- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
170 / 260
第四章 魔人の過去編

差別

しおりを挟む
「茶を淹れる、そこに座ってくれ」

 ベンケイに促され、部屋の中央にある四角い穴を囲むように腰を下ろした。穴の中には灰が敷き詰められ、炭火が赤々と燃えている。

「これは何なの?」
「ん? 『囲炉裏いろり』の事か? ここに火を起こして鍋を煮たり、暖をとったりするんじゃよ」
「なるほどね。合理的だわ」

 天井から吊るされた鉄瓶から、湯気がシュンシュンと音を立てている。古臭いけれど、不思議と落ち着く空間ね。
 テンも甲斐甲斐しく茶を運ぶのを手伝い、皆でイロリを囲んだ。

「魔族に龍族に仙族か、お前は人族じゃな? こんな珍客が揃うことは二度と無いだろうな。……単刀直入に聞くが、どうやってテンを正気に戻した?」

 ベンケイの鋭い眼光がワタシに向けられる。

「ワタシ、魔力を吸収する能力があるの。暴走していた魔力を根こそぎ吸い取って、安定させたのよ」
「なるほどのぉ。ワシらには何処に封印されたのか見当もつかんかった……許せ、テン」
「いいよ、爺ちゃん。それより、周りの集落の皆は誰だ?」

 その時、屋敷の扉がバンッ! と勢いよく開いた。

「テン! 帰ったのか!」

 飛び込んできたのは、筋肉質で大柄な鬼族の男だ。

「サンキチのおっちゃん!」
「おお……! 全然変わってねぇじゃねえか! 五百年経ってそのままなんて、そんなことあるんだな……」

 男はテンの姿を見て涙ぐんでいる。

「おっちゃん、この人達に助けて貰ったんだ」
「そうか……ありがとなあんた達。オラァ達はどうすりゃいいか分からんかった……」
「サンキチ、茶は自分で入れてこい」

 ベンケイに諭され、サンキチと呼ばれた男は鼻をすすりながら奥へ行った。

「さて、問いには答えねばな。テン、お前もサンキチも、勿論ワシもじゃが、ソウジャでは差別を受けてきたな。そこまで言えば分かるじゃろ」
「あぁ、そうか。さっき見た奴らも『』な。みんなをここに受け入れたのか」

 テンが納得したように頷くが、ワタシ達四人の頭上にはハテナが浮かんでいる。
 小さい? どこが?

「ちょっと……ワタシ達にも分かるように話してくれない? 主語が足りないわ」
「なら、オラァが話すよ」

 奥から自分のお茶を持ってきたサンキチが、ドカッとあぐらをかいて座った。

「普通の鬼族ってのは、オラァ達より頭二つ分はデケェんだ。テンくれぇの子供でも、魔族のあんたよりデケェのが普通だ」

 ベンケイもサンキチも、さっき見た鬼族達もワタシより頭二つ分ほど大きい。これでも「小さい」部類に入るというの? 普通の鬼族は巨人か何かかしら。
 テンは他種族の子供より少し大きい程度だ。鬼族の中では異端なほど小柄ということになる。

「何人か、もっと大きな鬼族がいましたわよ?」
「それはこの村で生まれ育った奴だ。鬼族の体躯の大小は遺伝もあるが、ほとんどは関係ねぇ。オラァ達小せぇ鬼族は、それだけで『小鬼族』として差別を受けて生きてきたんだ。差別や虐めに耐え兼ねた者たちは人族の世に逃げる事もあった。見た事ねぇか?」
「えぇ、あるわね。確かにあなた達位の大きさだったわ」

 人族の町で見かける鬼族は、確かにこのくらいのサイズ感だった。あれは出稼じゃなく、亡命者だったのね。

「……その差別の原因は、元を正せばワシが作った様なもんじゃ」
「そんな事ねぇって。悪ぃのはイバラキだろ」
「鬼王が? 詳しく話して貰えるかしら?」

 ベンケイは湯呑を見つめ、曇った顔を上げて語り始めた。

「ワシとイバラキは、この世界に産まれ落ちた時からの仲じゃ。産まれた時の記憶は無いがな」
「仙王もそう言ってたな」
「あぁ、龍王もだ。何者かに創られた可能性を疑ってたな」

 アレクサンドとシュエンが相槌を打つ。始祖たちの共通認識らしい。

「うむ。その頃から鬼族には体躯の大小があったが、差別など無く、皆協力して生活しておった。ワシには鍛冶の才能があった。皆の武具を弟子達と共に作り、始祖四種族で争い始めた際には、一際体躯の大きいイバラキを鬼王に据えて補佐した」
「鬼王の側近だったのね」

「……ワシはそのつもりじゃった。体躯の大きい鬼族はとんでもない力があるが、魔力は少ない。対してワシら小さい鬼族は速さに優れ、魔力が多い。それゆえ闘気を魔力に乗せて放つ事が出来る。ワシは中距離攻撃部隊の長としてイバラキを補佐した」

 理にかなった役割分担だわ。そんな有能な男が、何故差別の対象になったのかしら。話が読めない。
 記憶を貰えば早いけど、流石に今日会ったばかりの老人の頭を鷲掴みにする訳にはいかないわね。

「ワシは武具の作成と同時に、薙刀術の創始者として弟子が多かった。千年以上前の話じゃ、四種族停戦の期間中に、皆の指導を担当したんじゃ。だが、停戦が明けた後の龍族との決戦の時、イバラキから国の守りを命じられた。魔族に対する抑えだとな」
「有名な大戦だな。龍族が圧勝し、鬼王は左腕を失ったと聞いた」

 シュエンが当時の戦況を補足する。

「……そうじゃ。命からがら帰ってきたイバラキは、国に戻るなり、今回の戦の敗因は中距離攻撃部隊を国に留めると主張したワシにあると言い出したんじゃ……」
「とんだ言いがかりですわね……」

 サランが呆れ顔で呟く。
 ベンケイの膝の上に置かれた拳が、悔しさに震えている。

「……その後も、信用ならんだの、愛国心が無いだの……言いがかりをつけては更にワシを遠ざけた。ワシを不憫に思ったイバラキの側近から聞いた話では、鍛冶や薙刀術で多くの弟子を持ち、慕われているワシに嫉妬していたらしい。ワシを国に留めて自らが先頭に立ち、自分の強さを誇示しようとしたらしいんじゃ。その下らん自尊心が、国を傾ける程の大敗に繋がった」

「……鬼王ってバカなのね。救いようがないわ」

 個人のプライドで戦争に負けるなんて、王失格だわ。

「奴に尽くしていた自分が馬鹿らしくなった。ワシは、どうしてもついて行くと言って聞かぬ弟子を数人連れて国から出た。それがここの始まりじゃ。それから、ワシの様な小さい鬼族への差別や虐めが国策のように酷くなり、国から出る者が増えた。ここに来るものも多くなり、やがて集落になっていったんじゃよ」

 喧嘩別れと言うよりは、ベンケイが鬼王の器の小ささに呆れて見限ったといったところでしょうね。

「一国の王の器ではないな。テンのイバラキに対する憎悪はまた別の話だろう?」
「うん、オラは父ちゃんと母ちゃんを奴らに殺された。イバラキだけじゃねぇ、オラは鬼国そのものを許さねぇ」

 テンの瞳に暗い炎が宿る。

「……なるほどね。テンはここで産まれたのかい? 人族がここに来るとは思えないが」

 アレクサンドが核心を突く。テンは混血児だ。母親が人族なら、どうやってここへ?

「テンの母親はオラァの姉だ。テン、お前の母ちゃんの話していいか?」
「あぁ、オラは構わねぇ。こいつらは恩人だ」

 サンキチは重い口を開き、シュテンの数奇な生い立ちを語り始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...