237 / 260
第五章 四種族対立編
チームワーク
しおりを挟む
【同時刻 レトルコメルス】
この二年、オレは主に里で生活し、たまにレトルコメルスまで飛んでくる生活を送っていた。
純粋な気力だけで空を駆ける事が出来る様になるまで、一年と少しかかった。それ程までに、変質気力に頼らない空中歩行は難易度が高いものだった。
その苦労の甲斐あって、オレの気力の質と密度は、以前とは全くの別物に進化した。その研ぎ澄まされた気力で作る『聯気』は、術の威力を桁違いに変えた。
「ロンはもう少しかかりそうだな」
「うん、これは難易度が高すぎるね……。でも、気力の質は二年前とは別物になってるのを感じるよ」
ロンが自分の拳を握りしめて言う。
「あぁ。刀の斬れ味が更に上がるぞ。オレ達に切れないものは無いんじゃないかと思うくらいにな」
今日はオレたち四人でレトルコメルスまで来ている。
ちなみに、トーマスとジュリアは里で居を構えて一緒に住んでいる。二人は本当に仲がいい。
あのだらしなかったジュリアが、今や家の掃除までする様になった。……いや、普通の事なんだけど、かつてのジュリアを知る身としては、彼女が身の回りの世話を自分でするなんて、天地がひっくり返るような進歩だ。愛の力は偉大だ。
もっとも、料理に関しては一切しないみたいだけど、それはトーマスの趣味であり生きがいなので、全く問題ないらしい。
「ロンは春には騎士団の登用試験だもんな。エマたちももうSSランクに挑戦か……ホント、強くなったよな……」
エマ達三人は、この二年の間に一年かけて錬気で空を駆ける技術を習得した。『聯気』も完全に自分のものとし、Sランクの昇級試験を軽くこなしてしまった。
そして今日、ロンと共に四人でSSランクの試験を受ける。
SSランクの狩猟者なんて、誰でもなれるものじゃない。
ロンやエマたちは純粋な人族だ。魔力や気力の総量では、オレたちには及ばない。
けど、仙王の直接指導や、龍族のトップから直接指導を受けたオレ達の指導、更にはオレ達がアップデートし続けている新たな最高峰の戦闘法を吸収し、実践できるセンスがある。それが、彼女たちの戦力を爆発的に向上させた。
「ロン君、待たせちゃったね」
「いいよ。他の狩猟者と行くのは嫌だったからね。SSクラスとなると、背中を預けられる信頼出来る人達じゃないと」
ロンが大人びた表情で言う。
話しながら歩き、ギルドに着いた。
オレたちは一切口を出さない。どの依頼を受けるかは、ロン達の自由だ。
「SSは……これか」
「『フェンリル』だってさ。どんなのだろ」
フェンリルか。二年でまた出てきたのか。
このクラスの魔物たちは、次から次に何処から湧いて出てくるんだろうか。あのレベルの魔物が繁殖するのはまずい。定期的に間引く者がいないと、生態系が狂ってしまう。
「じゃあ、フェンリルで決まりね!」
エマが依頼書を剥がす。迷いはない。
腹ごしらえは済んでいる。皆でフェンリルの生息地までひとっ飛びだ。
移動中も、オレたちは全く口を出さない。
いや、別に喋っても良いんだけど、下手にアドバイスをして彼らの成長の機会を奪ってはいけない。全て自分たちで考え、判断し、討伐してこそのSSランク狩猟者だ。それがオレたち四人の総意だった。
フェンリルの縄張りに降り立つ。
ピリリとした冷気が肌を刺す。
「うわ……魔力凄いね……」
ニナが身震いする。
「よし、みんなに強化術掛けるね!」
「そうだね、ニナのが一番効果高いし」
ニナが手際よく全員にバフをかける。
「エマさん、俺たちは刀に『聯気』込めとこうか」
「うん。ロン君がメインで、私は遊撃のサブアタッカーとして動くね。新しい刀にも慣れてきたし、腕が鳴るよ!」
四人は移動速度が跳ね上がった事で、一度里に遊びに来たことがある。
エマ達三人はその時に、ヤンさんから二級品でも上位の刀を譲ってもらっている。売りに出す直前だったものを、「欲しいならやるよ」というヤンさんと、「払います」「要らねぇ」の押し問答の末に手に入れた業物だ。
ヤンさんにとっては納得いかない出来らしいけど、市場に出れば120万ブール程の価値がある刀だ。
