- Mix blood -

久悟

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第四章 魔人の過去編

シュエンの剣技

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「見失ったが、魔力を辿れて良かったぜ。やっとバラバラに別れたな。上手いこと良い武器持ちの二人が残った」

 リーダー格の男が、下卑た笑みを浮かべて前に出る。

「お前らSランクのパーティだろ? そこの黒髪のカードが見えたからな。だが、俺たちはSランクの五人パーティーだ。五対二じゃ結果は見えてるぞ。死にたくなけりゃその武器を置いて行け」

 どうやら、ギルドでワタシ達の特級品の武器を見て、欲しくなったらしい。アレクサンドとサランは武器を異空間に入れているから、ワタシ達がカモに見えたのね。

 魔力は辿れても、その総量や質までは測れないみたい。おめでたい人達だわ。

「マモン、こいつらは俺が貰うぞ。誰かを斬りたくてウズウズしていた所だ」
「えぇ、構わないわよ。存分に楽しみなさい」

 シュエンは刀を抜き、持った右手をダラリと下ろして無防備に近づいていく。

「おいおい、五人を相手に一人で来るのか? バカでラッキーだぜ!  やっちまえ!」

 男たちが一斉に襲いかかる。
 その瞬間、シュエンの姿が掻き消えた。

『剣技 おど独楽こま

 旋風のような剣閃が奔る。
 瞬きする間に四人の男が切り刻まれ、血飛沫を上げて崩れ落ちた。シュエンは既にリーダー格の男の背後に回り込み、背中に切っ先を突きつけている。

 ……これが龍族の剣術。速すぎるわ。

「……えっ?」
「もっと楽しませてくれよ、なぁ!」

 男が状況を理解する前に、シュエンは笑いながら、男の利き腕を剣ごと切り落とした。

「ヒィィ――ッッ!」
「ハーッハッ! あれだけいきがってこの程度かぁ!?」

 妻との別れの後、苦悩しか見てこなかった彼が、狂気の笑顔を浮かべて男を切り刻んでいる。これが魔力障害……。
 
 悲鳴が途切れるまで弄び、最後にもう飽きたと言わんばかりに首を刎ねた。

「ふん、何がSランクだ。くだらん」

 血振りをして刀を納めるシュエン。その所作には一点の淀みもない。

「見事ねシュエンちゃん。いい顔して人を斬るのね」
「あんな小さな町で人を斬る訳にはいかなかったからな。少しは鬱憤が晴れたよ。火葬しとくか」

 Sランク狩猟者ハンターとは言っても、基本のパーティーでSランクの魔物を一体仕留めれば手に入る称号だ。単独でSランク魔物を屠るシュエンの敵ではないわね。
 武具を漁り、五人の死体をワタシの火魔法で完全焼却する。骨も残さず灰にしてあげるのが慈悲というものよ。

「武具は……二級品の上位ってとこか。売れば少しは金になるな」
「そうね、その金で夜は酒盛りしましょ」
「まぁ、金は腐るほどあるがな……」

 その後、シュエンから直接指導を受け、ひたすら森の木々の間を駆け回った。
 障害物を避けながら、足裏に練気を集中させる。

「空を駆ける事が出来れば、さっきのシュエンちゃんの速さに繋がるのね」
「そうだな、自身の移動速度は剣速に直結する」

 夕方まで森を駆け回り、街に戻って愚かな狩猟者ハンター達の武具を売り払った。
 サランの屋敷に戻って汗を流し、リビングルームに行くと、アレクサンドとサランは既に優雅に寛いでいた。

「あぶく銭を手に入れたぞ、外に飲みに行かないか?」
「ずっと追いかけて来ていた五人組か?」
「あぁ、武具を売り払ったわ」
「では、いつもの焼肉屋に行きませんこと?」
「そうね、サムギョプサルが食べたいわ」

 
 香ばしい肉を焼き、冷えたビールで流し込む。美味しい夕食で会話も弾む。
 ワタシ達は順調に強くなっている。充実した日々だわ。

 
 ◆◆◆

 
「浮遊術が別物になったわ。空中を自由に動けるわね」
 
 ジョカルドに戻り、修練の日々を重ねて一年が経った。
 ワタシもサランも、ようやく空を駆ける事ができるようになっていた。今まで習得した術の中でも一番難易度が高かったけれど、その分恩恵は大きい。
 練気術の精度が極限まで高まり、剣の斬れ味や術の威力が格段に増しているのを実感する。

「そろそろ龍王に挨拶しに行かないか?」

 アレクサンドが提案する。

「そうだな。万が一があっても今のこの四人が負けることはないだろう。ただ、手を出すなよ? 龍族の幹部を舐めてはいけない」
「分かってるわよ、手を出す理由がないわ。宝玉の話を聞くだけだもの」

 
 準備を整え、次の日の朝、ワタシ達はリーベン島へ向け飛び立った。
 野営を一泊挟み、レトルコメルスに到着。一年ぶりに『レオパルド』に顔を出し、ヴァロンティーヌ達にシュエンを紹介して一泊した。旧友との再会は良いものね。

 さらに二日後、港町ルナポートに到着した。
 ホテルにチェックインし、まずは腹ごしらえだ。

「ここには初めて来るな。シュエン、キミはここから旅を始めたんだろ? 何が美味しい?」
「魚料理だな。生で食べる料理もある。龍族にも生魚を食べる刺身という文化はあるが」
「あぁ、サシミか、あれは美味かった。仙神国にも魚料理はあるが、ムニエル等の火を通した物が多いからね」
「魚は初めて食べるわ、楽しみね」
「わたくしもですわ。シュエン、案内してくださる?」

 シュエンが遠い記憶を辿り、一軒の店を見つけた。

「あぁここだ、まだあったか。もうここを出て四十年以上経つからな、代は変わってるだろうが」

 懐かしそうにドアをくぐり、席に座る。

「ここの『カルパッチョ』が美味しかった記憶があるな。あとはパエリアとピッツァだ」

 テーブルいっぱいに色鮮やかな海鮮料理が並んだ。磯の香りが食欲をそそる。

「あら、美味しいですわ」
「ホント、美味しいわね。ここを離れたら食べられないから楽しまないと」
「このカルパッチョってのが美味いな。魚を生でオリーブオイルと合わせるとは、これは発見だよ」
 
 初めての魚料理を堪能し、食後のティータイムに移る。
 話題はこれから向かうリーベン島についてだ。

「俺はあまり人に会いたくは無いな。顔見知りが多いからな」

 シュエンが渋い顔をする。

「じゃあ、龍王の魔力の方に直接行こうかしら?」
「あぁ、屋敷から出ている時が良いな。俺が門番に話をつけてもいいが、極力会いたくない。あの人はよく一人で外に出るから、そこを狙おう」

 シュエンは魔力障害で変わり果てている上に、身内や親交があった者達に敵意が向く後遺症がある。昔の知人に会うのは精神的に負担が大きいのでしょうね。

「そうは言っても、買って帰りたい物があるんだが……」
「では、わたくしが買ってきますわよ? 町の人に聞けば分かるでしょうし」
「頼めるか? 醤油と味噌とリーベン島産の米が欲しい。あと、生卵も買っておいてくれ、もう四十年以上食べていない。紙に書いて渡すよ」
「卵を生で食うのか……? 正気かい?」

 アレクサンドが顔をしかめる。

「あぁ、熱いご飯にかけて食わせてやるよ。美味いぞ」
「いや、ボクは遠慮したいが……」

 買い出しを済ませ、ルナポートの町を離れて海上を浮遊する。
 潮風の向こうに、島影が見えてきた。
 
 あれが龍王の住む島、リーベン島ね。
 いよいよだわ。
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