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第四章 魔人の過去編
ジョカルド
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ジョカルドの町に着いた。
王都に近い立地だけあって、なかなかに大きな町ね。人通りも多く、活気がある。
けれど、町に入ってすぐに、強烈な何かの匂いが鼻をついた。
何かしら、この刺激的な匂いは。
路地に入ると、その匂いはさらに濃度を増して漂ってくる。
「ねぇ、アレクサンド。この匂いは何……? 食べ物の匂いよね?」
「あぁ、そうだな、ガーリックという香りの強い野菜の匂いだ。獣の肉を焼いて、ガーリックを使ったソースや薬味で食べる料理がこの町の名物でね。あとは香辛料に野菜を漬けて発酵させた保存食もある。独特な食文化があるが、癖になる味だよ。ボクは結構好きな町だ」
アレクサンドが鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
「ほら見てみろ、歩いているレディ達もなかなかいい。肌が綺麗な子が多いな」
「へぇ、初めてだわ、楽しみね。とりあえずいいホテルを探しましょ」
道行く人に尋ねれば、この町一番のホテルはすぐに見つかった。
ベッドの質は妥協できない。それはワタシにとって、旅先での最低限の条件だ。
「おまたせ、ご飯を食べに行こうかしら?」
支度を終えたワタシに、アレクサンドが呆れた声を上げる。
「遅いよマモン……部屋に荷物を置くだけで、何をする事があるんだ」
「なによ、お化粧直したり着替えたり、レディには色々あるのよ。無粋な男には分からないわ」
「あぁ、そうかい……その大量の着替えが入った異空間を維持してやってるのはボクだぞ……」
「それは感謝するわ、ありがとね」
ワタシは悪びれもせず、微笑んでみせた。
外に出ると、やはり独特な匂いが充満している。ただ、不思議と食欲をそそる嫌な匂いではない。
アレクサンドがおすすめだという店に入った。
「ここの焼肉が美味しいんだ」
「くっさいわね! 煙で洋服に匂いが着きそうだわ」
店内に充満する白煙に顔をしかめるが、アレクサンドは意に介さない。
「みんなそうだから気にしなくていい。ここでは、豚や牛の飼育が盛んに行われているらしいんだ」
席に着くと、彼は慣れた様子で注文を済ませた。
「このサムギョプサルが絶品だ。牛も美味いぞ」
鉄板の上で厚切りの肉が音を立てて焼ける。脂が跳ね、香ばしい香りが立ち上る。
焼けた肉を葉野菜にくるみ、赤みがかったタレをたっぷりと付けて口に入れる。
噛み締めた瞬間、肉の脂の甘みと、葉野菜の瑞々しさ、そしてピリッと辛いタレが口の中で混ざり合った。
「あらホント、聞いたことない食べ物だけど美味しいわね。豚の肉かしら? ……ん? この肉、微かに魔力を感じるわね」
「そうだろう? 内臓も美味いんだ、ビールが進むよ。多分これはただの家畜じゃない、豚の魔物だろうね」
なるほど、だからこんなに味が濃厚なのね。
これはハマりそう。付け合わせのキムチという赤い漬物も、辛味の中に酸味と旨味があって箸が止まらない。
「ねぇ、ご主人」
肉を持ってきた店主に声をかける。
「この豚は魔物よね? わざわざ捕まえてくるの?」
「いや、『パク』っていう一族がね、豚の獣と魔物のフレイムピッグを交配して、人を襲わない大人しい魔物を造る事に成功したんだよ。魔力があるから美味いだろ? 庶民が魔物を食べるなんて事は普通は出来ないからね、うちの自慢だよ」
「なるほどね、そりゃ儲けたでしょうね。この美味しさだもの」
人工的に魔物を作り出すとはね。確かに牛も美味しいけど、この豚は本当に絶品だ。肉質のレベルが違う。
「お客さん達、この辺の人じゃないね? 金髪のあんたは昔来てくれたが、赤髪なんて滅多に見るもんじゃないからね。狩猟者かい?」
「えぇ、そうよ。この街には初めて来たわ」
「なら、忠告しとくよ。『ラオン一派』には逆らっちゃダメだよ」
店主が声を潜める。
「ふぅん、こっちから手を出すことは無いわ。で、何者なの?」
「さっき言った豚の畜産で財を築いた、パク一族の子だよ。金と暴力で勢力を伸ばして、今じゃ領主様も手を出せないくらいに大きくなってしまった悪党なんだ」
たかが人族の小悪党だ。ワタシの興味は向かない。
「向こうからケンカふっかけてくるなら、全滅させてやろうかしらね」
