- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

実のある食事会

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 沈みかけた夕日が、広大な湖面を血のように赤く染めている。日中の爽やかな青とはまた違う、妖艶な美しさだ。
 グラシエルに着き、各自ホテルで汗を流して旅の汚れを落とす。皆がロビーに集まった時には、もう日は沈み、街には明かりが灯り始めていた。

「さて、夕食を頂きに行こうかしら」
「今晩もサーモンかな。あの魚、気に入ったよ」
「えぇ、海の魚とはまた違いますわね。脂が上品ですわ」
「オラ、肉より好きかもしんねぇ!」
「確かにありゃ美味い。でもまぁ、オレ様はフライドポテトがあればそれでいいがな」

 ルシフェルがぶっきらぼうに言う。……食の好みが子供ね。

 領主ヴァルファール家の屋敷。門前に着き呼鈴を鳴らすと、待っていたかのようにすぐに中に案内された。

 広間に入ると、大きな円卓の上座にアザゼルが座っている。
 その隣には、アザゼルと同じくらいの歳に見える女性が座っていた。品のある佇まいだけど、眼光は鋭い。夫人かしら。

「よく戻ったな。……あの化物は倒せたのか? それとも逃げてきたのか?」

 アザゼルが探るような視線を向ける。

「倒したわよ。思った以上に強かったけどね」
「そうか……」

 アザゼルは短く呟き、満足げに頷いた。

「そう思って労いの料理を用意させた。座ってくれ」
「ありがとう、遠慮なく頂くわ」

 各自が円卓に着き、目の前のグラスに芳醇な香りの赤ワインが注がれた。

「俺達は新魔王マモンに従おう。この宴は、その誓いのしるしと思ってくれ」
「あら、認めてくれるのね。嬉しいわ」

 皆がグラスを掲げる。

「乾杯」

 領主アザゼルの乾杯で宴会が始まった。
 しばしの歓談で空腹を満たす。料理はどれも一級品だ。

「マモン、その赤い眼は何だ? 昨日会った時は、そんな色では無かっただろう?」

 アザゼルがワタシの瞳を指差す。

「あぁ、ファーヴニルとの戦いの最中に眼の力を開眼したみたいなの。ワタシに流れる人族の血が作用したんでしょうね」
「なるほどな。……では、次の話はその男が落ち着くまで待とうか」

 アザゼルの視線の先には、早速ビールをオーダーし、猛獣のように料理を貪っているルシフェルの姿があった。彼にはマナーも何も無いわね。

「キミは大昔の大戦で見たな。ボクを覚えているかな?」

 アレクサンドがアザゼルに声をかける。

「あぁ、前線で大暴れしていたな。お前らさえ居なければ、アスタロスの元に行けたものを」
「そうだね、あそこでボクと仙王がキミの足止めを務めた。そちらのレディも強敵だったよ」

 アレクサンドは女性とも面識があるようだ。

「あら、覚えてて下さったのね、光栄です」
「ボクは強くて美しいレディは忘れないよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるのね」

 女性が艶然と微笑む。
 アレクサンドと互角に渡り合ったというなら、相当な実力者ね。

「アザゼルさんの奥さんじゃないの?」
「やめて下さる? こんな男の妻なんて死んでも御免です」

 女性が心底嫌そうに否定する。

「紹介する。この女は『ラミア・エリュシオン』という。俺と同じく、原初の魔族だ」
「初めまして、挨拶が遅れましたね。私はかつて魔都シルヴァニアの北に町を作ったのですが、リリスの悪政と重税で潰されましてね……。それでここグラシエルに頼み込んで移住しましたの。あの女の元に行くよりも、アザゼルに頭を下げる方が何百倍もマシでしたから」
「なるほどね。ラミアさんの町には今、鬼族の生き残りが移住してるわ」
「へぇ、是非有効活用して欲しいわね。私はこの町を気に入ってますから、戻る気はありません」

 ラミアが作った町とグラシエルの二つが合併したというわけね。
 シルヴァニア城下よりも大きな町かもしれない。戦力も侮れないわ。

 ようやくルシフェルが、ビールとフライドポテトの無限ループに入り、落ち着きを取り戻した。

「あら、ルシフェルが落ち着いたわ。紹介するわね二人とも、彼がルシフェル・ドラクロワよ。ご察しの通り魔族じゃないわ」
「あぁ、美味い飯ありがとな。オレ様は天界から来た『魔神』だ」

 アザゼルとラミアの頭に巨大なハテナが浮かんでいるのが見て取れる。
 ワタシはルシフェルの出生について、掻い摘んで話した。

「何と……そんな世界が……」
「二千年以上生きてるけど……そんな話、聞いた事もないですね……」

 二人は驚愕している。
 そして、ワタシはファーヴニルの守る洞窟の中での出来事を話した。サタンの思念、そして見せられた記憶について。

「ワタシ達の創造主である魔将サタンは、天界の二種族に強い恨みを持ってる。他の三人もね。この話を聞いてどう思うかは、個々に委ねると言ってたわ」

「……にわかに信じられる話では無いが、確かに我々には、この世に生まれ落ちる前の記憶が無い。その記憶があれば、四種族協力して天界という所に攻めていたかと問われれば……なんとも言えんな」
「えぇ、それは無いですね。まずは『封玉』を他種族から奪って、自分たちだけで攻めようとするでしょうね。事実、最初は封玉を求めて争ってましたから。あぁ、今は宝玉って言うんでしたっけ?」

 原初の魔族の言葉だ、これが魔族としての総意なんでしょうね。

「でも、龍王クリカラは協力する道を選んだと思いますね。あの男は甘いから。事実、無益な殺生を嫌って仙王に頭を下げて隠居しましたからね」
「まぁ、我々がそれに協力する事は無かっただろうがな。当然、好戦的なイバラキもだろう」

 ルシフェルとテンは、我関せずといった表情でフライドポテトを口に運んでいる。

「で、魔王であるお前はどう考えている?」

 アザゼルが問う。

「そうね、とりあえず城に持ち帰って話し合う必要があるわね。向こうは仙族と龍族が協力関係にある。人族の国でワタシ達に対して厳戒態勢を敷いているわ。魔都を建て直す期間も必要だから、五年間はお互い手出しはしないよう約束してきたわ。口約束だけどね」
「そうか。向こうも創造主の思念を見るだろうからな。話はそれからか」

 話が途切れるのを待って、アレクサンドが口を開いた。

「アザゼル、キミはさっきマモンに従うと言ったが、それは軍事的な事も含むのかい?」
「あぁ、勿論だ。要請があれば軍を派遣しよう」
「リリスが何をしてくるか分かりませんでしたから、軍を鍛える事は怠っていませんよ」

「そうか、ではそれについて提案がある。ボク達は見ての通り、異種族でパーティーを組んで行動してる。以前は龍族もいた。だから各種族の戦闘法を取り入れ、各自戦闘力を大幅に上げた」
「そうね。二人とも、信頼する者をワタシ達に預けてくれない? 龍族と仙族の戦闘法を教えて、ここに持ち帰って貰うわ。皆の戦闘力が跳ね上がるわよ」

 二人はなるほどと頷いている。

「では俺達の孫を鍛えて貰おうか。見込みのある奴らがいる」
「分かりました、私も伝えておきます」
「じゃあ、後日で良いからシルヴァニア城に派遣してくれる? 歓迎するわ」
「あぁ、分かった」

 
 やっぱりサーモン料理は美味しかった。
 二人に礼を言い、ホテルに戻る。

「明日は早めに出るから、朝食は早めに済ませてね」

 皆軽く頷き各自部屋に戻る。
 一人、アレクサンドだけは夜の街に消えていったけれど。

 
 ◇◇◇

 
 翌朝。
 東の空は白んでいるけど、まだ日は登りきっていない。皆朝食を終え、ホテルのロビーに集まっている。
 ルシフェル以外は。

「困った男ね……。アレクサンド、どんな事しても良いわ。叩き起してきてくれる?」
「あぁ……分かったよ。手荒く行く」

 少しすると、目を擦りながらアレクサンドに襟首を掴まれ、引きずられるようにしてルシフェルが降りてきた。

「だらしないわね……しっかりしなさい」

 ルシフェルは返事の代わりに大あくびを返した。

「さぁ、野営一泊して夕方には城に着きたいわね。全力で飛ぶわよ」

 ホテルに頼んで作ってもらった特製サーモンサンドを受け取る。これを昼食の楽しみに、ワタシ達はシルヴァニア城に向けて飛び立った。
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