- Mix blood -

久悟

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第三章 大陸冒険編

シュエンの記憶 3

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 旅を続けて、どれくらいの月日が流れただろうか。
 王国内の全ての町を巡り、多くの景色を見てきた。退屈だった島の生活とは比べ物にならないほど、大陸の旅は刺激に満ちていた。

 今やソフィアの戦闘スタイルは、ほぼ龍族のそれだ。貸し与えた『春雪』も、完全に自分の手足のように使いこなしていた。
 そして俺も、術に自然エネルギー組み込むことで、その威力は全く別物に昇華されている。
 
 ソフィアの魔力量は異常だ。俺など比較にもならない。術の精度や繊細なコントロールに関してはまだ俺に分があるが、純粋な出力で勝負すれば俺が負けるかもしれない。それほどの才能だった。

 色々な町を拠点に転々としてきたが、あれ以来、ソフィアは体内の魔神を上手く抑え込んでいる。
 あの日から二十数年、奴が表に出てきたのはたった一度だけだ。

 ある夜、焚き火を囲みながらふと尋ねた。

「ソフィア、いくつになった?」
「三十五歳だよ」
「人族で言えば、どう見ても二十歳そこそこにしか見えないな。やっぱり長寿命族だったか」
「シュエンもそうだよね。いくつなの?」
「幾つだろう……百五十歳にはならないと思うが……」
「まぁ、知ってたけど、長いこと生きてるのね」
「ここ二十年ほどが、俺の人生で一番充実してるよ。ありがとう、ソフィア」

 俺が素直な感謝を伝えると、ソフィアは微笑み、そして少しだけ拗ねたような顔をした。

「こちらこそだよ。でも……」

 でも? 言葉の続きを待つ。

「シュエン、あなたいい加減気付かないの……? もう二十三年も一緒にいるのよ?」
 
 心臓が大きく跳ねた。
 俺はソフィアを愛している。旅のパートナーとしてではなく、一人の女性として。
 彼女の言葉は、そういう意味と捉えていいのか? それとも全く違う話をしているのだろうか。不安が頭をよぎるが、ここで逃げてはいけない気がした。
 
「お前こそ気付いてないのか……?」
「え……?」
「間違ってたら凄く恥ずかしいが……」

 ええぃ、言ってしまえ! 俺は覚悟を決めた。

「俺はお前を愛している。もう二十年近く、ずっとだ」

「え……?」

 ソフィアがぽかんと口を開けた。
 しまった、違ったか? 俺の早とちりだったのかと冷や汗が流れる。

「遅いよバカ。じゃあもっと早く言いなさいよ」

 次の瞬間、ソフィアは目に涙を浮かべ、俺に飛びついてきた。

「シュエン、私と一緒になってくれる?」
「あぁ、もちろん……よろしく頼む」

 俺は彼女を強く抱きしめた。

「今までと何も変わらないけどね」
「そうだな。もうすぐゴルドホークに着く。そこで式をあげようか」
「うん、ゴルドホークなら何人か知り合いがいるね」
「あぁ、皆の前で愛を誓うのもいいな。でも、俺達が変わってなさすぎて驚かないか……?」
「そうかもね……」

 俺達は笑い合った。

 
 ◆◆◆
 

 二度目のゴルドホーク滞在だ。
 昨日の結婚式は、この街で知り合った友人たちが盛大に祝福してくれた。まさかパーティーまで開いてくれるとは思わなかった。
 
「昨日は楽しかったね! みんな来てくれた」
「あぁ、前回滞在したのは何年前だ? ありがたかったな」

 俺達は話し合い、当分はここを拠点にすることに決めた。
 ソフィアの中の魔神の件もある。密集地よりは、少し離れた場所の方がいい。俺達は町の外れにある空き家を買い取り、新居とした。

「綺麗に直してくれたね、新築みたいだ」
「あぁ、壁も床も張り替えたからな。当分はここが拠点だ」
「私はこれからシュエンの姓を名乗るのよね? 聞いた事なかったけど」
「いや、俺の姓は故郷に置いてきた。俺がソフィアの姓を名乗るよ」

 俺の正体に関わる名は、ここでは必要ない。

「二十年以上言わずに過ごしてきたね。私の名前は『ソフィア・グランディール』よ。よろしくね」
「じゃあ、俺はシュエン・グランディールだな」

 グランディール。悪くない響きだ。
 夫婦になった今、ソフィアだけには俺の秘密を話しても良いだろう。

「あと、俺は人族じゃない」
「分かってるって……どこに百五十歳の人族がいるのよ……」

 ソフィアが呆れたように笑う。

「あぁ、俺は龍族だ。始祖四王、龍王の末子だ」
「そうなの……? そこまで大物の血筋だとは思わなかったわ……」
「ソフィアの出生は、言えないのなら聞かない。人族じゃないのは分かっている。俺達に子は望めないな」
「どうかな、分からないわよ?」
「まぁ、異種族間の例はあるからな。確かに分からない」

