- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

眼の力とは

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 安全圏まで退避した後、念の為、エミリーが全員に快癒をかける。
 ピリついていた神経が少し落ち着く。

「ユーゴが毒に気付かなんだら、どうなっていたか……」

 里長が厳しい顔で呟く。

「毒を浴びる覚悟で突撃しても、あのレベルの魔物だ。相当動きが早いと見て良い。こちらの攻撃を避けられたら、毒が回って終わりだ。これは、とんでもなく厄介な敵だぞ……」

 ティモシーさんも腕を組んで唸る。

「この様な凶悪な魔物を生み出すとは……あの二人の性格が出ているな……。すまぬ、某にはもう昔程の力がない」

 レイさんが申し訳なさそうに頭を下げる。

「いや……元より儂らで片付けるつもりであった故、気にされるな」

 里長が気丈に振る舞うが、状況は芳しくない。
 どうする。このままじゃ手詰まりだ。大人数がかえってあだとなっている……。

 ふと、母さんの言葉を思い出す。
 オレはレイさんに問いかけた。

「レイさん、オレの眼は『神眼しんがん』と言われてるらしいんです。時を止める程の力だと」
「なんと……神眼とな……」

 レイさんが目を見開く。

「ただ、扱い方が分からないんです……」

 オレが正直に打ち明けると、レイさんは静かに語り始めた。

「まず思い出して欲しい。眼の力を得る前の事を。なぜその力を手に入れたのかを」

 なぜ手に入れたのか……?

 レイさんの言葉に、皆がそれぞれの過去を思い返す。

「そうか……」

 トーマスが呟く。

「僕は親方から貰ったこの盾の特性を、なんとか守護術に乗せる事が出来たらと常々思ってた。その想いが、ニーズヘッグの風魔法から皆を守らなきゃならない極限の場面で爆発して、『臨眼りんがん』を開眼したんだ」
 
「私は……」

 エミリーが続く。

「私の眼の力は、本質を鋭く見抜く洞察力だって言われた。小さい頃から目を閉じて生きてた私には、本当の世界を見る力が、一番欲しかった力かもしれない……」

 母さんも遠い目をする。

「私は歴史が好きだった。魔神ルシフェルが封印されていると知り、その封印術を勉強したわ。もしその封印が解けたら、私がまた封印するんだって強く願ってた……」

 ジュリアも口を開いた。

「アタシは単純に、ユーゴの先を見る力が心底羨ましかったな……剣士として、相性の良さはこの上ない能力だろ? アタシにはそういう欲はあまり無いが、あれほど欲しいと思ったのは初めての事だったよ」

 皆、強い「願い」がトリガーになっている。
 オレが神眼を開眼する前……。

 記憶を辿る。
 最初は、ジュリアの魔法剣技の習得に付き合った時だ。空飛ぶヒッポグリフが地上に降りず、オレの途絶フリーズが届かなかった。
 あの時、強く思った。「ヒッポグリフを止めないと」って。そうしたら、周りの動きがスローモーションになったんだ。
 次は、魔神ルシフェルが父さんにとどめを刺そうとした時。
 「助けたい、けど間に合わない」と絶望しかけた時、瞬間移動したかのように、オレはルシフェルの剣を止めていた……。

「オレは……あの時、時を止めたんだ……」

 確信と共に呟くと、レイさんは深く頷いた。
 
「そう。眼の力とは、言わば『願望』の具現化だ。その能力を得るに相応しい器と力を持った者の眼に、その願望は宿る」

 黙って聞いていた仙王が感心したように口を開いた。

「なるほど……言われれば確かにそうだ。仙族は生まれつき眼が青く空間魔法は扱えるが、他の特殊な能力は誰もが開眼するものでは無い。むしろ開眼する者の方が稀だ」
「神族でも、必ず開眼すると言うのはこの青紫の眼の話。友人が幼少期に、異空間生成だけの能力でこの眼を開眼した時、慰めようの無いほど落ち込んでたわね……」

 母さんが苦笑する。

 願望……時よ止まれと、強く願えばいいのか。
 
 確かに父さんを助けに入った時、そう願った。無我夢中で。
 時が止まれば、毒霧も関係ない。その隙にヤトノカミを斬る事ができる。

「オレが斬ります。時を止めます」

 オレは皆を見渡して宣言した。

「出来るのか……?」

 里長が心配そうに問う。

「出来るかじゃない、やります。ただ、皆のサポートは欲しい」

 オレなら出来る。大丈夫だ。
 
「オレには龍眼りゅうがんの能力で毒霧が可視化されています。そのギリギリまで近づき奴に対峙します。誰でもいい、突風タイプの風術で一瞬だけ毒霧を吹き飛ばしてもらいたい」
「うん、私がするよ! サポートは任せて!」

 エミリーが即座に手を挙げる。

「頼む」

 オレたちは再び、アタゴ山の山頂へ戻った。
 エミリーに効果の高い強化術を掛けてもらい、更にトーマスの鉄壁の守護術で身を固める。準備は完了だ。

 腰には『不動』一本のみ。
 錬気と、体内で増幅させた自然エネルギーを、鞘に納めた刀に限界まで込め続ける。刀身が微かに振動し、鞘鳴りが響く。

 ヤトノカミは、未だとぐろを巻いてこちらを警戒している。
 ここまで近づくとよく分かる。可視化された毒霧は、吐息のように常に漏れ出し、かなり濃度が高い。

「エミリー、頼む!」
風遁ふうとん 烈風れっぷう!』

 エミリーの放った鋭い突風が、ヤトノカミの前面の空間を吹き荒れ、毒霧を吹き飛ばした。
 視界が開ける。

 今だ!

居合術いあいじゅつ 抜刀一閃ぬきうちいっせん!』

 止まれぇ――!!!

 魂の底から叫び、時よ止まれと念じながら、地面が陥没するほど強く踏み込む。
 増幅した風エネルギーを爆発させ、抜刀の初速に乗せて切り込む。
 オレの、最速の剣技。

 世界から音が消えた。
 ヤトノカミが動かないのか、オレの眼の力で止まっているのか。そんな事を考える間も無い刹那。
 白銀の鱗が、スローモーションのように目の前を流れる。

 ……気が付くと、オレの前にヤトノカミはいなかった。

 仕損じたか?
 そう思い振り返る。

 白蛇の巨体が、ぐらりと揺れた。
 頭部は既に無い。
 宙を舞った首がクルクルと回転し、ドサリと重い音を立てて地に落ちた。
 続いて、巨体が崩れ落ちる。

 やったのか……?

 辺りを見回すと、長い角の生えた首が転がっている。
 現実感が遅れてやってくる。

 斬ったんだ。オレは、時を止めたんだ。

 体内の魔力がゴッソリと持っていかれた感覚が、それを証明している。立っているのがやっとだ。

 後方から歓声が上がった。
 ふらつく足で皆の方に向かって歩くと、拍手の嵐で迎えられた。

「見事だユーゴ……! お主は間違いなく里一番の剣士だ」

 里長が感極まったように言う。

「強くなったなユーゴ……俺はお前を誇りに思う」

 父さんが力強く肩を抱いてくれた。

「ホント、真後ろから見てたけど、気付いたら蛇の首が無かったんだもん……何が起きたか分からなかったよ」

 エミリーが呆れたように笑う。

「一瞬でこの魔力の消費量……使い所が難しいですね……」

 オレは苦笑しながら答える。乱発すればすぐにガス欠だ。
 けど、とりあえずミッションは成功させた。

 その後、ヤトノカミの素材採取に移る。
 体皮を剥ぎ取り、念の為に角や牙、目玉などを採取する。毒がないかオレの龍眼で確認しながらの慎重な作業だ。牙には毒腺から猛毒が付着していたので、トーマスが厳重な革袋に入れて収納した。

「よくこれを斬ったね……。自然エネルギーの増幅は、相当斬れ味を増すようだ」

 トーマスが断面を見て舌を巻く。

「まぁ、オレは切るべきところが視えるからな。こいつの胴は相当硬い。斬りかかっても頭を素早く動かして弱点が逃げ回るし、周りには高濃度の毒霧だ。普通ならヤバい相手だったな……。で、ニーズヘッグの体皮と比べてどうだ?」
「うん、硬さはニーズヘッグの勝ちだね。防具は今のままでいいと思う。ヤマタノオロチの革は属性防御がかなり高いから盾に使ってるけど、この体皮は持ち帰って研究だね」

 残りの肉などを火葬すると、大きな魔晶石が二個と、小さい魔晶石が五個出てきた。

「里長、魔晶石使いますか?」
「良いのか? 仙王はどうだ?」
「あぁ。君らはガントレットに嵌め込んで使うんだったな。我らも試してみようか」
「オレらはニーズヘッグのが埋め込んであるんで。他の皆で使ってください」

 仙王とティモシーさん、里長と両親、そして余った一つは予備として。ちょうど良い配分だ。

「よし、本題の台座のある場所を見つけましょう」

 オレが周囲を見回そうとすると、エミリーが指差した。

「いや、どこ見てたの……そこに見えてるじゃん」

 あ、ほんとだ。
 岩壁の一部が崩れ、人工的な入り口が顔を覗かせている。必死になりすぎて視野が狭くなっていたようだ。

 一応確認するが、中には魔物の気配は無い。かど、警戒は怠らない。
 トーマスはまだ指先に多少の痺れが残っているようだ。エミリーの快癒でも完治しない神経毒、恐ろしい威力だ。
 ティモシーさんを先頭に、火魔法で照らしながら中に入る。

 最奥部に、それはあった。
 四つの窪みのある石の台座。

「さぁ、壊して帰ろうかの」

 あまり強力な術では洞窟ごと崩落してしまう。里長が小規模な風遁で台座を切り刻み、最後は皆で粉々に踏み砕いた。

「これで悪鬼ラセツの完全復活は無かろう」
「懸念は晴れたな。外に出て昼食にするか」

 仙王の一言で、オレたちは洞窟を後にした。
 外の空気は、先程までより少し澄んでいるように感じられた。
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