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第五章 四種族対立編
マフィアからの呼び出し
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ディナーは、エマの好物であるピッツァとパスタが美味しい店を選んだ。彼女の店『Perch』からも近い、隠れ家的な店だ。
これからマフィアのボスと会う。酔っ払って行くわけにはいかない。今日は酒を控えて炭酸水で喉を潤した。
食後、エマは開店前のミーティングのために店へ向かった。
「オレは、近くのカフェで紅茶でも飲んで待ってるよ」
「うん。ちょっとだけ顔出して指示出ししてくる。すぐ戻るね」
エマが小走りで店に入っていくのを見送り、オレはカフェのテラス席で夜風に当たっていた。
少し待っていると、店の入り口からエマが手を振っているのが見えた。魔力を感じ取れるというのは、こういう時に便利だ。
「おまたせ!」
「いや、もっと待つかと思ってたよ。早い方だ」
合流し、二人で夜の街を歩き出す。目的地は目と鼻の先だ。
ソレムニーアベニューの一等地に鎮座する、重厚な石造りのビル『レオパルド』。
レトルコメルスを裏から牛耳る二大マフィアの一つ、『女豹』のアジトだ。
一階は高級バーになっているようだ。その規模と警備の厳重さは、ここがただの飲食店ではないことを無言で主張している。
大家からの呼び出しとはいえ、相手はマフィアだ。目的が読めない以上、警戒は怠れない。
少しだけ、魔力を解放しておくか。威嚇の為だ。
「こっち。後ろに入り口があるの」
エマに導かれ、五階建ての建物の裏手に回る。
鉄製の重い扉の前には黒服の男が立っていたが、エマの顔を見ると無言で道を開けた。
二階の入り口に入ると、秘書らしき女性が出迎えた。
「エマ・ベルフォール様ですね。お待ちしておりました。ご案内致します」
通されたのは、洗練されたインテリアで統一された、広々とした応接室だった。
促されるまま革張りのソファに腰を掛け、待つこと数分。カツ、カツ、とヒールの音が響き、一人の女性が入ってきた。
背が高く、波打つような豪奢な巻き髪。身体のラインが出るドレスを纏い、その瞳は宝石のような緑色に輝いている。昇化した人族だ。一目で只者ではないと分かるオーラを放っている。
「おまたせ。久しぶりだね、エマ。店が好調なようで何よりだ」
女性が向かいのソファに優雅に腰を下ろす。
「はい、おかげさまで。お店を開く時には本当にお世話になりました」
エマが恭しく頭を下げる。
秘書の女性が紅茶を置き、退室すると、女ボスはカップを持ち上げながら、射るような視線をオレに向けた。
「……お前、相当強いな。ただの付き添いじゃなさそうだ。エマのボディガードか?」
「あぁ、自己紹介が遅れましたね」
オレは視線を逸らさずに答えた。
「ユーゴ・グランディールです。エマの交際相手ですよ」
「そうか。私も名乗っていなかったな。『ヴァロンティーヌ・シモン』だ」
ヴァロンティーヌと名乗った女ボスは、興味深そうにオレの瞳を覗き込んだ。
「……その眼の色は初めて見たな。青紫……妙な迫力がある」
「これね、オレもよく分かってないんですよ。生まれつきでして」
こんな所で神族や龍族の話をしてもややこしくなるだけだ。エマにも詳しくは伏せている事だし、適当に流す。
「さて、今日来てもらったのは、私達『女豹』の今後について、店子であるお前に伝えておく為だ」
「今後……ですか?」
「あぁ。結論から言うと、私はこの組織のボスを降りる。私だけじゃない、古参の幹部の殆どがレトルコメルスを出る事になった」
衝撃的な告白だ。この街の裏社会のバランスが崩れることを意味する。
「え……? そ、それでは後任はどなたが?」
その時、ノックと共に一人の男性が部屋に入ってきた。
彼もまた、緑色の瞳を持つ仙人だ。
「いいタイミングで来たな。こいつが次のボス、『エヴァン・ランベール』だ」
エヴァンと呼ばれた男性は、ヴァロンティーヌの横に立ち、穏やかな笑みを浮かべて一礼をした。
「何度かお会いしましたね、エマさん。次のボスを務めさせていただきます、エヴァンです。以後、よろしくお願いしますね」
エマも慌てて立ち上がり、よろしくお願いしますと頭を下げる。オレもそれに倣った。
「私の他、五十人近くがここを出る訳だが、それでもエヴァン以下、約百五十人の精鋭達がレパーデスに残る。……まぁ、エヴァンの体制になれば、組織の名前は変わるかもしれんがな」
ヴァロンティーヌがからかうように言う。
「男がボスの組織で『女豹』ってのも、締まらないだろう?」
「いえ、ボス。僕は組織の名を変えるつもりはありませんよ」
エヴァンがきっぱりと言う。
「僕は貴女の跡を継ぐんです。それは、組織の歴史も名前も全て継ぐって事ですよ」
「ふん……まぁ、お前の好きにすればいいが……」
ヴァロンティーヌは呆れたふりをしているが、その表情は満更でもなさそうだ。部下からの信頼と尊敬が厚いことが見て取れる。この若さで昇化に至るほどの実力者であり、カリスマ性も兼ね備えているんだろう。
「話が逸れたな」
ヴァロンティーヌが表情を引き締めた。
「エヴァンと部下達が強いとはいえ、西には『蛇神の王』がいる。今のところ住み分けが出来ているが、それは我々の組織の力が拮抗しているからだ。私達主力が抜ける事で、そのパワーバランスが崩れかねない」
それは、組織内部の問題であって、エマたちには関係の無い話では……?
「そこでだ。……エマ、お前の店の、あのガキは何者だ? いつも店の前で、ウチの若い衆でも手を焼くような大男を痛めつけているようだが」
ギクリとした。ロンのことだ。
「うちの黒服です。こちらのユーゴ君が鍛えました。うちは元々事情のある子が多いので、連れ戻しに来る輩への対策として……」
「そうか。たまに只者じゃない者を返り討ちにしている報告が上がってくるからな……昇化もしていないガキが、と気になっていたんだ」
ヴァロンティーヌは組んでいた腕を解き、身を乗り出した。
「このレオパルドとお前の店は近い。もしナーガラージャが、我々の弱体化を嗅ぎつけてこちらにちょっかいを出してきた時……お前らにも被害が出る恐れがある。その時は、お前の店のあの少年の力を借りる事になるかもしれん」
なんだと?
オレの中で、明確な拒絶反応が走った。
「ちょっと待ってください」
オレは低い声で遮った。
「あいつはロナルドと言います。オレの大事な弟子だ。まだ十三歳の子供を、マフィアの抗争の駒に使おうと言うのは、オレは賛同できない」
ヴァロンティーヌの目が細められる。室内の空気が凍りついた。彼女はゆっくりと背もたれに体を預け、オレを値踏みするように見た。
「そうか、あのガキは十三歳なのか……あの動き、もっと大きいのかと思っていた。それは失礼した」
意外にもあっさりと引いたが、目は笑っていない。
「だが、巻き込まれれば戦わざるを得ないぞ? 自衛のための戦力として期待したまでだ」
「マフィアの抗争がエマの店にまで及ぶかもしれないという話は、オレも懸念しています。ですが、子供を巻き込む前にやるべき事があるはずだ」
「ほう?」
「その、ナーガラージャという組織に、先に釘を刺しておけば良いのでは?」
ヴァロンティーヌはピクリと片眉を上げた。
「釘を刺す? どういう事だ?」
「ヴァロンティーヌさんは、明日にでもここを出ていくわけでは無さそうだ。引退する前に、そのナーガラージャのアジトに精鋭を連れて乗り込んで、不可侵の不戦協定を結んだらどうですか?」
「……交渉が決裂すれば、それを引き金に全面戦争になる恐れもある。リスクが高い」
「決裂させなければいいんです」
オレはヴァロンティーヌとエヴァンを交互に見た。
「こちらからは手を出さないが、そちらが手を出してくるのなら、組織ごと消滅させる勢いで容赦はしないと脅せばいい。……その為の『抑止力』として、うちのロナルドは貸せませんが、オレが行きますよ」
「お前が?」
「えぇ。オレの魔力量を見せつければ、十分な脅しになるはずだ」
言うが早いか、オレは抑えていた魔力を解放した。
ドォォォォォン!!