ロンには一級品を勧めたが、彼はオレが最初に買い与えた刀を使い続けたいと言って断った。だから四人全員が、ヤンさん作の二級品上位の刀を愛用している。
盾を構えたジェニーを先頭に、四人はフェンリルの方へ飛んだ。
岩陰から、銀色の巨体が姿を現す。
相変わらず目に見える程の禍々しい魔力を垂れ流している。
『守護術 堅牢!』
ジェニーは飛びながら守護術を展開する。ティモシーさんの教えを忠実に守り、硬質ながらも衝撃を受け流す柔軟性を持たせた、良い守護術だ。
フェンリルは四人を視界に捉えるなり、咆哮と共に強烈な火魔法を放ってきた。
『水遁 大津波!』
ニナの放った水遁が、フェンリルの火魔法と激突する。
少し押し負けたが、残った熱波はジェニーの守護術が問題なく防ぎきった。
ニナは魔力操作が抜群に上手い。その上魔力の感度が良い為、相手が何を放ってくるかの判断が早い。これはかなりの才能だ。
ジェニーはニナの的確なサポートを受け、フェンリルの猛攻を完璧に捌いている。ヤツの敵意は完全にジェニーに向いている。
問題はアタッカー側だ。
フェンリルは巨体な割にかなり素早い。バックステップで距離を取ったかと思えば、瞬時に飛びかかり牙を剥く。
ジェニーに敵意が向いているとはいえ、不用意に近付いて攻撃を外そうものなら、どんな強烈なカウンターが飛んでくるか分からない。
現に、ニナの放つ途絶が、ことごとく紙一重で避けられている。
オレがフェンリルを倒した時は、龍眼で対処できた。けど、ロンとエマにそのアドバンテージはない。
攻めあぐねるかと思われたその時。
エマがフェンリルの真横、死角となる位置に距離を置いて着地した。
刀を鞘に納め、腰を低く落とす。
瞬きもせず、フェンリルの動きを見据えている。
来るか。
『居合術 閃光!』
刹那。
銀閃が走った。
聯気を極限まで纏ったエマの刀は、自身の加速と抜刀の速度に乗って、フェンリルの強靭な両後脚をスパンと斬り落とした。
フェンリルが体勢を崩し、悲鳴を上げる。
『剣技 斬罪!』
その隙を見逃さず、ロンが上空から急降下した。
渾身の一撃が、動けなくなったフェンリルの首を捉える。
鮮血が舞い、巨獣の首が宙を飛んだ。
「お見事!」
「やった!」
オレたちは思わず声を上げた。
「いやぁ……自分の時より緊張したね……」
トーマスが胸を撫で下ろす。
「あぁ。確かにアタシが戦うよりハラハラしたな……」
ジュリアも同意する。
見事にフェンリルを仕留めた四人に近づく。彼らはハイタッチして喜びを分かちあっていた。
「もう立派な狩猟者だなぁ……」
「ほんと、僕たちも負けてられないね……」
エマが駆け寄ってくる。
「ユーゴ君、やったよ!」
「あぁ、見てたよ。見事な居合だった。ロンとの連携も完璧だ。盾もサポートも、もう文句なしの一流パーティーだな」
オレは心から称賛を送った。
◇◇◇
レトルコメルスに戻り、領主の屋敷に討伐報告に向かった。
「オリバーさん、お久しぶりです」
「やぁ、ユーゴ君。……まさか、エマがSSランクの狩猟者になるとはね……」
オリバーさんが目を細める。
「SSランクが四人もいる店なら、もう何が来ても大丈夫だ。最強のセキュリティだね」
「はい。最近店も平和なんです。もう安心かな?」
エマが笑う。
クラブ『Perch』は、「マフィアの構成員たちを女性キャスト二人だけで返り討ちにした店」として、裏社会でもかなり有名になっているらしい。その実力行使の効果は絶大で、娼館からの無理な引き戻しに来る輩が激減したそうだ。
「ロナルド君。騎士の登用試験はもうすぐだ」
オリバーさんがロンに向き直る。
「形式上試験は受けてもらうが、SSランクの狩猟者が落ちる事はほぼ無い。……『人間性の欠落』を除けばな」
「人間性の……欠落……ですか? が、頑張ります……」
ロンが少しビビっている。
「まぁ、心配する事は無い。騎士団はチームだ。自身の力を過信することなく、仲間を大切にしようと言う事だ。君が今している事と何ら変わりはないよ」
「分かりました!」
ロンなら大丈夫だろう。四人のチームワークで勝ち取ったSSランクだ。独りよがりな強さではないことは証明済みだ。
四人は、SSに書き換わったカードをニコニコと眺めている。
