- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

真面目な男

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 まだ夕方にもなっていない時間帯。
 明日には王都を出るという事で、ジュリアとエミリーは久しぶりにカジノへと出かけて行った。

「オレはここを出る前に、サンディの様子を見て来ようかな。教えてしまった手前、何も言わずに帰るのも無責任だしな……」
「じゃあ、僕もついて行くよ」

 トーマスが同行を申し出る。
 あれから一週間近く経っている。家に居ない可能性もあるけど、住所は東エリアだ。もし留守なら、そのまま繁華街に遊びに行けばいい。

 城を出て東の大通りに出る。賑やかなメインストリートから一本路地に入り、さらに奥へ進むと、閑静な住宅街が現れた。
 目当ての場所は、その一角に建つ階層の高いマンションだった。意外といい所に住んでいる。

 部屋番号を確認し、呼鈴を鳴らす。
 少しして、ドアが開いた。額に玉のような汗を浮かべ、タオルを首にかけたサンディが出てきた。

「おぉ、師匠じゃねぇか。あんたも久しぶりだな。……まぁ上がってくれ」
「誰が師匠だよ。お邪魔するよ」

 通された部屋は、一人暮らしには十分すぎるほど広かった。
 けど、生活感は薄い。家具は必要最低限で、一つの部屋に至っては家具が一切なく、床にマットが敷き詰められているだけだった。

「練気を纏う修練なら動く必要はねぇからな、部屋の中で十分だ」

 サンディはそう言って、キッチンでコーヒーを淹れ始めた。
 淹れたてのコーヒーの香りが部屋に漂う。

「ここ一週間で守護術、回復術、補助術の基礎を学んだよ。まだまだ初歩的な事しか出来ねぇが、あとはこれを地道に繰り返して精度を上げるだけだな」
「へぇ……サンディ、意外と真面目なんだね」

 トーマスが感心したように言う。

「あぁ、俺は強くなりてぇ。それだけだ」

 その瞳に迷いはない。
 オレはコーヒーを一口飲み、切り出した。

「実はな、新しい理論が確立されたんだ。まだ王都の兵士しか知らない最新の技術なんだけどな」

 オレは前置きをして、先日習得したばかりの『聯気れんき』について解説した。
 練気と自然エネルギーの概念を既に理解しているサンディにとって、それは目から鱗の内容だったようだ。

「ほぉ……こいつはまた、全くの別物だな……。だが、やることは明確だ。これを剣に纏う修練は変わらねぇって事だな」
「あぁ、基礎は一緒だ。オレ達は明日ここを出る。おそらく当分帰ってこないからな、最後に顔出したんだ。頑張ってな」
「おう、ありがとよ」

 サンディは力強く頷くと、急にニカっと笑った。

「なぁ、良かったら飯奢らせて貰えねぇか? こないだの依頼で、だいぶ儲けさせてもらったからな。礼くらいさせろよ」

 断る理由はない。
 シャワーで汗を流すサンディを待っていると、丁度いいディナーの時間になった。
 
 東エリアの繁華街、シャンガルド通り。
 東門から城を繋ぐ、王都一の目抜き通りだ。
 煌びやかなショーウィンドウにはハイブランドの服や鞄が並び、行き交う人々もどこか洗練されている。飲食店も規模が大きく、高級感漂う店構えが多い。
 けど、深く路地に入れば、通好みの店もあるらしい。

 サンディに連れられて入ったのは、大きな扉のバー&レストランだった。
 薄暗い店内に音楽が流れ、焼いた肉の匂いが充満している。

「オレ、東エリアでご飯食うの初めてだな……へぇ、見た事ないメニューだ」
「骨付きの大きなステーキや、少し変わった具材のピッツァ、山盛りのフライドポテトなんかが俺のお気に入りだ。聞くところによると、ここのオーナーは魔族らしいぞ」
「へぇ、ってことは魔族の料理なのか」

 運ばれてきたのは、皿からはみ出んばかりのTボーンステーキ。
 ナイフを入れると、肉汁が溢れ出す。一口頬張る。

「……美味い!」

 肉の旨味もさることながら、かかっているソースが絶品だ。甘辛く、スモーキーな香りが鼻から抜ける。

「肉はもちろんだけど、このソースが美味しいね。これは売ってるのかな」
「あぁ、BBQソースだな。ボトルで売ってるはずだ」

 三人でテーブルに並んだダイナミックな料理を、冷えたビールで流し込む。特にスパイスの効いたフライドポテトが止まらない。
 
 酒が入ると、サンディはよく喋り、よく笑った。最初の印象は最悪だったけど、一度鼻をへし折ってしまえば、裏表のない良い奴だ。それに意外なほどの努力家。彼は強くなるだろう。

「なぁ。俺もこの先、もう一度パーティーを組むことがあるかも知れねぇ。その時は、仲間にこの戦闘法教えても良いのか?」

 真剣な眼差しで問われる。

「そうだな。誰にでも教えるってのは問題かもしれないけど、信頼する仲間なら教えてもいいんじゃないか? 元々はオレ達も教わった身だし、広めることに制限はないよ」
「そうか。……信頼出来る仲間を見つけて、もう一度SSランクを目指すよ」
「あぁ、頑張れよ」

