- Mix blood -

久悟

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第四章 魔人の過去編

魔都の町ヴェネシテラ

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 一週間後。
 もうジョカルドに戻る気は無い。ワタシ達は各々荷物をまとめ、屋敷を引き払う準備を整えた。
 これからは野営が主になる為、下着や消耗品は多めに買い込んでいる。特にシュエンは調理器具にこだわりがあるらしく、一式新調していた。野営の食事のグレードが上がるなら大歓迎だわ。
 重い荷物は、シュエンの分はアレクサンドに、ワタシの分はサランにそれぞれ預け、異空間へしまってもらう。

「さて、出発するか」
「サラン、名残惜しくない?」
「いいえ、全く。未練などありませんわ」

 サランが清々しい顔で言い切る。
 
「なら良かった。行きましょうか」

 錬気術と浮遊術を極め、移動速度が飛躍的に上がったワタシ達の脚では、途中で野営をする必要すらなかった。
 あっという間に懐かしのノースラインに到着する。

「日は沈んだけど、一日で着いたわね。とりあえずお腹が空いたわ」
「ノースラインと言えばスパイス料理だな。渇いた身体にビールを流し込みたい気分だ」
「チキンを特製スパイスに漬け込んで焼いた料理が美味かった記憶があるな、楽しみだ」

 馴染みの店に入り、スパイシーなチキン料理を冷えたビールで流し込む。刺激的な味が旅の疲れを癒やしてくれる。

 食後、アレクサンドがそわそわし始めた。彼が一番、ウェザブール王国内から出るのを惜しんでいるのかもしれない。
 案の定、彼は「少し出かけてくる」と言って女漁りに出かけた。

「あいつも好きだな」
「シュエンちゃんはついて行かないの? アナタならすぐ釣れそうだけど」
「俺には一生を捧げた女がいる。他の誰かになんて興味が無いな」
「……ホント、いい男ねアナタは」

 魔力障害の影響で、かつて親しかった者には憎悪を向ける彼だけど、最愛の妻に対してだけは愛が勝っているらしい。息子に対する複雑な感情とはまた種類が違う、絶対的なものなのね。

 
 翌朝、朝食を済ませてホテルのロビーに集まった。アレクサンドが少し不満げな顔をしている。

「アレクサンド、最後の女漁りは楽しめた?」
「いや、あまりにも釣れないから、以前懇意にしていたレディの所に行ったよ。腐れ縁もたまには役に立つ」
「あら、そう。まぁ空振りよりは良いじゃない」
「魔都のレディに期待するよ」
「魔族の女は情熱的よ。下手に遊ぶと刺されるから気をつけなさい」
「あぁ、刺されてもサランに治してもらうよ」 

 そんな他愛もない軽口を叩きながら、次の日ワタシ達は北の空へと飛び立った。

「まっすぐ北に進めば町に当たるわ。昔モレクとコンパスを頼りに真南に進んでここに来たから、ルートは間違いないわよ」
「山に入ると魔物が強くなるな。いてもSランクほどだが」
「寝るにも交代で見張りをつけないとね」

 険しい山岳地帯の上空を飛んで移動する。
 時折、飛行する魔物を見かけはするけど、わざわざ相手をする必要もない。倒しても金にならないうえに、今のワタシ達には修練にもならない雑魚ばかりだ。
 
 日が暮れる前に手頃な場所を見つけて野営の準備をする。薪は襲ってきた邪悪な樹木エビルトレントを返り討ちにして調達した。ただのトレントより大型な分、良質な薪が多く取れて助かる。

 
 三日後。
 ようやく山を抜け、魔都領内の最南端にある町『ヴェネシテラ』に到着した。
 ワタシがここに来るのは十五歳の時に立ち寄って以来だ。懐かしい空気に心が踊る。

