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第五章 四種族対立編
決戦の日
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【第五章 四種族対立編】
マモンたちが突如として王都に姿を現してから二十日が過ぎた。
指定された期日まで、あと十日。
王都を覆うピリついた空気は変わらず、厳戒態勢が敷かれたままだ。
レトルコメルスやジョカルドといった周辺都市は王都の後方に位置するため、それぞれから騎士団が王都防衛のために派遣されている。とはいえ、それぞれの町にも治安維持の問題がある。すべての戦力をここに集めるわけにはいかないのが現状だ。
ちなみにジョカルドという町には、オレもトーマスも行ったことがない。王都の東にあるらしいが、仙王様の話では、そこは長くマモンたちの拠点になっていた場所だという。敵の元本拠地……不気味な響きだ。
あれからオレたちは、王都軍の演習に参加して指導に当たったり、自分たちの技を磨いたりして過ごしていた。
特にここ数日は、龍族や仙族の皆と一緒に演習場で互いの術を高め合っている。
今日も演習場には、仙王、龍王を筆頭に各国の幹部クラスが顔を揃えていた。
土煙が舞い、鋼と鋼が打ち合う音が響く中、オレは荒い息を吐きながら汗を拭う。
「オレたち、とんでもない所に居るんだよな……始祖四王とその側近中の側近たちと演習してるんだもんな……」
「本当だね。ゴルドホークを出る時は、こんな事になるなんて夢にも思わなかったよ……」
隣で肩を上下させているトーマスが、信じられないといった顔で苦笑する。オレも同感だ。田舎の狩猟者だったオレたちが、今や世界の命運を握る戦力の中心にいるなんて。
少し離れた場所では、仙王と里長が満足げに言葉を交わしていた。
「錬気術というのは本当に素晴らしいな。もっと早く互いの術を教え合えば良かったと後悔しているくらいだ」
「うむ。仙術を採り入れた我が龍族も、戦闘能力が跳ね上がったからの。あの魔法剣技も試して見たか? ユーゴが編み出した技だが、あれは剣の常識を変えるぞ」
「確かにあれは素晴らしい。魔族の戦闘法も我らを大きく変えた」
オレの思い付きが、伝説級の猛者たちの役に立っている。
こうして皆で術を昇華させていく過程は、純粋に胸が躍る体験だった。
特に今は、魔族と鬼族が手を組み、いつウェザブールに攻めて来てもおかしくない状況だ。王都には張り詰めた緊張が走っている。だが、皮肉にもその緊張感が、皆の戦闘力を飛躍的に向上させる起爆剤になっていた。
◇◇◇
そして時は流れ、ついに明日が決戦の日となった。
オーベルジュ王の玉座の間、その横にある部屋に主要メンバーが集まっている。オレたち四人も招集された。
広げられた地図を囲む空気は重い。
「さて、明日が例の日だ。予定通り我々が砦内に魔力を抑えて伏せる。ユーゴたち四人で奴らを待ち、合図と共に皆で叩く」
仙王の言葉に、全員が頷く。
だが、オレの胸には拭えない不安が澱のように溜まっていた。向こうには父さんもいる。おそらく来るだろう。
エミリーの『快癒』をかける余裕など無い乱戦になるはずだ。
それに、まず奴らの狙いが分からない。ただ正面からぶつかってくるだけの連中じゃない。もっと何か、致命的な策を巡らせている可能性が高い。
オレは意を決して手を挙げた。
「ユーゴ、なんだ?」
「はい……どうしても、奴らだけで来るとは思えないんです。そこまで奴らは馬鹿じゃない。何か別の狙いを目論んでる可能性も視野に入れるべきです」
王が深く頷く。
「それは我も思っている。我の千里眼には気づかないまでも、奴らの行動が我らに筒抜けである事は、向こうも理解していると見ていい。兵を伏せている可能性は高い。物見を増やして対応しようとは思うが……」
仙王の言葉に、室内の緊張が一段高まる。
いずれにせよ、オレたちは奴らとぶつからなくてはいけない。伏兵が動く前に、主力を叩くしかないんだ。
となると、やっぱり父さんは。
オレの表情が曇ったのを察したのか、里長が静かに口を開いた。
「シュエンが心配か?」
「いえっ……はい……」
否定しようとしたが、言葉は正直に喉から出た。拳を握りしめ、オレは続ける。
「助けたいけど、どうしようもないのは分かってます。その躊躇で、軍全体を危険に晒すことも……。今日の夜で気持ちを切り替えます。大丈夫です」
自分に言い聞かせるように言った。だが、里長は優しく目を細めた。
「左様か。ならば、儂が責任を持ってあ奴の相手をしよう。お主は迷わず、存分に暴れるが良い」
「……はい、分かりました」
里長に任せるしかない。こればかりは、今のオレには荷が重すぎる。
明日の早朝に王都を出発し、決戦の正午に備える。皆の意志を統一し、軍議は終わった。
部屋を出たところで、エミリーが歩み寄ってきた。
「ユーゴ、私も里長さんと一緒にシュエンさんに当たるよ。快癒は範囲が広いからね、サポートできると思う」
「アレクサンドの相手は良いのか?」
「私じゃ敵わないよ。皆で掛からないと奴らには勝てない、それくらい私にも分かるもん」
エミリーは気丈に笑ってみせた。
「あぁ、そうだな……頼むよエミリー。オレも切り替える。こんな気持ちじゃ戦えないからな」
これはオレの私情を挟んでいい問題ではない。世界を巻き込んだ戦なんだ。
◇◇◇
翌朝。
まだ薄暗い中、軽く食事を腹に入れ、オレたちは砦に向けて進軍した。
予定通り、王国騎士団、仙族、龍族の精鋭部隊が、魔力を極限まで抑えて砦内に潜む。息を殺し、気配を消して。
正午前には布陣を終えた。
太陽が真上に昇り、じりじりとした日差しが肌を焼く。正午だ。
オレたち四人は砦の前に出た。
視線の先、陽炎の向こうに人影が現れる。
マモン、アレクサンド、そして父さん。
その隣にいる額に角が生えた男は、鬼王シュテンだろう。そしてもう一人、ダークブラウンの髪色の昇化した女がいる。見覚えのない顔だ。
「さぁ、本当にアナタたち四人だけなのかしらね。砦の中に誰かいるのかしら?」
マモンの挑発的な声が響く。
「お前らこそ五人なのか? 嘘は嫌いだと言ってたが」
オレは声を張り上げて返す。
先程確認した時点では、放った物見は帰ってきていない。奴らの背後にどれほどの軍勢が潜んでいるのか、まだ分からない。
その時、砦の扉が開き、魔力を抑えたまま仙王と里長たちがオレたちの横に並んだ。同時に、精鋭たちがその後ろに展開する。
まさに一触即発。
その時だった。
脳裏に閃光が走った。
アレクサンドが突如剣を抜き、音速を超える踏み込みで仙王の首を狙う――!
「仙王様ッ!」
叫ぶより速く、オレの体は動いていた。
視えていたにもかかわらず、咄嗟に刀を抜き、守護術を展開して仙王の前に割り込むのが精一杯だった。
『キィィ――ン!!』
鼓膜を劈くような高い金属音が戦場に響き渡る。
オレの刀とアレクサンドの片手剣が火花を散らし、鍔迫り合いになった瞬間。
仙王、オレ、そしてアレクサンド。三人の体が重なり合ったその中心で、紅、蒼、黄、翠、四色の宝玉と同じ色のオーラが、嵐のように頭上で渦巻く。
「な、んだ……これ……!?」
熱いような、冷たいような奇妙な感覚。オレの身体の奥底から、魂の一部が無理やり引きずり出されるような喪失感が襲う。
「ぐ、ぅ……!」
何が起きているのか理解できない。
だが、渦巻くオーラが晴れていく中、ドサッと何かが地面に落ちる音がした。
見ると、一人の女性がうつ伏せに倒れている。顔は見えない。
そして、光が完全に収束したその場所に、一人の男が立っていた。
大柄な体躯に、燃えるような赤髪。肌は浅黒く、その双眸はナイフのように鋭い。
圧倒的な威圧感が、肌を刺す。
「ファ――ッハッハッ! やったぞ! やっと解放された! しかもオレ様の元の身体も込みときた!」
男の哄笑に呼応するように、マモンとアレクサンド、鬼人と仙人が男に歩み寄る。
「やったわ! 成功よ!」
「テメェらはオレ様の復活を画策してたヤツ等だな?」
「えぇ、そうよ。感謝しなさい」
「敵じゃねぇって事だな。まぁよろしく頼むわ。それはそうと……」
まさか……こいつが、例の魔神なのか……?
だとすれば、あそこに倒れている女性は……母さん?
事態の急変に、父さんが呆然と立ち尽くしているのが見えた。
魔神の視線が、その父さんを捉える。
「おい……黒髪野郎……」
魔神の声色が、愉悦から憎悪へと一変した。
「よくも何度も何度もオレ様の邪魔をしてくれたもんだな……覚悟しやがれよコノヤロゥ!!」
魔神が片手を突き出す。
『火魔術 炎熱領域!』
魔術だと……!?
途轍もない熱量の業火が、父さんを飲み込んだ。
一瞬で展開された守護術すら紙屑のように吹き飛ばされ、父さんの身体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
その術の威力は、オレを含め、その場にいる全員の思考を停止させるのに十分すぎた。
「トドメだクソ野郎! 剣をよこせ!」
ヤバい……! 殺される!
魔神がマモンから剣をひったくり、倒れたまま動かない父さんに向かって跳躍する。
間に合わないか――いや、間に合わせるんだ!
オレは全身をバネにし、地面を砕く勢いで父さんの元へ疾走した。
魔神の剣が振り下ろされる。
コンマ一秒の世界。
世界が止まったように感じた。
『ガギィィィン!!』
重い衝撃が手首に走る。
オレの刀が、魔神の剣を寸前で受け止めていた。
「……何ぃ?」
魔神が驚愕に目を見開く。
「テメェ、あの距離から……あぁ、その眼……なるほどな」
魔神は舌打ちを一つつくと、マモンの方へ視線を投げた。
「おい、一旦引くぞ」
「そうね。目的は達したわ」
いつの間にか、地平線の彼方に魔族と鬼族の軍勢が姿を現していた。あれほどの数を伏せていたのか。
だが、奴らは攻めてくる気配を見せない。
「仙王、龍王、聞きなさい」
マモンが悠然とした態度で、こちらに向かって告げた。
「ワタシたちは、すぐにこの世をどうこうしようという気は無いわ。とりあえずは五年ね。五年後にまた使者を送るわ。それまでお互い、ゆっくりしましょ」
一方的な休戦宣言。
そう言い残すと、マモンたちは踵を返した。
砂塵の向こうへ消えていく背中を、オレたちはただ見送ることしかできなかった。
マモンたちが突如として王都に姿を現してから二十日が過ぎた。
指定された期日まで、あと十日。
王都を覆うピリついた空気は変わらず、厳戒態勢が敷かれたままだ。
レトルコメルスやジョカルドといった周辺都市は王都の後方に位置するため、それぞれから騎士団が王都防衛のために派遣されている。とはいえ、それぞれの町にも治安維持の問題がある。すべての戦力をここに集めるわけにはいかないのが現状だ。
ちなみにジョカルドという町には、オレもトーマスも行ったことがない。王都の東にあるらしいが、仙王様の話では、そこは長くマモンたちの拠点になっていた場所だという。敵の元本拠地……不気味な響きだ。
あれからオレたちは、王都軍の演習に参加して指導に当たったり、自分たちの技を磨いたりして過ごしていた。
特にここ数日は、龍族や仙族の皆と一緒に演習場で互いの術を高め合っている。
今日も演習場には、仙王、龍王を筆頭に各国の幹部クラスが顔を揃えていた。
土煙が舞い、鋼と鋼が打ち合う音が響く中、オレは荒い息を吐きながら汗を拭う。
「オレたち、とんでもない所に居るんだよな……始祖四王とその側近中の側近たちと演習してるんだもんな……」
「本当だね。ゴルドホークを出る時は、こんな事になるなんて夢にも思わなかったよ……」
隣で肩を上下させているトーマスが、信じられないといった顔で苦笑する。オレも同感だ。田舎の狩猟者だったオレたちが、今や世界の命運を握る戦力の中心にいるなんて。
少し離れた場所では、仙王と里長が満足げに言葉を交わしていた。
「錬気術というのは本当に素晴らしいな。もっと早く互いの術を教え合えば良かったと後悔しているくらいだ」
「うむ。仙術を採り入れた我が龍族も、戦闘能力が跳ね上がったからの。あの魔法剣技も試して見たか? ユーゴが編み出した技だが、あれは剣の常識を変えるぞ」
「確かにあれは素晴らしい。魔族の戦闘法も我らを大きく変えた」
オレの思い付きが、伝説級の猛者たちの役に立っている。
こうして皆で術を昇華させていく過程は、純粋に胸が躍る体験だった。