「おい、さっきも言ったけど、ボクはこの町を気に入ってるんだ。住みにくくするのはやめてくれよ?」
「分かってるわよ。こっちからは手出ししないわ」
「あんたら、大丈夫かい……?」
店主の心配そうな視線をよそに、ワタシ達は美味しい肉を腹一杯楽しんだ。ここはジョカルドでの行きつけに決定だわ。
「ご主人、ホント美味しかったわ。また来るわね」
「あぁ、ありがとね! 待ってるよ」
店を出ると、アレクサンドは服の匂いなど気にする様子もなく、身嗜みを整え始めた。まあ、同じものを食べていたワタシには分からないけど、焼肉の匂いを漂わせた男に言い寄られる女も気の毒だ。
「……さてと、ボクはレディをナンパしてくるかな」
「アナタ顔だけはいいものね、ついてくる女が可哀想だわ。行ってらっしゃい」
賑やかな通りへと消えていくアレクサンドを見送り、ワタシは一人、当てもなく夜の街を歩き始めた。
少し飲み足りない。デザート代わりに、目の保養になる男前のいるバーがあればいいんだけど。
雰囲気の良さそうな店を見つけ、適当に入ってみる。
カランコロン……
「いらっしゃいませ。こちらのカウンターにどうぞ」
ビンゴね。
ブラウンの髪に、整った顔立ちのバーテンダー。清潔感があって、ワタシ好みの男が出迎えてくれた。
「あら、いい男。甘いカクテルちょうだい」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
男前のバーテンダーが、鮮やかな手つきでシェイカーを振る。その所作も美しい。
「おまたせ致しました。チョコ・コラーダでございます」
差し出されたのは、チョコレート色の甘そうなカクテルだ。
「うん、これは美味しいわ。さっき油っこい肉を食べたところなの。これくらい甘いものが欲しかったわ」
「お口に合って良かったです。ここは畜産が盛んですから、新鮮な牛の乳が豊富なんです。お客様のように甘い物がお好きなら、この街は気に入って頂けるかと思いますよ」
「そうね、気に入ったわ。あなたもいい男だし、この店に通おうかしら?」
「ありがとうございます、是非。私はスヒョンと申します」
「ワタシはマモン、よろしくねスヒョンちゃん」
いい男と飲むお酒は格別だ。
彼との会話を楽しみながらグラスを傾ける。甘いお酒が、今夜は更に甘く感じる。
心地よいほろ酔いだ。
今日はゆっくり休めそうだわ。
王都に近い立地だけあって、なかなかに大きな町ね。人通りも多く、活気がある。
けれど、町に入ってすぐに、強烈な何かの匂いが鼻をついた。
何かしら、この刺激的な匂いは。
路地に入ると、その匂いはさらに濃度を増して漂ってくる。
「ねぇ、アレクサンド。この匂いは何……? 食べ物の匂いよね?」
「あぁ、そうだな、ガーリックという香りの強い野菜の匂いだ。獣の肉を焼いて、ガーリックを使ったソースや薬味で食べる料理がこの町の名物でね。あとは香辛料に野菜を漬けて発酵させた保存食もある。独特な食文化があるが、癖になる味だよ。ボクは結構好きな町だ」
アレクサンドが鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
「ほら見てみろ、歩いているレディ達もなかなかいい。肌が綺麗な子が多いな」
「へぇ、初めてだわ、楽しみね。とりあえずいいホテルを探しましょ」
道行く人に尋ねれば、この町一番のホテルはすぐに見つかった。
ベッドの質は妥協できない。それはワタシにとって、旅先での最低限の条件だ。
「おまたせ、ご飯を食べに行こうかしら?」
支度を終えたワタシに、アレクサンドが呆れた声を上げる。
「遅いよマモン……部屋に荷物を置くだけで、何をする事があるんだ」
「なによ、お化粧直したり着替えたり、レディには色々あるのよ。無粋な男には分からないわ」
「あぁ、そうかい……その大量の着替えが入った異空間を維持してやってるのはボクだぞ……」
「それは感謝するわ、ありがとね」
ワタシは悪びれもせず、微笑んでみせた。
外に出ると、やはり独特な匂いが充満している。ただ、不思議と食欲をそそる嫌な匂いではない。
アレクサンドがおすすめだという店に入った。
「ここの焼肉が美味しいんだ」
「くっさいわね! 煙で洋服に匂いが着きそうだわ」
店内に充満する白煙に顔をしかめるが、アレクサンドは意に介さない。
「みんなそうだから気にしなくていい。ここでは、豚や牛の飼育が盛んに行われているらしいんだ」
席に着くと、彼は慣れた様子で注文を済ませた。
「このサムギョプサルが絶品だ。牛も美味いぞ」
