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憂鬱な転生【カノンの場合】

41.大切に重ねること.3 

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「あ、あぁ……」

 涙が自然に零れ落ちていく。
 ――こんなの知らない……、凄いどうしよう……。
 荒い息を抑えようとしても、浅瀬で跳ねる魚のように、身体がピクピクと快楽の余韻に震えてしまう。
 こんな風に身体が丸っきり自分の制御を離れるなんて、初めての経験だった。
 鼓動が収まらず呆然としているカノンにキスを落とすと、城野院は着ていた服を脱ぎ捨て、チェストの引き出しに手を伸ばした。
 ――手には避妊具。

「え、あ、」

 これで終わりな訳はない。しっかり覚悟をして挑んだはずなのに、改めて生々しく迫ってくる実感に、カノンは俄に驚いてしまった。

(そっか、あぁいうものなんだ、前に雑誌で見たのと同じ感じ……。あ、これはピンクなんだ、なんか卑猥……)

「……そんなに見てると、付けづらいんだけど?」
「え!? あっ! す、すみませんっ! 」

 カノンは思わず城野院の手元を凝視していたことに気が付き、慌てて顔を伏せた。
 その時、視線がうっかりベッドサイドに座った城野院の太ももに釘付けになり息を飲んで、もう一度顔を上げる。
 正確には太ももではなく、足の付け根の間で主張する立派すぎるモノに。

「あ、あの先輩……?」
「うん?」

 そんなに見てると付けづらい、なんて言ったわりにカノンの視線を受け止めながら、するするとピンクの避妊具を纏わせていく。

「それ……って、……あの、私に入ります……?」
「んー?」

(どんなサイズが一般的かなんて知らないけれど、それって裂けてしまったり……?)

 興味津々で覗いていたかと思えば恐怖に表情を曇らせるカノンの様子を、どこか楽しんでいるような返事だ。「準備はできているから、大丈夫だよ」そう言いながら、城野院はカノンの上へと覆いかぶさってくる。
 素肌に落ちる長い髪の感触。
 さっきまでの服越しの時とは違って、熱い城野院の体温をぴったりと感じて、少し冷えかけていた汗の余韻にまた熱がともるのを感じる。

「ん、せ、先輩、ちょっと、んぅっ、」

 不安になり話かけようとするカノンの口が、啄むようなキスで塞がれてしまう。
 今更止めようなんて言うつもりはないが、ちょっとだけ待ってほしい。でも待った場合に、また初めてのキスの時のように30分とか経っても男性は大丈夫なものなんだろうか。
 混乱の中そんな思考を巡らすカノンをよそに、いつの間にか割り開かれた足の間には、熱いものがぷちゅりと宛がわれた。
 それに気が付き、カノンは「あの、ちょっとだけ待って」と声を上げた。
 あぁ、と返事をすると、城野院は額を合わせて鼻先がくっつく距離でカノンを見つめてきた。
 情欲をはらんだ紫の瞳に見つめられ、ドキンとときめくのを感じる。

「怖がらせてごめんね、できるだけゆっくりするから。……どうしても痛かったら、うーん、そうだな」
「……?」
「僕のこの髪でも、引っ張って? それを止めてっていう合図にしよう?」
「……! え、えぇえ!? ぷっ……ふふふ、そんなの無理ですよ」

 髪を引っ張られてる城野院を想像して、こんな体勢なのにカノンは思わず笑ってしまった。
 こんなに綺麗な髪を引っ張るなんて。抜けるでもしたら、いくら謝っても足りないだろうし、平伏してしまう。

「ん、そのまま力、抜いててね」
「え? あ! や、あ、あぁ……!」

 その時、カノンの力みが散ったのを見計らったように、城野院のものがゆっくりと侵入してきた。
 浅いところを広げるようにゆっくりと熱の塊を押し進めて、そこから少しだけ腰を引いて。
 それを繰り返しながら、隘路にゆっくりと深く埋めていく。
 割り開かれる痛みに、カノンは声も上げられず息を飲んだ。それは思っていた以上の衝撃だった。

「……っっ」

 思わず城野院の肩をぎゅっと掴んだ。
 なんて形容したらいいのかわからない程の痛みと圧迫感を、浅い呼吸でなんとか逃す。
 そうしながら、城野院を仰ぎ見ると、彼もまた目を閉じ辛そうに眉根を寄せていた。
 自分に向かって垂れ落ちた黒髪を除け、その頬に手を掛けて思わずカノンは尋ねてしまった。

「せん、ぱぃ、大丈夫ですか……?」

 ――もしかして、私じゃサイズが合わなくてとてつもなく痛いんじゃ……。
 さっきのを受け入れるような器が自分に備わっているとは到底思えない。
 そんな心配げなカノンの問いかけに、ゆっくりと薄く目を開けた城野院からは、これまで感じたことのない程の色気が漂っていた。

「ん、君は?」
「痛い、です……けど、もう、全部入りました……?」
「ん……もうちょっと、かな……。続けても、いい?」
「はい……、でも先輩も痛いんじゃ……?」
「ははっ、逆だよ」
「え」

 痛みの途中で、ズクン、と何かを越えた感覚があった。
 ヒリつくそこが、ずしりと重く感じたところで、彼の腰骨がカノンの肌にぴったりと合わさった。
 彼の動きが止まったことで、最後まで入ったことを知ったカノンの瞳からは、また一筋の涙がこぼれた。

 ――痛い、けど……。
 ぴったりと合わさったそこは、痛みよりも熱を訴えていた。周辺の粘膜がひきつれて、一片の余裕なくはいっているのが分かる。これを動かすことなんて絶対無理だ、今こそ髪を引っ張る時か? でもそんなことできるはずがない。そう悩んでいるカノンの唇にキスが落とされた。
 角度を変え、深く深く交わされる。

「ん……」

 カノンが目を開けると、城野院が目を伏せ、はぁ……と息を吐き出した。
(さっき逆って言ってたけど)
 やはり自分がこれだけ痛いのだから、彼にも負担があるのではないか。心配しながら、彼の顔を見上げていると、城野院はこれ以上ないというくらい艶やかに笑みを浮かべた。

「初めてだ……」
「え?」
「うん、こんなの初めてだ。すごい、こんなに気持ちいいことだったなんて」

 そうして満面の笑みを湛えながら、カノンの頬に、眉に、顔中にキスを落としていく。

「好き、好きだよ、君が好きだ。こうしてひとつになれるなんて嘘みたいだ。幸せだ、すごく、すごく」

 そう言って城野院はカノンの身体をきつく抱きしめた。
 身体の内側と外側で、これ以上ない程に彼の熱を感じながら、カノンはどうしようもなく嬉しくて、泣きたい気持ちになっていた。
 ――そんなの私の台詞なのに。
 城野院はもっと余裕たっぷりにリードしてくれるんだろうなと、今日この時まで思っていた。
 ゲームの中のイメージでいくと、きっとセックスの時だってもっとこっちのことなんてお構いなしで強引に意地悪に進めていくに違いないと。
 それなのに、この部屋にあがってくる時、ベッドに座ってそれから。
 全くカノンの予想を覆してしまった。
 見たことのないくらいに嬉しそうに、上気した表情でカノンにキスを落とす度、身体中で歓喜を伝えてくれる。
 ――こんなに嬉しそうにしてくれるなんて、幸せなんて、私の方なのに。

「少しずつ動いていいかい? ゆっくり、するから」
「はい、」

 あ、とカノンは声を上げた。
 いつの間にか自分自身の一部のように馴染んだ城野院のものが動き始めた途端、さっきまで感じていた痛みとは違う官能が呼び起されたからだ。
 挿入れる時は、少しずつ切っ先を埋めるような動きだった。だが、今度はゆっくりと押し広げるように、カノンの奥の部分に口づけるように、動かす。
 ジンジンとした痛みはまだある。
 でもそれよりも今は、奥が切なくて、そこにもっと触れてほしい。

「あ、なんか、ああ、変で」
「うん」

 痛い、もう抜いてほしい。熱い、もっともっと触れてほしい。もっと奥に触れてほしい。
 そんな相反するどうしていいかわからない感覚に、カノンは城野院の背中にぎゅっとしがみついた。
 波間を揺れて、揺さぶられて。
 卑猥な蜜音だけが部屋の中に響く。
 何度も繰り返しゆっくりと揺さぶる熱に身をゆだねていると、徐に城野院の律動が激しくなってくる。

「あ、あぁ先輩……!」

 十分に泥濘んでいるとはいえ、狭い入口を割りいってひたすら奥を責められると、腰の奥にまたどうしようもない熱が渦巻いてくる。
 背筋にゾクゾクと痺れが走り、来る快感の予感に鼓動が高鳴る。
 ーー怖い、気持ちいい……!
 城野院の額から零れた汗がカノンの胸元を濡らすと、それを拭いながら胸の頂をキュッと摘まれた。

「ひゃっ!」

 意識していないところに突然刺激を与えられて、ビクリと身体を震わせると、「くっ」と城野院が苦しげな声をあげた。
 激しい律動はそのままに、両胸を揉みしだかれると、腹の奥の甘苦しい熱が増す。
 このままじゃ、さっきよりももっと高い所に追いやられてしまう。
 城野院はカノンの右足を肩に載せ、より深くに己自身を打ち付けた。
 ーーあ、あ、もうこれ以上は

「出す、よ」
「あぁあ……ッ!」

 カノンが嬌声をあげて真っ白な世界に放り出されるのと同時に、彼自身も熱を吐き出した。




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