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第3話「勇者の手には一握りの水」
しおりを挟む「どうかお願いです! 井戸を掃除していただけませんか?」
町の女性が俺に向かって頭を下げる。
「おお……! ついに俺も民衆に頼られる時が――」
「リリエル様!! どうかこの井戸をお清めください!!」
「……はい、俺じゃないですよねー!!」
俺は崩れ落ちた。
「えっと……シン、一緒に手伝ってくれる?」
リリエルが申し訳なさそうに俺を見つめる。
……くそっ、またこの流れか。
俺の好感度は地の底だが、リリエルがいる限り依頼はスムーズに受けられる。
「当たり前だろ。勇者たる者、民のために尽くすのも仕事だからな。」
俺は立ち上がり、井戸を覗き込む。
「……うわ、めちゃくちゃ汚ねぇな。」
井戸の底には、泥や落ち葉、ゴミが積もり、底が見えないほど濁っている。
「このままだと、水が飲めないね。」
リリエルが眉をひそめた。
「掃除って、どうやるんだ?」
「普通なら井戸の水を全部汲み出して、底に溜まった汚れを取り除くんだけど……」
「そんな手間がかかる作業なんてやってられるか!!」
そう、俺にはこのスキルがある。
⸻
《ゴミスキル:水分吸収》
【効果】少量の水分を吸い上げて掴むことができる。
⸻
「よし、やってみるか。」
俺は井戸に向けて手をかざし、スキルを発動させた。
ぽちゃん。
「おっ、浮いてきた!」
スキルを使うと、井戸の中の濁った水が少量浮かび、俺の掌に収まる。
「……って、これ、メチャクチャ効率悪くないか?」
水を吸い上げるスピードが、まるでコップでちまちま掬い取っているような遅さだ。
「うわあ……これスピードと量で全部やるのは時間もかかるし大変そうだね。」
リリエルが苦笑いする。
「いや、待て。使い方次第だ。」
俺は手に持った水を眺めながら考える。
「……水ではなく、泥やゴミに含まれた水分ごと一緒に持ち上げられないか?」
そこで俺は、沈殿した泥に含まれている水分をその泥ごと吸い上げることにした。
ゴミスキルは魔力を消費しないらしいが、自分の意識と使用時の感覚を微妙にコントロールする必要がある。例えるなら目を瞑ったまま指先を器用に使って感覚だけで小さな折り紙で鶴を折るようなものだ。
俺は意識を井戸の底の泥に集中させた、きっと泥に染み込んだ水分に意識を向けることができれば、それをターゲットに吸い上げることができるはずだ。
「……おおっ!? いけるか!?」
かなり集中力が必要だか、作業自体は思ったより簡単にできた。小さなバケツ一杯くらいの泥を吸い上げ、さらに泥に吸収された水分だけに意識を集中させると、泥は砂になり、手の中にはさっきと同じくらいの水分だけが残った。
「わぁ! 思ったより簡単にできたね!そうか……! このスキルは水分だけじゃなく、水分を含んでいるものも引っ張れるんだ!」
リリエルが驚きながらも嬉しそうに拍手する。
実際やってみると物凄い集中力を必要とするから作業量と疲労度が割に合っていない。
だが、そんなことを嘆いたところで俺の好感度は上がらないし、とにかく頑張るしかない。
だから俺はこの作業を日が暮れるまで繰り返した。
⸻
数時間後
「つ……疲れた……」
俺は井戸のそばにへたり込む。
「でも、おかげで水が澄んできたよ!」
リリエルが嬉しそうに井戸を覗き込む。
「ふっ……まぁな。」
俺は達成感に浸りながら、ステータス画面を開いた。
⸻
《ゴミスキルを獲得しました》
《水質調整》
【効果】ほんの少しだけ水の味を変えられる。
⸻
「いや、だから、いらねぇぇぇぇ!!!」
俺の絶叫が井戸に響き渡った。
⸻
次回予告:第4話「魔王軍、襲来!」
・突如鳴り響く警鐘!襲いかかる魔王軍の刺客!
・リリエル、魔王軍からの好感度も高い!?!?
・勇者、戦場でさらに嫌われる!?
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