12 / 30
第一章の12
まりこの探しもの
しおりを挟む
「あのね、きれいな絵がたくさんのっているご本なの。お姉さんたちが読んでくれたのよ」
私と文子は、辛抱強くまりこちゃんの話を聞いていた。我慢、辛抱、忍耐。なかなかの修行を強いられる作業だった。小さい子どもの話を聞くことがこんなに根気のいるものだとは知らなかった。小さいといっても、私と同じ年なんだっけ。おかしいなぁ。
文子なんて、堂々とあくびをしている。
「地面がごーっとゆれて、とっても怖かったの。わたしは泣きっぱなしだったわ。お姉さんたち、やさしかった。本を読んでくれたの」
「地面がゆれたのはどうして? 地震かな?」
「ものすごい音だったわ。頭の中いっぱいにひびくくらい。とっても怖かったの」
会話が成り立たない。こちらの質問に全然答えてくれない。自分の話したいことを自分のペースでしゃべっているだけだ。
「あのね、きれいな絵がたくさんのっているご本なの。お姉さんたちが読んでくれたのよ」
しゃべってくれるのはいいのだけど、同じ話ばかり繰り返している。
「まりこちゃん、その本の内容は覚えているかな?」
「あのね、きれいな絵がたくさんのっているご本なの。お姉さんたちが読んでくれたのよ」
ダメだ。壊れたスピーカーみたいになっている。
「あのきれいな本を、もう一度見たいわ」
珍しく初めてのセリフがでたけれど、残念ながら具体性に欠けていて、手がかりにはならない。
「まりこちゃん、聞いて。本にはどんなことが書かれていたの?」
「あのね、きれいな絵がたくさんのっているご本なの。お姉さんたちが読んでくれたのよ」
「どうしよう。とても探せる気がしない」
開始三十分でギブアップしたくなっている。
「キョウコさんは、真名一人の力で解決するよう言っていた。あたしが手を貸したら、真名の試練を邪魔することになる。あたしは遠慮することにするよ」
文子がごちゃごちゃした言い訳をくっつけて、逃げてしまった。私とまりこちゃん二人だけになって、私も逃げたくなった。いっそ素直に人間界へ帰ってしまったらどうだろう。
もしかして私は、おじいちゃんは死んだという事実を、ちゃんと受け止めないといけないのではないだろうか。もちろんその事実は分かっているけど、でも会おうと思えば会えるかもしれない距離にいるのに、あきらめてしまっていいのだろうか。
まさか、おじいちゃんを生き返らせたいとか、連れて帰りたいとか思っているわけではない。せめて最後にもう一言お話ししたい。もう会えないなんて思わずにある日突然終わってしまったから。ちゃんとさよならを言いたい。それから、それから……。
気づいたら、泣いていた。静かに涙が流れ、ぽたぽたと床に落ちて染み込んでいく。
「痛いの? 怖いの? 大丈夫よ。痛いの痛いの、飛んでいけ!」
まりこちゃんになぐさめられてしまった。やっぱりギブアップせずに、探しだそう。
「まりこも怖かった。でも、お姉さんたちがいたから。お姉さんたちが本を読んでくれた」「怖いって、何があったの? 地震? 火事?」
「怖い、怖い。暗い、暗い」
まりこちゃんまで泣きだしてしまった。
逃げたはずの文子が戻ってきて、まりこちゃんをなだめた。
「ちょっと休もうか。おいしいものでも食べよう」
質問は打ち切り。
でも私には、一つの仮説があった。まりこちゃんは何度も『怖い』と言っていた。実は私にも、似たような体験がある。大きな地震で、家具も本棚も倒れて死ぬかと思ったことがあった。まりこちゃんも、同じ体験があるのではないか。ここ数年、大規模な地震や津波が日本の各地で起きている。家が壊れるほどの地震を経験していても不思議ではない。というか、『怖い』体験なんてそのくらいしか思いつかない。私と同じ八歳なんだから。
そして、何回も繰り返していた『きれいな絵』。このヒントは分かりやすい。きっと絵本なのだ。なにしろ同じ八歳だから、私には分かる。私も、図書の時間は読み物よりも絵本ばかり見てしまう。ながめているだけでも絵にいやされるから。
私は、一度なくなりかけたやる気を再び取り戻して決意した。
「まりこちゃんにとって、思い出の絵本なのね。私が必ず探し出してあげる」
私と文子は、辛抱強くまりこちゃんの話を聞いていた。我慢、辛抱、忍耐。なかなかの修行を強いられる作業だった。小さい子どもの話を聞くことがこんなに根気のいるものだとは知らなかった。小さいといっても、私と同じ年なんだっけ。おかしいなぁ。
文子なんて、堂々とあくびをしている。
「地面がごーっとゆれて、とっても怖かったの。わたしは泣きっぱなしだったわ。お姉さんたち、やさしかった。本を読んでくれたの」
「地面がゆれたのはどうして? 地震かな?」
「ものすごい音だったわ。頭の中いっぱいにひびくくらい。とっても怖かったの」
会話が成り立たない。こちらの質問に全然答えてくれない。自分の話したいことを自分のペースでしゃべっているだけだ。
「あのね、きれいな絵がたくさんのっているご本なの。お姉さんたちが読んでくれたのよ」
しゃべってくれるのはいいのだけど、同じ話ばかり繰り返している。
「まりこちゃん、その本の内容は覚えているかな?」
「あのね、きれいな絵がたくさんのっているご本なの。お姉さんたちが読んでくれたのよ」
ダメだ。壊れたスピーカーみたいになっている。
「あのきれいな本を、もう一度見たいわ」
珍しく初めてのセリフがでたけれど、残念ながら具体性に欠けていて、手がかりにはならない。
「まりこちゃん、聞いて。本にはどんなことが書かれていたの?」
「あのね、きれいな絵がたくさんのっているご本なの。お姉さんたちが読んでくれたのよ」
「どうしよう。とても探せる気がしない」
開始三十分でギブアップしたくなっている。
「キョウコさんは、真名一人の力で解決するよう言っていた。あたしが手を貸したら、真名の試練を邪魔することになる。あたしは遠慮することにするよ」
文子がごちゃごちゃした言い訳をくっつけて、逃げてしまった。私とまりこちゃん二人だけになって、私も逃げたくなった。いっそ素直に人間界へ帰ってしまったらどうだろう。
もしかして私は、おじいちゃんは死んだという事実を、ちゃんと受け止めないといけないのではないだろうか。もちろんその事実は分かっているけど、でも会おうと思えば会えるかもしれない距離にいるのに、あきらめてしまっていいのだろうか。
まさか、おじいちゃんを生き返らせたいとか、連れて帰りたいとか思っているわけではない。せめて最後にもう一言お話ししたい。もう会えないなんて思わずにある日突然終わってしまったから。ちゃんとさよならを言いたい。それから、それから……。
気づいたら、泣いていた。静かに涙が流れ、ぽたぽたと床に落ちて染み込んでいく。
「痛いの? 怖いの? 大丈夫よ。痛いの痛いの、飛んでいけ!」
まりこちゃんになぐさめられてしまった。やっぱりギブアップせずに、探しだそう。
「まりこも怖かった。でも、お姉さんたちがいたから。お姉さんたちが本を読んでくれた」「怖いって、何があったの? 地震? 火事?」
「怖い、怖い。暗い、暗い」
まりこちゃんまで泣きだしてしまった。
逃げたはずの文子が戻ってきて、まりこちゃんをなだめた。
「ちょっと休もうか。おいしいものでも食べよう」
質問は打ち切り。
でも私には、一つの仮説があった。まりこちゃんは何度も『怖い』と言っていた。実は私にも、似たような体験がある。大きな地震で、家具も本棚も倒れて死ぬかと思ったことがあった。まりこちゃんも、同じ体験があるのではないか。ここ数年、大規模な地震や津波が日本の各地で起きている。家が壊れるほどの地震を経験していても不思議ではない。というか、『怖い』体験なんてそのくらいしか思いつかない。私と同じ八歳なんだから。
そして、何回も繰り返していた『きれいな絵』。このヒントは分かりやすい。きっと絵本なのだ。なにしろ同じ八歳だから、私には分かる。私も、図書の時間は読み物よりも絵本ばかり見てしまう。ながめているだけでも絵にいやされるから。
私は、一度なくなりかけたやる気を再び取り戻して決意した。
「まりこちゃんにとって、思い出の絵本なのね。私が必ず探し出してあげる」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる