- Mix blood -

久悟

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第四章 魔人の過去編

魔力吸収

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 翌朝。
 ダイニングには、香ばしいパンとコーヒーの香りが漂っていた。皆でテーブルを囲み、朝食を摂る。

「どう? 眠れたかしら?」
「あぁ、何年ぶりかにぐっすり眠れたよ。頭の中の霧が晴れたようだ。改めて礼を言う」

 シュエンが深々と頭を下げる。顔色は昨日よりも随分と良くなっていた。

「なら良かったわ。早速なまった体を動かさないとね」

 ワタシはカップを置き、気になっていたことを切り出した。

「ところでシュエンちゃん、もしかしてアナタ、魔力を吸収した後に『解放』出来ないの? あんな禍々しい魔力を溜め込んだままじゃ、そりゃあ自我崩壊もするわよ」
「解放……? 一度取り込んだ魔力を、魔法以外で外に出すなんて事が可能なのか?」

 キョトンとするシュエンに、ワタシは呆れて溜息をついた。

「えぇ、魔法を吸収した後に、そのまま撃ち返したり霧散させたりして解放するでしょ? 基本よ」
「……ちょっと待ってくれ。飛んでくる魔法も吸収できるのか? 俺は直接触れて吸い取ることしか……」
「え……? 呆れた。自分の能力を全く把握してないのね……宝の持ち腐れだわ。分かったわ、ワタシが手取り足取り教えてあげる」
「あぁ、頼む……」
 
 
 食事を終え、狩猟者協同組合ハンターギルドに向かった。

「ここでの修練と言えば『ホワイトファング』ね。懐かしいわ」
「あぁ、絶滅するんじゃないかってほど狩ったからな。あれから数年経ってる、個体数も戻っているだろうね」

 手頃な討伐依頼を受け、かつて通い詰めた森へと足を踏み入れる。

「さて、まずはシュエンちゃんの講義を受けようかしら」
「あぁ。お前らの剣の腕は、俺がどうこう言う水準じゃないほど完成されている。だが、練気術の精度を更に上げることで、剣の斬れ味がさらに増すうえに、気力の更なる節約に繋がる。仙術や魔法の威力も底上げされるだろう」
「具体的にはどんな訓練をするんだい?」

 アレクサンドが問う。

「龍族の戦士は、空を飛ぶすべを持たない。そのため『空を駆ける』訓練をする。これが練気術の精度を上げるのに一番役に立つ」
「あぁ、フドウ達がやっていたアレか。なかなかの移動速度だったな」
「空を駆けることが出来れば、フワフワと浮くだけの浮遊術では出来ない、空中での急激な方向転換や加速が可能になる。練気術の精度が増すうえに、空中戦で圧倒的に有利に戦えるようになる」
「なるほどね、理屈は分かったわ。早速皆の脳裏にイメージを映すわね」

 ワタシはシュエンの記憶にある感覚を読み取り、それをアレクサンドとサランに共有した。

「これは……難易度が高いぞ……」
「そうですわね、こんな足裏の使い方はした事もありませんわ」
「あぁ、普通は習得に年単位の時間を要する。だが、お前ら程の使い手ならそこまではかからないだろう。まずは地上で、地面を蹴る感覚を鋭くする練習からだ」

 難易度の高い移動法で術の精度を上げる。理にかなったスパルタ教育ね。
 
 それからワタシ達は来る日も来る日も、襲い来るホワイトファングを狩りながら、ひたすら森を駆け続けた。
 

 ◆◆◆
 
 
 練気術の修練を開始して、はや半年が経った。
 シュエンの体調を考慮して休みは多く取っているから、毎日出かけている訳では無いけど、着実に成果は出ている。
 地面を「掴む」感覚は分かってきた。でも、空気を足場にして駆けるレベルにはまだ至らない。
 
 そんな中、アレクサンドだけは涼しい顔で空を駆け回っていた。流石は千年以上生きている仙族だわ。二ヶ月程でモノにしてしまった。

「お陰で俺の体調も戻ってきた。筋肉のキレも全盛期に近い。ここ数年魔法しか使ってなかったからな。やっと剣や術の勘が取り戻せたよ」

 シュエンも動きに精彩を取り戻している。

「まさかボクが二ヶ月も駆け続けてやっと習得出来るとはね、相当難易度が高いよ。これは皆と一緒に更に修練した方が良さそうだ。確かに練気の扱いが格段に繊細になった」

 アレクサンドが空中で急停止し、方向転換してみせる。悔しいけれど鮮やかね。
 ワタシとサランはまだ空を駆ける事は出来ない。けど、剣に練気を纏わせた時の安定感や切れ味は、半年前とは比べ物にならないほど向上している。

「元々魔族は気力の扱いに慣れていないんだろ? これは仕方ない。幼少期から練気術をずっと使っている龍族ですら、習得出来ない者が多い技術だ。アレクサンドは仙術の扱いが長いからな。仙術の呼吸は、練気術の扱いに通ずるものがある」
「まだ半年だものね、焦りは禁物ね」
「えぇ、急ぐことはありませんわ。格段に剣の斬れ味は増してますもの。進歩はしてますわ」
「コツを掴めば速い、それがなかなか難しいんだがな」

 まあ、あとは自分で感覚を掴むしかないわね。
 そろそろシュエンに、約束していた魔力吸収と解放を教えよう。

「シュエンちゃんに魔力吸収の指導を始めようかしらね。サランはアレクサンドに教えて貰っててくれる?」
「分かりましたわ、行きましょアレク」
「あぁ、森のデートだな。楽しもう」

 アレクサンドとサランは、森の木々の間を縫うように、疾風の如く地を駆けて行った。
 
 
「ではマモン、よろしく頼む」
「えぇ、じゃあ脳内にお邪魔するわね」

 シュエンの額に手をかざし、ワタシの感覚と記憶を直接流し込む。
 魔力の流れを感知し、受け入れ、自らの回路を通して外へ逃がすイメージ。

「なるほどな……触れて吸収する方法だけだと思っていたが、魔力の波長を合わせれば遠距離でも可能なのか」

 シュエンの飲み込みは早かった。
 能力自体は持っているんだし、コツさえ掴めばそこまで難しい事じゃない。

「吸収できるのは純粋な魔力による『魔法』だけよ。仙術は自然エネルギーが混ざってるから、構造が複雑で吸収しきれないわ。あと、無防備に受けると痛い目を見るから、必ず守護術で防御しながら魔力吸収しないとダメよ」
「あぁ、分かった。これはいい、俺達に魔法は通用しないということか」
「そうね、対魔法使いには無敵に近い便利な能力よ。吸った分は必ず『解放』するのを忘れない様にね。溜め込むとまた暴走するわよ?」

 シュエンは静かに頷き、そしてふと、顔だけを後ろに向けた。
 鋭い眼光が森の奥を射抜く。
 
「……ところで、ずっと付いてきている奴ら、いつまで隠れている気だ?」
「あら、やっと追いついたみたいね。待ちくたびれたわ」

 ワタシ達が振り返ると、木々の影から五人の狩猟者ハンター風の男達が姿を現した。殺気放って立っている。
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