- Mix blood -

久悟

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第五章 四種族対立編

狭き門

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「まずは基礎能力の確認です。ここから南東に行くと山があり、その山頂付近にしか咲かない『真紅の山百合やまゆり』があります」

 試験管の一人が、燃えるように真っ赤な大輪の百合を掲げて見せた。

「これを一輪、正午までに取ってきて頂きます。スタート!」

 号令と共に、受験者たちが一斉に飛び出した。
 浮遊術を使える者は空へ、そうでない者は身体強化を掛けて地を蹴る。土煙が舞い上がり、瞬く間に人影が小さくなっていく。

 あの山か。常人が普通に歩けば、往復で野営一泊は掛かる距離だぞ。

 それを正午までにとなると、普通の人族の脚力じゃまず無理だ。仙術を習得しているか、あるいは軍人として『聯気れんき』の基礎を叩き込まれているか。その精度次第で勝負が決まる。
 しかも、あの山にはAランクの魔物が出る。単なる徒競走じゃない、個人の戦闘能力も試されるサバイバルレースだ。
 万が一の死人が出ないよう、数人の現役騎士が監視役として同行して飛んで行ったのを見届け、オレたちは待機場所に戻った。

 
 ◇◇◇

 
 正午まではまだまだ時間がある。
 試験官であるオレたちは特にする事が無い。用意されたテントの下で、優雅に紅茶を啜って待つことになった。
 時計の針がまだ早い時間を指している頃、空気を切り裂く音がした。

「もう来たのか?」

 砂煙を上げて着地したのは、年の頃はロンと変わらない少年だった。
 整った顔立ちに、サラサラのストレートヘア。かなりの美少年だ。
 彼は息一つ乱さず、持ち帰った山百合を涼しい顔でオリバーさんに手渡した。

「ほぅ、やはり一番は君か、ユリアン」
「えぇ。待ち望んだ登用試験ですから。一番は誰にも譲りませんよ」

 爽やかな笑みを浮かべる少年。
 オリバーさんが「やはり」と言うくらいだ、かなりの使い手なんだろう。正直、ロンが一番で帰ってくると思ってたけど、上には上がいるもんだな。

 その後、凛とした雰囲気の二十歳前くらいの女性が到着し、さらに少し時間を置いて、ロンが飛び込んできた。

「俺、何番だった!?」

 汗だくで山百合をオレに手渡しながら、ロンが食い気味に聞いてくる。

「三番だ」

 一番を取るつもりだったんだろう。悔しがるかな、と思ったけど。

「三番!? やったー! やるじゃん俺!」

 ロンはガッツポーズをして喜んでいる。
 あぁ……こいつ、そっちのタイプか。
 自分の成長を素直に喜べるのは良いことだけど、少しは悔しがれよ。

 
 審査員席に戻り、手元の名簿を確認する。
 
 一番手、『ユリアン・ネール』、十五歳。
 オリバーさんの側近、ダミアンさんの息子らしい。サラブレッドか。
 
 二番手、『クララ・ロバーツ』、十八歳。
 彼女はオリバーさんの直属の部下で、領主推薦枠での受験のようだ。佇まいが既に軍人のそれだ。
 
 そして三番手に、『ロナルド・ポートマン』、十五歳。
 この三人が飛び抜けて早かった。

 結局、正午までに帰ってきたのは十八人。総受験者の十分の一以下にまで減ってしまった。

「それでは昼食にしよう。受験者は食堂で済ませ、午後にこの場に再集合してくれ」

 オリバーさんの指示で解散となる。
 オレたち試験官には、別室で食事が用意されていた。

 サンドイッチをつまみながら、オリバーさんが口を開く。

「十八人か。まぁ、大体例年通りの残り人数だね」
「えぇ。ちょうど三人づつ割り振れますね。キリがいい」

 ダミアンさんが頷く。
 三人づつ?

「分けてチーム戦でもするんですか?」
「いや、違うよユーゴ君。午後からは個人戦だ」

 オリバーさんが説明してくれる。

「次の試験は、我々試験官との模擬戦だ。実際に手合せするのが、実力を見るには一番手っ取り早いからね」
「なるほど……。オレたちは守護術等で防御しながら、攻撃を受けるって事ですね」
「あぁ。ただ受けるだけじゃなく、少し攻撃もしてやって欲しい。騎士団が必要とするのは、攻守のバランスが取れたオールマイティな戦士だ。模造剣を使うとはいえ、こちらも油断してたら大怪我するよ」
「そうですね……。手加減しつつも、本気で守らないと」

 各町の領主や、その上層の部下達のほとんどは騎士団出身者であり、相当戦闘能力が高い『昇化しょうか』した猛者たちだ。
 そんな人達と手合せできるという事だけで、この試験を受ける価値があると受験者たちは考えている。午後はさらに激しくなりそうだ。

「さて、組み合わせだが……。上位三人を誰が持つかだね」
「えぇ、あの三人は頭一つ抜けています」

 オリバーさんがオレを見た。

「ユリアンは、私にとっては身内のようなものだからね。私情が入らないよう、ユーゴ君に頼めないかな?」
「えっ、オレがトップ通過の彼を? ……分かりました、任せてください」
「助かるよ。では、ロナルド君は私が担当しよう。クララはダミアンに任せる。ユリアンが心配で試験どころじゃないだろが、怪我するなよ」
「う……痛いところを突かれますな」

 ダミアンさんが苦笑する。そりゃ心配だろうな。オレもロンが心配だ。
 他の受験者を到着順に試験官へ割り振り、食後のティータイムを楽しんだ後、オレたちは準備に入った。

 更衣室で防具を確認する。
 相手は必死で掛かってくるんだ、本気で守らないと怪我じゃ済まない。
 オレは愛用の『ニーズヘッグの革鎧』をしっかり着込んだ。
 他の五人の試験官は、騎士団正式採用の、明らかに質のいい金属鎧を身につけている。

「ほぅ……それが噂の、ニーズヘッグの素材ですか……」
「黒光りする光沢が違いますな……」

 皆がオレの革鎧を舐め回す様に観察している。伝説のSSSランクの魔物の革だ、武人として興味津々なのは当然か。
  
 食事を終えて演習場に戻ると、受験者達は既に整列を解き、軽く身体を動かしていた。
 支給された模造剣を振って、重心や重さを確認している。
 オレの分として、木製の模造刀も用意されていた。長さや反りは『不動』に近い。気が利いている。
 軽く振ってみる。悪くないバランスだ。

「皆、待たせたな! これより二次試験を行う!」

 オリバーさんの声が響く。

「内容は、我々試験官六名との模擬戦だ。一人ずつ相手をする。全力で掛かってきてくれて構わない。一本取るつもりで来い!」

 受験者たちから「おぉッ!」と気合の入った声が上がる。
 先程決めた割振りが発表され、受験者がそれぞれの試験官の前に並ぶ。
 
 オレの前にも三人の男女が並んだ。
 先頭には、少し強張った表情の青年。後ろには、余裕の笑みを浮かべるユリアンがいる。
 順番は到着順位が低い者、つまり実力が低いと見られる者から行う。トップのユリアンは最後だ。能力が高い者の戦闘を先に見せて、他の受験者を萎縮させないための配慮だろう。

「どうも、ユーゴ・グランディールと言います。王国騎士団の出身ではありませんが、縁あって試験官を任されました。よろしく」

 オレが一礼すると、三人もビシッと敬礼を返した。

「では、最初の受験者以外は下がって待機してください。……早速始めましょうか」

 一番目の青年が剣を構える。
 さぁ、お手並み拝見といこうか。
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