- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

言い伝えの理由

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 昨日は程よく身体を動かし、サウナで汗を流してリフレッシュしたおかげか、目覚めは最高に爽やかだ。
 リナさんの元気な挨拶と笑顔に癒されながら、朝食を頂く。エネルギーは満タンだ。

 準備を終え門前に行くと、エミリーが一番乗りで待っていた。

「おはよう。マシューはどんな感じだった?」
「おはよう! 凄かったよ。守護術も治療術も強化術も、かなり精度が上がってた。昨日は『仙神剣術』を主に教えたんだけど、もうSランクも問題ないレベルなんじゃないかな? 刀もしっかり整備して、大事に使ってくれてたよ!」

 エミリーが嬉しそうに報告する。

「ほほー、マシューはセンスいいもんな。……で、その後のデートも楽しかったか?」
「え!? あぁ……うん、すっごく楽しかった……」

 エミリーが頬を赤らめる。
 そうかそうか、そりゃ良かった。

 話していると、トーマスとジュリアが並んでやって来た。

「おはよう!」
「おう、元気だなジュリア」
「あぁ、昨日はリフレッシュできたからな」
「うん、楽しかったね」

 二人は晴れやかな笑顔だ。昨夜、オレに報告できたことで肩の荷が下りたのだろう。

 少しして、全員が門前に揃った。
 父さんと母さんも、久しぶりのデートをゆっくりと楽しんだらしい。夫婦仲が良いのは素晴らしい事だ。

「よし、とりあえず北西に真っ直ぐだ。方向は間違ってはおらぬであろう。全力で飛ぶぞ」

 里長の号令で、オレたちは空へ舞い上がった。
 増幅された風エネルギーで、一気に加速する。
 レイさんは流石だ。涼しい顔で、オレたちの最高速に普通に付いてきている。もしかしたら、本気を出せばオレたちより遥かに速いのかもしれない。

 昼食は空中で、作ってもらっていた握り飯を済ませた。
 そのまま飛び続け、夕方になり、川沿いの開けた河原を発見したため、そこを今日の野営地に決めた。

 着陸する少し前、手頃な『ホーンオックス』の群れを見つけ、一頭狩って処理を済ませてある。

「今日は久しぶりに私に作らせて! 皆はテントよろしくね」

 母さんが腕まくりをして張り切っている。
 母さんの野営料理は初めてだな。楽しみだ。

 皆がそれぞれ手際よくテントを張り、薪を集める。野営の分担に王も平民も関係ない。
 日が暮れ、焚き火の暖かさが心地よくなってきた頃、食欲をそそる芳醇な香りが漂ってきた。

「出来たわよ! やっぱり野営は楽しいね。どうぞ召し上がって!」

 並べられたのは、母さん特製の赤ワインソースがかかったステーキに、肉がゴロゴロと入ったスープ。さらに、新鮮な生レバーの切り分けまである。野営とは思えない豪華さだ。

 皆が一斉にフォークで肉を口に運んだ。

「……んんっ! 美味い!」

 トーマスが目を見開く。

「このソース、どうやって作ったんですか!? コクが凄い……焼き加減も絶妙だ。それにこのスープは何ですか? 肉がトロトロで口の中でとろける……どこの部位ですかこれ!?」

 トーマスが大興奮している。
 確かにこれは美味い。肉の旨味を最大限に引き出しつつ、上品な味わいに仕上がっている。母さんの料理の腕は、十五年のブランクを感じさせないどころか、さらに洗練されている気がする。

「ソースは赤ワインをベースに、香味野菜をじっくり炒めて煮詰めたのよ。このスープの肉はね、牛のシッポなの。『テールスープ』よ。美味しいでしょ?」
「テール……! 凄い……僕の料理なんてまだまだだな……。ソフィアさん、僕に料理を教えてください!」
「そんな大袈裟な……ふふ、いいわよ。明日から一緒に作りましょ」
「オレにも教えてくれ!」
「分かったわよ。みんなで作りましょうね!」

 あっという間に、大鍋いっぱいの料理が平らげられた。皆、満足げに腹をさすっている。

 食後の片付けを終え、皆で焚き火を囲んで紅茶を飲んでいる時だった。
 パチパチと薪が爆ぜる音だけが響く中、トーマスがおもむろに立ち上がった。その表情は真剣そのものだ。

「仙王様、お話があります」

 仙王がカップを置き、トーマスを見上げた。

「何だ、唐突に」
「僕は……」

 トーマスは一度言葉を切り、隣のジュリアを見た。ジュリアも緊張した面持ちで頷く。

「僕は、ジュリアとお付き合いさせて頂いています。ジュリアは仙族で、僕は人族だ……立場が違うことは分かっています。でも、この交際を認めては頂けませんか!」

 深々と頭を下げるトーマス。
 突然の告白に、その場にいた全員が動きを止めた。
 重苦しい沈黙が流れる――かと思いきや。

「くくっ……」

 仙王が喉の奥で笑った。

「そのような事、とうに知っている」
「へ……?」

 トーマスが顔を上げる。

「仙神国に来た時には、既に惹かれ合っておったではないか。ジュリエット、君は分かりやすい。それが君の良い所ではあるのだが、少し内に秘める事も覚えた方が良いぞ」
「お、お祖父ちゃん……気付いてたのか……」

 ジュリアが顔を真っ赤にして俯いた。

「……では?」
「我の許可など不要。ジュリエットが良いのなら、我がとやかく言うことはない」

 そう言って、仙王は慈愛に満ちた笑みを孫娘とそのパートナーに向けた。

「やったー!!」

 トーマスとジュリアは飛び上がって抱き合った。
 わぁっ! と歓声が上がり、皆が拍手で祝福する。

「ただ、父であるライアンには挨拶に行くように。親に言わぬ訳にもいかんだろう」
「はい! 必ず!」
「よぉーし! これは飲まねぇとな!」

 ティモシーさんがニヤリと笑い、異空間から上等なワインボトルを取り出した。
 そこからは、祝宴へと突入した。

 心地よい宴だった。
 皆ほろ酔いではあるが、人数は多い。交代で見張りを立てても十分に睡眠をとることができた。
 何事もなく朝を迎え、オレたちは旅を続けた。

 
 ◇◇◇
 

 さらに野営を四泊はさみ、出発から五日目の正午前。
 眼下に荒涼とした大地が広がった。

「鬼国ソウジャか。……本当にもぬけの殻だ」

 上空から見る限り、人の気配は全くない。建物は破壊され、あちこちに黒い焦げ跡が残っている。奴ら、相当派手に暴れたようだ。
 そのまま廃墟と化した鬼国を通過し、更に北西へ。
 地図にあった『アタゴ山』を目指す。

「地図は正確なようだ。あの山だな」

 里長が前方の山を指差す。
 その山からは、異質な空気が漂っていた。

「うむ、もう魔力を感じる……。だが、邪悪な禍々しさは無いな。かつてのヤマタノオロチとよく似ておる。純粋で、強大な力だ」

 里長が目を細める。
 ここまでは軽装で来たけど、相手はSSSクラスの魔物だ。オレたちは地上に降り、完全武装に切り替えた。

「よし、ではティモシーとトーマスを盾役に。サポートはソフィアとエミリーだ。後は皆で攻撃に回る」

 仙王の指示に皆が静かに頷き、武器を構える。

 盾役の二人が先行し、慎重にアタゴ山の山頂を目指して登っていく。
 そして、山頂の開けた場所にたどり着いた時。

 いた。
 ヤトノカミだ。

 岩場に、白く巨大な何かが鎮座していた。
 全身が雪のような白銀の鱗に覆われた大蛇だ。その頭部からは、刀のような鋭く長い一本の角が生えている。
 とぐろを巻いたその姿は神々しくすらあるが、放たれるプレッシャーは生物の域を超えている。
 こちらに気づいたのか、ヤトノカミが鎌首をもたげた。

 どんな攻撃をしてくるのか分からない。警戒が必要だ。
 まずはトーマスが前線に出る。

守護術しゅごじゅつ 堅牢けんろう八岐大蛇ヤマタノオロチ

 展開された障壁が、トーマスの前面を完全にカバーする。物理も魔法も弾く鉄壁の盾だ。
 しかし――。

 バタリ。

 トーマスが、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

「トーマス!?」

 何が起きた? 攻撃は見えなかった。
 いや、違う。
 ヤトノカミの口元から、陽炎のような、薄い紫色のモヤが漏れ出ている。
 あれは――!

『毒霧だァ――!! 息を止めろッ! 皆でトーマスを守って! エミリー! すぐに快癒だ!』

 オレは叫びながら前に飛び出した。
 ゴンが言っていた言葉が脳裏をよぎる。
 
『姿を見ただけで皆死に絶える』
 
 それは呪いでも何でもない。視認できる距離に入った時点で、致死性の猛毒ガスを吸わされるということだ。

 皆が即座に息を止め、守護術を展開しながら倒れたトーマスの元へ駆け寄る。
 エミリーが滑り込み、両手をかざす。

『治療術 快癒!』

 光がトーマスを包む。
 オレとティモシーさんが盾となり、毒霧の発生源であるヤトノカミを牽制する。
 エミリーとジュリアがトーマスを引きずり、風上へと退避した。

「はぁ……はぁ……ッ! ……大丈夫か、トーマス!」
「あぁ……ゲホッ……! 身体が、痺れて……動かなかった……」

 トーマスが青ざめた顔で息を吹き返す。
 恐ろしい即効性の神経毒だ。守護術で物理的な防御は完璧でも、空気そのものが毒なら防ぎようがない。

 オレたちはティモシーさんを殿しんがりに、一気に山を下り、毒の届かない安全圏まで撤退した。
 幸いだったのは、オレが龍眼で早く気付き、そしてヤトノカミがその場から動こうとしなかったことだ。
 安易に近づけば全滅する。対策が必要だ。
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