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第一章の10
お葬式
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起きたのは昼前だった。どうやら私は寝ていたらしい。心配そうにのぞきこむお母さんの気配で目が覚めた。
「真名。意識はある? 寝ているだけだと思うけど、心配だから一回起きてくれる?」
「お母さん」
起きた部屋は、つくもがみ図書館への出入り口、おじいちゃんの書斎だった。これが夢オチだったとしても理にかなっている。寝た場所で起きるのは、物理的に正しい。
私はゆっくり上半身を起こすと、ほぼ空の本棚を見て絶句した。おじいちゃんの本は大半なくなっていた。そういえば、叔父さんは時間がとれないから明日古本屋に来てもらうと言っていた。それにしても、お葬式もまだなのに。古書を処分することのほうが大切なのかと、怒りを抑えられない。
でも、不思議と怒りは少なかった。つくもがみ図書館に行ったおかげだ。私は、みーくんたちがつくもがみになって、ちゃんと異界に存在することを知っている。本当に大切にされていた歴史のある本は、つくもがみになって元気に走り回っているから、冷静でいられた。
「本、売っちゃったの?」
ぽつりと聞くと、お母さんはくやしそうにうなずいた。
「ごめんなさいね。止められなくて。でも大半は、おじいちゃんが教えてた大学の図書館に寄贈されるそうよ。読もうと思えば読める場所に置いてあるから」
お母さんは、私が暴れ出したりすると思ったのだろう。必死でなだめている。それにしても。
「古本屋さん、朝来たの?」
「え、ええ」
やっぱり私って子どもだ。古本屋が本を運んでいったというのに、全然気づかず眠りこけていたなんて。鈍すぎるのではないか。
「でもね、この家は売らずに残るのよ。この家の権利、半分はお母さんのものだから」
そうだ。本だけじゃない、家まで売るという話が出ていたんだ。遅ればせながら胸をなで下ろす。家が売られたら、私の居場所がなくなるところだった。もちろん、住み続けることはできないだろうけど、時々来られるだけでもいい。
「軽く何か食べましょう。お昼からお葬式よ」
「うん」
複雑だ。私の中では、おじいちゃんは異界にいるはずだ。それなのにお葬式の後は体を焼いてしまうなんて、とてつもなく違和感がある。頭では分かっている。異界のおじいちゃんは魂だけの存在で、体はもう関係ないと。
必死でそう言い聞かせて、なんとかお葬式を乗り切った。火葬場は無理だったので、家に残った。
一人になると、いろいろなことを考える。
「夢じゃ、ないよね。もう一度寝れば、また行けるかな」
私が戻ってくると宣言したら、文子はひどく驚いていた。また戻ってくる人間なんて普通はいないのだろう。
「私は、絶対戻ってみせる。今は息継ぎしてるだけ」
私の勝手な解釈によると、人間の私はどっぷり異界につかっているとそのうち死んでしまうらしい。だから時々本来いるべき人間界に戻ってきて、息継ぎをして、また異界という水の中に戻っていく、ということではないだろうか。
もっと言うなら、水の中に住む河童が、陸の上にいすぎるとお皿が乾いて死にそうになる、というイメージだ。
「真名。意識はある? 寝ているだけだと思うけど、心配だから一回起きてくれる?」
「お母さん」
起きた部屋は、つくもがみ図書館への出入り口、おじいちゃんの書斎だった。これが夢オチだったとしても理にかなっている。寝た場所で起きるのは、物理的に正しい。
私はゆっくり上半身を起こすと、ほぼ空の本棚を見て絶句した。おじいちゃんの本は大半なくなっていた。そういえば、叔父さんは時間がとれないから明日古本屋に来てもらうと言っていた。それにしても、お葬式もまだなのに。古書を処分することのほうが大切なのかと、怒りを抑えられない。
でも、不思議と怒りは少なかった。つくもがみ図書館に行ったおかげだ。私は、みーくんたちがつくもがみになって、ちゃんと異界に存在することを知っている。本当に大切にされていた歴史のある本は、つくもがみになって元気に走り回っているから、冷静でいられた。
「本、売っちゃったの?」
ぽつりと聞くと、お母さんはくやしそうにうなずいた。
「ごめんなさいね。止められなくて。でも大半は、おじいちゃんが教えてた大学の図書館に寄贈されるそうよ。読もうと思えば読める場所に置いてあるから」
お母さんは、私が暴れ出したりすると思ったのだろう。必死でなだめている。それにしても。
「古本屋さん、朝来たの?」
「え、ええ」
やっぱり私って子どもだ。古本屋が本を運んでいったというのに、全然気づかず眠りこけていたなんて。鈍すぎるのではないか。
「でもね、この家は売らずに残るのよ。この家の権利、半分はお母さんのものだから」
そうだ。本だけじゃない、家まで売るという話が出ていたんだ。遅ればせながら胸をなで下ろす。家が売られたら、私の居場所がなくなるところだった。もちろん、住み続けることはできないだろうけど、時々来られるだけでもいい。
「軽く何か食べましょう。お昼からお葬式よ」
「うん」
複雑だ。私の中では、おじいちゃんは異界にいるはずだ。それなのにお葬式の後は体を焼いてしまうなんて、とてつもなく違和感がある。頭では分かっている。異界のおじいちゃんは魂だけの存在で、体はもう関係ないと。
必死でそう言い聞かせて、なんとかお葬式を乗り切った。火葬場は無理だったので、家に残った。
一人になると、いろいろなことを考える。
「夢じゃ、ないよね。もう一度寝れば、また行けるかな」
私が戻ってくると宣言したら、文子はひどく驚いていた。また戻ってくる人間なんて普通はいないのだろう。
「私は、絶対戻ってみせる。今は息継ぎしてるだけ」
私の勝手な解釈によると、人間の私はどっぷり異界につかっているとそのうち死んでしまうらしい。だから時々本来いるべき人間界に戻ってきて、息継ぎをして、また異界という水の中に戻っていく、ということではないだろうか。
もっと言うなら、水の中に住む河童が、陸の上にいすぎるとお皿が乾いて死にそうになる、というイメージだ。
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