 王都やレトルコメルスなど、都会でも生活してきたが、俺達にはこういう長閑のどかな場所が合っているようだ。
 家の前には大きな庭があり、いくらでも畑が作れる。

「ソフィアは野菜栽培に夢中だな」
「うん、意外と奥が深いのよ。獣や鳥との戦いよ……正直、買った方が安いわね」
「まぁ、経験は金じゃ買えないさ」

 俺達はSランク狩猟者ハンターになっていた。
 それより上には興味が無かったが、ゴルドホークにSSランクの依頼があれば受けてみようかと思っていた。しかし、この平和な街にはそんな危険な依頼はないようだ。
 むしろ、Sランク狩猟者ハンター自体がいない。

「シュエンも、ギルドの依頼に忙しそうね」
「あぁ、Sランクどころか、Aランク狩猟者ハンターも数えるくらいしかいないんだ。高ランクの依頼を受ける者がいないからって、ギルドの職員が家までわざわざ頼みに来るんだ。他の町のギルドじゃ考えられない」
「でも、その分報酬はいいんでしょ?」
「そうだな。正直、金はもう使いきれないほどあるが……」

 頼られると断れないのが、俺の悪い癖だ。

 
 ◆◆◆

 
 ここに住み始めて一年と少しか。
 最近、ソフィアの体調が優れないようだ。

「ソフィア、大丈夫か……?」
「なんだろうねこれ、なんの病気だろう」
「医者に行こう」

 不安を抱えながら、ソフィアを連れて町医者を訪ねた。
 診察を終えた医師は、笑顔で告げた。

「おめでたですね」
「おめでた……? 何がだ?」
「何がって……妊娠してますねって事ですよ」
「え!? 妊娠!?」
「まさか……私に子供が……?」

 二人して顔を見合わせた。
 まさかだ。
 鬼人の事もある、しかもソフィアは人族じゃない。俺も龍族だ。
 かつて、父にも釘を刺されたことを思い出す。生まれてくる子供の力、そしてソフィアの体調。気にして見ておく必要がある。
 しかし、不安よりも先に、腹の底から熱いものが込み上げてきた。俺に子が出来る。嬉しさが不安を塗り替えていく。

 
 ◆◆◆

 
 ゴルドホークに滞在して二年。
 ソフィアは元気な男の子を出産した。

「ソフィア! よく頑張った!」
「はぁ……こんな痛い事あるんだね……Sランク魔物の攻撃の方がマシだよ。でも、可愛い。ほら、息子だよ」

 ソフィアが抱く小さな命を見る。俺達の血を引く子だ。

「まさか本当に俺達に子供が出来るとはな。分かってたのか?」
「さぁね、何事も可能性がゼロなんて事は無いよ」
「まぁ、そうだ」

 二人で数日考え抜き、この子に『ユーゴ』と名付けた。

 
 ◆◆◆

 
 月日は流れ、ユーゴはすくすくと育っている。
 もう五歳になる。
 生まれつき魔力量が多いのは母譲りだが、今のところ暴走する気配はない。

「父さん! 今日はお出かけできる?」

 ユーゴが期待に満ちた目で俺を見上げる。

「あぁ、連れて行ってやりたいが……また依頼を頼まれてるんだ。帰ったら庭で遊ぼうな」
「そっか……父さん、えすらんくだもんね。仕方ないよ」

 小さな背中が寂しそうに見える。
 たまには遊びに連れて行ってやらないとな……。
 
「はぁ……俺は本当にお人好しだな……頼まれたら断れん……」
「そのお人好しのおかげで、私は今ここで幸せに暮らせてるんだけど?」

 ソフィアが茶化すように言う。

「そう言ってくれるとありがたいな……けど、普通は他人の頼みよりも、息子の頼みを優先するもんだよな……」
「今約束しといたら?」
「あぁ、そうするか。でないとまた依頼を受けてしまう」

 俺はユーゴを手招きして抱き寄せた。
 
「ユーゴ、明後日遊びに行こう。どこに行きたい?」
「ホントに!? ハイキングに行きたい!」
「ハイキング? そんなので良いのか?」
「うん! 母さん、お弁当作ってくれる? みんなで食べたいな」
「分かったわ、任せて!」
「よし、約束だ。ちゃんと起きろよ?」
「やった! 約束だよ!」

 ユーゴの弾けるような笑顔を見て、俺は心に誓った。
 これで約束を破ったら、父親失格だ。何があっても明後日は空けよう。
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