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第一章の13

真名の捜索

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「とにかく、絵本を探せばいいのよ。活字だらけの図書館の中で、絵本は珍しいもの。足で捜索して、カラフルな本を探せばいいのよ」
 真名まなはまりこの求める本の捜索を開始した。本の背表紙を目で追っていく。どれもこれも、茶色くて剥がれかけていて、題名もろくに読めないものが多い。和綴じの本もあるから、そもそも何の本か分からないものもある。
「この部屋にはないみたいね」
 真名は次の部屋に移った。同じように見つけられず、次の部屋へ。
「もしかして、ものすごく広い?」
 同じ大きさの部屋が延々と続いている。真名は全体の広さを見るために、奥へ奥へと進んでいった。両開きの扉を開けると、次の部屋。本棚を両側に見て突き進むと、両開きの扉。開けると次の部屋。進んでも進んでも開けても開けても次の部屋が現れる。
「本が見つからない」
 めぼしい本が一冊も見つからないうちから、真名はへとへとになってしまった。
「広すぎてキリがない」
 真名は半泣きになっている。
「もしかして迷子になってるんじゃないかしら」
  途中から進むのをやめて引き返したが、どんなに歩いても元の部屋に戻れない。もはや本を探すどころではない。自分が生きて帰ることが目的になってしまった。
 泣いたってどうにもならないのに、勝手に涙がわき出てくる。涙を止めようとして、止めることすら無駄なことに気づいた。どうせここには誰もいない。泣いたって助けてくれる人もいないし迷惑をかける人もいない。
 真名はわんわん声を上げて泣きだした。本当に苦しいときは逆に泣けなかった。いじめられた時も。傷ついてなんていないって強がる必要があったから、絶対に泣かなかった。おじいちゃんが死んだときも。親戚に心ない発言をされて悲しみよりも怒りにあふれていた。くやしい。みじめ。つらい。自分が小さすぎて情けなくなる。
 しゃがみこんで泣いていると、ふわっとしたものが、腕に当たった。顔を上げると、シロがすぐそばに来ていた。右腕に一匹、左腕にもう一匹。二匹同時に現れた。
「やっぱり二匹いる!」
 二匹一緒に抱き寄せて、背中を確認した。真っ白なシロと黒い模様のあるシロ。
「どっちが本物?」
 顔を見比べていると、文子ふみこの声がした。
「ここにいたのか、よく見つけた、シロ。さっそくだが、シロ」
「わん」
 白いシロが答えた。
「まりこが一人でいるから、急いで戻って、側についていてやってくれ」
「わん!」
 勢いよく走って行った。続いて黒いシロにも呼びかける。
「シロ」
「わん」
 どっちもシロ?
「シロ、おまえは真名についていてくれ。一人にすると部屋の隅っこでシクシク泣き出すかもしれないからな」
 文子、嫌い。
「これを見せに来たんだ。まりこがこの本に似ていると言い出したんだ。突然思い出したらしい。こういう見かけの本かもしれない」 見て驚いた。ただの茶色い古本だ。探せないはずだ。私が探していた外見とは全然違った。古くてボロボロで全然絵本なんかじゃない。古い雑誌で、中は確かにカラーだったのだろうな、と思われる女の子の絵がたくさん描かれている。
 この本は大きなヒントだけど、大きな絶望でもあった。こんな見かけじゃ、本棚に並んでいたらほかの本と区別つかない。この本の海の中から見つけ出せるはずがない。
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