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憂鬱な転生【カノンの場合】
20.ドレスの色は 2
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カノンは、口から心臓が出そうという形容がぴったりな程に緊張していた。先ほどから何をしていても、温度を失った指先からは小刻みな震えが止まらない。
会場に着いてからというもの、何度席を立ったか分からないくらいだ。
今はトイレの手洗いで、強張る指先に湯をかけながらほぐしているところだった。幾度となくそれを繰り返しても、時間が経つとまたぎこちなさが戻ってきてしまう。
そんな風に行ったり来たりと落ち着かないカノンとは対照的に、時雨は随分と平気な様子で周囲と談笑していた。
きっと時雨だけでなく、ここにいる誰もが幼いころからこういった舞台にあがることには慣れているのだろう。
カノンにとっては、こんなに大勢の前で演奏を披露することは、以前の自分が幼いころの音楽教室の発表会以来となる。
あの時はどうだっただろう。ただ、最後まで演奏することだけに集中し、とにかく夢中だった気がする。
転勤先から来てくれるという父親に姿をずっと観客席に探していた覚えがある。
そんなことを思い出して、ふと、顔をあげ鏡に映った自分の姿を見つめると、左に流すように編み込んでいた髪に手をやった。
『加奈ちゃん、うまくいくようにお揃いでつけようね』
あの日、緊張する自分の手を握って、誰かが髪にリボンを巻いてくれた気がする。
――綾ちゃん? そうだ、発表会で緊張しないように、おまじないにお揃いの色のサテンのリボンをつけたんだっけ……。
そう思いを馳せると、ついこの間までずっと忘れていたはずのあの子の声が、脳裏に鮮やかに浮かび上がる。
あの日もひどく緊張していた。あの勇気づけてくれたリボンは大切な宝物だったのに、その後どうしてしまったのだろう。
控室へと戻る廊下を、ぼんやりと思考に耽りながら歩いていると、ふと響き始めたピアノに足を止めた。
とうとうコンサートが始まったのだ。
その音に誘われるように、ステージへと続く会場裏の廊下を、音がはっきりと聞こえるところまで歩みを進めた。
その姿までは見ることはできなかったが、演奏順で一番手だった彩音のものであろうピアノの音、それは素晴らしい『月光』だった。
――すごい……、ほんとう、才能があるひとは違うなぁ。
そんな月並みの感想しか出てこないくらい、彼女の演奏はハッキリと他とは一線を画していることがわかる。
それは才能だけにはよらない、並々ならぬ努力の成果なのは分かっている。
でもこの音色の素晴らしさは、努力だけでは到底超えることのできない、才能としか言い表せないものに思えてならなかった。
そこで時を忘れて聞き惚れていると、曲が終わり会場から割れんばかりの拍手の音が響いた。その音に、曲の余韻をほっと吐き出すと、カノンは足早にその場を後にした。
「大丈夫か? さっきから何回トイレ行ってんだよ」
戻ってきたカノンの姿に気が付いた時雨が、そう声をかけてきた。
少し眉を下げたその表情は、気遣いというよりも、あまりに緊張するカノンに対して呆れ半分という様子だけれども。
「うん……、コンサートなんて初めてだから、どうしても緊張しちゃって」
「そうか? 俺は初めてでも緊張なんてしなかったけどな?」
そう言うと時雨はカノンの頭をポンと撫でた。
いつもはもっと他人行儀なのに、あまりに緊張している様子に気遣ってくれたのだろう。その慰めるような温かい手に「ありがとう」と返して、カノンは一つ息を吐いた。
そうしていると、彩音がステージから戻ってきた。彼女は、ステージの緊張感が抜けたのか、先ほど見かけた時よりは幾分ほっとした顔つきをしているように見える。
――いまなら今日の演奏素敵でしたって、あと先日有難うございました、って言えるかも……!
「あの、神崎さん――」
「彩音ちゃん!」
通る声が響いた。
ざわざわと騒がしかった控室が、しんと静まる。
彼の姿を見とめ、その声があの一番目立つ彼女を呼んだと知った途端、今度は先ほどまでとは違ったざわめきに包まれた。
――ルイ先輩……!
