- Mix blood -

久悟

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第三章 大陸冒険編

ランクアップ

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「ほらよ、Aランクおめでとう。報酬は90万ブールだ。まさか三体も倒してくるとはな」
「ありがとうございます!」

 マシューが震える手で報酬を受け取る。
 あの動きを見る限り、もう少し実戦経験を積んで練気の扱いを洗練させれば、Sランクもそう遠くないはずだ。

 ランクアップの手続きが終わると、エミリーがマシューに歩み寄った。

「じっとしててね」

 彼女が手をかざし『快癒』をかける。淡い光がマシューを包み込み、見る間に生傷が塞がっていく。

「おぉ……傷が綺麗に消えた……すごいね……」
 
 マシューが感嘆の声を上げて自分の体を見回す。
 体の傷は綺麗に治ったけど、ユニコーンの風魔法で切り裂かれた革鎧までは治らない。
 オレ達はそのまま武器屋街へと向かった。
 

 店に入り、刀のコーナーを見て回る。

「レトルコメルスでは二級品の上位で120万、下位で60万だったな」
「上位は無理か……」

 マシューが値札を見て肩を落とす。
 ふと気になり、店主に声を掛けた。

「すみません、ここに置いてある刀は基本的にリーベン島の品ですか?」
「いや、そんな事はないよ。最近は刀の需要があるからね、王都で作られた刀も多い。そっちは輸送費がかからない分、比較的安価だね」

 確かに、同じ等級表記でも価格に開きがある。

「この120万前後の刀がリーベン島の品ですか?」
「そうだね。同じ二級品上位でも、王都の品は90万前後で出しているよ」

 オレは両方を手に取り、軽く練気を流してみた。
 王都製の刀は、練気が刀身の中で詰まるような不快感がある。重心も悪い。対して、リーベン島製の刀は練気が吸い込まれるように通り、手の一部になったかのような感覚がある。ヤンさんの刀を使い続けているオレ達にしか分からない感覚だろうけど。
 とにかく、全く違う。王都製のものは形だけ真似た鉄の塊だ。

「エミリー、王都の刀を持ってみてくれ」
「ん? ……あぁ、こんなの刀じゃないよ。これはダメだ」

 手にした瞬間、エミリーも顔をしかめた。

「そうだよな。マシュー、高くてもリーベン島の刀を買った方が良い。全くの別物だ」
「じゃ、二級品下位の63万かな?」
「いや、オレに選ばせてくれ」

 オレは棚に並ぶ刀の中から、一際異彩を放つ一本を手に取った。
 鞘の装飾は地味だけど、そこから漏れ出る気配が違う。少し抜いて刀身を見ると、美しい刃紋が波打っていた。
 練気の乗りも抜群にいい。

「これはヤンガス・リー作ですね?」
「そうだね。刻印も見ずに良く分かったね」

 店主が感心したように頷く。
 価格は二級品の上位で125万ブール。

「オレはこの刀をマシューに持たせたい。足りない分はオレかエミリーが出す。ユニコーン一体分だ。あとで返してくれたらいい。それでいいなエミリー?」
「うん、もちろんだよ! 何なら私が全部出してもいいけど……」
「いや、それはダメだ。必ず返す、貸してくれるかい?」
「うん、いいよ! ユーゴ、私が出す。よく会うのは私だからね」
「ありがとう!」

 マシューは深々と頭を下げ、念願の刀を手に入れた。
 二級品の上位、しかもヤンさんの刀だ。それに見合う剣士になろうと、彼は必死に努力するはずだ。

 店を出ると、夕暮れの街は家路につく人々で賑わっていた。

「ユーゴ君、エミリー、今日はありがとう! もし良かったらディナーに行かないか? ごちそうさせて欲しい」
「あぁ、ごめんよマシュー。オレ今から約束があるんだよ……お礼はエミリーにしてやってくれ」
「そうか……それは残念だね……またご飯行こうよ! エミリーは大丈夫?」
「え!? あぁ……私は大丈夫だよ!」

 マシューとエミリーが並んで歩いていくのを見送る。
 用事なんて無いんだけどな。二人の時間を邪魔するのは野暮というものだ。エミリーの為にも、ここは引くのが正解だろう。

 さて、帰るか。
 
 何処かで夕食を済ませて帰ろうかとも思ったけど、下手に店に入って二人と鉢合わせたら気まずい。真っ直ぐに城へ帰ることにした。
 
 大通りを歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。

「リナさん!」
「あ……ユーゴ様!」

 振り返った彼女は、いつものメイド服ではなく、落ち着いた色合いの私服姿だった。髪も下ろしていて、印象が随分と違う。
 メイド姿はもちろんいいけど、こういう年相応の姿も新鮮で可愛い。

「今日は休みですか?」
「はい、お休みを頂いたのでショッピングをしてました」
「朝見なかったもんね。今から帰るんですか?」
「はい、何か食べて帰ろうかなぁって思ってたんですが、中々決められなくて……」
「リナさんはお酒は飲むの?」
「はい、そこまで強くはありませんけど……」
「じゃ、オレ達の行きつけに行かない?」
「本当ですか? 行ってみたいです!」

 二つ返事で了承してくれたリナさんを連れて、オレは冒険野郎のドアを押し開けた。二人は逆方向に歩いて行った。鉢合わせる心配はないだろう。

「リナさん何飲む?」
「じゃあ、ビールを頂きましょうかね」

 ビールを二つ頼み、運ばれてきたジョッキを掲げる。

『カンパーイ!』

 カチンとグラスを合わせ、勢い良く喉を鳴らす。リナさんはジョッキの半分以上を一気に飲み干し、「プハァ」と息を吐いた。意外と酒は強そうだ。
 
「はぁ……美味しい」
「いやぁ、ちょうどリナさんがいて良かった」
「私もです! 一人でお酒飲めないもので……」
「オレも、みんなとじゃないと行かないかなぁ……」

 ふと、彼女の胸元で何かがキラリと光った。
 
「あ、ペンダント着けてくれてるんだ」
「あぁ、はい。すっごく気に入ってるんです。大事にしますね!」

 リナが嬉しそうにペンダントに触れる。
 あげた物をこうして身につけてくれているのを見ると、こっちまで嬉しくなるもんだ。 

 酒が進むにつれ、会話も弾んだ。
 リナさんは明るく気さくな女性だ。普段はメイドとして一歩引いているけど、こうして話すと話題も豊富で、気配りも心地よい。

「いゃあ、食った飲んだ……」
「本当ですね……久しぶりにこんなに飲みました。こんなに笑ったの久しぶりです。ありがとうございました!」
「うん、オレも楽しかったです。また行かない?」
「本当ですか!? また是非!」

 店を出て、二人で夜道を歩く。

「じゃ、おやすみなさい! 今日はお風呂で会わないように、オレは直ぐに済ませるよ……」
「いえ、私は全然大丈夫ですが……やっぱり恥ずかしいですね……」
 
 リナさんが頬を赤らめて笑う。
 楽しかった。
 ふと、エマの顔が浮かんだ。またデートしに行かないとな。あまり放っておくと、忘れられてしまうかもしれない。

 ほろ酔いの心地よい気分のままオーベルジュの城へ戻り、風呂を軽く済ませてから、オレは深く眠りについた。
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