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第六章 四種族大戦編
騎士団の善戦
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「ロン、次は俺たち騎士団に増援要請が来るみたいだ」
ユリアンが呟く。
同期で同い年の俺たちは、出会った頃こそお互い苦手意識を持っていたけど、今や背中を預けられる親友であり、最高のライバルだ。
俺たちは騎士団に入団して数ヶ月。新人もいいところだけど、いきなりこの大戦に駆り出されている。
招集されたのは、騎士団の中でも昇化した者たちだけだ。
部隊の前に、テオドール団長と、補佐のオリバーさんが立った。二人の表情は今まで見たことがないほど厳しい。
「前線の仙族軍は魔族軍と交戦中だ。被害は思いのほか多く、多数の負傷兵が後方に下げられた。……これより、我々仙人混合軍から増援を送る」
テオドール団長の声が響く。オリバーさんが続ける。
「これは始祖四種族の争いだ。本来、僕たち人族の出る幕ではないのかもしれない。だから増援は昇化した者のみで行く。もちろん僕とテオドールもだ」
「そう、我が国の王二人も前線で戦っているんだ。私たちが後方で留守番している訳にはいかないだろう?」
ゴクリ、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
張り詰めた空気に、俺の心臓も早鐘を打っている。
「皆の緊張はよく分かる。これが初めての戦だという者がほとんどだろう。在籍十年のベテランも一年目の新兵も、勿論我々二人もな」
団長が俺たち一人ひとりの目を見ながら語りかける。
「あぁ、今から僕たちがする命令は残酷な物かもしれない。君たちに死地へ行けと言うのに等しいからね。ただ、君たちが敵を一人倒せば、それだけ味方が死ぬ可能性が下がるんだ」
オリバーさんがそう言うと、団長が剣を抜き放ち、空へ掲げた。
「私達は『聯気』のお陰で、伝説と謳われた始祖四種族に劣らないレベルにまで強くなったと思っている。自信を持て!」
「一つだけ約束して欲しい。友が倒れても振り返るな。その一瞬の隙が、君たち自身を殺す事になる。……皆で生き残り、帰って美味い酒を飲もうじゃないか! 行くぞ!」
『オォ――ッッ!!』
腹の底からの咆哮が上がり、俺の恐怖心も熱気にかき消された。
騎士団の中でも昇化した者達はレベルが違う。
俺とユリアンは今十八歳。周りを見渡しても十代なんて一人もいない。俺たちがどれだけ異例の速さで昇化したかが分かる。
「……緊張するね」
移動中、俺は小声でユリアンに話しかけた。
「そうか? 僕はワクワクしてるけどね。王国を守るのが騎士の役目だ、大戦なんてその最たるものだよ。いきなりこんな大舞台に立てるんだ、武者震いが止まらないよ」
「強いな、ユリアンは……絶対生きて帰ろうな」
「あぁ。僕たちは強いよ、ロン」
ユリアンの不敵な笑みに救われる。そうだ、俺たちは強い。
テオドール団長を先頭に、前線の仙族軍と合流した。
そこは、地獄の釜の蓋が開いたような光景だった。
「強化術はしっかりね! 一時たりとも気を抜かないように! いいか! 死ぬなよォ!」
団長の怒号が飛ぶ。
目の前には、真っ赤な髪に鋭い犬歯を持つ魔族の群れ。
魔族は見た事があったけど、ここまで数が多いと圧倒される。でも、一ついい事は、敵味方が分かり易いってことだ。
俺は腰の刀を抜いた。
ユーゴさんに買って貰った、ヤンガスさん作の業物。俺はこの刀に『凪』と名付けた。
俺は代々漁師の家系に生まれた。小さい頃から親父の船に乗って海に出ていた俺は、風が止んで海面が鏡のように静まる、あの凪いだ状態が大好きだった。
どんな激しい戦場でも、心は凪いだ海の様に静かに。俺が目指す境地はそこにある。
移動中に『凪』には聯気を込め続けていた。昇化した事により、魔法剣技を連発しても息切れしないだけの魔力も手に入れた。
目の前に魔族が迫る。
『魔法剣技 踊り独楽!』
回転と共に繰り出す連撃。
俺の剣術は、始祖四種族にも通用する。目の前の魔族達が、反応すらできずに切り伏せられていくのがその証明だ。
でも、視界の端では負傷して倒れていく味方も多い。
振り返るな……俺は俺の仕事をするだけだ。
親友ユリアンに背中を預け、俺は無心で敵を斬り続けた。
その時、騎士団の鎧じゃない人族の一団が、こちらに向かって斬り進んで来ているのが見えた。
「なぁユリアン……なんで人族同士が戦ってるんだ……?」
「あぁ、魔族と同じ防具をつけてるね。王都にも魔族がいるように、向こう側についた人間もいるってことだろう。……敵と見ていい」
しかも、強い。
先頭で味方の騎士をなぎ倒している女性には、見覚えがあった。
「えっ……ヴァロンティーヌさん!?」
「知ってるのか?」
「うん、レトルコメルスのマフィアのボスだよ。人族同士で殺し合いなんて……俺、止めてくる!」
「おい! 待てロン! 危険だ!」
ユリアンの制止を振り切り、俺は前に出た。
強すぎるヴァロンティーヌさん達を、味方は攻めあぐねている。俺が入らなきゃ、被害が増えるだけだ。
「ヴァロンティーヌさん! 何で魔族軍に……?」
俺の声に、鬼の形相で剣を構えていた彼女の顔がこちらを向き、少しだけ緩んだ。
「お前は……エマのところの黒服のガキか? 騎士になりたいとは聞いていたが、お前こそ何故こんな最前線にいる」
「俺は王国騎士になる夢を叶えたんです! 止めましょうよ、人族同士の争いなんて意味がない!」
「あぁ? 甘いな坊主。私はずっとマフィアとして、同じ人間同士で縄張りを争って生きて来た。今更なんとも思わん。私に講釈を垂れるなんざ、十年早いぞッ!」
殺気が膨れ上がる。
ダメか……戦うしかないのか……。
「ロン! 敵に情けをかけるなんてことは止めろ!」
追いついたユリアンが叫ぶ。
「知り合いだからと言っても、今は敵だ。斬らなきゃこっちが殺される。分かってるよな?」
「……うん。実際そこまで親密な仲じゃないしな。問題ない」
自分に言い聞かせる。
俺がこの戦で生き残っているのは、背中を任せられる相棒がいるからだ。甘い考えは捨てろ。
「よし、行くかユリアン」
「あぁ、全力で行くぞ」
俺たちは同時に駆け出した。
周りの騎士達との連携も忘れない。
皆先輩騎士だ、軍事演習でのフォーメーションも身体に叩き込んでいるけど、教科書通りにはいかない。実践で使えるものは多くない。状況に合わせて臨機応変に動かなければならない。
でもこれは、幼少期から嫌というほど叩き込まれた訓練だ。ハオさんとユーゴさんに感謝だ。二人の師匠は、俺を決して甘やかさなかった。
俺は深く息を吸い込む。
体内の気力、自然のエネルギー、そして魔力。全てを融合して練り上げる。
『火遁 豪炎龍!!』
『魔聯気』で極限まで威力を上げた、渾身の火遁。
俺から放たれた赤黒い炎は、巨大な龍の形を成し、まるで咆哮を上げるように魔族軍を襲った。
致命傷を与えられなくてもいい。陣形を崩し、少しの隙が生まれればそれでいい。
騎士団五千人の中でも、龍族直伝の『遁術』を扱うのは俺だけだ。彼等と長きに渡り争ってきた仙族にも、この術の使い手はいない。
魔族軍は見慣れない術とその熱量に、明らかな戸惑いを見せた。俺の火遁は、思いのほか大きな隙と混乱を生んだ。
その隙を、歴戦の騎士たちが見逃すはずがない。
「今だ! 押し込めぇッ!」
一斉に敵に斬り掛かる。
ヴァロンティーヌさんの一団――元『女豹』達は、炎に巻かれて多くの負傷者を出し、瀕死の仲間を抱えて後方へと引いて行った。
「敵は浮き足立っているぞ! この好機を逃すな! かかれェ――!!」
団長の声が響く。
仙族と仙人の連携は良好だ。
王国騎士たちの力は、もはや始祖四種族に劣らない。十分通用する。
俺たち騎士団は魔族軍と互角以上に渡り合い、じりじりと前線を押し上げて行った。
ユリアンが呟く。
同期で同い年の俺たちは、出会った頃こそお互い苦手意識を持っていたけど、今や背中を預けられる親友であり、最高のライバルだ。
俺たちは騎士団に入団して数ヶ月。新人もいいところだけど、いきなりこの大戦に駆り出されている。
招集されたのは、騎士団の中でも昇化した者たちだけだ。
部隊の前に、テオドール団長と、補佐のオリバーさんが立った。二人の表情は今まで見たことがないほど厳しい。
「前線の仙族軍は魔族軍と交戦中だ。被害は思いのほか多く、多数の負傷兵が後方に下げられた。……これより、我々仙人混合軍から増援を送る」
テオドール団長の声が響く。オリバーさんが続ける。
「これは始祖四種族の争いだ。本来、僕たち人族の出る幕ではないのかもしれない。だから増援は昇化した者のみで行く。もちろん僕とテオドールもだ」
「そう、我が国の王二人も前線で戦っているんだ。私たちが後方で留守番している訳にはいかないだろう?」
ゴクリ、と誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
張り詰めた空気に、俺の心臓も早鐘を打っている。
「皆の緊張はよく分かる。これが初めての戦だという者がほとんどだろう。在籍十年のベテランも一年目の新兵も、勿論我々二人もな」
団長が俺たち一人ひとりの目を見ながら語りかける。
「あぁ、今から僕たちがする命令は残酷な物かもしれない。君たちに死地へ行けと言うのに等しいからね。ただ、君たちが敵を一人倒せば、それだけ味方が死ぬ可能性が下がるんだ」
オリバーさんがそう言うと、団長が剣を抜き放ち、空へ掲げた。
「私達は『聯気』のお陰で、伝説と謳われた始祖四種族に劣らないレベルにまで強くなったと思っている。自信を持て!」
「一つだけ約束して欲しい。友が倒れても振り返るな。その一瞬の隙が、君たち自身を殺す事になる。……皆で生き残り、帰って美味い酒を飲もうじゃないか! 行くぞ!」
『オォ――ッッ!!』
腹の底からの咆哮が上がり、俺の恐怖心も熱気にかき消された。
騎士団の中でも昇化した者達はレベルが違う。
俺とユリアンは今十八歳。周りを見渡しても十代なんて一人もいない。俺たちがどれだけ異例の速さで昇化したかが分かる。
「……緊張するね」
移動中、俺は小声でユリアンに話しかけた。
「そうか? 僕はワクワクしてるけどね。王国を守るのが騎士の役目だ、大戦なんてその最たるものだよ。いきなりこんな大舞台に立てるんだ、武者震いが止まらないよ」
「強いな、ユリアンは……絶対生きて帰ろうな」
「あぁ。僕たちは強いよ、ロン」
ユリアンの不敵な笑みに救われる。そうだ、俺たちは強い。
テオドール団長を先頭に、前線の仙族軍と合流した。
そこは、地獄の釜の蓋が開いたような光景だった。
「強化術はしっかりね! 一時たりとも気を抜かないように! いいか! 死ぬなよォ!」
団長の怒号が飛ぶ。
目の前には、真っ赤な髪に鋭い犬歯を持つ魔族の群れ。
魔族は見た事があったけど、ここまで数が多いと圧倒される。でも、一ついい事は、敵味方が分かり易いってことだ。
俺は腰の刀を抜いた。
ユーゴさんに買って貰った、ヤンガスさん作の業物。俺はこの刀に『凪』と名付けた。
俺は代々漁師の家系に生まれた。小さい頃から親父の船に乗って海に出ていた俺は、風が止んで海面が鏡のように静まる、あの凪いだ状態が大好きだった。
どんな激しい戦場でも、心は凪いだ海の様に静かに。俺が目指す境地はそこにある。
移動中に『凪』には聯気を込め続けていた。昇化した事により、魔法剣技を連発しても息切れしないだけの魔力も手に入れた。
目の前に魔族が迫る。
『魔法剣技 踊り独楽!』
回転と共に繰り出す連撃。
俺の剣術は、始祖四種族にも通用する。目の前の魔族達が、反応すらできずに切り伏せられていくのがその証明だ。
でも、視界の端では負傷して倒れていく味方も多い。
振り返るな……俺は俺の仕事をするだけだ。
親友ユリアンに背中を預け、俺は無心で敵を斬り続けた。
その時、騎士団の鎧じゃない人族の一団が、こちらに向かって斬り進んで来ているのが見えた。
「なぁユリアン……なんで人族同士が戦ってるんだ……?」
「あぁ、魔族と同じ防具をつけてるね。王都にも魔族がいるように、向こう側についた人間もいるってことだろう。……敵と見ていい」
しかも、強い。
先頭で味方の騎士をなぎ倒している女性には、見覚えがあった。
「えっ……ヴァロンティーヌさん!?」
「知ってるのか?」
「うん、レトルコメルスのマフィアのボスだよ。人族同士で殺し合いなんて……俺、止めてくる!」
「おい! 待てロン! 危険だ!」
ユリアンの制止を振り切り、俺は前に出た。
強すぎるヴァロンティーヌさん達を、味方は攻めあぐねている。俺が入らなきゃ、被害が増えるだけだ。
「ヴァロンティーヌさん! 何で魔族軍に……?」
俺の声に、鬼の形相で剣を構えていた彼女の顔がこちらを向き、少しだけ緩んだ。
「お前は……エマのところの黒服のガキか? 騎士になりたいとは聞いていたが、お前こそ何故こんな最前線にいる」
「俺は王国騎士になる夢を叶えたんです! 止めましょうよ、人族同士の争いなんて意味がない!」
「あぁ? 甘いな坊主。私はずっとマフィアとして、同じ人間同士で縄張りを争って生きて来た。今更なんとも思わん。私に講釈を垂れるなんざ、十年早いぞッ!」
殺気が膨れ上がる。
ダメか……戦うしかないのか……。
「ロン! 敵に情けをかけるなんてことは止めろ!」
追いついたユリアンが叫ぶ。
「知り合いだからと言っても、今は敵だ。斬らなきゃこっちが殺される。分かってるよな?」
「……うん。実際そこまで親密な仲じゃないしな。問題ない」
自分に言い聞かせる。
俺がこの戦で生き残っているのは、背中を任せられる相棒がいるからだ。甘い考えは捨てろ。
「よし、行くかユリアン」
「あぁ、全力で行くぞ」
俺たちは同時に駆け出した。
周りの騎士達との連携も忘れない。
皆先輩騎士だ、軍事演習でのフォーメーションも身体に叩き込んでいるけど、教科書通りにはいかない。実践で使えるものは多くない。状況に合わせて臨機応変に動かなければならない。
でもこれは、幼少期から嫌というほど叩き込まれた訓練だ。ハオさんとユーゴさんに感謝だ。二人の師匠は、俺を決して甘やかさなかった。
俺は深く息を吸い込む。
体内の気力、自然のエネルギー、そして魔力。全てを融合して練り上げる。
『火遁 豪炎龍!!』
『魔聯気』で極限まで威力を上げた、渾身の火遁。
俺から放たれた赤黒い炎は、巨大な龍の形を成し、まるで咆哮を上げるように魔族軍を襲った。
致命傷を与えられなくてもいい。陣形を崩し、少しの隙が生まれればそれでいい。
騎士団五千人の中でも、龍族直伝の『遁術』を扱うのは俺だけだ。彼等と長きに渡り争ってきた仙族にも、この術の使い手はいない。
魔族軍は見慣れない術とその熱量に、明らかな戸惑いを見せた。俺の火遁は、思いのほか大きな隙と混乱を生んだ。
その隙を、歴戦の騎士たちが見逃すはずがない。
「今だ! 押し込めぇッ!」
一斉に敵に斬り掛かる。
ヴァロンティーヌさんの一団――元『女豹』達は、炎に巻かれて多くの負傷者を出し、瀕死の仲間を抱えて後方へと引いて行った。
「敵は浮き足立っているぞ! この好機を逃すな! かかれェ――!!」
団長の声が響く。
仙族と仙人の連携は良好だ。
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