15 / 30
第一章の15
司書見習い
しおりを挟む
「やったじゃないか、真名。まりこが旅立つところ、キョウコさんにも見てもらいたかったな。とりあえず、キョウコさんに来てもらおう」
「ありがとう、文子。文子がヒントをくれたからよ」
それと、シロ。二人で手をとりあってよろこんでいると、厳しい声が飛んできた。
「たまたま結果がうまくいっただけで、決してほめられた捜査過程ではなかったぞ」
鏡子さんだ。
「く、来るの早いですね」
私がドキドキしながら言うと、鏡子さんからは当然のように厳しい言葉しか返ってこない。
「そういうところだ。ここは空間や距離の概念のない世界なのじゃ。異界のルールをまるで理解しておらん。そのせいで的外れな思い込みをしたり、見当違いな場所を探したり、とても見ておれんわ」
「はい。すみません」
たしかに。まりこちゃんの見かけにだまされて、幼い年齢で亡くなったかわいそうな子どもだと思い込んでいた。でも実際は、八十何歳かで亡くなったおばあさんだった。人生の中で一番の心残りだった幼い頃に戻って、思い出探しをしていたのだ。
それに、まりこちゃんの口走った『大きな音と揺れ』のことを、震災のことだとばかり思っていた。本当は空襲のことだったのに。
「今回の図書館利用者を、見かけだけを見て子どもだと思い込んでいただろう。誰でも好きな姿になれる世界なんだ。惑わされるな」
「はい」
「そもそも今回の件は、解決したうちに入るのだろうか。似た本を聞き出したのは文子。匂いで探し当てたのはシロ。真名の力で探し出したと言えるかどうか」
「はい……」
「そもそもつくもがみになっている以上は、
本も百年以上前に出版されて存在しているということだろう。ちょっと考えればわかりそうなものだが」
「は、はい」
「この状態じゃ、とても司書と認めるわけにはいかぬな」
鏡子さんの厳しすぎる言葉に、目の前が真っ暗になる。
「司書はまだ無理じゃ。その代わり、当分の間、司書見習いとして文子につきっきりで教えてもらえ」
「え、え? 私、ここにいていいってこと?」
「ただし、条件がある。定期的に人間界に戻ること。これは私がつくった条件ではなく、ここにいる人間はそうしないと体力が弱まっていずれ死んでしまうのじゃ」
「はいっ」
「キョウコさん、ご足労おかけました。助かりました」
文子がお礼をいっていたので、私もあわてて真似をする。
「あの、鏡子さん、認めてくださって、ありがとうございます」
鏡子さんはフン、と鼻で笑ったようだ。
「認めてなどおらぬ。追い出しても自力で戻って来てしまうから、適当に役目を割り振っただけじゃ」
言うことだけ言うと、振り返りもせずに去ってしまった。
「よかったな、真名。キョウコさんは影響力があるから、味方につけておけば敵は少なくなるぞ」
そんなに敵がたくさんいる世界なの? 人間型の人間は、まだ文子と鏡子さんしか会っていないのだけど。
スッとシロが足元に寄ってきた。
「あ、ありがとう、シロ。おまえのおかげだよ。そうだ、文子。シロは二匹いたのね。名前で区別つけないの?」
「真名だって、三行半の資料のことをみーくんと呼んでいるようだが、十種類以上あるんだぞ。一人一人区別して呼んでいるのか?」
そういえばそうだった。たくさんのおじいちゃんたちが現れたときもみんなまとめて『おじいちゃんたち』と認識していた。
「よくわかりました。でも、シロはかわいいから区別つけるわね。あっちの本当に真っ白なシロは文子のシロで、こっちの背中に黒ポチ模様のある黒いシロは私の飼い犬のシロね」
「飼い犬という発想自体が人間くさいな。そいつだってつくもがみなんだぞ。仲良くなるのは構わないが、誰のものでもないからな」
ともかくも、私はつくもがみ図書館の司書見習いになることができた。おじいちゃんを追いかけて思いがけず始めた仕事だけど、利用者さんが思い出と出会えるよう、お手伝いしていきたいと思う。