その声の主は大河内瑠依だった。
そして水色のドレスを着たヒロインに一瞥をくれるでもなく、彼の瞳は先ほど呼んだ彼女、神崎彩音のことしか見ていない。
彩音の名前を呼んだ声色からしても、これまで聞いたことのないような甘い音を含んでいた。
呆然とするカノンの隣を横切って、瑠依は彩音のもとへ小走りで向かった。
「---……」
その時彩音の周りにいた生徒達も、瑠依の突然の訪問に、自然と二人を避けるように、離れていった。
呆然と立ち尽くすしかないカノンの耳に、周囲のざわめきが聞こえてくる。
「大河内先輩と神崎さん、付き合ってるって噂本当だったんだ……!?」
「すっごいお似合い……二人とも絵になるぅ」
「俺の神崎さんが……」
「いつからお前のになったんだよ、お前なんて目に入ってねーって」
「……舞宮? どうした?」
時雨の声が聞こえても、カノンは二人を見つめたまま、身動きすることが出来なかった。
――二人が本当に付き合っている……? ルイ先輩の彼女、が神崎さん!?
攻略対象が、ここにヒロインがいながら他の人と? 学園の中で? ゲームの進行中なのに……? そんなことって――…!
「!!」
二人で何かを話していたかと思うと、瑠依は突然着ていたジャケットを彩音を覆い隠すかのように被せた。そして――
彼女を抱き上げると呆然とする室内の者を後目に、颯爽と控室を出ていってしまった。
あまりに当然のように、そして美しい二人の立ち去る様子に、観衆と化した生徒たちは、教師も含め息をのんで見送ることしかできなかった。
「……すげー」
声を発したのは時雨だった。
一呼吸おいて、周囲にも歓声にも似たどよめきが戻ってくる。「美しい……」「尊い……」まるで観劇の主人公のような美しい二人の様子に、感嘆の声まであがっている。
「絵になる奴らは、何やっても目立つなー。……舞宮?」
「……くっ……」
「なんだなんだ? 大丈夫か?」
「―――くくっ……、ぷ、は、あはははははは!」
カノンはこみ上げる笑いが止まらなくなってしまった。
――なんだ、違ったんだ。この世界は私を管理し、閉じ込めるものなどではなかった。誰もがヒロインに恋するはずだなんて、ヒロインらしく演じ通さねばだなんて、何故思い込んでしまっていたんだろう。
あの素敵な先輩は、ちゃんと素敵な彼女がいる。なんだ、違ったんだ。
自ら囚われていたのは自分自身だったのか。なんて滑稽な。なんておかしい。まさしく私がしていたことは、歪な努力だった。
あの二人は美しかった。そう完璧なまでに。それを邪魔することがなくてよかった。あの完成された二人に瑕をつけるような存在にならなくてよかった。
カノンはそう思って、深く胸を撫で下ろした。その気持ちは間違いなく、安堵だった。
会場に着いてからというもの、何度席を立ったか分からないくらいだ。
今はトイレの手洗いで、強張る指先に湯をかけながらほぐしているところだった。幾度となくそれを繰り返しても、時間が経つとまたぎこちなさが戻ってきてしまう。
そんな風に行ったり来たりと落ち着かないカノンとは対照的に、時雨は随分と平気な様子で周囲と談笑していた。
きっと時雨だけでなく、ここにいる誰もが幼いころからこういった舞台にあがることには慣れているのだろう。
カノンにとっては、こんなに大勢の前で演奏を披露することは、以前の自分が幼いころの音楽教室の発表会以来となる。
あの時はどうだっただろう。ただ、最後まで演奏することだけに集中し、とにかく夢中だった気がする。
転勤先から来てくれるという父親に姿をずっと観客席に探していた覚えがある。
そんなことを思い出して、ふと、顔をあげ鏡に映った自分の姿を見つめると、左に流すように編み込んでいた髪に手をやった。
『加奈ちゃん、うまくいくようにお揃いでつけようね』
あの日、緊張する自分の手を握って、誰かが髪にリボンを巻いてくれた気がする。
――綾ちゃん? そうだ、発表会で緊張しないように、おまじないにお揃いの色のサテンのリボンをつけたんだっけ……。
そう思いを馳せると、ついこの間までずっと忘れていたはずのあの子の声が、脳裏に鮮やかに浮かび上がる。
あの日もひどく緊張していた。あの勇気づけてくれたリボンは大切な宝物だったのに、その後どうしてしまったのだろう。
控室へと戻る廊下を、ぼんやりと思考に耽りながら歩いていると、ふと響き始めたピアノに足を止めた。
とうとうコンサートが始まったのだ。
その音に誘われるように、ステージへと続く会場裏の廊下を、音がはっきりと聞こえるところまで歩みを進めた。
その姿までは見ることはできなかったが、演奏順で一番手だった彩音のものであろうピアノの音、それは素晴らしい『月光』だった。
――すごい……、ほんとう、才能があるひとは違うなぁ。
そんな月並みの感想しか出てこないくらい、彼女の演奏はハッキリと他とは一線を画していることがわかる。
それは才能だけにはよらない、並々ならぬ努力の成果なのは分かっている。
でもこの音色の素晴らしさは、努力だけでは到底超えることのできない、才能としか言い表せないものに思えてならなかった。
そこで時を忘れて聞き惚れていると、曲が終わり会場から割れんばかりの拍手の音が響いた。その音に、曲の余韻をほっと吐き出すと、カノンは足早にその場を後にした。
「大丈夫か? さっきから何回トイレ行ってんだよ」
戻ってきたカノンの姿に気が付いた時雨が、そう声をかけてきた。
少し眉を下げたその表情は、気遣いというよりも、あまりに緊張するカノンに対して呆れ半分という様子だけれども。
「うん……、コンサートなんて初めてだから、どうしても緊張しちゃって」
「そうか? 俺は初めてでも緊張なんてしなかったけどな?」
そう言うと時雨はカノンの頭をポンと撫でた。
いつもはもっと他人行儀なのに、あまりに緊張している様子に気遣ってくれたのだろう。その慰めるような温かい手に「ありがとう」と返して、カノンは一つ息を吐いた。
そうしていると、彩音がステージから戻ってきた。彼女は、ステージの緊張感が抜けたのか、先ほど見かけた時よりは幾分ほっとした顔つきをしているように見える。
――いまなら今日の演奏素敵でしたって、あと先日有難うございました、って言えるかも……!
「あの、神崎さん――」
「彩音ちゃん!」
通る声が響いた。
ざわざわと騒がしかった控室が、しんと静まる。
彼の姿を見とめ、その声があの一番目立つ彼女を呼んだと知った途端、今度は先ほどまでとは違ったざわめきに包まれた。
――ルイ先輩……!
その声の主は大河内瑠依だった。
そして水色のドレスを着たヒロインに一瞥をくれるでもなく、彼の瞳は先ほど呼んだ彼女、神崎彩音のことしか見ていない。
彩音の名前を呼んだ声色からしても、これまで聞いたことのないような甘い音を含んでいた。
呆然とするカノンの隣を横切って、瑠依は彩音のもとへ小走りで向かった。
「---……」
その時彩音の周りにいた生徒達も、瑠依の突然の訪問に、自然と二人を避けるように、離れていった。
呆然と立ち尽くすしかないカノンの耳に、周囲のざわめきが聞こえてくる。
「大河内先輩と神崎さん、付き合ってるって噂本当だったんだ……!?」
「すっごいお似合い……二人とも絵になるぅ」
「俺の神崎さんが……」
「いつからお前のになったんだよ、お前なんて目に入ってねーって」
「……舞宮? どうした?」
時雨の声が聞こえても、カノンは二人を見つめたまま、身動きすることが出来なかった。
――二人が本当に付き合っている……? ルイ先輩の彼女、が神崎さん!?
攻略対象が、ここにヒロインがいながら他の人と? 学園の中で? ゲームの進行中なのに……? そんなことって――…!
「!!」
二人で何かを話していたかと思うと、瑠依は突然着ていたジャケットを彩音を覆い隠すかのように被せた。そして――
彼女を抱き上げると呆然とする室内の者を後目に、颯爽と控室を出ていってしまった。
あまりに当然のように、そして美しい二人の立ち去る様子に、観衆と化した生徒たちは、教師も含め息をのんで見送ることしかできなかった。
「……すげー」
声を発したのは時雨だった。
一呼吸おいて、周囲にも歓声にも似たどよめきが戻ってくる。「美しい……」「尊い……」まるで観劇の主人公のような美しい二人の様子に、感嘆の声まであがっている。
「絵になる奴らは、何やっても目立つなー。……舞宮?」
「……くっ……」
「なんだなんだ? 大丈夫か?」
「―――くくっ……、ぷ、は、あはははははは!」
カノンはこみ上げる笑いが止まらなくなってしまった。
――なんだ、違ったんだ。この世界は私を管理し、閉じ込めるものなどではなかった。誰もがヒロインに恋するはずだなんて、ヒロインらしく演じ通さねばだなんて、何故思い込んでしまっていたんだろう。
あの素敵な先輩は、ちゃんと素敵な彼女がいる。なんだ、違ったんだ。
自ら囚われていたのは自分自身だったのか。なんて滑稽な。なんておかしい。まさしく私がしていたことは、歪な努力だった。
あの二人は美しかった。そう完璧なまでに。それを邪魔することがなくてよかった。あの完成された二人に瑕をつけるような存在にならなくてよかった。
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