特に今は、魔族と鬼族が手を組み、いつウェザブールに攻めて来てもおかしくない状況だ。王都には張り詰めた緊張が走っている。だが、皮肉にもその緊張感が、皆の戦闘力を飛躍的に向上させる起爆剤になっていた。
◇◇◇
そして時は流れ、ついに明日が決戦の日となった。
オーベルジュ王の玉座の間、その横にある部屋に主要メンバーが集まっている。オレたち四人も招集された。
広げられた地図を囲む空気は重い。
「さて、明日が例の日だ。予定通り我々が砦内に魔力を抑えて伏せる。ユーゴたち四人で奴らを待ち、合図と共に皆で叩く」
仙王の言葉に、全員が頷く。
だが、オレの胸には拭えない不安が澱のように溜まっていた。向こうには父さんもいる。おそらく来るだろう。
エミリーの『快癒』をかける余裕など無い乱戦になるはずだ。
それに、まず奴らの狙いが分からない。ただ正面からぶつかってくるだけの連中じゃない。もっと何か、致命的な策を巡らせている可能性が高い。
オレは意を決して手を挙げた。
「ユーゴ、なんだ?」
「はい……どうしても、奴らだけで来るとは思えないんです。そこまで奴らは馬鹿じゃない。何か別の狙いを目論んでる可能性も視野に入れるべきです」
王が深く頷く。
「それは我も思っている。我の千里眼には気づかないまでも、奴らの行動が我らに筒抜けである事は、向こうも理解していると見ていい。兵を伏せている可能性は高い。物見を増やして対応しようとは思うが……」
仙王の言葉に、室内の緊張が一段高まる。
いずれにせよ、オレたちは奴らとぶつからなくてはいけない。伏兵が動く前に、主力を叩くしかないんだ。
となると、やっぱり父さんは。
オレの表情が曇ったのを察したのか、里長が静かに口を開いた。
「シュエンが心配か?」
「いえっ……はい……」
否定しようとしたが、言葉は正直に喉から出た。拳を握りしめ、オレは続ける。
「助けたいけど、どうしようもないのは分かってます。その躊躇で、軍全体を危険に晒すことも……。今日の夜で気持ちを切り替えます。大丈夫です」
自分に言い聞かせるように言った。だが、里長は優しく目を細めた。
「左様か。ならば、儂が責任を持ってあ奴の相手をしよう。お主は迷わず、存分に暴れるが良い」
「……はい、分かりました」
里長に任せるしかない。こればかりは、今のオレには荷が重すぎる。
明日の早朝に王都を出発し、決戦の正午に備える。皆の意志を統一し、軍議は終わった。
部屋を出たところで、エミリーが歩み寄ってきた。
「ユーゴ、私も里長さんと一緒にシュエンさんに当たるよ。快癒は範囲が広いからね、サポートできると思う」
「アレクサンドの相手は良いのか?」
「私じゃ敵わないよ。皆で掛からないと奴らには勝てない、それくらい私にも分かるもん」
エミリーは気丈に笑ってみせた。
「あぁ、そうだな……頼むよエミリー。オレも切り替える。こんな気持ちじゃ戦えないからな」
これはオレの私情を挟んでいい問題ではない。世界を巻き込んだ戦なんだ。
◇◇◇
翌朝。
まだ薄暗い中、軽く食事を腹に入れ、オレたちは砦に向けて進軍した。
予定通り、王国騎士団、仙族、龍族の精鋭部隊が、魔力を極限まで抑えて砦内に潜む。息を殺し、気配を消して。
正午前には布陣を終えた。
太陽が真上に昇り、じりじりとした日差しが肌を焼く。正午だ。
オレたち四人は砦の前に出た。
視線の先、陽炎の向こうに人影が現れる。
マモン、アレクサンド、そして父さん。
その隣にいる額に角が生えた男は、鬼王シュテンだろう。そしてもう一人、ダークブラウンの髪色の昇化した女がいる。見覚えのない顔だ。
「さぁ、本当にアナタたち四人だけなのかしらね。砦の中に誰かいるのかしら?」
マモンの挑発的な声が響く。
「お前らこそ五人なのか? 嘘は嫌いだと言ってたが」
オレは声を張り上げて返す。
先程確認した時点では、放った物見は帰ってきていない。奴らの背後にどれほどの軍勢が潜んでいるのか、まだ分からない。
その時、砦の扉が開き、魔力を抑えたまま仙王と里長たちがオレたちの横に並んだ。同時に、精鋭たちがその後ろに展開する。
まさに一触即発。
その時だった。
脳裏に閃光が走った。
アレクサンドが突如剣を抜き、音速を超える踏み込みで仙王の首を狙う――!
