- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
189 / 260
第四章 魔人の過去編

マモンの目論見

しおりを挟む

 朝日が昇り、まどろみから覚める。
 隣で眠る美しい青年の寝顔を見るのも、これが最後ね。

「おはようスヒョンちゃん」
「あぁ、朝か……おはようマモンさん。着替えて帰ろうかな」
「そうね。また機会があれば来るわ、元気でね」
 
 名残惜しそうにするスヒョンを見送り、身支度を整えてホテルのレストランへ向かう。
 朝食の席に着くと、アレクサンドがニヤニヤしながら待っていた。今朝も上機嫌だこと。

 
 朝食後すぐに発ち、更に北のノースラインで一泊。山を越えて北上を続ける。
 懐かしい景色を眼下に、ワタシ達は魔都を目指した。

 シルヴァニア城に着いたのは、レトルコメルスを出て一週間後の昼だった。
 聳え立つ居城を見上げ、感慨にふける。

「やっと着いたね、充実した旅だったよ」
「えぇホント。とりあえずシャワーを浴びたいわ……旅の埃を落とさないと」

 到着するや否や、サランが小走りで駆けつけてきた。

「二人ともお帰りなさい。マモンの部屋の改修は、完璧に終わってますわよ。ご希望通り、専用のシャワールームも完備ですわ」
「あら、もう出来たの? 仕事が早いわね。でも出てから半月経つものね、ありがとう」
「昼食もすぐに用意させますわ。後ほどダイニングにいらして」

 案内された改修後の自室に入る。
 ……素晴らしい。
 かつてのリリスの悪趣味な装飾は一掃され、シックで洗練された壁紙や装飾品が並んでいる。大容量のウォークインクローゼットに、肌触りの良さそうな最高級の寝具。
 さすがサラン、ワタシの好みを熟知してるわね。

 広々としたシャワーで汗を流し、メイクを直してからダイニングへ向かう。
 アレクサンドは既に席に着き、食事を終えかけていた。

「おぉ、流石だねサラン……マモンが部屋から出てくるタイミングに合わせてランチが運ばれて来るとはね」
「秘書として当然の事ですわ。わたくしも隣で頂きますわね」
「完璧ねサラン……えぇ、一緒に食べましょ」

 食後のコーヒーを優雅に啜るアレクサンドの前で、ゆっくりとランチを楽しむ。

「ヴァロンティーヌはこちらに来ますの?」
「あぁ、そうだわサラン。ヴァロンティーヌ達は二、三ヶ月後に、おそらく五十人足らずで来るわ。城下にでも彼女達の屋敷を用意出来る?」
「えぇ、分かりましたわ。『レオパルド』の様な、店舗兼住居になりそうな物件を探しておきますわね」

 旅の話をしながら食事を終え、食後の紅茶をお願いしたところで、サランが切り出した。

「明日の午後、幹部全員にホールに集まる様に伝えましたわよ。テンやシュエンにも伝令を送りましたわ。それと……王都より使者が手紙を携えて来ましたの。明日までに目を通しておいてくださる?」

 サランから封蝋された手紙を受け取る。
 
「えぇ、アナタ秘書として完璧ね……。明日の午後ね、分かったわ」

 
 ◆◆◆

 
 次の日の昼食後。
 サランの召集で、シルヴァニア城の大会議室に主要メンバーが集められた。
 長机の奥、上座にワタシが座り、それぞれが向かい合うように席に着く。サランはワタシの斜め後ろに控え、完璧な補佐の体制をとっている。

「いきなりの召集、悪かったわね。今から今後について会議するわ」
「まずは手紙の内容だね。王都での出来事から聞こうか」

 長兄ベアルが会を進行する。

「えぇ、王都ではシュエンちゃんの息子達が対応したわ。彼らに、ワタシとテンが魔王、鬼王になったことを、ウェザブール王に言付けて欲しいとお願いしてきたの」
「ユーゴが? 何故奴らがそんな大任を?」