「四日かかったな、長旅だったよ」
「早い方だわ。ワタシがここを出た時は、ノースラインまで半月近くかかったもの」
「割と栄えた町だな、ジョカルド程ではないが。他種族の俺達が立ち入っても問題ないのか?」
「えぇ、魔族も王都にいたでしょ? これくらいの地方都市なら問題ないわ。シルヴァニア城下では警戒されるでしょうけどね。とりあえず一週間くらい滞在して、情報収集しましょ」 

 手持ちの宝石を換金所で魔都の貨幣に替え、一番いいホテルにチェックインした。

「生活レベルはウェザブール国内と変わらないな」
「そうね、魔族にも魔導具開発の天才はいるのよ。魔石を動力にしている所は同じね。でも、洗練さで言えばウェザブール王都の方が断然進んでるけど」
 
「さて、遅めの昼食だ。魔族の料理を楽しもうか」
「魔族の料理はダイナミックよ。繊細さには欠けるけど、ビールやウイスキーが合うわね」

 ホテルでおすすめされたレストランに向かう。昼食には遅い時間だけど、店内は活気がある。異種族の集団はかなり目立つようで注目を浴びたけど、絡まれる事はなかった。時折、人族の狩猟者ハンターや商人の姿も見受けられる。

「こんなに赤毛が並ぶと迫力が凄いな」
「えぇ、ワタシも久々に見る光景だわ。帰ってきたって感じがする」

 席に着きメニューを広げる。
 肉、肉、肉。清々しいラインナップだ。

「ステーキか、確かにダイナミックだな」
「適当に人気メニューから食べましょうか」

 やがて、テーブルいっぱいに料理が並んだ。

「ステーキ、思ったより大きいな……岩みたいだ」
「ピッツァも他のところのとはちょっと違うでしょ? ワタシ達は『ピザ』と呼んでるわ。生地が厚くて具沢山なの。皆で分けて楽しむのよ」
「最初から切り分けられてますわね。一切れが大きいですわ」
「ローストチキンも美味いな。ステーキもシンプルだからこそ、この濃厚なソースがいい仕事をする。野営で大活躍しそうなソースだ」
「フライドポテト……止まらないな……塩気が強くてビールが進みすぎるぞ」

 久しぶりの故郷の味。大味だけど、素材の味がガツンと来る。
 皆も満足気だ。

「ふぅ……美味かったな。ボリュームが凄い」
「あぁ、昼からビールをおかわりしてしまったな」

 腹も満ちたところで、本題に入る。

「今からそのメイドさんに会いに行きますの?」
「場所は分かるのか?」
「えぇ、エナリアの実家『ベルゴール家』はこの町の領主一族よ。聞けば誰もが知ってるわ。今日は取次ぎだけかもね。門衛に手紙を渡しておきましょう。ホテルの名前も書いておかないとね」
「なら話は早いな」

 食後のコーヒーを飲みながら、エナリア宛の手紙をサラサラと書き上げる。会計時に店員にベルゴール家の屋敷の場所を聞き、店を後にした。

「聞くまでもなかったな、既に見えてる」

 街一番の高台に、立派な屋敷が鎮座している。

「そうね、行きましょ」

 屋敷の門まで行き、門衛に声をかける。威圧感のある魔族の男に、ワタシは堂々と名乗った。

「こんにちは、ワタシはシルヴァニア家から来たの。この手紙をエナリアに取り次いでちょうだい。マモンが訪ねてきたと言えば伝わるわ」

 シルヴァニアの名を聞いた瞬間、門衛の顔色が変わり、背筋を伸ばした。

「マモン・シルヴァニア様ですか……! し、承知いたしました。責任を持ってお預かりいたします」

 今日の用事はこれで終わり。
 夜はまた、魔都の酒と共にディナーを楽しむ予定だ。

「さて、ディナーまで部屋で寛ぐことにしましょ」
「後ほどロビーに集合ですわね。シャワーを浴びてゆっくりしておきますわ」

 ホテルに戻り、熱いシャワーを浴びて旅の汗を流す。
 ふかふかのベッドに身を投げ出し、これからの計画に思いを馳せた。
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