「仙王様ッ!」
叫ぶより速く、オレの体は動いていた。
視えていたにもかかわらず、咄嗟に刀を抜き、守護術を展開して仙王の前に割り込むのが精一杯だった。
『キィィ――ン!!』
鼓膜を劈くような高い金属音が戦場に響き渡る。
オレの刀とアレクサンドの片手剣が火花を散らし、鍔迫り合いになった瞬間。
仙王、オレ、そしてアレクサンド。三人の体が重なり合ったその中心で、紅、蒼、黄、翠、四色の宝玉と同じ色のオーラが、嵐のように頭上で渦巻く。
「な、んだ……これ……!?」
熱いような、冷たいような奇妙な感覚。オレの身体の奥底から、魂の一部が無理やり引きずり出されるような喪失感が襲う。
「ぐ、ぅ……!」
何が起きているのか理解できない。
だが、渦巻くオーラが晴れていく中、ドサッと何かが地面に落ちる音がした。
見ると、一人の女性がうつ伏せに倒れている。顔は見えない。
そして、光が完全に収束したその場所に、一人の男が立っていた。
大柄な体躯に、燃えるような赤髪。肌は浅黒く、その双眸はナイフのように鋭い。
圧倒的な威圧感が、肌を刺す。
「ファ――ッハッハッ! やったぞ! やっと解放された! しかもオレ様の元の身体も込みときた!」
男の哄笑に呼応するように、マモンとアレクサンド、鬼人と仙人が男に歩み寄る。
「やったわ! 成功よ!」
「テメェらはオレ様の復活を画策してたヤツ等だな?」
「えぇ、そうよ。感謝しなさい」
「敵じゃねぇって事だな。まぁよろしく頼むわ。それはそうと……」
まさか……こいつが、例の魔神なのか……?
だとすれば、あそこに倒れている女性は……母さん?
事態の急変に、父さんが呆然と立ち尽くしているのが見えた。
魔神の視線が、その父さんを捉える。
「おい……黒髪野郎……」
魔神の声色が、愉悦から憎悪へと一変した。
「よくも何度も何度もオレ様の邪魔をしてくれたもんだな……覚悟しやがれよコノヤロゥ!!」
魔神が片手を突き出す。
『火魔術 炎熱領域!』
魔術だと……!?
途轍もない熱量の業火が、父さんを飲み込んだ。
一瞬で展開された守護術すら紙屑のように吹き飛ばされ、父さんの身体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
その術の威力は、オレを含め、その場にいる全員の思考を停止させるのに十分すぎた。
「トドメだクソ野郎! 剣をよこせ!」
ヤバい……! 殺される!
魔神がマモンから剣をひったくり、倒れたまま動かない父さんに向かって跳躍する。
間に合わないか――いや、間に合わせるんだ!
オレは全身をバネにし、地面を砕く勢いで父さんの元へ疾走した。
魔神の剣が振り下ろされる。
コンマ一秒の世界。
世界が止まったように感じた。
『ガギィィィン!!』
重い衝撃が手首に走る。
オレの刀が、魔神の剣を寸前で受け止めていた。
「……何ぃ?」
魔神が驚愕に目を見開く。
「テメェ、あの距離から……あぁ、その眼……なるほどな」
魔神は舌打ちを一つつくと、マモンの方へ視線を投げた。
「おい、一旦引くぞ」
「そうね。目的は達したわ」
いつの間にか、地平線の彼方に魔族と鬼族の軍勢が姿を現していた。あれほどの数を伏せていたのか。
だが、奴らは攻めてくる気配を見せない。
「仙王、龍王、聞きなさい」
マモンが悠然とした態度で、こちらに向かって告げた。
「ワタシたちは、すぐにこの世をどうこうしようという気は無いわ。とりあえずは五年ね。五年後にまた使者を送るわ。それまでお互い、ゆっくりしましょ」
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