- Mix blood -

久悟

文字の大きさ
230 / 260
第五章 四種族対立編

失恋

しおりを挟む
 私には、リナさんがお皿を落とした原因が分かってる。あのタイミング。ユーゴの言葉を聞いた瞬間の、絶望したような顔。
 私は急いで彼女の後を追った。
 バックヤードの隅で、リナさんは同僚のメイドさんたちに慰められながら泣いていた。

「リナさん、大丈夫?」
「エミリー様……申し訳ございません……」
「謝る事ないよ。皆さん、リナさんと少しお話してきてもいいですか?」
「えぇ、では私達は持ち場に戻りますね。リナちゃん、大丈夫だからね」

 同僚たちが気を利かせて戻っていく。
 リナさんは皆の背中に深々と頭を下げている。

「ちょっと! リナさん手切ってるじゃん! ちょっと見せて」

 破片を片付ける時に切ったんだろう、指先から血がポタポタと落ちている。

「あっ、これくらい大丈夫です!」
「ダメ。痕が残ったら大変だよ」

『治療術 再生』

 傷口が塞がり、滑らかな肌に戻る。

「えっ……綺麗に治った……ありがとうございます」
「どういたしまして。……向こうで座って話そうよ」

 私は魔法で水を出したコップを渡し、二人で夜風の当たるテラスのベンチに座った。
 少しの間、沈黙が流れる。遠くから宴の賑わいが聞こえてくるのが、余計に切ない。

「エミリー様……私、無謀な恋をしてるって分かってました。叶うことなんてないって。でも……いざユーゴ様の口から、はっきりと交際相手のお名前が出ると……身体の力が、全部抜けてしまって……」

 そう言って、リナさんは肩を震わせて泣き始めた。私は何も言えず、ただ彼女の華奢な背中をさすることしか出来ない。

「私……メイド失格ですね……公私混同して、あんなミスをして……」
「そんな事ないよ! リナさん程の気配りができるメイドなんて、探してもいないんだから!」
 
「……今日も、ユーゴ様に手作りのマドレーヌを差し上げたんです……用事なんて無いのに、クリーニングを口実にお休み中のお部屋をノックしてまで……。私……最低です……」

 彼女の告白に胸が締め付けられる。

「そんな事ない。ユーゴに喜んで欲しいって、リナさんが一生懸命考えてとった行動だよ?」

 でも、彼女は自分を責め続けている。
 そして私も、自分を責めた。

 私は言えなかった……。リナさんの気持ちを知ってたのに、ユーゴには大切な人がいるって、残酷な事実を言えなかった……。

 期待を持たせたままにしてしまった私の罪だ。
 涙が溢れてきた。どうする事も出来ない無力感。これが失恋なんだ。
 私たちは二人で抱き合って泣いた。今の私には、一緒に泣いてあげることしか出来ない。

 ひとしきり泣いた後、私は顔を上げた。

「よし! リナさん、遊びに行くよ! パーッと気晴らししよう! 次の休みはいつ?」
「えっ……? 宜しいのですか……? えっと、次のお休みは明日です」
「明日なの!? ジャストタイミングじゃん! 明日の朝、門前に集合ね! 美味しいもの食べて、買い物して、全部忘れさせてあげる!」

 私の提案に、リナさんは驚いた顔をした後、顔をくしゃくしゃにしてまた泣き始めた。

「えっ……行きたくなかった……? ごめんごめん! 無理強いして!」
「違うんです……うぅ……エミリー様のお優しさが嬉しくて……ありがとうございます……」

 リナさんは私の胸でしばらく泣き続けた。
 そしてフゥっと大きく息を吐き、涙を拭いて立ち上がった。その瞳には、少しだけ光が戻っていた。

「よし……もう大丈夫です。お仕事に戻ります。エミリー様、本当にありがとうございました。明日、楽しみにしてます!」

 
 ◇◇◇

 
 エミリーがリナさんを連れてホールに戻ってきた。
 リナさんは少し目が赤いものの、毅然とした態度で皆に深々と頭を下げた。

「皆様、お騒がせして大変申し訳ございませんでした」
「いいょいいょ、仕事多いもんね……少しお休み増やしてあげてもいいんじゃない? レオナード」
「そうだなぁ……少し働き方を見直すべきなのかもね。皆の不満マンフーを聞くことにしよう」
「そんな! 滅相もございません! 私の不注意です!」

 リナさんが慌てて手を振る。テキパキと元気な普段のリナさんに戻ったようだ。

「リナさん、怪我はなかった?」
「はい、驚かせてしまい申し訳ございませんでした……あっ、ユーゴ様、お飲み物はいかが致しましょう? グラスが空いていますよ」
「あぁ……そうだな、ビールお願いしようかな」
「かしこまりました! すぐにお持ちします!」

 オレへの受け答えも、いつもの最高の笑顔だ。プロだなぁ。

 宴会は大盛り上がりで終わった。

 明日はエミリーとリナさんが出かけるらしい。二人には思いっきり楽しんできてもらいたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...