誰もがこの瞬間の反応は一緒だ。
……最初からSSの依頼を受けた規格外の里長たちを除けば。
領主の屋敷を出て、各自宿で汗を流してから、予約していた『冒険野郎』に集まった。
「SSランクおめでとー! カンパーイ!」
無駄な言葉は要らない。今日はとことん飲んで祝おう。
「まさか私達が狩猟者になったうえに、SSランクのカードを持つことになるとはね……」
「ホント、人生何があるか分からないよ」
エマとジェニーがしみじみと語る。
あの日、路地裏でオレたちに声を掛けていなければ、今の彼女たちは無かっただろう。運命とは不思議なもんだ。
「SSの狩猟者の防具が、ロックリザードの革鎧ってのもね。そろそろ新調する頃合じゃない?」
トーマスが提案する。
「そうだなぁ。大量の『ヤトノカミ』の皮は余ってるけど……そんなの貰ったら引くだろ?」
「いやいや……! 貰えないよ、そんなとんでもない素材……!」
ロンが首を振る。
やっぱり、防具の素材は自分で討伐してこそ愛着も湧くというものだ。
トーマスは『ヤマタノオロチ』の革盾を貰ったけど、あれは師匠からその力があると認められての継承だったから特別だ。
「『コカトリス』の革はいいけど、正直あれの討伐はおすすめしないね……」
「あぁ……アタシも死にかけたしな……」
「ジュリアちゃんが死にかけたなら……私達なら確実に死んじゃうね……」
ジェニーが青ざめる。
「じゃあ、手頃なのは『ワイバーン』かな?」
「そうだな。あれは普通の武器じゃ弾かれるけど、錬気があれば斬れる。ジュリアは圧縮仙術で爆発させてたけど……」
「爆発って……」
エマが呆れる。
「ロックリザードより良い素材なのは間違いない。次はワイバーン狩りだな」
今の彼らなら、Sランク程度の魔物なら一人でも仕留められるだろう。
昇化していない人族の中では、最強の四人なんじゃないだろうか。
魔力と気力の総量は少ないため長期戦は向かないけど、それを補う瞬発力と連携、そして戦闘センスは卓越している。
エマの店は今日は定休日だ。
楽しい祝宴は、夜遅くまで続いた。
この二年、オレは主に里で生活し、たまにレトルコメルスまで飛んでくる生活を送っていた。
純粋な気力だけで空を駆ける事が出来る様になるまで、一年と少しかかった。それ程までに、変質気力に頼らない空中歩行は難易度が高いものだった。
その苦労の甲斐あって、オレの気力の質と密度は、以前とは全くの別物に進化した。その研ぎ澄まされた気力で作る『聯気』は、術の威力を桁違いに変えた。
「ロンはもう少しかかりそうだな」
「うん、これは難易度が高すぎるね……。でも、気力の質は二年前とは別物になってるのを感じるよ」
ロンが自分の拳を握りしめて言う。
「あぁ。刀の斬れ味が更に上がるぞ。オレ達に切れないものは無いんじゃないかと思うくらいにな」
今日はオレたち四人でレトルコメルスまで来ている。
ちなみに、トーマスとジュリアは里で居を構えて一緒に住んでいる。二人は本当に仲がいい。
あのだらしなかったジュリアが、今や家の掃除までする様になった。……いや、普通の事なんだけど、かつてのジュリアを知る身としては、彼女が身の回りの世話を自分でするなんて、天地がひっくり返るような進歩だ。愛の力は偉大だ。
もっとも、料理に関しては一切しないみたいだけど、それはトーマスの趣味であり生きがいなので、全く問題ないらしい。
「ロンは春には騎士団の登用試験だもんな。エマたちももうSSランクに挑戦か……ホント、強くなったよな……」
エマ達三人は、この二年の間に一年かけて錬気で空を駆ける技術を習得した。『聯気』も完全に自分のものとし、Sランクの昇級試験を軽くこなしてしまった。
そして今日、ロンと共に四人でSSランクの試験を受ける。
SSランクの狩猟者なんて、誰でもなれるものじゃない。
ロンやエマたちは純粋な人族だ。魔力や気力の総量では、オレたちには及ばない。
けど、仙王の直接指導や、龍族のトップから直接指導を受けたオレ達の指導、更にはオレ達がアップデートし続けている新たな最高峰の戦闘法を吸収し、実践できるセンスがある。それが、彼女たちの戦力を爆発的に向上させた。
「ロン君、待たせちゃったね」