 サンディはまだ三十歳過ぎ。狩猟者ハンターとしては脂が乗っている時期だ。一度折れたプライドを捨て、取り戻した情熱で這い上がって欲しい。
 
 サンディにたらふく奢ってもらい、店を出て別れた。城に戻り、ベッドに倒れ込む。明日はレトルコメルスへの移動だ。

 
 ◇◇◇
 

 翌朝。
 ゆっくりと朝食を頂く。いつも通りの優雅な朝だ。
 けど、一つだけいつもと違うことがあった。リナさんとの距離感だ。
「おはようございます!」といういつもの元気な挨拶と、癒しの笑顔は変わらない。仕事も完璧だ。
 ただ、目に見えない薄い壁を感じる。プロのメイドとしての「線引き」が、そこにはあった。

「さて、とりあえず夕方にはレトルコメルスには着くであろう。そこで一泊して里に帰るかの」
「分かりました。昼食はお願いしてますので、オレが預かりますね」

 里長の言葉に頷き、出発の準備を整える。
 皆が部屋から荷物を持ち出し、エントランスに集まる。

 リナさんがバスケットを持って近づいてきた。

「昼食のサンドイッチです。ユーゴ様にお渡しして宜しいですか?」
「あぁ、はい頂きます。ありがとう、本当にお世話になりました!」

 オレが頭を下げると、リナさんはニッコリと微笑み、深々と、そして丁寧に一礼した。

「どうか、お気をつけて」

 顔を上げてにっこりと微笑む。
 そして彼女は、背筋を伸ばして奥へと下がって行った。

 何だ、何が違うんだろう……。

 レオナード王とシャルロット女王に見送られ、オレたちは全力でレトルコメルスに向かって飛び立った。
 試しに風属性の『魔聯気まれんき』で飛んでみたけど、魔力を無駄に消費するだけで、速度に大きな変化は無かった。やはり移動には『聯気れんき』がベストのようだ。

 ひたすら黙々と飛び続け、夕方前には目的地であるレトルコメルスに到着した。

「予定より早く着いた。明日までゆっくりと体を休めるかの」
「じゃあ、オレはエマのとこ行ってきますね」
「そっか、私もニナのとこに行ってこようかな」

 里長とレイさんは一人部屋、トーマスとジュリア、両親はツインルームに泊まるようだ。

「明日こそ、エマちゃんをちゃんと紹介しなさいよね!」

 母さんが念を押す。

「あぁそうだな。明日の朝、ここへ連れてくるよ。……では」

 オレは皆と別れ、エマのマンションへ向かった。
 部屋の前まで来て、呼鈴を鳴らそうと手を伸ばした瞬間。
 ガチャリ、とドアが開いた。

「うぉっ! びっくりした」
「やっぱりそうだ! おかえり!」

 満面の笑みのエマが出迎えてくれた。

「すごいな、分かるのか?」
「私、魔力を感じることが出来るようになったみたい。さっき微かに感じて、もしかしてって思ってドアを開けたの」
「へぇ、大した進歩だな」

 オレは感心しながら部屋に上がり、エマの淹れてくれたコーヒーを受け取った。

「ありがとう。……そうだ、新しい戦闘法を習得したんだ。すぐにできるような事だから教えとくよ」

 そう言って、オレは『聯気れんき』への変質方法と理論を教えた。
 エマは数回の試行錯誤ですぐにコツを掴んだ。

「なるほどね。混ぜる順番が違うだけで、全然質感が違うね……。今日仕事行ったら、ロン君たちにも教えとくね」
「あぁ。目標は変わらず『練気で空を駆ける事』だな。聯気の精度を上げるのに一番いい修練方法は変わらないから」
「うん、頑張るよ!」

 ひとしきり近況を話した後、エマが少し声を潜めて言った。

「あのね、お店の周りの事で、ちょっと話があるの」
「ん? どうした?」

 エマの表情が曇る。

「レトルコメルスには、主に東西二つの大きな繁華街があるのは知ってるよね? 私の店がある東の『ソレムニーアベニュー』を縄張りとしてるマフィアのボスが、女性なの」

 マフィア。不穏な単語だ。

「今のお店、結構大きいでしょ? 店を開く時に挨拶で一度会ってるんだけど……今晩、ボスの所に来るように呼び出しを受けてるんだよね」

 マフィアのボスに呼び出されるって……。

「大丈夫なのかそれ……? タチの悪い因縁つけられたりしないか?」
「ソレムニーアベニューの土地の殆どは『女豹レパーデス』の所有なの。あ、『レパーデス』はその組織の名前ね。私は店を借りてる身だから、大家さんからの呼び出しには応じなきゃね」

「……そうか。じゃあ、オレがついて行くよ」
「えっ、いいの? ロン君にお願いしようと思ってたんだけど、ユーゴ君ならもっと安心だな……お願い出来る?」
「もちろん! ここで待ってる方が心配で落ち着かない」

 エマは安堵の表情を浮かべた。
 一度お店に出勤して顔を出してから、マフィアのアジトに行くらしい。
 出勤前に一緒にディナーを食べて、腹ごしらえをしてから向かうことにしよう。
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