ハートレス

ある日の素晴らしい日常

　「………」
　「どうしたのさ？　そんな気持ち悪い笑み浮かべて」
　「いや、まさか俺がこういった日々を取り戻せるとは思っていなかったから」

　光を全て吸い込んでしまいそうな漆黒の髪に長身痩躯といった姿形をした男は、自身の過去を顧みてそう言った。

　「そう言えば、壮ちゃん。昔のこと話したがらないよね」
　「まぁ、話して同情票もらいたいワケじゃないし、それに楽しい思い出でもないからな。いや、少しは楽しかった頃もあったか…」
　「それでも聞きたいの。私は」
彼女、妻にあたる存在の者が、その長い髪を揺らし、ずいっと更に近づいてきた。

　「そうさな………どこから話そうか」

　男は、澄んだ青空を見上げ、過去を懐かしむように話し始めた。

　ーーーそう、あれはまだ俺が年端もいかない物心すらも付いていない子供の頃の話ーーー
　あの頃の俺は、何を見ても何をしても心がが安らぐコトはなかった。
　雲一つさえ無い、澄んだ青空を見ても憎たらしく思っていた。