- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
220 / 260
第五章 四種族対立編

神龍 レイ・フェイロック

しおりを挟む
 ベルフォールの城の一室。
 豪奢なシャンデリアの下、メイドたちが忙しく動き回っている。

「いきなり押し掛けて料理作ってもらって……なんか悪いな」
「突然の来客なんて王城じゃ日常茶飯事だろ。気にする事ないぞ」

 ジュリアがワイングラス片手に笑い飛ばすが、これは王族と平民の意識の差だ。
 どれだけ城に世話になっても、オレの根底にある平民意識が、どうしても恐縮してしまう。

 部屋の中央にある長いテーブルには、大皿に盛られた様々な料理が並んでいる。それを各々が皿に取り分けて食べるビュッフェ形式だ。
 コース料理でかしこまるより、オレたちにはこういう形式の方が合っている。シャルロット女王が気を使ってくれたんだろう。

「てか、ラファちゃんから通信を貰ったのが四日前で、もう着いてるって早くない? 通信入れてすぐに出たの?」

 ローストビーフを頬張りながら、女王が不思議そうに尋ねる。

「いや、出たのは一昨日です。レトルコメルスに一泊して、さっきここに着きました」
「えっ、一昨日?」

 女王は一瞬首を傾げたが、すぐに合点がいった様にポンと手を打った。

「あぁ! もしかしてみんな『自然エネルギーの体内増幅』を習得したの?」
「あぁ、こないだお祖父ちゃんから教わったんだ」
「そかそか、あれを練気に混ぜたらあの速さだもんね、納得」
「女王はもう使ってるんですか?」
「うん、やってみたょ。でも呼吸が出来ないから、顔の前に守護術張ったでしょ?」

 オレは苦笑して頷く。
 エミリーがいなかったら、多分オレ達そこに行き着く前に窒息してたな……。

「明日は神龍の思念を見に行くんでしょ? ゼウスの思念の話は、その後まとめてするってラファちゃんは通信で言ってたけど」
「そうだな。今回はそのために来た」

 ジュリアが頷く。

「そかそか。んじゃ明日も宴会の準備しなきゃだね」
「良いんですか……? 連日申し訳ないですが」
「問題ないょ! ウチらも宴会したくてウズウズしてるんだから。宴会三昧してたって、魔族達にビクビクしてたって、五年後は来るんだからさ。楽しんでた方がいいっしょ?」

 女王があっけらかんと言う。
 その通りだ。周りをみると、皆の顔が綻んでいる。
 この国は、二人の王のこの「ゆるい」けれど芯のある性格で上手く治められているんだろう。税金を取らなくても各町から寄付金が集まる程だ。国民からどれだけ愛されているかが分かる。

「とりあえず楽しんで帰ってょ! 城下も行ったことないとこいっぱいあるでしょ?」
「そうだな、ソフィア。明後日にでも出かけるか」

 父さんが母さんに提案する。

「そうね。武術ばっかじゃね……十五年間を取り戻さないとね」

 母さんも嬉しそうに頷く。
 確かに、オレもこの街の北や東エリアには行ったことがない。少しゆっくり過ごすとしよう。

 美味い食事と美味い酒、そして気心知れたメンバーとの会話。
 宴は夜遅くまで続いた。

 
 ◇◇◇

 
 翌朝。
 オーベルジュ城で朝食を頂いた。給仕をしてくれるリナさんたちとも、すっかり顔なじみだ。
 各自準備を終え、門前に集合した。
 二人の王も来ている。何があるか分からない、全員がフル装備で武装済みだ。

「揃ったな。では、ひとっ飛びで行くとしよう」

 里長の号令で、全員が空へ舞い上がる。
 西門から飛び出し、かつて『ニーズヘッグ』が生息していた山の山頂を目指す。
 SSSランクの狩猟者ハンターが全員集合だ。しかも里長と父さん母さんまでいる。
 もう何が出てきても問題ない、過剰戦力にも程がある布陣だ。

 パラメオント山脈に連なる険しい岩山の一つ。あの化物を倒したのは、今となってはいい思い出だ。
 山頂付近に降り立ち、周辺を見渡すと、探すまでもなく岩肌にぽっかりと空いた横穴を見つけた。
 岩山を綺麗にくり抜いたような洞窟で、島の祠のような装飾は無く、自然の穴に見えなくもない。

「ニーズヘッグ倒すのに精一杯で、こんな穴、気づかなかったな……」
「そうだね、倒した後もヘトヘトだったもんね……」

 トーマスと顔を見合わせる。
 中に魔物の気配は無い。オレを先頭に、火魔法で中を照らしながら進む。
 洞窟はそこまで深くなく、少し進むと行き止まりになり、そこに四つの窪みがある石の台座が鎮座していた。

「これですね。……左下が緑色に染まってます」

 仄かに発光する窪みを指差す。

「龍族の元の国は大陸の南西だ。おそらく、各種族が生まれ落ちた位置を表してるんですね」

 オレは異空間収納から『すいの宝玉』を取り出し、緑色に染まった窪みに慎重に嵌め込んだ。

 カチリ。

 瞬間、辺りが鮮烈な緑色の光に包まれた。
 光の粒子が集束し、台座の上に一人の老人が浮かび上がる。
 黒い長髪を高い位置で束ね、威厳のある顔立ち。そしてその双眸は、神族と同じ神秘的な青紫色を湛えている。

 なんだ? ゼウスの時と様子が違う。
 
 映像のような透明感が無い。そこに「在る」という圧倒的な存在感。
 神龍レイであろうその人物は、不思議そうに自分の両手を見た後、ゆっくりと視線を下げ、オレたちを見回した。
 ゼウスの思念の様に透けていない。そこに質量を感じる。

「まさか……思念ではなく、実体なのか……?」

 里長が驚愕の声を漏らす。
 老人の目が、オレたちの黒髪を捉えた。

「……その黒髪……青い目……。其方そなたらは、まさか下界の民か?」

 重厚な、しかしどこか温かみのある声が鼓膜を震わせる。
 録音された言葉じゃない。会話が成立している。

「お主は……儂らの創造主である神龍レイ、ということか……?」

 里長が震える声で問う。
 神龍は信じられないといった表情で皆の顔を順に見ている。今、自分に起こっている事態を確認しているんだろう。もちろん、呼び出したオレたちも何が起こっているのか分かっていない。

 その老人は台座の上に浮いていたが、音もなく、ゆっくりと地面に降り立った。
 足が地面を踏む音が、静寂に響く。

「いかにも。それがしは『レイ・フェイロック』だ。かつて神龍と呼ばれていた者だ。……黒い髪の三人は、龍族か……?」
「……はい。儂は龍族の長、クリカラ・フェイロックと申します。こやつらは儂の息子と孫です」

 里長が膝をつき、頭を下げる。オレたちも慌ててそれに倣う。

「敬意など不要。某は創造主であるからと言うて、其方らを下に見る事はしたくない。……それには、もう懲りた」

 神龍レイの言葉には、深い悔恨と悲哀が滲んでいた。

「では、遠慮なく……」

 里長が顔を上げる。
 ゼウスの時とは違い、目の前には生きた伝説がいる。こんな暗い洞窟で立ち話をするような相手じゃない。

 オレは急いで宝玉を回収し、二人の王の提案で、とりあえず城に戻って話をすることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...