 シュエンが眉をひそめる。
 
「……さぁね。ワタシとアレクサンドに因縁がある子がいるじゃない? だからワタシ達を逃がさない為に、自分たちが窓口になると申し出たんじゃないかと思うわ。あと、重要なことだけど、ワタシ達が王都に向かっているのが筒抜けだったわ。待ち構えていたから間違いない。そういう『視る』能力者がいると思っていいわね」
「あぁ、おそらく今話している声までは分からないと見ているよ」

 アレクサンドが補足する。
 向こうでの会話の感触からして、ワタシが魔王を名乗ろうとしてる事を知らなかったし、ユーゴの中の魔神の事も初めて聞く様子だった。ワタシ達の姿は見えても、詳細な会話までは聞こえていないとみて間違いない。

「次だけど、ワタシ達は『宝玉』を求めてる。テンの封印に使われてた『あか』と『』の宝玉はアレクサンドが持っている。『すい』はユーゴが龍王から託されているみたい。『あお』は仙王が持ってると見ていいわね」

「宝玉を? 何の為にだ?」

 ベアルが問う。

「何が起きるか分からないなんて面白そうじゃない? それに、シュエンちゃんの奥さんを助ける為にも使えないかとも思ってるの」
「ただの好奇心か、マモンらしいな」

 シュエンの前で「魔神の復活の為だ」などと言える訳がない。これも好奇心の一環よ。シュエンの妻の事も、あながち嘘ではないしね。

「最後に王都からの手紙の内容ね。まず、ユーゴの二人の仲間は、ワタシとアレクサンドに恨みを持ってる。だから、一対一で戦ってあげても良いわよって話をしてきたの。ワタシ達が殺されても文句は無い、その代わり向こうが負けたら宝玉を寄越せ、とね」

「……おいおい、一国の王が随分と無謀な約束をしてくるもんだねぇ……」

 アグレスが呆れたように言う。

「手紙には、この申し入れは受けると返ってきたわ。決戦は半月後、場所は王都の北の砦よ。……勿論、こんな話を素直に飲むとは思わないわよね? 間違いなく兵を伏せて、ワタシ達を葬りに来るはずよ。そこにワタシの目論見もくろみがある」

 皆、何も言わずにワタシを見つめている。フラッと出ていって勝手に危ない交渉をして来たのだから、当然の反応ね。

「目論見? 聞こうか」
「えぇ、今王都には仙王と龍王が来てる。ワタシ達の約束を反故にして、砦に潜んで待っているはずよ。一網打尽にするつもりでしょうね」
「まぁ、何が原因で情報が筒抜けになっているか分からない以上、最悪のケースを想定すべきだからね」

「とにかく、ワタシとアレクサンド、サランとシュエンちゃん、そしてテンの五人で砦に向かうわ。その後を、ベアル兄さんとベンケイがそれぞれ精鋭の軍を率いて、魔力を極限まで抑えて潜んで追尾して欲しいの」
「あぁ、分かった。向こうも物見を多数放っている可能性がある、慎重に進もう」
「えぇ、ワタシ達も速度を落として進むわね。慎重に進むに越したことはないけど、別にバレても予定は変わらないわ。ワタシからは以上よ、他には何かある?」

 ベアル兄さんが静かに手を挙げる。

「王都に行って何を実行するのかは詳しく聞かないでおく。しかし、その延長上に奴らに対する宣戦布告があるなら、最低でも五年の停戦を約束してきて貰いたい。リリスの死後の後片付けはまだ山積みだ。国を建て直し、地盤を固める時間が必要だ」

「えぇ、分かったわ。もっともな意見ね。こっちにそのつもりが無くても、向こうは厳戒態勢を敷いてるからね。話し合いは必要だと思うわ。……他になければ会議を締めるわね。錬気術と仙術の修練は引き続きよろしくね」

 
 決戦の日時は半月後。
 どう転ぶかは分からない。でも、タダでは帰らない。
 最高の暇つぶしになりそうだわ。

【第四章 魔人の過去編 完】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...