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佐々木ももんが

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第一章の15

司書見習い

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「やったじゃないか、真名まな。まりこが旅立つところ、キョウコさんにも見てもらいたかったな。とりあえず、キョウコさんに来てもらおう」
「ありがとう、文子ふみこ。文子がヒントをくれたからよ」
 それと、シロ。二人で手をとりあってよろこんでいると、厳しい声が飛んできた。
「たまたま結果がうまくいっただけで、決してほめられた捜査過程ではなかったぞ」
 鏡子さんだ。
「く、来るの早いですね」
 私がドキドキしながら言うと、鏡子さんからは当然のように厳しい言葉しか返ってこない。
「そういうところだ。ここは空間や距離の概念のない世界なのじゃ。異界のルールをまるで理解しておらん。そのせいで的外れな思い込みをしたり、見当違いな場所を探したり、とても見ておれんわ」
「はい。すみません」
 たしかに。まりこちゃんの見かけにだまされて、幼い年齢で亡くなったかわいそうな子どもだと思い込んでいた。でも実際は、八十何歳かで亡くなったおばあさんだった。人生の中で一番の心残りだった幼い頃に戻って、思い出探しをしていたのだ。
 それに、まりこちゃんの口走った『大きな音と揺れ』のことを、震災のことだとばかり思っていた。本当は空襲のことだったのに。
「今回の図書館利用者を、見かけだけを見て子どもだと思い込んでいただろう。誰でも好きな姿になれる世界なんだ。惑わされるな」
「はい」
「そもそも今回の件は、解決したうちに入るのだろうか。似た本を聞き出したのは文子。匂いで探し当てたのはシロ。真名の力で探し出したと言えるかどうか」
「はい……」
「そもそもつくもがみになっている以上は、
本も百年以上前に出版されて存在しているということだろう。ちょっと考えればわかりそうなものだが」
「は、はい」
「この状態じゃ、とても司書と認めるわけにはいかぬな」
 鏡子さんの厳しすぎる言葉に、目の前が真っ暗になる。
「司書はまだ無理じゃ。その代わり、当分の間、司書見習いとして文子につきっきりで教えてもらえ」
「え、え? 私、ここにいていいってこと?」
「ただし、条件がある。定期的に人間界に戻ること。これは私がつくった条件ではなく、ここにいる人間はそうしないと体力が弱まっていずれ死んでしまうのじゃ」
「はいっ」
「キョウコさん、ご足労おかけました。助かりました」
  文子がお礼をいっていたので、私もあわてて真似をする。
「あの、鏡子さん、認めてくださって、ありがとうございます」
 鏡子さんはフン、と鼻で笑ったようだ。
「認めてなどおらぬ。追い出しても自力で戻って来てしまうから、適当に役目を割り振っただけじゃ」
 言うことだけ言うと、振り返りもせずに去ってしまった。
「よかったな、真名。キョウコさんは影響力があるから、味方につけておけば敵は少なくなるぞ」
 そんなに敵がたくさんいる世界なの? 人間型の人間は、まだ文子と鏡子さんしか会っていないのだけど。
 スッとシロが足元に寄ってきた。
「あ、ありがとう、シロ。おまえのおかげだよ。そうだ、文子。シロは二匹いたのね。名前で区別つけないの?」
「真名だって、三行半の資料のことをみーくんと呼んでいるようだが、十種類以上あるんだぞ。一人一人区別して呼んでいるのか?」
 そういえばそうだった。たくさんのおじいちゃんたちが現れたときもみんなまとめて『おじいちゃんたち』と認識していた。
「よくわかりました。でも、シロはかわいいから区別つけるわね。あっちの本当に真っ白なシロは文子のシロで、こっちの背中に黒ポチ模様のある黒いシロは私の飼い犬のシロね」
「飼い犬という発想自体が人間くさいな。そいつだってつくもがみなんだぞ。仲良くなるのは構わないが、誰のものでもないからな」
  ともかくも、私はつくもがみ図書館の司書見習いになることができた。おじいちゃんを追いかけて思いがけず始めた仕事だけど、利用者さんが思い出と出会えるよう、お手伝いしていきたいと思う。
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