鉄板の上で厚切りの肉が音を立てて焼ける。脂が跳ね、香ばしい香りが立ち上る。
焼けた肉を葉野菜にくるみ、赤みがかったタレをたっぷりと付けて口に入れる。
噛み締めた瞬間、肉の脂の甘みと、葉野菜の瑞々しさ、そしてピリッと辛いタレが口の中で混ざり合った。
「あらホント、聞いたことない食べ物だけど美味しいわね。豚の肉かしら? ……ん? この肉、微かに魔力を感じるわね」
「そうだろう? 内臓も美味いんだ、ビールが進むよ。多分これはただの家畜じゃない、豚の魔物だろうね」
なるほど、だからこんなに味が濃厚なのね。
これはハマりそう。付け合わせのキムチという赤い漬物も、辛味の中に酸味と旨味があって箸が止まらない。
「ねぇ、ご主人」
肉を持ってきた店主に声をかける。
「この豚は魔物よね? わざわざ捕まえてくるの?」
「いや、『パク』っていう一族がね、豚の獣と魔物のフレイムピッグを交配して、人を襲わない大人しい魔物を造る事に成功したんだよ。魔力があるから美味いだろ? 庶民が魔物を食べるなんて事は普通は出来ないからね、うちの自慢だよ」
「なるほどね、そりゃ儲けたでしょうね。この美味しさだもの」
人工的に魔物を作り出すとはね。確かに牛も美味しいけど、この豚は本当に絶品だ。肉質のレベルが違う。
「お客さん達、この辺の人じゃないね? 金髪のあんたは昔来てくれたが、赤髪なんて滅多に見るもんじゃないからね。狩猟者かい?」
「えぇ、そうよ。この街には初めて来たわ」
「なら、忠告しとくよ。『ラオン一派』には逆らっちゃダメだよ」
店主が声を潜める。
「ふぅん、こっちから手を出すことは無いわ。で、何者なの?」
「さっき言った豚の畜産で財を築いた、パク一族の子だよ。金と暴力で勢力を伸ばして、今じゃ領主様も手を出せないくらいに大きくなってしまった悪党なんだ」
たかが人族の小悪党だ。ワタシの興味は向かない。
「向こうからケンカふっかけてくるなら、全滅させてやろうかしらね」
「おい、さっきも言ったけど、ボクはこの町を気に入ってるんだ。住みにくくするのはやめてくれよ?」
「分かってるわよ。こっちからは手出ししないわ」
「あんたら、大丈夫かい……?」
店主の心配そうな視線をよそに、ワタシ達は美味しい肉を腹一杯楽しんだ。ここはジョカルドでの行きつけに決定だわ。
「ご主人、ホント美味しかったわ。また来るわね」
「あぁ、ありがとね! 待ってるよ」
店を出ると、アレクサンドは服の匂いなど気にする様子もなく、身嗜みを整え始めた。まあ、同じものを食べていたワタシには分からないけど、焼肉の匂いを漂わせた男に言い寄られる女も気の毒だ。
「……さてと、ボクはレディをナンパしてくるかな」
「アナタ顔だけはいいものね、ついてくる女が可哀想だわ。行ってらっしゃい」
賑やかな通りへと消えていくアレクサンドを見送り、ワタシは一人、当てもなく夜の街を歩き始めた。
少し飲み足りない。デザート代わりに、目の保養になる男前のいるバーがあればいいんだけど。
雰囲気の良さそうな店を見つけ、適当に入ってみる。
カランコロン……
「いらっしゃいませ。こちらのカウンターにどうぞ」
ビンゴね。
ブラウンの髪に、整った顔立ちのバーテンダー。清潔感があって、ワタシ好みの男が出迎えてくれた。
「あら、いい男。甘いカクテルちょうだい」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
男前のバーテンダーが、鮮やかな手つきでシェイカーを振る。その所作も美しい。
「おまたせ致しました。チョコ・コラーダでございます」
差し出されたのは、チョコレート色の甘そうなカクテルだ。
「うん、これは美味しいわ。さっき油っこい肉を食べたところなの。これくらい甘いものが欲しかったわ」
「お口に合って良かったです。ここは畜産が盛んですから、新鮮な牛の乳が豊富なんです。お客様のように甘い物がお好きなら、この街は気に入って頂けるかと思いますよ」
「そうね、気に入ったわ。あなたもいい男だし、この店に通おうかしら?」
「ありがとうございます、是非。私はスヒョンと申します」
「ワタシはマモン、よろしくねスヒョンちゃん」
いい男と飲むお酒は格別だ。
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番外編①~2020.03.11 終了
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