- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

王都の軍事演習

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 数日後。
 ウェザブール王都の北門付近にある、広大な演習場。
 そこには、地平を埋め尽くさんばかりの兵士たちが整列していた。
 王国軍による大規模な軍事演習が行われている。オレたちも特別顧問として参加している。

 今回も事前に部隊長クラスの精鋭を集め、新たに体系化された『聯気れんき』と『魔聯気まれんき』について指導を行った。彼らがそれを持ち帰り、各部隊に落とし込む形だ。
 指導自体は難しくない。前回の演習から日が経っている為、皆が武具に錬気を纏う基礎は習得済みだからだ。
 エネルギーの混ぜ方が変わって『聯気れんき』になったところで、扱い方そのものが劇的に変わるわけじゃない。あとは各自が修練を積み、精度を上げるのみだ。

「『聯気れんき』は、魔力の少ない人族にとって最適な戦闘法になるょ。これ以上のものは無いね」

 シャルロット女王が、練り上げられた気迫を放つ兵士たちを見渡して満足げに言う。

「あぁ、あとはその精度と熟練度だ」

 仙王も腕を組んで頷く。

 最前列に並ぶ騎士団は、選りすぐりのエリート集団だ。
 彼らは主に王城付近の警護に当たっているけど、その戦闘能力の高さから、この広い王都全体の警備指揮を執るのも仕事のうちだ。
 王都での登用試験に合格した者と、各町の領主が推薦する優秀な者が『騎士団学校』に入学し、地獄のような訓練を経て選抜される。
 その狭き門をくぐり抜けた者だけが、誇り高き騎士団の紋章が刻印された防具を身に付けることを許される。
 ロンが目指しているのは、そういう厳しい世界だ。今のあいつなら、きっと大丈夫だ。

「王国軍の一般兵士たちが、騎士団に登用されることもあるんでしょ?」
勿論ロンモチだよ。ウェザブール王国は完全実力主義だからね。出自は関係ない」

 レオナード王がニカっと笑う。
 演習場では、各部隊ごとに『聯気れんき』の実践指導が始まっていた。
 自然エネルギーの体内増幅は感覚的な部分が多く、口で説明するのは難しい。そこで、聯気れんきの精度を上げるための効果的な修練として、練気による空中歩行を推奨した。
 空を蹴る感覚を掴めば、気力の密度は飛躍的に上がるはずだ。

「この演習場もそうですが、軍の主要設備は全て北エリアに集中してますよね。やはり、万一の敵襲に備える為ですか?」

 オレの問いに、シャルロット女王が答える。

「そうだょ。そもそも人族が生み出された経緯が、他種族に対する抑え、防波堤だからね。北には魔族領や鬼族領がある。ここが最前線なんだ」
「北のギルドをあれだけ大きく造ってるのも、北エリアに腕利きの狩猟者ハンターを集中させる為でしょ?」
「あぁ、結果的にそうなってるね。ただ南北に分けただけだけど、荒事になれた連中は北に集まるからね」

 ここは人族の守りの要。
 北の砦から緊急通信が来れば、即座にこの北エリアから大軍が出動できる体制が整っているわけだ。

 ふと、先日の一件を思い出し、オレは提案してみた。

「そうだ、こないだ北のギルドで、他の狩猟者ハンターと依頼をこなしたんですよ。結局、知り合いだったんですけどね」
「知り合い? 王都の?」
「あぁ、サンディだよ。ここでソロ活動してた」
「あぁ、サンディね……」

 トーマスが苦笑する。

「彼に少し指導したんですが、強くなるでしょうね。そこで提案なんですが……狩猟者ハンターの質を上げるために、有料でもいいから軍が戦闘指南をするのはどうですか? 有事の際の戦力は多い方がいい」

 王二人は顔を見合わせて軽く頷いたが、すぐに微妙な表情になった。

「なるほどねぇ。アイデアは悪くないけど……狩猟者ハンターにも無法者がいるからね……戦力リョクセンのバランスは難しいよね」
「そうか……確かに一癖も二癖もある人が多いですもんね」

 腕っ節が強い者が狩猟者ハンターになる傾向が強い。中には力に溺れる者や、ケンカっ早い者も多いのが事実だ。
 国が主導して戦闘力を上げた結果、その力が犯罪や暴動に使われたら元も子もない。治安維持のために軍の戦力を割くことになれば本末転倒だ。

「浅はかな考えでしたね……すみません」
「いやいや、いいんだょ。でもね、ユーゴっち。王国人口八十万人のうち、狩猟者ハンター登録してる数って六万人くらいなんだょ。その内、軍人が約四万人。純粋な専業狩猟者ハンターって二万人くらいなんだょね」

 え、そんな比率なのか。

「この国で生活するには、燃料となる魔石が必要不可欠だ。だから、うちの軍人ジングンが副業や訓練の一環として、ギルドの依頼をこなして魔石を流通させてるのが現状だね」

 つまり、狩猟者ハンターカード所持者の大半が、実質的には王国の兵士ということらしい。
 だとすれば、あえてギルドで講習を開かずとも、今の軍事演習だけで大半の戦力底上げは事足りているという事だ。各町からも兵が派遣されているから、新しい戦闘法のアップデートも問題なく行き渡る。
 国のシステムは、オレが思うよりずっと合理的だった。

 演習は熱気を帯び、兵士たちの掛け声が空に響く。
 今回の軍事演習で、人族の戦闘力は確実に一段階上のステージへと昇華された。

 
 ◇◇◇

 
 演習後。
 オレたちはオーベルジュ城の玉座横、いつもの会議室で話し合っていた。

「アレクサンド達は、新たな戦闘法を習得しようとしているな。どんなものなのか、詳細は分からんが……」

 仙王が眉間に皺を寄せ、遠くを見つめるように言う。
 『千里眼』で、遥か彼方にいるアレクサンドの視界を覗き見たようだ。
 その力があれば、向こうがどう動くかが手に取るように分かる。向こうはこちらに見られていることすら知らない。圧倒的な情報アドバンテージだ。

「単純に考えると、悪魔族の戦闘法であろうの」

 里長が推測する。

 ふと、以前レイさんが言っていた「眼の力は願望の具現化」という話を思い出した。
 オレは仙王に尋ねた。

「そういえば仙王様。眼の力は『強い願望』によって開眼すると言う事でしたけど……仙王様はどうして『千里眼』を開眼したんですか? 何が見たかったんです?」

 オレの問いに、仙王がビクリと肩を震わせた。

「えっ……? い、いやっ、どうだったかな……昔の事だ、忘れてしまったな……うん、忘れた」

 明らかに動揺している。視線が泳ぎまくっている。忘れた感じじゃなさそうだ。あれは、言うのが恥ずかしい系のやつだ。

 ニヤニヤしながら様子を見ていたティモシーさんが、口を挟んだ。

「色恋話だよ。こいつの最初の妻が、変わった奴でな。どんな景色を見てるのかが気になって気になって……」
「あぁーッ!! それ以上は言うなティモシー!!」

 仙王が顔を真っ赤にして叫ぶ。威厳も何もあったものじゃない。

「良いじゃねぇか別に。あいつは不思議な魅力のある奴だったもんな。お前がストーカーじみた能力に目覚めるのも仕方ねぇよ」
「人聞きの悪い! ……あぁもう、言うなというのに!」

 仙王が頭を抱える。
 なるほど、何となく分かった。
 まだ恋人になる前、彼女のことが好きすぎて、いつでも彼女と同じ物を見ていたいと強く願った結果が『千里眼』だったわけだ。
 一途で素敵な話だと思うけど、始祖四王として崇められる本人からすれば、黒歴史レベルの恥ずかしい話なんだろう。

「コホン……。まぁ、そんな事はどうでも良い……」

 仙王は咳払いをし、まだ赤い顔のまま強引に話を戻した。

「……向こうには懐かしい顔がある。『アザゼル』と『ラミア』だ」
「へぇ……原初の魔族じゃねぇか。あいつら、まだ生きてたのか」

 ティモシーさんが目を細める。
 マモン達は、原初の魔族まで引きずり出したのか。
 原初の鬼族も居ると言っていた。アザゼルとラミア……初代魔王アスタロスの側近だった者たちだ。かなりの使い手であることは間違いない。

「奴らは何日も同じ動作を繰り返している。相当難易度の高い戦闘法なのだろう。だが、習得するまでは当分動くことは無さそうだ」
「猶予はある、ということか」

 里長が頷く。

「では、我々も『気力のみで空を駆ける』修練を積む事にしようかの。仙王よ、お主は仙神国に帰るのか?」
「そうだな。数日したら帰るとするか。流石に国を空けすぎた」
「あぁ、少しゆっくりしようや」
「では、儂らは明日くらいには島へ戻るかの?」

 里長の言葉に、オレたちも頷いた。
 新たな目標が出来た。
 敵が強くなるなら、オレたちはそれ以上に強くなるだけだ。
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