「いいよ。他の狩猟者と行くのは嫌だったからね。SSクラスとなると、背中を預けられる信頼出来る人達じゃないと」
ロンが大人びた表情で言う。
話しながら歩き、ギルドに着いた。
オレたちは一切口を出さない。どの依頼を受けるかは、ロン達の自由だ。
「SSは……これか」
「『フェンリル』だってさ。どんなのだろ」
フェンリルか。二年でまた出てきたのか。
このクラスの魔物たちは、次から次に何処から湧いて出てくるんだろうか。あのレベルの魔物が繁殖するのはまずい。定期的に間引く者がいないと、生態系が狂ってしまう。
「じゃあ、フェンリルで決まりね!」
エマが依頼書を剥がす。迷いはない。
腹ごしらえは済んでいる。皆でフェンリルの生息地までひとっ飛びだ。
移動中も、オレたちは全く口を出さない。
いや、別に喋っても良いんだけど、下手にアドバイスをして彼らの成長の機会を奪ってはいけない。全て自分たちで考え、判断し、討伐してこそのSSランク狩猟者だ。それがオレたち四人の総意だった。
フェンリルの縄張りに降り立つ。
ピリリとした冷気が肌を刺す。
「うわ……魔力凄いね……」
ニナが身震いする。
「よし、みんなに強化術掛けるね!」
「そうだね、ニナのが一番効果高いし」
ニナが手際よく全員にバフをかける。
「エマさん、俺たちは刀に『聯気』込めとこうか」
「うん。ロン君がメインで、私は遊撃のサブアタッカーとして動くね。新しい刀にも慣れてきたし、腕が鳴るよ!」
四人は移動速度が跳ね上がった事で、一度里に遊びに来たことがある。
エマ達三人はその時に、ヤンさんから二級品でも上位の刀を譲ってもらっている。売りに出す直前だったものを、「欲しいならやるよ」というヤンさんと、「払います」「要らねぇ」の押し問答の末に手に入れた業物だ。
ヤンさんにとっては納得いかない出来らしいけど、市場に出れば120万ブール程の価値がある刀だ。
ロンには一級品を勧めたが、彼はオレが最初に買い与えた刀を使い続けたいと言って断った。だから四人全員が、ヤンさん作の二級品上位の刀を愛用している。
盾を構えたジェニーを先頭に、四人はフェンリルの方へ飛んだ。
岩陰から、銀色の巨体が姿を現す。
相変わらず目に見える程の禍々しい魔力を垂れ流している。
『守護術 堅牢!』
ジェニーは飛びながら守護術を展開する。ティモシーさんの教えを忠実に守り、硬質ながらも衝撃を受け流す柔軟性を持たせた、良い守護術だ。
フェンリルは四人を視界に捉えるなり、咆哮と共に強烈な火魔法を放ってきた。
『水遁 大津波!』
ニナの放った水遁が、フェンリルの火魔法と激突する。
少し押し負けたが、残った熱波はジェニーの守護術が問題なく防ぎきった。
ニナは魔力操作が抜群に上手い。その上魔力の感度が良い為、相手が何を放ってくるかの判断が早い。これはかなりの才能だ。
ジェニーはニナの的確なサポートを受け、フェンリルの猛攻を完璧に捌いている。ヤツの敵意は完全にジェニーに向いている。
問題はアタッカー側だ。
フェンリルは巨体な割にかなり素早い。バックステップで距離を取ったかと思えば、瞬時に飛びかかり牙を剥く。
ジェニーに敵意が向いているとはいえ、不用意に近付いて攻撃を外そうものなら、どんな強烈なカウンターが飛んでくるか分からない。
現に、ニナの放つ途絶が、ことごとく紙一重で避けられている。
オレがフェンリルを倒した時は、龍眼で対処できた。けど、ロンとエマにそのアドバンテージはない。
攻めあぐねるかと思われたその時。
エマがフェンリルの真横、死角となる位置に距離を置いて着地した。
刀を鞘に納め、腰を低く落とす。
瞬きもせず、フェンリルの動きを見据えている。
来るか。
『居合術 閃光!』
刹那。
銀閃が走った。
聯気を極限まで纏ったエマの刀は、自身の加速と抜刀の速度に乗って、フェンリルの強靭な両後脚をスパンと斬り落とした。
フェンリルが体勢を崩し、悲鳴を上げる。
『剣技 斬罪!』
その隙を見逃さず、ロンが上空から急降下した。
渾身の一撃が、動けなくなったフェンリルの首を捉える。
鮮血が舞い、巨獣の首が宙を飛んだ。
「お見事!」
「やった!」
オレたちは思わず声を上げた。
「いやぁ……自分の時より緊張したね……」
トーマスが胸を撫で下ろす。
「あぁ。確かにアタシが戦うよりハラハラしたな……」
ジュリアも同意する。
見事にフェンリルを仕留めた四人に近づく。彼らはハイタッチして喜びを分かちあっていた。
「もう立派な狩猟者だなぁ……」
「ほんと、僕たちも負けてられないね……」
エマが駆け寄ってくる。
「ユーゴ君、やったよ!」
「あぁ、見てたよ。見事な居合だった。ロンとの連携も完璧だ。盾もサポートも、もう文句なしの一流パーティーだな」
オレは心から称賛を送った。
◇◇◇
レトルコメルスに戻り、領主の屋敷に討伐報告に向かった。
「オリバーさん、お久しぶりです」
「やぁ、ユーゴ君。……まさか、エマがSSランクの狩猟者になるとはね……」
オリバーさんが目を細める。
「SSランクが四人もいる店なら、もう何が来ても大丈夫だ。最強のセキュリティだね」
「はい。最近店も平和なんです。もう安心かな?」
エマが笑う。
クラブ『Perch』は、「マフィアの構成員たちを女性キャスト二人だけで返り討ちにした店」として、裏社会でもかなり有名になっているらしい。その実力行使の効果は絶大で、娼館からの無理な引き戻しに来る輩が激減したそうだ。
「ロナルド君。騎士の登用試験はもうすぐだ」
オリバーさんがロンに向き直る。
「形式上試験は受けてもらうが、SSランクの狩猟者が落ちる事はほぼ無い。……『人間性の欠落』を除けばな」
「人間性の……欠落……ですか? が、頑張ります……」
ロンが少しビビっている。
「まぁ、心配する事は無い。騎士団はチームだ。自身の力を過信することなく、仲間を大切にしようと言う事だ。君が今している事と何ら変わりはないよ」
「分かりました!」
ロンなら大丈夫だろう。四人のチームワークで勝ち取ったSSランクだ。独りよがりな強さではないことは証明済みだ。
四人は、SSに書き換わったカードをニコニコと眺めている。
誰もがこの瞬間の反応は一緒だ。
……最初からSSの依頼を受けた規格外の里長たちを除けば。
領主の屋敷を出て、各自宿で汗を流してから、予約していた『冒険野郎』に集まった。
「SSランクおめでとー! カンパーイ!」
無駄な言葉は要らない。今日はとことん飲んで祝おう。
「まさか私達が狩猟者になったうえに、SSランクのカードを持つことになるとはね……」
「ホント、人生何があるか分からないよ」
エマとジェニーがしみじみと語る。
あの日、路地裏でオレたちに声を掛けていなければ、今の彼女たちは無かっただろう。運命とは不思議なもんだ。
「SSの狩猟者の防具が、ロックリザードの革鎧ってのもね。そろそろ新調する頃合じゃない?」
トーマスが提案する。
「そうだなぁ。大量の『ヤトノカミ』の皮は余ってるけど……そんなの貰ったら引くだろ?」
「いやいや……! 貰えないよ、そんなとんでもない素材……!」
ロンが首を振る。
やっぱり、防具の素材は自分で討伐してこそ愛着も湧くというものだ。
トーマスは『ヤマタノオロチ』の革盾を貰ったけど、あれは師匠からその力があると認められての継承だったから特別だ。
「『コカトリス』の革はいいけど、正直あれの討伐はおすすめしないね……」
「あぁ……アタシも死にかけたしな……」
「ジュリアちゃんが死にかけたなら……私達なら確実に死んじゃうね……」
ジェニーが青ざめる。
「じゃあ、手頃なのは『ワイバーン』かな?」
「そうだな。あれは普通の武器じゃ弾かれるけど、錬気があれば斬れる。ジュリアは圧縮仙術で爆発させてたけど……」
「爆発って……」
エマが呆れる。
「ロックリザードより良い素材なのは間違いない。次はワイバーン狩りだな」
今の彼らなら、Sランク程度の魔物なら一人でも仕留められるだろう。
昇化していない人族の中では、最強の四人なんじゃないだろうか。
魔力と気力の総量は少ないため長期戦は向かないけど、それを補う瞬発力と連携、そして戦闘センスは卓越している。
エマの店は今日は定休日だ。
楽しい祝宴は、夜遅くまで続いた。
0
あなたにおすすめの小説
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる