それが恋だな、正常な反応だ」
「やっぱりそうなんだ……ジュリアもレトルコメルスでそんなこと言ってたな」
「え……? 誰に?」

 ユーゴが目を丸くする。
 言っていいのかなこれ……? まぁいっか、ユーゴなら言いふらすこともないだろうし。

「トーマスと二人で一日遊んでた日あったでしょ? ジュリアがオシャレしてた日」
「あぁ、あったな」
「その日の夜、トーマスと一緒にいて胸が締め付けられるような瞬間が何回もあったって言ってた」
「てことは……ジュリアはトーマスに恋をしてるってことか……?」
「私の事を重ね合わせたら、そうかもしれないね」
「ジュリアは恐らく恋に気づいてないな……だとしたら、今のシチュエーションは最高だな。いや、その前にあの二人は仙神国まで二人きりだった。しかもサウナで裸の付き合いもしてる。もしかするともう既に……」

 ユーゴの妄想が暴走し始めているけど……そっか、トーマスとジュリアは二人でバーに行ったんだもんね。いい雰囲気になっているのかもしれない。

「ジュリアに言ってみようかな? トーマスの事が好きなのかもよって」
「あいつは……変に意識してギクシャクしないか……?」
「あぁ、そうかもね……」
「うん、やめとこう……」

 私には分かってくれる仲間がいる。一人で悩まなくても相談できる相手がいる。それだけで随分と心強い。

「ユーゴは、エマが好きなんでしょ?」
「え……? あぁ、うん、まぁそうだな……」
「おっぱいおっきかったもんね」
「おい! それだけで好きにならねーよ!」
「分かってるよ。何ムキになってんのさ」
「あ、いや……すまん……」

 図星を突かれたように慌てるユーゴがおかしくて、私は笑ってしまった。

「エマが言ってたよ。すごい美人とすごい可愛い子が一緒だから心配だって」
「ジュリアと私の事?」
「あぁ、オレ達から見てもエミリーは可愛いと思う。心配はするわな」
「ユーゴは……無いわ……」
「おい、ハッキリ言うな。ヘコむから」

 ユーゴの奢りで店を出た。
 聞けば、今日は五百万ブールくらい儲けたらしい。私が一人で行ってもそれくらい稼ぐ自信はあるけれど、素直にごちそうになっておこう。

 マシューに武具を買ってあげても良いのかな。でも、男性としてのプライドとかあるのかな……難しいな。

「ユーゴ、ごちそうさま」
「いや、いいよ。頑張れよエミリー」
「うん、今のところマシューは私の弟子でしか無いからね。マシューはアタッカーなんだ、またユーゴに相談してもいいかな?」
「あぁ、もちろん」
「ありがとう! おやすみ!」
「あぁ、おやすみ!」

 やっぱりユーゴはいい奴だ。出会った頃からそうだった。根っからのお人好しで、仲間のことを一番に考えてくれる。

 私の恋は始まったばかりだ。
 どうなるか分からないけど、なるようにしかならない。
 
 随分と遅くなってしまった。
 風呂に入ってゆっくり休もう。
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