「ありがとう、文子。文子がヒントをくれたからよ」
それと、シロ。二人で手をとりあってよろこんでいると、厳しい声が飛んできた。
「たまたま結果がうまくいっただけで、決してほめられた捜査過程ではなかったぞ」
鏡子さんだ。
「く、来るの早いですね」
私がドキドキしながら言うと、鏡子さんからは当然のように厳しい言葉しか返ってこない。
「そういうところだ。ここは空間や距離の概念のない世界なのじゃ。異界のルールをまるで理解しておらん。そのせいで的外れな思い込みをしたり、見当違いな場所を探したり、とても見ておれんわ」
「はい。すみません」
たしかに。まりこちゃんの見かけにだまされて、幼い年齢で亡くなったかわいそうな子どもだと思い込んでいた。でも実際は、八十何歳かで亡くなったおばあさんだった。人生の中で一番の心残りだった幼い頃に戻って、思い出探しをしていたのだ。
それに、まりこちゃんの口走った『大きな音と揺れ』のことを、震災のことだとばかり思っていた。本当は空襲のことだったのに。
「今回の図書館利用者を、見かけだけを見て子どもだと思い込んでいただろう。誰でも好きな姿になれる世界なんだ。惑わされるな」
「はい」
「そもそも今回の件は、解決したうちに入るのだろうか。似た本を聞き出したのは文子。匂いで探し当てたのはシロ。真名の力で探し出したと言えるかどうか」
「はい……」
「そもそもつくもがみになっている以上は、
本も百年以上前に出版されて存在しているということだろう。ちょっと考えればわかりそうなものだが」
「は、はい」
「この状態じゃ、とても司書と認めるわけにはいかぬな」
鏡子さんの厳しすぎる言葉に、目の前が真っ暗になる。
「司書はまだ無理じゃ。その代わり、当分の間、司書見習いとして文子につきっきりで教えてもらえ」
「え、え? 私、ここにいていいってこと?」
「ただし、条件がある。定期的に人間界に戻ること。これは私がつくった条件ではなく、ここにいる人間はそうしないと体力が弱まっていずれ死んでしまうのじゃ」
「はいっ」
「キョウコさん、ご足労おかけました。助かりました」
文子がお礼をいっていたので、私もあわてて真似をする。
「あの、鏡子さん、認めてくださって、ありがとうございます」
鏡子さんはフン、と鼻で笑ったようだ。
「認めてなどおらぬ。追い出しても自力で戻って来てしまうから、適当に役目を割り振っただけじゃ」
言うことだけ言うと、振り返りもせずに去ってしまった。
「よかったな、真名。キョウコさんは影響力があるから、味方につけておけば敵は少なくなるぞ」
そんなに敵がたくさんいる世界なの? 人間型の人間は、まだ文子と鏡子さんしか会っていないのだけど。
スッとシロが足元に寄ってきた。
「あ、ありがとう、シロ。おまえのおかげだよ。そうだ、文子。シロは二匹いたのね。名前で区別つけないの?」
「真名だって、三行半の資料のことをみーくんと呼んでいるようだが、十種類以上あるんだぞ。一人一人区別して呼んでいるのか?」
そういえばそうだった。たくさんのおじいちゃんたちが現れたときもみんなまとめて『おじいちゃんたち』と認識していた。
「よくわかりました。でも、シロはかわいいから区別つけるわね。あっちの本当に真っ白なシロは文子のシロで、こっちの背中に黒ポチ模様のある黒いシロは私の飼い犬のシロね」
「飼い犬という発想自体が人間くさいな。そいつだってつくもがみなんだぞ。仲良くなるのは構わないが、誰のものでもないからな」
ともかくも、私はつくもがみ図書館の司書見習いになることができた。おじいちゃんを追いかけて思いがけず始めた仕事だけど、利用者さんが思い出と出会えるよう、お手伝いしていきたいと思う。
0
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる