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佐々木ももんが

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第一章の14

名犬シロ

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「帰り道はシロが知っているから。迷子になるなよ」
 そう言って文子ふみこは先に戻っていった。
 手がかりの本を渡されたが、全然生かせそうにない。渡される前と変わりのない一冊一冊調べていって『これかな?』と推測するという、愚直なやり方しか思い浮かばない。
「せめてこの部屋の中だけでも調べて帰りましょうか」
 犬でも、そばに誰かがいると心が強くなる。独り言を言っても独り言ではなくなる。
 真名まなが捜索を開始すると、そばでシロも自分なりに働き始めた。本の匂いを、一冊一冊丁寧に嗅いで回っている。警察犬みたい。というか、警察犬と同じことをしてくれているんじゃないだろうか。
「シロ、もしかして」
 期待しそうになって、自分の心にブレーキをかける。もしかして匂いで探しだしてくれるのではないかと期待したが、そもそもシロは本物の犬というわけではないはずだ。元は何か知らないがつくもがみの一人のはずで、犬の形をしているのはあくまでも仮の姿なのである。鼻が利くという機能まで備わっているかは怪しいところだ。
 やっぱり自分の力で探さないといけない。これは司書になるための試験なのだから、他人に頼ることではない。
 シロはタタタタッと走り回って、一緒に探してくれている。私も端から順番に本を引き抜いては中味を開いて、カラフルなページがないか確かめていった。
「わん!」
 突然シロが勢いよく鳴いた。集中していた私は飛び上がって驚いた。
「どうしたの?」
 見ると、棚の前でぐるぐる回っている。
「シロ」
 シロに近づくと、一冊の本を鼻でつついた。 もしかして『ここ掘れわんわん』で、目的の本を見つけたと言いたいのかしら。いやでも期待がふくらむ。シロが示した本を手にとってみると、文子が持ってきた本と雰囲気がよく似ていた。
「似てるどころじゃない。タイトルが同じよ。『少女画報』。そうか、雑誌だからタイトルは全部同じで、何月号という感じで毎月でるのね、きっと」
 その棚はごっそり雑誌が並んでいたので、十冊くらい引き抜いて、持てるだけ抱え込んだ。
「帰るわよ、シロ」
「わん!」
 ほとんど走るように文子のところに戻ると、まりこともう一匹のシロが仲良く遊んでいた。さっそくまりこに本を見せてみる。
 まりこは、おそるおそるページを開いて、じっと見入っている。緊張の何分かが過ぎて、まりこがうれしそうに断言した。
「間違いありません。この本です」
 まりこがぎゅっと本を胸に抱きかかえた瞬間、本は若い女の人の姿に変わった。
「お姉さん!」
 まりこはうれしそうだ。
「思い出しました。はっきりと思い出しました。空襲を受けるたびにわたしたちは防空壕へ逃げ込んで、暑くて暗い中で恐怖に耐えたものです。泣き叫ぶわたしをなだめようとして、お姉さんたちがわたしの大好きなこの本を持ち込んでくれるようになったのです。戦争が終わっても、ずっと宝物でした。お姉さんの一人は空襲で死んでしまいました。一人は遠くへお嫁に行って、もう一人は結核でずっと寝たきり。うつるから近寄ってはいけないと言われて、ろくにしゃべることもできなかった」
 しゃべっている間に、まりこはだんだん姿が変わり始めた。お姉さんたちのように大人の女の人の姿になっていく。
「そのうちわたしも年頃になって結婚して子どもも生まれたけれど、この本はずっと持っていました。けれど、男の子二人がやんちゃで本に落書きをしたり破いたりするので、押し入れの上に隠したんです。そしてそのままずっと忘れていたんでしょうね。引っ越ししたこともなく、ずっとその家に住んでいましたから、まだ残っているはずですが、すっかりその存在を忘れていました」
 今やまりこの姿は腰の曲がったおばあさんになっていた。長い人生を歩んできて、今から天国へ行こうとしている女の人の姿だった。雑誌の中の三冊も姿を変えて、三人のお姉さんたちになっていた。お姉さんたちは女学生の制服を着ている人と、まずしいモンペ姿の人と、おばあさんの姿の人になった。
 まりこは涙を止めようともせず、お姉さんたちと手をつないでよろこびあった。まりことお姉さんたちはだんだんと輪郭がぼやけて、体が薄くなり始めた。
「真名さん、ありがとう」
 真名と文子が見守る中、四人の姿は完全に消えてなくなった。
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