物理的な風圧さえ伴うほどの、圧倒的な魔力の奔流。
部屋の空気が重く澱み、窓ガラスがビリビリと振動する。
ヴァロンティーヌとエヴァンが、同時に息を呑んで硬直した。彼らの肌が粟立っているのが分かる。生物としての格の違いを、本能で理解したらしい。
ダダダダッ!
屋敷中に慌ただしい足音が響き渡り、ドアが乱暴に開けられた。
武装した護衛たちが数人、応接室に飛び込んでくる。
「ボス! 大丈夫ですか!?」
「な、なんだこのプレッシャーは……!」
オレは魔力をスッと霧散させ、彼らに向かって手を挙げた。
「敵意はない、大丈夫だ。驚かせてすまない、持ち場に戻ってくれ」
護衛たちは困惑してボスを見る。
ヴァロンティーヌは額の冷や汗を拭い、手を振って彼らを下がらせた。
「……あぁ、オレの魔力で皆が駆けつけたのか……悪いことしたな」
「……とんでもない化け物だな、お前」
ヴァロンティーヌが深いため息をつく。その顔には恐怖よりも、呆れと感心が混ざっていた。
「オレはずっとここにいるわけじゃない。ロンやエマを守るためにも、確実な不戦協定を結んでおきたいんです。そうすれば、少しは安心だ。……まぁ、相手がマフィアだろうが何だろうが、いざとなればエマ達は自力で撃退できるくらい強いですけどね」
オレの言葉に、ヴァロンティーヌはフッと笑った。
「……分かった、私の負けだ。後進に任せる前に、私がしなければいけない最後の仕事はそれかもな。ユーゴと言ったか、頼めるか? 確かにその魔力量は、どんな軍隊よりも恐ろしい抑止力になる」
「えぇ、お安い御用です」
エヴァンも真剣な表情で頷く。
「日はこっちで調整する。また『Perch』に伝言を言付ける」
「分かりました、お待ちしてます」
話はついた。
オレとエマは二人で一礼し、レパーデスの屋敷を後にした。外の空気は冷たかったけど、隣を歩くエマの手は温かかった。
これからマフィアのボスと会う。酔っ払って行くわけにはいかない。今日は酒を控えて炭酸水で喉を潤した。
食後、エマは開店前のミーティングのために店へ向かった。
「オレは、近くのカフェで紅茶でも飲んで待ってるよ」
「うん。ちょっとだけ顔出して指示出ししてくる。すぐ戻るね」
エマが小走りで店に入っていくのを見送り、オレはカフェのテラス席で夜風に当たっていた。
少し待っていると、店の入り口からエマが手を振っているのが見えた。魔力を感じ取れるというのは、こういう時に便利だ。
「おまたせ!」
「いや、もっと待つかと思ってたよ。早い方だ」
合流し、二人で夜の街を歩き出す。目的地は目と鼻の先だ。
ソレムニーアベニューの一等地に鎮座する、重厚な石造りのビル『レオパルド』。
レトルコメルスを裏から牛耳る二大マフィアの一つ、『女豹』のアジトだ。
一階は高級バーになっているようだ。その規模と警備の厳重さは、ここがただの飲食店ではないことを無言で主張している。
大家からの呼び出しとはいえ、相手はマフィアだ。目的が読めない以上、警戒は怠れない。
少しだけ、魔力を解放しておくか。威嚇の為だ。
「こっち。後ろに入り口があるの」
エマに導かれ、五階建ての建物の裏手に回る。
鉄製の重い扉の前には黒服の男が立っていたが、エマの顔を見ると無言で道を開けた。
二階の入り口に入ると、秘書らしき女性が出迎えた。
「エマ・ベルフォール様ですね。お待ちしておりました。ご案内致します」
通されたのは、洗練されたインテリアで統一された、広々とした応接室だった。
促されるまま革張りのソファに腰を掛け、待つこと数分。カツ、カツ、とヒールの音が響き、一人の女性が入ってきた。
背が高く、波打つような豪奢な巻き髪。身体のラインが出るドレスを纏い、その瞳は宝石のような緑色に輝いている。昇化した人族だ。一目で只者ではないと分かるオーラを放っている。
「おまたせ。久しぶりだね、エマ。店が好調なようで何よりだ」
女性が向かいのソファに優雅に腰を下ろす。
「はい、おかげさまで。お店を開く時には本当にお世話になりました」
エマが恭しく頭を下げる。
秘書の女性が紅茶を置き、退室すると、女ボスはカップを持ち上げながら、射るような視線をオレに向けた。
「……お前、相当強いな。ただの付き添いじゃなさそうだ。エマのボディガードか?」
「あぁ、自己紹介が遅れましたね」
オレは視線を逸らさずに答えた。
「ユーゴ・グランディールです。エマの交際相手ですよ」
「そうか。私も名乗っていなかったな。『ヴァロンティーヌ・シモン』だ」
ヴァロンティーヌと名乗った女ボスは、興味深そうにオレの瞳を覗き込んだ。
「……その眼の色は初めて見たな。青紫……妙な迫力がある」
「これね、オレもよく分かってないんですよ。生まれつきでして」
こんな所で神族や龍族の話をしてもややこしくなるだけだ。エマにも詳しくは伏せている事だし、適当に流す。
「さて、今日来てもらったのは、私達『女豹』の今後について、店子であるお前に伝えておく為だ」
「今後……ですか?」
「あぁ。結論から言うと、私はこの組織のボスを降りる。私だけじゃない、古参の幹部の殆どがレトルコメルスを出る事になった」
衝撃的な告白だ。この街の裏社会のバランスが崩れることを意味する。
「え……? そ、それでは後任はどなたが?」
その時、ノックと共に一人の男性が部屋に入ってきた。
彼もまた、緑色の瞳を持つ仙人だ。
「いいタイミングで来たな。こいつが次のボス、『エヴァン・ランベール』だ」
エヴァンと呼ばれた男性は、ヴァロンティーヌの横に立ち、穏やかな笑みを浮かべて一礼をした。
「何度かお会いしましたね、エマさん。次のボスを務めさせていただきます、エヴァンです。以後、よろしくお願いしますね」
エマも慌てて立ち上がり、よろしくお願いしますと頭を下げる。オレもそれに倣った。
「私の他、五十人近くがここを出る訳だが、それでもエヴァン以下、約百五十人の精鋭達がレパーデスに残る。……まぁ、エヴァンの体制になれば、組織の名前は変わるかもしれんがな」
ヴァロンティーヌがからかうように言う。
「男がボスの組織で『女豹』ってのも、締まらないだろう?」
「いえ、ボス。僕は組織の名を変えるつもりはありませんよ」
エヴァンがきっぱりと言う。
「僕は貴女の跡を継ぐんです。それは、組織の歴史も名前も全て継ぐって事ですよ」
「ふん……まぁ、お前の好きにすればいいが……」
ヴァロンティーヌは呆れたふりをしているが、その表情は満更でもなさそうだ。部下からの信頼と尊敬が厚いことが見て取れる。この若さで昇化に至るほどの実力者であり、カリスマ性も兼ね備えているんだろう。
「話が逸れたな」
ヴァロンティーヌが表情を引き締めた。
「エヴァンと部下達が強いとはいえ、西には『蛇神の王』がいる。今のところ住み分けが出来ているが、それは我々の組織の力が拮抗しているからだ。私達主力が抜ける事で、そのパワーバランスが崩れかねない」
それは、組織内部の問題であって、エマたちには関係の無い話では……?
「そこでだ。……エマ、お前の店の、あのガキは何者だ? いつも店の前で、ウチの若い衆でも手を焼くような大男を痛めつけているようだが」
ギクリとした。ロンのことだ。
「うちの黒服です。こちらのユーゴ君が鍛えました。うちは元々事情のある子が多いので、連れ戻しに来る輩への対策として……」
「そうか。たまに只者じゃない者を返り討ちにしている報告が上がってくるからな……昇化もしていないガキが、と気になっていたんだ」
ヴァロンティーヌは組んでいた腕を解き、身を乗り出した。
「このレオパルドとお前の店は近い。もしナーガラージャが、我々の弱体化を嗅ぎつけてこちらにちょっかいを出してきた時……お前らにも被害が出る恐れがある。その時は、お前の店のあの少年の力を借りる事になるかもしれん」
なんだと?
オレの中で、明確な拒絶反応が走った。
「ちょっと待ってください」
オレは低い声で遮った。
「あいつはロナルドと言います。オレの大事な弟子だ。まだ十三歳の子供を、マフィアの抗争の駒に使おうと言うのは、オレは賛同できない」
ヴァロンティーヌの目が細められる。室内の空気が凍りついた。彼女はゆっくりと背もたれに体を預け、オレを値踏みするように見た。
「そうか、あのガキは十三歳なのか……あの動き、もっと大きいのかと思っていた。それは失礼した」
意外にもあっさりと引いたが、目は笑っていない。
「だが、巻き込まれれば戦わざるを得ないぞ? 自衛のための戦力として期待したまでだ」
「マフィアの抗争がエマの店にまで及ぶかもしれないという話は、オレも懸念しています。ですが、子供を巻き込む前にやるべき事があるはずだ」
「ほう?」
「その、ナーガラージャという組織に、先に釘を刺しておけば良いのでは?」
ヴァロンティーヌはピクリと片眉を上げた。
「釘を刺す? どういう事だ?」
「ヴァロンティーヌさんは、明日にでもここを出ていくわけでは無さそうだ。引退する前に、そのナーガラージャのアジトに精鋭を連れて乗り込んで、不可侵の不戦協定を結んだらどうですか?」
「……交渉が決裂すれば、それを引き金に全面戦争になる恐れもある。リスクが高い」
「決裂させなければいいんです」
オレはヴァロンティーヌとエヴァンを交互に見た。
「こちらからは手を出さないが、そちらが手を出してくるのなら、組織ごと消滅させる勢いで容赦はしないと脅せばいい。……その為の『抑止力』として、うちのロナルドは貸せませんが、オレが行きますよ」
「お前が?」
「えぇ。オレの魔力量を見せつければ、十分な脅しになるはずだ」
言うが早いか、オレは抑えていた魔力を解放した。
ドォォォォォン!!
物理的な風圧さえ伴うほどの、圧倒的な魔力の奔流。
部屋の空気が重く澱み、窓ガラスがビリビリと振動する。
ヴァロンティーヌとエヴァンが、同時に息を呑んで硬直した。彼らの肌が粟立っているのが分かる。生物としての格の違いを、本能で理解したらしい。
ダダダダッ!
屋敷中に慌ただしい足音が響き渡り、ドアが乱暴に開けられた。
武装した護衛たちが数人、応接室に飛び込んでくる。
「ボス! 大丈夫ですか!?」
「な、なんだこのプレッシャーは……!」
オレは魔力をスッと霧散させ、彼らに向かって手を挙げた。
「敵意はない、大丈夫だ。驚かせてすまない、持ち場に戻ってくれ」
護衛たちは困惑してボスを見る。
ヴァロンティーヌは額の冷や汗を拭い、手を振って彼らを下がらせた。
「……あぁ、オレの魔力で皆が駆けつけたのか……悪いことしたな」
「……とんでもない化け物だな、お前」
ヴァロンティーヌが深いため息をつく。その顔には恐怖よりも、呆れと感心が混ざっていた。
「オレはずっとここにいるわけじゃない。ロンやエマを守るためにも、確実な不戦協定を結んでおきたいんです。そうすれば、少しは安心だ。……まぁ、相手がマフィアだろうが何だろうが、いざとなればエマ達は自力で撃退できるくらい強いですけどね」
オレの言葉に、ヴァロンティーヌはフッと笑った。
「……分かった、私の負けだ。後進に任せる前に、私がしなければいけない最後の仕事はそれかもな。ユーゴと言ったか、頼めるか? 確かにその魔力量は、どんな軍隊よりも恐ろしい抑止力になる」
「えぇ、お安い御用です」
エヴァンも真剣な表情で頷く。
「日はこっちで調整する。また『Perch』に伝言を言付ける」
「分かりました、お待ちしてます」
話はついた。
オレとエマは二人で一礼し、レパーデスの屋敷を後にした。外の空気は冷たかったけど、隣を歩くエマの手は温かかった。
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